学校特集
武南中学校・高等学校2024
掲載日:2024年9月27日(金)
1963年に学園創立、2012年に中学校を新設した武南中学校・高等学校。
「自主・自立・自学・共同」を建学の精神とし、グローバルリーダーに必要な、確固たる人間性と知性の教育を実現すべく、日々の実践に取り組んでいます。
それらを具現化するために2023年度から本格始動したのが、武南独自のSTEM教育です。責任者である佐藤 寛先生と広報主任の神殿朋宏先生に伺いました。
武南独自のSTEM教育で全方位に視界を広げ、
個人の関心を絞っていく
武南中学校・高等学校で現在推し進められているのが、独自のSTEM教育(通称・BーSTEM)です。
STEM教育とは、ご存知の方も多いと思いますが、
S:Science(サイエンス・科学)
T:Technology(テクノロジー・技術)
E:Engineering(エンジニアリング・工学)
M:Mathematics(マスマティクス・数学)
の頭文字を取った言葉でそれぞれの教育分野を表しています。
同校で最も重視しているのが、この各分野の力を結集させて、課題を見出し、解決まで導くこと。それらの力をつけるべく、授業の中でどのような学びが展開されているのでしょうか。
BーSTEMの責任者であり、数学科の佐藤 寛先生は、昨年中2で行われた数学と理科をコラボレーションさせた授業の様子を教えてくれました。
「先取り学習を行っているため、中2で二次関数を履修しますが、関数とは何かという初歩的な部分をBーSTEMで学びました。
小学校からのつながりも踏まえつつ、これから学習していく関数が何かを理解させたいと考えています。その過程のなかで、直前に行った理科で実験のグラフをさりげなく提示しました」
何人かの生徒が、この理科の実験結果にも関数が活用されていることに気づき声を上げると、理解の輪が次第に広がります。さらに教え合うなどすることで、学んだ内容が生徒たちに浸透していきます。
「クイズ形式など、生徒たちができるだけ楽しみながら発見できるような形で授業を進めています。そしてこの気づきが、他にも活かされているのではと考え始められる生徒も出ます。そこから実社会での活用例などを伝え、生活と学びが密着していることを実感できるところまで到達させています」
自分たちで学びを深めていく喜びをしっかりと感じられるから、授業が楽しいし、理解が進みます。
これからの社会で必須とされるプログラミングなどももちろん包括されています。
中2では、埼玉大学STEM研究教育センター所長で同大学准教授・野村泰朗氏に監修いただき、自走するロボットを使ったプログラミング教育を実施。どういうプログラムを入れたら実際に作った道を通れるのかを考えさせる、問題解決型の学習に6時間取り組みました。
中3の数学では、6コマのうち1コマをデータサイエンスの授業としています。
「データサイエンスを学ぶ最終的な目的は、ビッグデータ的なものをどう扱うのか、ということに加えて、実際にあるデータをどう取捨選択して、活用していくかということです。
近年、大学入試共通テストでの図表の読み取りは数学の他、社会や英語でも出題されます。試験だけでなく、必要な情報を抽出して使っていく能力を日頃の授業から培うべく進めている段階です」(佐藤先生)
2024年度は11月頃に理科と技術のプログラミング教育を結びつけた授業と、数学と社会で統計的な要素を絡めた授業が行われます。
常に問われるから考え続けることができ、
物事の本質を捉える力を育てる
異文化理解教育にも力を入れている同校。BーSTEM領域では英語と国語で、「if」を使う仮定法を国文法と英文法の違いから、「なぜ通じないのか」というアプローチで考えました。
中学英語科の神殿(こうどの)朋宏先生は、通じることの捉え方についてこう話します。
「言葉が通じない場合の理由には、音が伝わりにくかったのか、文法が間違えているのかということ。もしくは今回学んだように、日本文化や日本語の暗黙の了解を持ち込みすぎたのか。生徒も私たち大人も含めて日本語を前提として英語を勉強していくので、日本人的な感覚の『もし』で伝えてしまうと、相手にはどちらとも受け取れる曖昧性を含んでいます。
伝えたいという気持ちに言語間の差はありません。ただし、どう伝えるとより良くなるのか、誤解を与えないためにはどうしたらいいのか、誤解を与えてしまった場合の解決法を生徒たちに知ってほしいと思っています」
さらに続けます。
「英語力というのは、知識面である語学力と異文化理解力、思考力の3つを組み合わせたものとしています。英語の知識があることは大前提とした上で、情報処理能力や思考力、洞察力などが求められてきています。その力をいかに伸ばすかに注力するプログラムを構築しています」(神殿先生)
先日ネイティブの先生の英会話の授業で取り組んでいたのは、今と200年前では病気の広まり方はどちらが早いか、その理由も含めて考えるという問題。調べなくても少し考えれば答えには辿り着けますが、それをしっかりと道筋を立てて考え、英語で発信できることを目標としています。
この問いも単に英語教育という枠の中で片づけられるものではありません。異なる教科とのコラボレーション授業を行うことで、学習内容への理解が進むだけでなく、教科間のつながりが見えると生徒たちから好評です。教科にこだわらずに学びを深めることが目的なので、複数の教科にBーSTEMをどう織り混ぜられるかいう研究も続けられています。
さらに、授業の中では常に、「なぜそうなるの?」、「どのように?」と問いかけられます。
「最初は言葉に詰まってしまう場合も少なくありませんでしたが、慣れてきたこともあり、だんだん自分の考えを答えられるようになってきました。生徒たちは、必ず理由を聞かれるだろうと常に身構えているようです」と神殿先生は笑います。
佐藤先生が教えてくれます。
「国語でも普段の授業から例えば、おもしろいと言った時、単に楽しいと終わりにするのではなく、何と比べてどのようにおもしろいのかなど、思考をつなげ分析できるような言葉かけを意識しています」
言葉自体が持つ意味だけでなく、質問の意図も汲みながら考えることで、思考は俯瞰性をもち、洞察力もついていきます。
たくさんの本物に触れる中で
自分の生き方を考える機会に
前章でBーSTEMが理数系だけの学びに偏るものでないことはおわかりいただけたと思います。日々の学びは基本を大切にしながら進められていますが、同校で豊富に設けられているのがフィールドワークの機会です。
特に育成していきたい能力と、カリキュラムや教育内容との連動を踏まえ、神殿先生たち英語科の教員が注力したのが全員参加型の海外研修プログラムです。
中2でベトナムとカンボジア、 高1ではアメリカ(ボストン・ニューヨーク)でプログラムを実施します。神殿先生たちの思いは、他者も自分のことも理解しようと努めることで行動の一つひとつを変えてほしいということ。
「本校のプログラムは単なる語学研修ではなく、あくまで異文化を理解するというものです。ですから平和学習や現地の生徒との交流は必ず行程に入っています。同年代から触発されて、自分の今後の生き方を見直す機会としています」(神殿先生)
高2で京都に行きますが、この3つのプログラムは一連の流れを成しています。狙いを神殿先生に伺いました。
「今回はテーマを『幸せってなんだろう』としました。各国の同年代の子たちがそれぞれどんな生活をしているかを見ると同時に、何を大切にしているかをまず知ります。幸せの定義もおそらく違いますし、生きていく上での優先度がそれぞれ異なってくると思うのです。
中学段階でまず同じアジア圏のいわゆる途上国であるカンボジアに行きますが、ここがおそらく最も価値観の違いが如実に出る場所でしょう。
ベトナムの生活ぶりは日本とあまり変わらないと思いますが、ベトナムは短期間で一気に発展したので、建物の造りや街の雰囲気などもやはり日本とは微妙に異なっている様子を見に行きます。
中学生では主に価値観の見つめ直しを行うことに対して、高校では先進国を見ていきます。アメリカでは世界の最前線の研究などに触れ、刺激を受けます。自分が思っていた以上に世界はもっと先に進んでいることを目の当たりにする瞬間です。
そして高2では海外と比べ、結局自国はどうなっているのかを理解するために古都研修を設定しています」
中2生に感想を聞くと、意外なことにカンボジアのほうが楽しかったという生徒が多いそうです。中にはあちこちにいる痩せ細った野良犬を見て、愛犬と比べ泣いてしまう生徒もいたのだとか。
「カンボジアのキリングフィールドという大虐殺があった処刑場見学も行きますし、ベトナムでは戦争博物館も見させていただきます。リアルなものが多いので、生徒たちはかなりショックを受けますが、年間を通して事前学習を組み込み、歴史を学んでいきます。現地の生徒さんと異文化交流を行うので、在日留学生を招いて練習するなど、念入りな準備をします。
保護者の中には、海外イコール欧米圏というイメージがある方もおいでなので、あえて個人旅行では行きにくい地域で得難い経験になると、最終的にはご理解くださいました。行かせてよかったというお声もたくさんいただきましたし、帰国後の生徒たちはやる気に満ちています。学習に取り組む姿勢が目に見えて変わり、人生をもっと楽しむと言わんばかりに、いろいろなことに対して興味を持つ生徒が増えました」(神殿先生)
生徒たちからも本で読むのと実際に自分での目で見るのは全然違うという声が多かったそう。こうした貴重な経験から、意欲的になり積極性が出た生徒が増えています。
事後学習の1つである報告会は、中1へのプレゼンテーション形式にて、英語で行いました。
「1年生に、来年は君たちが行くんだ、こんな体験ができるんだと伝える熱意があふれていました。保護者の方にも学んできたことがおわかりいただけるような形でご報告できたと思います」
佐藤先生は中1の担任です。発表の様子をどのように見ていたのでしょうか。
「生徒たちは海外研修についてふんわりとしたイメージしかなかったよう。そんな中で2年生、3年生が現地の踊りを披露する姿や和気藹々とそれぞれの分野についての発表する様子を見て、次は自分たちが行くんだと現実味を帯びていったようです。早く行きたい!となった生徒もいました。
来年は発表する側になって、次の1年生にしっかりと伝えていけたらと思っています」
武南ではこうした機会を通じて自分の好奇心で一歩踏み出す勇気を培っているのです。
3年間で15回に渡ることも!
充実したフィールドワーク
武南の教育の大きな特徴は、フィールドワークの機会が多いこと。海外研修なども含めると、3年間で15回ほどにもなります。
「単に机上で学ぶのではなく、ひとまず一度は本物に触れること、実際に足を運んでみることを大事にしています。行った時の視覚や聴覚以上に肌で感じる部分があると思うのです。日本とベトナムの空港の匂いなど、そうしたものをすべて全身で受け止めてこそ理解できるものがあると思うのです。そうしたさまざまなものの中から生徒自身、自分が好きなもの、自分にフィットするものを選び取れるようにしています。選択肢を大量に与えるというのは本校の教育の大きな特徴です」(神殿先生)
23年度から始めた活動で、生徒たちはもちろん、先生方もとても学びになっていると話すのが「模擬国連」への参加です。
「一部の生徒が参加している形ではありますが、その活動を見ていると感心します。昨年の担当国はフィジーでしたが、こういうあまり馴染みのない国の立場になって物事を考えるという経験は貴重でした」と神殿先生。
担当国のことを調べ上げ、彼らが何を大切にしているかということを自分たちがその国に住む人になりきって交渉していくのが模擬国連です。
「生徒たちは懸命に調べますが、本当の意味でフィジーのことをわかっているかといえば、そうではないのかもしれません。しかし大切なのは、しっかり調べること、想像力を使って考えること、そして理解しようとすることです」(佐藤先生)
神殿先生が異文化理解教育について、そして先生自身が大切にされている思いを話してくれました。
「我々日本に住む日本人が大事にしているものと、他の国の人が大事にしているものは、それぞれに理由があり違うでしょう。国であれ、文化であれ、最終的にその人たちの立場に立って、理解ができることが大切だと考えています。もちろん双方ともに譲れないところがある中で、最終的に合意形成を図ることが重要です。
自国・他国について理解を深めた上で、自分自身はどの立場から物事を見て、どんな立場で意見を伝えるのかということを生徒たちに考えてほしいのです。
日本にいる限りは、苦労をすることはやはり少ない。ですから、その世界観がすべてであり当たり前だとは思ってほしくないのです。自分たちが見ている世界だけが世界なのではなく、同じ景色であっても他国の人には違うように見えているということをわかってほしいのです。すべてを解釈するのは難しいことですが、自分はこの視点から見ているということを理解した上で物語を進めていくだけでも、最終的な到達地点がイメージしやすいのではないかと思います」
今は情報化社会が進み、子どもたちも小さな時から多くの情報の波に揉まれています。だからこそこのような多様な視点を持つこと、思いを巡らすことの重要性を先生方は説きます。かつさまざまなものに触れる機会の多い武南は、将来の自分の姿が見えない、何をやりたいかわからないという子にもピッタリです。
「本校はいわゆる何かが尖っているような特化系の学校ではありませんが、生徒の一人ひとりが興味関心のあることを見つけられる第一歩になれたらという思いがあります。
バランス型タイプの学校として、満遍なくいろいろなことをやってみたい、見てみたい、体験したいという受験生はぜひ本校を選択肢に入れていただけたらと思います」と佐藤先生。
武南で得られる、本物に触れた経験や知識、さまざまな教養は、世界に出た時に生徒たちの背中を押してくれるものとなります。
武南ならびにBーSTEMで大切にされているのは、さまざまな事例に触れながら考える機会を持ち、ちょっとした一歩でも踏み出せる勇気を持つことです。能動的に自分自身の人生をつかみ取れる人物を育んでいます。