学校特集
東京電機大学中学校
生きていく力を育成する
JR中央線東小金井駅から徒歩5分。閑静な住宅街の一画に立地する東京電機大学中学校・高等学校。近くには都立小金井公園があり、武蔵野の自然を残しています。また東京農工大学や法政大学、亜細亜大学の最寄駅でもあり、一帯はアカデミックな雰囲気にもつつまれています。
同校は昨年を「学校改革元年」と位置づけ指導体制を刷新してきました。今回はその成果と今後の方向性をうかがいました。
新校長が就任 さらに進む学校改革
新校長が就任されましたね
この4月より大久保靖が新校長として就任しました。前校長の向芝が昨年位置づけた「学校改革元年」を引き継いで、さらにその内容を具体化し、改革のスピードがアップしています。
具体的にどのようなことが変わったのでしょう?
昨年から変わったのは、PDCAサイクルを活かした授業改善が始まったことです。授業→宿題(課題)→小テスト→再試験・補習講習というサイクルがまず主要3教科(英・数・国)で徹底されました。またそれにともなって、中学では火曜日・木曜日、高校では水曜日・金曜日で全ての部活を休み、または開始時刻を遅らせて、補習と講習の時間を確保することになりました。今までは学年によって補習と講習がバラバラだったので、全員そろって部活動することもなかなかできませんでした。曜日と活動時間を固定することによって学業と部活とのメリハリがついています。ただ主要教科では頻繁に小テストがあります。クリアできない場合は、固定曜日以外にも部活の前に再テストや補習を行うケースもあります。
アクティブラーニング型の授業も導入されているそうですね。
昨今「アクティブラーニング」という言葉が脚光を浴びていますが、もともと観察や実験などは「アクティブラーニング型」の授業です。本校は従来から理科系の生徒が多いこともあって、理科の授業では2,3回に1度は観察や実験が行われてきましたし、今後もそれを続けていきます。
逆に、理科以外の教科については、ここ最近で「アクティブラーニング型」を意識して導入・活用する授業が増えました。これは先ほど述べた「授業改善」の中の1つに含まれます。今までも双方向型の授業は実践してきましたが、ラーニングピラミッドの効用をもっと意識した形での実践になっています。また、電子黒板を使用した授業も徐々に増えています。今までの授業改善に加えて、さらに研究・改良を継続的に行うために、校内では本年より新たに「教授法研究共有PT(プロジェクトチーム)」を立ち上げました。各教科で持っている教授法や新しい授業手法を、科目を越えて共有していこうという試みです。
高校1年生で新たに始まった「高校生活スタートセミナー」には
どんな狙いがあるのですか?
従来は7月に林間学校を実施していましたが、4月にセミナーを実施することで、新鮮な気持ちで学習や生活に対する目標が立てやすくなりました。また英語と数学について「学習ガイダンス」も行い、学習することの意味や科目の位置づけを確認しましたが、その結果、生徒たちは学習に対する意欲が喚起されたようです。
セミナー中は、社会人の卒業生を講師として迎え、「専門性を身につけることの大切さ」「社会に出て働くことの意味」「コミュニケーションの重要性」「高校生活で身につけておきたい能力」などについて話していただきました。3Dプリンターの実演もあり、生徒たちも興味深く耳を傾けていました。
セミナーの一番の柱は「キャリアプログラム」です。以前もジュニアアチーブメント日本のさまざまなプログラムに、一部の生徒たちが参加してきました(昨年はある企業の高校生経営セミナーで本校チームが優勝しました)。これを全体的な取り組みにしていこうという狙いがあります。クラスを4~5名のグループに分けて、与えられたミッションをクリアするためにグループ内で話し合いを重ねていきます。このプログラムは、グループの対抗戦という形式をとりながら、「意思決定には"結果"と"責任"が伴う」ことを学習するための「意思決定力養成シミュレーション(MESE)」です。自分たちの下した判断がなかなか思うような結果に結びつかない難しさを感じながらも、最終結果発表では勝者に惜しみない拍手が自然と湧き上がりました。
近未来社会で生きるための力を育む
「TDU 4D-LABO(学年横断型の新総合学習)」
その他に大きく変わったところはありますか。
来年度から「TDU 4D-LABO(新総合学習)」が始まります。本校では今までも「経験知」をベースにした「卒業研究」を中学3年生の必須課題としてきました。しかし、この卒業研究は「単一学年」の「個人研究」でした。「4D-LABO」は中学2年生から高校2年生が一緒のメンバーになって、1つのテーマに沿ってグループ研究を行うもので、大学のゼミ学習をイメージしています。異なる年齢の生徒同士が一緒に取り組むことで、下級生は上級生に学び、上級生は下級生を指導することで自らも視野を広げます。自主性や協調性を養う効果も期待できます。「個人」の力では限界があることも「チーム」だからこそ達成できることを実感するプログラムです。
学習の流れは、課題を見つけ、調査し、自ら考え、その成果を外に向けて発表する、という4つのステップからなります。その結果、より高い次元の課題へとつながっていく「上昇スパイラルの学習サイクル」が生まれることを意図しています。そしてこのサイクルを通して、これからの社会で必要とされるだろう5つの力、すなわち「視野の広さ」「冒険心」「専門性」「共感」「向上心」を身につけてもらうことが、この学習の最大の目的です。
途中、LABOの再選択はできますが、選択を変えない生徒は4年間同じテーマを追い続けます。いま世の中はめまぐるしいスピードで技術も社会構造も価値観も変わっていこうとしています。変化を追いながら進行形で学ぶことで、「先を見通す力」もでてくるでしょうし、将来の進路に対する「ミスマッチ」も起こりづらくなるでしょう。
他校にもこうした探求型学習の事例はありますが、本校のように学年を越えたグループ学習の試みはめずらしいのではないかと思われます。
校訓「人間らしく生きる」ことを学ぶ6年間
成長段階にあわせた「面倒見」
中高6年間の位置づけについて伺います。
本校は6年間を2年間ずつ3つのステージに分け、生徒の成長に合わせて「ヘルプ→サポート→インディペンデンス」と位置づけています。最初の2年間は手取り足取りで丁寧に指導していきます。小テストや補習などを繰り返し、徹底的に基礎を固めます。次の2年間は生徒の自主性を重んじ、適度な距離を保ちます。問題解決に至るまでのプロセスを大事にすることで、生徒が自分の考えを持てるようになるからです。教員は必要なときだけ手助けするようにしています。そうしないと、いつまでも依存心がなくなりません。そして最後の2年間は自分で生きていく道を探してもらうために、自立した大人としての責任感と自己管理力、また他者との関わりの中で自ら解決法を見つけていける力を求めます。
したがってむやみな干渉はしません。もちろん生徒の相談にはいつでも乗れるよう心がけています。しかしその時に、決して答えを一方的に与えるのではなく、生徒との対話の中で何が課題なのか、問題なのかを確認し、それにもとづいたアドバイスをすることで、解決する方法を自ら考えるように導いていきます。その点で生徒との対話を大事にしていることが本校の特徴といえるでしょう。
人間関係の構築という面でも対話は大事ですね。
人間は一人では生きてはいけないものです。自己主張も大事ですが、他人の声に耳を傾けることも大事です。人間誰しも成功ばかりというわけではありません。失敗したとき「誰にでも失敗はある」「やれるだけのことはやったじゃないか」と励ましてくれる仲間がいればこそ、また前を向いて進めるのです。逆に、他者の成功を喜べる人間にならなければ、自分の成功も喜んではもらえません。日々の対話を重ねていくことで信頼関係が生まれ、より良い人間関係を構築していくことが「人間らしく生きる」ことにつながると私たちは考えています。
入試結果と来年度の入試について
今年の入試結果と来年度の入試について教えてください。
大きな変更ではありませんでしたが、全入試回で国語にテーマ作文を導入しました。字数は80字~100字で配点は10点です。「作文」というだけで敬遠してしまう受験生もいたようで、2/1の午前入試では昨年よりも志願者が減りました。しかし実際に受験した子どもたちはしっかり対策してくれていたようで、平均点は8点と高くなりました。全入試回の志願者総数は昨年より59名減りましたが、受験者総数は昨年と同数の728名でした。2/1の午後入試は昨年よりも志願者が増えましたが、これは出願時の併願校アンケートから、本校よりも上位の進学校との併願が圧倒的に多くなったことが理由です。本校は系列大学がありますが、実質的には「進学校」であることが周知されてきた結果だと思われます。
本校は伝統的に理数系を志望する生徒が多い学校です。他校よりも数学や理科を担当する教員数が多いからこそ、指導法やその工夫も教員の数だけたくさんあります。この数年「算数や理科が得意ではないから入学した」「電機大中に入れば算数や理科が好きになれそう」という入学者の声も聞くようになっています。算数や理科がもともと好きな受験生はもちろんのこと、不得意な子どもたちにも「好きになってもらえる」自負があります。ぜひ多くの受験生のみなさんに本校を見にきていただいて、受験校の1つに加えていただければ幸甚です。