学校特集
二松学舎大学附属柏中学校・高等学校2024
掲載日:2024年9月1日(日)
中学校を開校して14年目。人間力と学力の向上を二本柱に、二松学舎の伝統である「論語教育」で豊かな人間性を育み、自然に恵まれた立地を生かした「探究学習」で自ら学ぶ素地を作る、独自の教育が実を結び、自分が進みたい道を自覚して、大学受験に臨む生徒が増えています。 「有名な探鳥地の一つである手賀沼に隣接しているから」という理由で、同校に高校から入学した生徒(現在高3)の旺盛な探究心と、卓越した鳥の知識に驚かされ、学会で研究発表を行うまでに、いつしかキャンパスが鳥の生態を調査するフィールドワークの舞台と化して、今年の中3がその調査を引き継いでいます。高3のその生徒も、「調査、研究の過程」を自信に、進むべき道が見えているようです。同校の「探究で世界とつながる」というキャッチフレーズは、そうした人と人とのつながりを築きながら、自身の世界を広げていく、という意味も含まれているのかもしれません。進化を続ける二松柏の教育について、副校長の島田達彦先生と、グローバル探究委員会委員長の森寿直先生にお話を伺いました。
英字新聞が2年連続全国準優勝。
中学で培った探究力が高校で花開く
中学開校当初より、自然環境に恵まれた立地を生かし、体験重視の探究活動に取り組んできた二松柏。創立者である三島中洲にならい、常に世界に目を向けつつも、日々の学習は地に足が着いていて、6年間の学校生活を楽しみながら探究心と探究力が育つプログラムが注目されています。
二松柏で長年にわたり、同校の教育力を信じて道を切り拓いてきた副校長の島田達彦先生は、現在の様子を、こう語ります。
島田先生:こんな話を知っていますか。靴を売るために、2人の青年が近くの島に初めて乗り込むと、100人いる島民の誰もが靴を履いていないのです。Aセールスマンはすぐ本社に連絡を入れて「これはダメです。誰も靴を履いていないので靴は売れません」と言いました。一方、Bセールスマンは「大チャンスですよ。全部売れます。作ればいくらでも売れると思います」と報告しました。
2人の違いは、いわゆるプラス思考かマイナス思考か、にあります。この先のことはわからないけれど、まずはプラス思考でとらえて、課題克服に向けて行動すれば、素晴らしい結果を得られるということです。昨年度までの本校の活動は、まさに「マイナス思考ではなくプラス思考でいこうよ」という状況だったと思いますが、今年度からはさらにステップアップして、「第2ステージ」に入りました。島民に対して靴の魅力や必要性を語ったり、さらに質の高い靴を提案したりする上で、具体的な事例や実績を示すことができます。まさに足元から、大きな夢を与えられる段階に入ったと思っています。
「The NGK Street Journal」
例えば、高校生は探究活動として「英字新聞プロジェクト」に取り組みます。一昨年(2022年)、全国の高校が参加する「英字新聞甲子園」に高3(現卒業生)が挑戦して準優勝。昨年(2023年)は高1(現高2)がさらなる高みを目指して全力で取り組み、2年連続の準優勝に輝きました。
森先生:一昨年のグループは、7名のうち6名が中高一貫生です。中学で3年間にわたりグローバル教育を受け、その力を存分に発揮することで、準優勝に輝きました。昨年の高1は「先輩たちを超える」ことが目標でしたが、残念ながら優勝には届きませんでした。2年連続の準優勝は、その実力が本物である証です。価値のあるチャレンジができたのではないかと思っています。
同校の探究学習を自ら楽しみ、プログラムを開発する森寿直先生は、日本私学教育研究所が毎年募集している委託研究員に採用されました。全国で30名という狭き門を突破するとともに、中3の「自問自答プログラム」が、国や私学協会など然るべき機関から援助を受けられる環境が整いました。これも同校の探究プログラムの質の高さを裏付けています。
森先生:学外から評価をいただいても、取り組む姿勢をはじめ、これまでと変わるものは何一つありませんが、励みになっていることは言うまでもありません。今後ますます探究活動に力を入れて、本校が目指す「人間力×学力の向上」はもとより、探究で世界とつながる実感を、一人でも多くの生徒に味わってもらえるような活動に発展させていきたいと考えています。
同校の「自問自答プログラム」は、中3を対象に10年間継続してきました。つまり3期生以降、全員が取り組んでいます。グローバル教育への意識も高く、2022年より実施された「グローバル探究コース」「総合探究コース」は、まさに期が熟してのコース名改称でした。
それまでが島田先生の例え話でいうところの、プラス思考で走り続けていた時期にあたるわけですが、中高一貫生を中心とした高校生の活躍を機にリニューアルに着手し、今年度より「第2ステージ」という意識をもって取り組んでいます。
森先生:高校生が伸びやかに発想を広げて探究したものが、学外で高い評価をいただけるようになった理由を考えると、彼らの好奇心や探究心は高校の学びよりも、むしろ中学の学びにあると考えます。「田んぼの教室」や「沼の教室」など、本校の生徒であれば全員が取り組む体験的な学びが土台として定着している、と言えるのではないでしょうか。
そうした分析をもとに、コース名改称の年に入学した生徒が中3になり、「自問自答プログラム」に取り組む今年度よりリニューアルを実施しています。
森先生:まず、フィールドを3つに分けました。1つは、自分で自由にテーマを立てて探究活動に取り組む「学問探究」です。それは「自問自答プログラム」になります。今年おもしろいなと思ったのは、「南極を花畑にするにはどうしたらいいか」 という問いです。冷凍庫で検証し、もし植物が育てば、その植物は南極で育てられるのではないか、という考えのもとで行っています。また、木材を透明にする方法があるらしく、それにチャレンジするなど、生徒は思い思いのテーマを立てて探究に取り組んでいます。
2つめは、「総合探究」です。「田んぼの教室」「沼の教室」など、中1から体験する校外学習がこれにあたります。3つめは、「グローバル探究」です。例えば、世の中で困っている人をどういう方法であれば救えるか、みたいなことを自分たちで探究していく「ソーシャルチェンジ」、あるいは企業と一緒に新しい企画を考える、「コーポレートアクセス」に取り組みます。
これまでは、中3次に行う自由テーマの探究を「卒業研究」という形でまとめていましたが、今年度より、「総合探究」で体験したこと、「グローバル探究」で取り組んだこともすべて含めて、卒業アルバムのようなイメージで、探究活動における3年間の軌跡を1つにまとめていきます。それが「自問自答プログラム」の集大成となります。
研究目的で入学した「鳥博士」の高3生。
その背中を追い中3の探究が始まった。
森先生:高3に鳥博士のような生徒がいます。その生徒(高入生)の背中を追う形で、中3が鳥の調査を行っています。その生徒は家が遠く、なぜわざわざ本校を受験したのだろうと思い、ある時、尋ねると、「校舎が自然豊かな場所にあるから」という、答えが返ってきました。「そこで鳥の調査をしてみたい」という、しっかりとした理由を持ち、本校を受験してくれたのです。
「手賀沼と水」「手賀沼と文学」に続き、また一つ、「手賀沼と鳥」という二松柏の立地だからこそ可能な探究活動が始まり、今は鳥に興味・関心をもつ中3の生徒たちが参加しています。
森先生:手賀沼は渡り鳥が訪れる貴重な場所の1つです。国内唯一の鳥類専門の研究所である「山階鳥類研究所」がありますし、鳥の博物館もあります。渡り鳥にとって特別な場所である手賀沼から、本校は300メートルの場所にあり、広大な敷地を有しています。そこには毎日1000人の生徒たちが 生活していて、人工物などもたくさんあります。通常、人工物を建てるというと、鳥など自然界の生き物に対して悪いことをしているのではないか、と考えられがちですが、意外とそうではありません。「ここに学校があることは、鳥にとってもプラスになっているのではないか」「我々と鳥は共生しているのではないか」という仮説を立て、観察・調査に取り組んでいます。例えば、鳥にとってこのキャンパスはどれだけの利用があるのかを調べるために、毎日、朝と放課後に観察しています。中学生は水、木、金の放課後です。私も時間があれば中学生と一緒に回るのですが、エントランスにスズメのつがいがいたり、毎日のようにトビとカラスが喧嘩をしていたり...。意識をして見ていると、思いがけない気づきが多々あります。その調査報告をもとにキャンパスマップにまとめたりもしました。こうして見ると、いろいろな鳥が本校を利用していることがわかります。
もう一つの調査として、巣箱を10カ所に設置しました。のこぎりを使い、板を切るところから1つ1つ手作業で制作して、高いところ、低いところ、人通りの少ないところ、多いところなど、比較ができる場所に設置して、どこを住処にするんだろうね、と予測しながら待っていると、シジュウカラが巣を作ってくれました。
その場所は、最も人通りの多いところでした。私たちは、人通りの少ないところに住むのではないか、と思っていたので驚きました。考えてみれば、人が多いところにカラスは来ません。天敵から子どもを守るために、おそらくシジュウカラは他の鳥がやってこないということを見抜いていて、あえて人通りの多いところを選んでいたのがおもしろいな、と思いました。
最後に巣を取り出し、巣材を1つ1つ分けて乾燥させて重量を計測したのですが、自然にはないであろう人毛や化学繊維を使っています。服の綿や髪の毛などを使って、学校という場所をうまく利用しながら子育てをしているのです。これは昨年わかったことで、今年は中学生を中心にこの調査に取り組んでいます。
探究学習は生徒の進路選択に
大きく結びついている
鳥に夢中で、ここなら楽しい毎日が送れそうだなと思い、入学した二松柏で、自分では気づいていなかった才能が見出され、道が拓けていく。それが探究活動の醍醐味です。
森先生:彼女に目的などありません。本当に好きだから。楽しくてしょうがないのです。
島田先生:それが大事で、楽しんでいる人には誰もかないません。「教育」を英語で「エデュケーション」と言いますが、語源は「エデュカティオネ」というラテン語です。意味は「導き出す」「引き出す」、それが本来の教育のあるべき姿だと思います。
同校では意図をもって進学するために、「第一志望宣言書」を提出して、大学受験に臨みます。探究活動の充実により、志望校の動きにも変化が現れているのでしょうか。
島田先生:記憶に残っているのは、コンサートが好きな女子生徒です。コロナ禍で外に出られず、配信で見ていたら、大変な状況であっても他者を元気づけようと、日本に限らず世界中の人々が活動している姿を目の当たりにして、「多くの人にメッセージを届けられる、配信する側の仕事に興味をもった」と言っていました。コロナ禍であったからこそ、自分なりに考える時間があり、新たな方向性が出てきたのかなと思いました。
森先生:神社を題材に、昔の柏市を調べてわかったことを未来の子供たちに伝えたいと思い、新しい都市づくりに興味をもった生徒もいました。その生徒が市役所など、街を作る職業に就くために、この大学で学びたいという気持ちを持ち始めたのは、おそらく探究学習がスタートしてからではないかと思います。
その生徒はグローバルコースにいたので、本当にいろいろな国に行きました。本校が用意しているすべての海外プログラムに参加したので、海外の仕事に就くと思っていましたが、「これまで見てきたものを使って、この街づくりに生かしたい」「私の生まれ育ったこの街をよくしたい」と言うのです。 その生徒は、もしあの時、神社や寺を巡っていなければ、大学にもきっと行かなかったでしょうし、将来この町をこうしたい、という思いは持たなかったでしょう。
まさにこの6年間の中で学んだというか、学校を通じて様々な世界を見た結果、彼女の中の原点に返り「柏に還元したい」という気持ちになったのだと思います。このように、「これがしたいからこの大学へ行きたい」という生徒は増えてきていると思います。
毎日、新聞記事を読んで、学外にもよく飛び出し、中3になれば自由に探究もできます。
教科書以外の学びが豊富で、高校受験がない分、目に入る情報はものすごく多いと思います。視野を広げた上で、将来のことを考えられるところは、本校の魅力の一つだと思います。
二松柏のキャンパスは広大で、取材に訪れた日は体育祭に向けて、多くのクラスが大縄跳びの練習に励んでいました。まさかそこに多くの鳥が共生しているとは、考えも及びませんでしたが、鳥に詳しい高校生は、中学生時代にそれに気づき、二松柏のキャンパスに「好奇心」や「わくわく感」を抱いて入学。森先生が研究者との接点を作ると、ますます夢中になって、自分の「好き」を探究し続けています。その後ろ姿を見て、同じく鳥に興味をもつ中学生が自ら調査に加わり、キャンパス内で生活する鳥の実態をつかみ始めています。英字新聞の高校生もしかり。きっと後に続く後輩が出てくることでしょう。ハマるとぐんぐん伸びていく、二松柏の探究サイクルに注目していただき、ぜひ同校の学校説明会にご参加ください。