学校特集
十文字中学・高等学校2024
掲載日:2024年7月1日(月)
十文字は、創立者の十文字ことが目の不自由な母親に代わり、農作業をしながら猛勉強を続け「将来は女子のための学校を作り、女子の夢を叶えたい」という思いから生まれた女子校です。建学の精神「身をきたへ 心きたへて 世の中に たちてかひある人と生きなむ」に込められた十文字ことの思いは、創立から102年を迎えた今も引き継がれています。
2023年度には生徒たちが自分の興味・関心を深め、学びたい学問領域をより主体的に見出せるように探究学習プログラムをリニューアルし、1年間の探究活動を発表する「十文字探究DAY」を1月に新設しました。新しくなった探究活動や十文字探究DAYについて、5年自己発信コース担任のY.N.先生と中高生の3人に伺いました。
探究活動で自己理解を深め、学びたい学問領域を見つける
2023年度にリニューアルした十文字の探究活動プログラムは、基礎の土台作りから応用力の育成まで6年間の中学高校生活で自分の価値観や興味・関心を体系立てて深めていきます。具体的には、中1で人間探究、中2で企業インターン型探究を行い、自分の価値観や将来への視野を広げ、中3では社会課題解決型探究に取り組み、社会課題と自身の関わり方を見出します。高校入学後は幅広い知識を身につける「リベラルアーツコース」、より高い夢に向かって挑戦する「特選コース」、能動的な学びで発信力を鍛える「自己発信コース」のいずれかに在籍。リベラルアーツコースと特選コースでは商品開発型探究やマイテーマ探究を行い、自己発信コースは問いと仮説を自ら考えてプロジェクト化するマイプロジェクト探究を通して、学びたい学問領域を見出していきます。
「探究活動では自己理解を深め、自分の価値観や人生観、興味・関心のある学問領域を見つけていくことができます。その過程で、本校が大切にしている6つのコンピテンシーである挑戦力・創造力・表現力・自己肯定力・傾聴力・共感力も育まれていくでしょう。この力は、進路選択の場面で役立ちます。例えば、これまでは自分の学力から進路選択をする生徒がいましたが、探究活動を重ねることで『社会で何をやり遂げたいか』をじっくりと想像できるようになりました。その結果、主体的な進路選択に結びついています」(Y.N.先生)
1月には1年間の探究活動を発表する「十文字探究DAY」を新設しました。これまで学年ごとに開催していた探究活動の発表を、学年関係なく全校生徒が見に行ける形式へ変更したのです。
第1回目の十文字探究DAYは2024年1月27日に実施。「夢物語が世界を変える 創造を楽しもう!」をテーマに、午前中は中1~高2が探究活動を発表したほか、友達や先輩・後輩の発表にも耳を傾けました。午後はグランプリファイナルとして各学年から選ばれた代表者が登壇。当日は探究活動に協力する外部企業や大学教授、受験生などの一般来場者も入場し、生徒たちがさまざまな人から意見をもらう機会となりました。
「中学生は先輩の発表を聞いてこれからの生活に期待を抱き、高校生は後輩の発表から発想力や度胸、前向きな姿勢を感じて刺激を受けます。中高一貫校の相乗効果を学校全体で生み出す1日となりました。来賓として来ていただいた方々や一般来場者の方からは、子どもたちの発想力を面白く感じていただいたようです」(Y.N.先生)
発表方法は学年ごとに異なり、劇や動画発表といった自由発表のほか、ポスターセッションやプレゼンテーションを行いました。
十文字探究DAYは、他者と協働することで何倍にも膨らんでいくアイデアを、形にして発信し、行動に移す大切さを改めて感じる1日となったようです。
女性アスリートの健康問題をテーマに、アンケート調査を実施
探究活動や十文字探究DAYの発表について、中3・高1・高2の生徒たちに聞きました。
高2自己発信コース M.N.さん
私が在籍する自己発信コースのマイプロジェクト探究では、テーマとなる問いを自分たちで探していきます。私は最初、「筋肉と栄養の関係性」をテーマにしました。幼いころから水泳を習っているので興味を持ったんです。でも途中で行き詰まってしまい、研究の成果として何を得たいのかわからなくなってしまいました。それでも進めていくうちに女性アスリートの健康問題に気づき、興味をスポーツ栄養学に発展させていくことができたのです。それで、十文字探究DAYでは「女性アスリートの健康問題改善に向けて~食事と健康問題の関係性についての調査~」という発表をしました。
女性アスリートはエネルギー不足に陥ると、無月経などの症状のほか、ホルモン分泌が減少する影響で骨粗しょう症になることがあります。これはプロだけではなく、部活動をしている中高生にも起こること。私は部活動をする中高生34人にアンケート調査を行い、そのうちの10人が無月経や月経不順に陥っていることを知りました。
どうしたら改善できるのか。研究を進めるために、「十分な栄養を取れていないことが健康問題に影響するのではないか」という仮説を立てることにしました。それからアンケート調査に協力してくれた中高生のうち、3人にインタビューを実施。1人は無月経などの症状があったため病院へ通い、女性ホルモンを調整する薬を飲んでいるそうです。残り2人は病院の受診歴はないものの、きちんとした食事を取っていないことがわかりました。
部活動に励む中高生は無月経などの症状を深刻に捉えず、「いつか治る」と考える節があるようです。十文字探究DAYでは、ここまでの探究活動を発表し、今後は、「忙しくて食事まで意識がまわらない女性アスリートは、どうすれば十分な栄養が取れるのか」を新しい問いにして探究活動を進める予定です。
私の探究活動は学年代表に選ばれて、十文字探究DAYのグランプリファイナルでも発表しました。200~300人の来場者の前でプレゼンするので、いつもと違う雰囲気に緊張しましたが、楽しもうと意識してやり遂げました。審査員を務める外部企業の方々からは「伝え方も内容もわかりやすかった」と評価をいただき、一般の来場者からも「本物のコンペみたいだった」と前向きなコメントをいただきました。とても嬉しかったです。
途中でテーマを変えたから準備期間が1~2カ月ほどと少なく、アンケートやインタビュー調査、書籍や研究論文を読むのも時間に追われてとても大変でした。でも、プレゼンのリハーサルで同級生や先生からアドバイスをもらい、より伝わりやすいプレゼンになったと思います。今回の経験をもとに、将来は管理栄養士の資格を取得できる大学を受験し、スポーツ栄養学に関することを学びたいと思っています。
探究活動をきっかけに、何事にも前向きに取り組めるようになった
高1リベラルアーツコース H.S.さん
十文字探究DAY開催時は中3で、探究活動では「社会で困っている人」を1人挙げて、どうしたら解決できるかを考える社会課題解決型探究を行いました。4人グループになって、まずは社会にどんな困りごとがあるのかを考えます。私たちは通学中に見かける妊婦さんを助けられる方法を考えようと決めました。初めての出産に不安を抱えている妊婦さんもいますし、体調不良や普段通りにいかない生活を送っている人もいます。ぜひ改善したいと思ったんです。
いろいろと調べていくうちに、介護施設や児童館などの施設はあるものの、妊婦さんに特化した施設が世間にはないことに気が付きました。そこで、出産前の不安が相談できるほか、妊婦健診や生まれた赤ちゃんのケア、出産後の母親・家族のケアまで行える施設を作りたいと思ったんです。言うなれば、妊婦さんに特化した総合病院のような施設です。何より、「そういう施設があれば自分が母親になった時にも心強い」と感じました。それで妊婦さんの困りごとを解決できる「Maternity Life」という探究を発表したんです。
十文字探究DAY当日は、視点の違いを感じられたのが面白かったです。同じ学年には、私たちと同じように妊婦さんをテーマにしたグループがあったのですが、ケア施設ではなく一緒の空間にいる時にどういう行動をすべきかを発表していたんです。同じテーマなのに、違うアイデアが生まれるなんて興味深かったですね。それに誰が聞いても共感できるテーマや聴く人に向けたプレゼンを意識しているところに惹かれました。
探究活動では相手の意見を否定しないことが大切だと教わります。けれど私が誰かの発表を聞いた時には「自分とは違う意見だな」と否定的な考えが最初に浮かぶことがありました。今回の探究活動では相手の意見を「いいね」と褒め合う言葉がたくさん飛び交いました。たまたま一緒になったグループのメンバーですが、相手に伝わるように話せば、受け入れてもらえる機会がたくさんあることがわかったんです。それからは、相手のいいところを探すようになりました。そうすることでテーマがより深掘りできるんですよね。日常生活でも変化が出てきて、不安を感じた時にいままでは「やめておこうか」と否定的に捉えていたのが、「まずは1回挑戦してみよう」と勇気を持って挑戦できるようになりました。
現在はリベラルアーツコースに在籍し、まずは自分のやりたいことを探す時間を大切に過ごしています。探究活動を通してポジティブに挑戦する力を身につけたので、習い事のギターや歌をはじめ、いろんなことに積極的にチャレンジして将来を考えたいです。
コミュニケーションの取り方を学び、新時代の着物デザインを発表
中3 E.G.さん
十文字探究DAYが開催された時は中2で、企業インターン型探究として着物のレンタルや販売などを手掛けるkimono hearts(キモノハーツ)のインターンシップを体験しました。インターンシップでは、企業からミッションが与えられます。同社から出されたミッションは「和の誇りで日常を華やかに」。まずはグループになった5人で、和の誇りとは何かを話し合い「和の誇りこそ着物じゃないか」とテーマを決めました。
現代では着物を着る機会が少なくなる一方、着物の種類は多岐にわたり着用するのが難しく感じられます。だから生活に気軽に取り入れられる新しい着物をデザインしようと考えました。
私は美術部に所属していて絵を描くのが好きなので、もう1人のクラスメイトと一緒にデザイン画を担当しました。私が考えたのはポリエステル素材で上下セパレートタイプの着物デザイン。羽織る形の上着と、巻きスカート風の着物を着用し、兵児帯で締めれば完成です。もう一人は「着物の生地に着物らしさが宿る」と考えて、着物の生地を使った上着を提案しました。
kimono heartsの担当者からは、「面白くて素敵な発想。会社に持ち帰ってさらに検討したい」とコメントをいただきました。十文字探究DAYでは学年代表としてグランプリファイナルにも出場し、「斬新な発想で着てみたいと思った」と一般来場者の方から感想をいただきました。
今回の探究活動では、自分の思っていることをどう伝えるか、改めて考える機会となりました。というのも私は小学生の頃に言葉遣いをきっかけに友達と喧嘩したことがあって、中1の時は自分の意見で相手が不快にならないか、すごく悩んでいたんです。普段から相手に良い印象を与える言葉の使い方を調べたり、「この言葉はあまり好きじゃないな」と考えたりしていたのが、今回の発表で活かせたと思います。
十文字探究DAYで印象的だったのは、中3の先輩方が「ゴキブリと共に生きよう」をテーマに、ゴキブリの歴史や共存するために必要なことを発表していた様子です。新しい視点で物事を考える大切さを感じました。企画を考える面白さに惹かれているので、高校では自己発信コースを選択したいと思っています。
探究活動では丁寧に下調べをする生徒たちの姿も
十文字探究DAYでは、生徒、教員、一般来場者からたくさんの対話が生まれる様子が見られました。
発表を見学した後は、プレゼンした人に『GOOD JOBシール』を渡す取り組みも実施しました。生徒たちは「これだけの人にプレゼンを聴いてもらえた」と可視化するきっかけとなり、達成感につながったようです。
「十文字の生徒は真面目で下調べにも丁寧に取り組む生徒が多い印象です。自己発信コースの高校生は『この研究論文が読みたいのだけど、どこへ行けば読めるのか』『論文を書いた教授と連絡を取りたい。どうしたらいいか』と質問してくることが多いですね」(Y.N.先生)
コロナ禍には、飛行機好きの生徒が感染防止できる飛行機のレイアウトを探究し、航空関係の大学へ進学。また、ミュージカルに興味を持っていた生徒が舞台設計に興味を持ち建築関係の大学へ進学し、将来は子どもたちが活躍できる劇場を作りたいと夢を語る場面もあったと言います。
自分の興味・関心を理解して積極的に行動することで、前向きに人生を切り拓いていく十文字の生徒たち。プレゼンの場を楽しもうという前向きな姿勢だけでなく、他者の意見を受け入れ、創造的な世界を共に築いていく力も養っています。
第2回 十文字探究DAYは2025年1月18日(土)開催予定。
一般来場者の入場も可能です。詳しくは学校HPをご覧ください。