学校特集
桜丘中学・高等学校
校訓の「勤労」と「創造」のもと、自立した個人を世に送り出してきた桜丘中学・高等学校。未来を切り拓く力として、21世紀に必要な教養である「翼」と的確な判断力となる「コンパス」を授けるべく、ICT教育と英語教育に力を注いでいます。2014年度の中学・高校の入学生からiPadの本格活用がスタートし、授業はもちろん、学校行事やクラブ活動など学校生活のあらゆる場面で使われ、「こんなこともできる」と生徒の創意工夫を助けるツールとなっています。今年度は、毎年3月にハワイで開催される「ホノルル・フェスティバル」での交流を目的に、高1全員が参加する海外研修も企画しています。iPad導入の成果を中心に、桜丘の取り組みについて中高一貫部副校長の品田健先生にお話を伺いました。
iPad導入で板書時間を大幅削減
その余裕をペアワークに充てる
2014年度から中学・高校の新入生にiPadの導入を始めた桜丘中学・高等学校。まずはこの1年の活用状況について、具体例を挙げて紹介します。
どのように使うかは教員の自由裁量ですが、基本の使い方は、iPadからプロジェクターを通じてホワイトボードに映す方法です。英語の授業の場合、ホワイトボードに長文を投影し、要点は赤マーカーで下線を引いたり、補足を書き込んだりします。長文など題材を瞬時に切り替えられるため、教員の板書時間は大幅に減少しました。「そうしてできた余裕を、友達と話し合う『ペアワーク』に充てています」と品田先生は説明します。
宿題の配布や提出、英語の音読チェックなどは、タブレット用授業支援アプリ「ロイロノート」を活用しています。 英語の音読の宿題は、教員がロイロノートで文章カードを一斉配布し、生徒は次の授業までに、音読を録音した音声ファイルを教員に提出します。音読は制限時間(秒)が設定されているため、流暢に読むには繰り返し音読練習することになります。
一方、教員は宿題の提出状況や出来具合を授業の前にチェックできます。ロイロノートは授業でも重宝しています。その日の授業の各生徒の理解度を把握できるので、授業の運営に大いに役立っています。実際の生徒の解答を例に、なぜ部分点しかもらえなかったか完全解答と比較したり、間違えやすい箇所を解説したりします。紹介した別解は再配布してみんなで共有します。
中には宿題の別解を考える生徒がいます。授業中に「別解を考えました」と挙手するのは少々勇気が必要ですが、タブレットの宿題なら授業では見えにくい生徒の努力を見つけることができます。「生徒は自分の努力が教員にきちんと見てもらえているとわかるとモチベーションが上がり、授業で指される・指されないにかかわらず意欲的に学習に取り組むようになります」(品田先生)
大きく変化しました!
国語や英語の文法を説明するとき、「あそこに戻って説明したい」ということがあります。ただし、今ある板書を消して新たに書けばその日の予定が終わらない可能性があると「自分で復習しておくように」という指示に留まります。タブレットは以前に取り上げた文法の振り返りも容易です。自由に行き来できる使い勝手の良さは、使ってみてわかったタブレットの長所の1つです。
紙でもPDFでも自分に合った方法を選択
模範演技や実習手順など動画の用途は広い
iPadは「学習ツールの1つ」という位置づけです。タブレット導入でペーパーレス化するわけではなく、生徒は紙のプリントに手書きを加えたり、配布されたPDFに書き込んだり、自分に合った方法で学習しています。自分で書き込んだ紙のプリントを撮影し、それをタブレットに保存していつでも見られるようにするなど、生徒は自分がやりやすいように工夫しています。
英語でも威力を発揮!
生徒の理解を促そうと動画も積極的に活用しています。学校ではできないような理科実験を動画で見せたり、実際の作業のイメージがわくように理科の実験操作や家庭科の調理実習などの手順を前もって見せています。グループ実験は撮影係が交代で実験の様子を撮影し、レポートの作成に役立てています。体育の模範演技も予め撮影した動画を見ながら説明します。動画に撮ると自分の姿を客観的にとらえられるので、部活動でも積極的に活用しています。フォームを撮影してすぐにチェック、修正点を確認して即実践できるので、効率的な練習ができるようになりました。
品田先生はよく「iPadを導入すると偏差値が上がるのか」と聞かれるそうです(笑)。しかしその成果は確実に出てきています。高1の期末考査の結果を見ると、iPadを使わない「英語表現Ⅰ」の成績はクラス偏差値の順になります。一方、「コミュニケーション英語」はiPadを使うクラス(特特クラスなど)と使わないクラス(特進クラスなど)があります。成績は概ねクラス偏差値の順ですが、その差は「英語表現Ⅰ」よりも小さく、上位クラスを上回るクラスもあります。
とはいえ、iPad導入の本来の目的は「学習意欲や創造性の向上」にあると、品田先生は強調します。例えば絵の表現は得意・不得意がはっきりと分かれますが、iPadのアプリを使えば苦手な生徒でも比較的簡単に描けます。iPadの活用で表現の幅が広がっているのです。クラブ紹介などのプレゼンテーションについても、画像や動画を効果的に使ってプレゼン力をぐんぐん上げているそうです。
フォームの確認や資料集め!
体育会系・文化系を問わず
iPadを活用しています
クラブ活動でも使い方はさまざま♪
活用の課題は生徒の創造性を妨げないこと
教員は生徒から学ぶ姿勢も大事
iPadの導入で、日々の学習内容を書き留める記録帳「SS(Self-Study)ノート」にも変化があらわれました。SSノートは各教科の課題を一元管理できるので、今やるべきことがわかります。計画力や実行力の向上にも役立っており、生徒の学習活動を支える重要なツールになっています。
学習時間の統計のような単純作業はiPadに移行しますが、SSノートをすべてデジタル化するわけではありません。手書きのやり取りを残す意義について、品田先生は次のように説明します。「手書きの文字にはそのときの精神状態が表れます。文字が乱れていれば家庭学習の取り組みが雑になっているかもしれず、そうした生徒の変化に気づくきっかけにもなります。また、日々を振り返るコミュニケーションのやり取りは、手書きの方が断然、気持ちが伝わりやすいのではないでしょうか」
「生徒の使い方を見ると、教員の予想以上に生徒はiPadを使いこなしています」と語る品田先生。今後の課題は、生徒の創造性を妨げずに、生徒が持っている能力や可能性をうまく引き出すことです。「教員は、無闇に制限せず、かつ生徒が"暴走"しないように、『こうすると、もっとおもしろくなるんじゃないか』と時には助言して、より良い方向へ導かなくてはなりません。iPadをうまく活用している教員に聞くと、『もっといい使い方があったら教えて』と生徒に意見を求めています。これからは『教員は教える立場、生徒が教わる立場』という固定概念にこだわらず、生徒と一緒に学び、ときには生徒から教わる姿勢が求められると思います」
導入2年目の今年度は、ICTの取り組みをさらに深める考えです。桜丘は、iPadを活用し革新的な教育を行っている教員の活動が評価され、米アップル社の「ADE(Apple Distinguished Educators)」の認定を得ています。次のステップとして、まずは模範的な学習環境のビジョンを体現するプログラム「ADP(Apple Distinguished Program)」の認定を得ること、さらに「ADS(Apple Distinguished School)」で学校自体の認定を目指すとのことです。
高1全員参加のハワイ海外研修は
「ホノルル・フェスティバル」で多様な人々と交流
TAS(Trinity Anglican School)。6才~18才
までの生徒が学ぶオーストラリアの一貫校です。
桜丘の英語教育の特徴は、ネイティブ教員と日本人の教員が各学年で学ぶべき内容に合わせてバランス良く指導している点にあります。中1の授業は週7時間のうち、ネイティブ教員による英会話が5時間、日本人教員による文法の授業が2時間です。これは、カタカナ英語が染みつく前にネイティブの英語に慣れさせるためですが、リスニングだけでなく発音にも効果が表れています。文法が難しくなる中2・中3の授業時間は同じですが、英会話と文法の比率が逆転します。桜丘には専任4名、非常勤2名のネイティブ教員がいて、彼らが高1の副担任になるなど日常的に英語を学べる環境が整っています。
また、桜丘は数多くの海外プログラムを用意しています(表)。高校の海外研修等に参加するのは中高一貫生が多いのですが、卒業後に海外の大学に進学したり、大学在学中に長期留学したりするのも一貫生が多い。中高での経験が海外留学のハードルを低くしているようです。
海外研修(Global Fieldwork Trip:GFT)は、フィールドワーク中心で、現地施設や日系企業を訪問してグローバル社会を体感するプログラム。2015年度の入学生から、中2の夏休みにシンガポールGFTを計画しています。シンガポールへの海外研修は女子校時代に実施していましたが、観光が中心のプログラムを練り直し、昨年度から高2のGFTとして再開しました。多民族国家のシンガポールは多様性を学ぶには打って付けの環境です。日系企業を訪問し、日本の企業が海外で活動するとはどういうことか、様々な国籍や文化を持つ人々が共に働くことについて、シンガポールに赴任している日本人と現地採用のシンガポール人から話を聞きました。さらに、大学院で国際政治を研究している大学院生からシンガポールの語学学習や徴兵制度などについて説明を受けました。シンガポールは水事情が厳しいことで知られています。水について日本とシンガポールを比較するため、事前に東京都水道局で上下水道について学んでから、シンガポールの上水道施設や再生水施設を見学します。また、町を歩いてモスクや寺院を見て回ることで、シンガポールが多宗教国家であることも感じることができます。
ホームステイの日常会話とは別に、海外で英語を表現する機会を設けようと、今年度から始めるのが、高1全員参加によるハワイGFTです。毎年3月に開催される国際的なイベント「ホノルル・フェスティバル」に出展します。ホノルル・フェスティバルは、環太平洋の文化交流促進事業として行われるハワイ最大の文化交流イベントです。ブースには小学生から一般の大人まで幅広い年代の人々、環太平洋の様々な地域の人々がやって来ます。「本プログラムは、英語しか通じない外国人との交流を高1全員が経験することにも意義があります。その時点での英語のコミュニケーション能力を試して、その後の英語学習に活かしてほしいと思います」(品田先生)
TASは広大な敷地と設備が充実!
この日は現地の生徒たちと
さまざまなレクリエーションを楽しみました!
リーダーシップとフォロワーシップを兼ね備えた
「クリエイティブリーダー」を育成
昨今、国際社会で活躍できるグローバルリーダーの育成が求められていますが、桜丘が目指すリーダー像は、調整能力を備えた「クリエイティブリーダー」です。2015年度から高校で「CL(Creative Leaders)クラス」を新設、自分の得意分野では率先してリーダーとなり、他者の得意分野ではフォロワーとして、ときにはリーダーに対して批判・批評をし、チームを盛り上げるなどサポートできる人材の育成を目指します。CLクラスで培ったリーダーシップとフォロワーシップで、将来グローバルな企業活動で活躍することが期待されます。「CLクラスは『チームによる新たな価値創造』をテーマに、グループワークの課題に重点を置いています。評価方法も他のクラスと違い、試験の成績が50%、残り50%をグループワークなど授業のパフォーマンスで評価します」(品田先生)
桜丘のリーダーシップ・フォロワーシップの養成方法に、クラスのリーダー的立場を全員が経験する「MC(Master of Ceremonies)制度」があります。これはいわば日直制度で、義務的に日直の仕事をこなすのではなく、「連絡事項をクラス全員に聞いてもらうにはどうすればよいか」など、よりよいクラス運営を常に意識しながら行動するのがねらいです。MC制度はリーダーシップの向上だけでなく、MC以外の生徒たちのフォロワーシップの向上にも一役買っています。CLクラスの取り組みは、ゆくゆくはMC制度のように全体に広げていきたいと考えています。
2014年度の国公立大学の合格者が昨年度から倍近く増えるなど(23名→42名)、大学合格実績を順調に伸ばしている桜丘。しかし、品田先生は現状に満足していません。「国公立大学の志望者は年々増えていますが、合格者数は志望者数にまだ見合っていません。生徒の希望を叶えられるように、第一志望の国公立大学の合格者を増やしていきたいですね」と今後の目標を掲げます。iPadをはじめとした最新のツールを駆使して、生徒たちのモチベーションと創造性の発展を常に考え続ける桜丘。来年度の更なる飛躍が期待されます。