学校特集
大妻中野中学校・高等学校2021
掲載日:2021年10月1日(金)
同校が初めて海外の学校と教育提携を結んだのは32年前。さらに、今年は帰国生受け入れ(途中編入にも柔軟に対応)を開始してから20年目という節目を迎えます。全校生徒の11%、約160名が帰国生(35カ国)。建学の精神を「学芸を修めて 人類のために(Arts for Humankind)」とし、先進的なグローバル教育を実践する同校ですが、「今現在だけではなく、これからの教育がどうあるべきかを先読みしながら歩を進め、停滞しないことが大切」と校長が語るように、日々、その教育改革を更新し続けています。時代に即応し、さらに先読みした取り組みについて、校長の野﨑裕二先生にお話を伺いました。
「Beyond School」を合言葉に、生徒の可能性拡大を増進
カナダへ8名、アイルランドへ1名。2020年度、同校から留学に旅立った高校生の人数です。
昨年、コロナ感染拡大が深刻化するなか、それでも「国ごとに歴史や文化が違いますから、留学生受け入れのスタンスは異なります。ですから、一律に延期または中止にするのではなく方面別に考えていこうと思っています」と語っていた同校。例年よりも人数は少ないものの、その言葉通り留学は実施されました。そして、今年度も30数名の高校生が留学へ向けて準備中です。
野﨑校長:「このような状況下にあっても、強い気持ちで『行きたい』と言う生徒、そしてそれを応援する保護者の方々はじつに頼もしいと思います」
校長はそう言いますが、それは同校が実践する教育への賛同と信頼があればこそでしょう。
現在のような非常時においても、受け入れ国と出発国である日本の状況を注視しながら可能性を探って前向きに対応する。多くの制約がありながらこのような柔軟な、かつ確固たる姿勢を貫くことができるのは、世界8カ国20校以上の学校と教育提携を結び、数多くの留学生を送り出してきた実績と、同校の「教育は待たせない」という教育哲学があるためかもしれません。
ちなみに、一昨年の2019年度には学期・年間留学を合わせて約70名もの高校生が旅立ちましたが、2020年初頭にコロナ禍によって帰国を余儀なくされました。しかし、同校は速やかに体制を整え、その後も多くの生徒がオンラインで当該国の授業を継続して受けることができたそうです。
ところで、留学を希望する生徒は帰国生と一般生がほぼ均等です。たとえば、アイルランドに留学した生徒は新思考力入試の1期生ですが、帰国生と一般生を混合した教育を実践しているため、互いに共鳴し合う環境の中で生徒たちがそれぞれに目覚めていく好例でしょう。
ここで、同校のグローバル教育の歴史を簡単に振り返っておきましょう。
1995年 中学校併設
1996年 中2に「カナダセミナー」を設置
2000年 高校でフランス語を正規の履修科目(選択制)とし、複言語教育を開始
2001年 帰国生受け入れを開始
2011年 グローバル教育で、大妻女子大学と密な連携を開始
2015年 SGHアソシエイト校指定を受ける
2016年 「グローバルリーダーズコース(GLC)」新設。
GLCでは中1からフランス語が必修SGHに向けて、大妻女子大学との連携を中心に「グローバル・センター(GC)」の土台作りを本格的に開始
2019年 ユネスコスクールへの加盟申請
2020年 GC設立
合言葉として掲げる「Beyond School」とは、校内に留まることなく生徒が主体的にチャレンジできる機会を提供し続けること。いわば校内外関係なく活動する「開かれたカリキュラム」ともいえます。
同校のグローバル教育を象徴するキーワードは「確かな語学力」と「カラフルな体験」の2つ。コロナ禍により、中2の「カナダセミナー」など集団研修は停止中ですが、基本的にこの教育姿勢が変わることはありません。
例えば、生徒たちのモチベーションを途切れさせないようにと、昨年から夏休みには海外交流校と連携して「オンライン留学」も実施しています。実施にあたって、最も重視したのはライブで行うことでした。ヨーロッパの学校であれば日本時間の夕方から参加できるため、イギリスやフランス、ドイツの学校に協力を依頼。
1週間以上のプログラムもあれば、2〜3日という短期間のものもありますが、オンラインを通じて希望する国の学校の授業を受け、現地校のバディとも交流するプログラムです。今年も同様に実施されました。
これらの取り組みは外部の協力を得らながら、昨年設立されたグローバル・センター(GC)が中心になって行っています。
GCは、グローバル教育をさらに深化させるために学習指導や進路指導、生活指導なとどいったこれまでの各校務分掌の役割の一部を一元化し、ロジスティックな部分を強化してグローバル教育全体をより強固に支えていく機能を持つ部署です。
つまり、GCの開設はカリキュラムの複線化や進路指導の複線化にも繋がっているのです。留学などに際しての煩雑な諸手続きを一元管理してサポートするなどもGCの重要な役目です。
コロナ禍という過酷な局面でGCを本格的に立ち上げたことも、「教育は待たせない」を標榜する同校ならではです。
そして、このような枠組みを超えた取り組みを先行して行っているのが、スタートして今年で5年目になる『グローバルリーダーズコース(GLC)』になります。
カリキュラム改革で「Beyond School」が加速
同校は「アドバンストコース」と「グローバルリーダーズコース(GLC)」の2コース制をとっています。
「GLC」は、異文化を経験した帰国生に適した教育環境を提供するために立ち上げたコースですが、「グローバル入試」で合格した一般生と共に国際感覚をさらに磨いていきます。中学からリベラルアーツ的なプロジェクトベースの学び方で学習し、英語だけではなくフランス語も必修。複数の言語に触れることで世界の複合性を理解し、国際社会、異文化への関心を高める教育を実践しています。目指す進路としては、主に海外大学か国内大学の国際系学部など。
一方の「アドバンストコース」は先取り学習の徹底を図るクラスで、目指す進路は主に国内の難関大学になります。
両コースともに多様性の重要性を知るために、SDGs(Sustainable Development Goals持続可能な開発目標)の達成を目指すなど、地球市民を育成するプログラムに力を入れていますが、中3以降は毎年、全体でコースを再編成し、GLCとアドバンストコース間の移動も可能です。
アドバンストコースでは高2から文系・理系に分かれますが、2016年度にスタートしたGLCの進路は文系のみでした。
ところが、2019年度の高2からは、「GLC文系」と「GLC理系」に。「GLC理系」の1期生の中には、ハンガリーの国立大学医学部やイギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)に合格した生徒もいます(UCLに合格した生徒は、結果的には東大の理科Ⅱ類へ進学)。
野﨑校長:「じつは、GLCに理系を設けたのは生徒のひと言がきっかけでした。『グローバル系といえば文系のイメージになりがちだけれど、違うのではないか』と言うのです。本校は伝統的にリベラルアーツを実践していますが、生徒からそう指摘されて『ごもっともだね』と(笑)」
誰が発した言葉であっても、的を射た意見に対しては柔軟に対処する。体制変更には膨大な労力が必要だったに違いありませんが、これも同校の教育姿勢を象徴するエピソードといえます。
野﨑校長:「昨年、オンライン授業を行うにあたって『プロジェクト・マネジメントチーム』を立ち上げ、オンライン授業も対面授業もスムーズにできる体制を整えました。また、『カリキュラム・マネジメント・コアチーム』も作り、そのメンバーが中心となって、今、各教科で新しいカリキュラムのコア(中軸)について最終調整中です」
数年前からカリキュラム改革に取り組んできた同校ですが、コロナ禍を挟んでその動きは加速しています。
一つひとつのプログラムの独自性と優位性はさることながら、この改革は生徒たちが単眼ではなく複眼的に物事を見てより良き未来を創出できるよう、すべてを連環させようとするものです。
野﨑校長:「グローバル教育とは何かと考える時、結局は建学の精神『学芸を修めて 人類のために〜Arts for Humankind〜』に立ち返らざるを得ません。人は自分を律したり俯瞰したりしながら、相手を理解する優しさをもたなくてはいけません。人にとっての幸せ、自分にとっての幸せ、そして、それを取り巻くもの。生きていくうえでの『幸せ』と『物事のあり方』について深く考えることが大切です。ですから、授業も諸活動も、すべてはそのための基盤作りを意図したものでなければならないと思っています」
今取り組んでいる新しいカリキュラム作りも、そのためのものです。そして、新しいカリキュラムのコアとは、すべての教科、すべての授業で「探究的思考」をより強化すること。各教科すべての先生方に、探究型授業の授業案を作ってもらっているところだと言います。
教科そのもののベースを学ぶとともに、他教科と融合して物事を重層的に見る目、多角的・多面的な考え方を養う。つまり、これは伝統的に同校が実践してきたリベラルアーツ教育の進化を目指したものといえます。
野﨑校長:「ひと口に『探究』と言っても、自分でテーマを掲げて進めていくことは最初からできるわけではありません。そこで、最終的に生徒が自走できるようにするために、生徒に向けた『行動指針』と、教員に向けた『探究システムの指導レベル』というものを作りました」
Challenge(Desire・Motivation・Interest・Confident)→Construct(Build・Compose・Innovate)→Create(Happiness・Resolve・Success)
「行動指針」の特徴は、最初に「チャレンジ」があることです。とにかく、行動してみることが大切だと。そうすると、段階を追うにつれて生徒は「依存」から「自律」へ、先生は「訓練」から「支援・見守り」へと、その関係性も変化していきます。これは、学習に限ったことではなく、学校生活のあらゆる場面に活きるものでもあります。
ところで、この「行動指針」の作成にあたって先生方は協議を重ねましたが、「Challenge」から始めることを主導したのは、カリキュラム・マネジメント・コアチームのメンバーでもあるネイティブの先生だったそうです。
Level1=Structured Inquiry(ある一つの探究課題に向かって生徒みんなが参加し、先生の指導に生徒がついていく)
※水泳に例えると、プールに入るのが初めての生徒のために、水の入り方を見せて実践させたり、水の中で一緒に歩いたりする=指導者のリードが大変重要
↓
Level2=Controlled Inquiry(先生はトピックを選び、生徒が答えを導くためのリソースを先生が特定する)
※生徒がビート板を使ってバタ足をする。ビート板もバタ足も指導者が設定する=適切な学び方や教材を指導者が設定
↓
Level3=Guided Inquiry(先生がトピックや問いを立て、そして生徒が作成物や解決策を出す)
※指導者が「25mを目標に泳ごう!」「誰が一番早くゴールできるか?」という目標や問いを立て、生徒たちが泳ぎ方を工夫したり、息継ぎのタイミングを工夫したりして目標を達成する=指導者が課題を決めるが、その課題解決や目標達成の方法は学習者によって異なる
↓
Level4=Free Inquiry(他者が決定した学習成果を用いずに、生徒が、自らトピックを選び学習成果をあげる)
※速く泳ぐ生徒、潜水に挑戦する生徒、飛び込みを練習する生徒、速く泳ぐためのトレーニング方法を開発する生徒、「水が汚かったので、水質を調べるプロジェクトを立ち上げ、環境問題に取り組む」ため、プールから上がって図書館に行く生徒など=自らの課題に向けて学習を発展させていく
・Tetsuya Higa、探究学習(Inquiry Based Learning)の段階、Jan 9, 2019
https://medium.com/@thiga/%E6%8E%A2%E7%A9%B6%E5%AD%A6%E7%BF%92-inquiry-based- learning-%E3%81%AE%E6%AE%B5%E9%9A%8E-3067e02081ca
・Trevor MacKenzie、「Bringing Inquiry-Based Learning Into Your Class」、2016 年 12 月
https://www.edutopia.org/article/bringing-inquiry-based-learning-into-your-class- trevor-mackenzie
・文部科学省、「高等学校学習指導要領解説 総合的な探究の時間編」、2018 年 7 月
https://www.mext.go.jp/content/1407196_21_1_1_2.pdf
先生方は生徒にとっての有用な学び方をさまざまに探究し、実践して、生徒の持つ力を引き出し伸ばしていく。そして、それを固定するのではなく、何がベストかを常に考え続けていますが、このような環境だからこそ、生徒たちはそれぞれの時分に目覚め、自走するようになっていくのです。
すべては建学の精神「学芸を修めて 人類のために」の具現化のため
建学の精神「学芸を修めて 人類のために〜Arts for Humankind〜」とともに、校訓「恥を知れ」(自分を高め、自分の「良心」に対して恥ずるような行いをしてはならない)の教えの下、同校は以下の3つを柱とした教育を実践し続けています。
「自律」...自らの意識行動を俯瞰し、互いの個性を尊重することを目指す
「協働」...多様性が本質であることを理解し、多様性を活力とする
「貢献」...今取り組んでいる学びはすべて地球の、人類の持続に繋がっていることを意識する
同校の多様なプログラムでの学びを土台に、生徒たちは外部プログラムやコンテスト、またボランティア活動に積極的に参加するなど、この状況下でも、自ら校外へ飛び出していく動きは停滞していません。
学ぼうとする姿勢を持つことは、「広い視野」と「多様性を受け止め、尊重する心」の獲得へとつながっていきます。
建学の精神は、生徒たちが地球市民としてあらゆる人たちと協働し、さまざまな課題に取り組むことでより良い未来の創造を目指すものですが、この精神は、生徒たちの心に確かに芽吹いているようです。