学校特集
国府台女子学院中学部2023
掲載日:2023年6月1日(木)
2026年に創立100周年を迎える伝統校、国府台女子学院。浄土真宗(本願寺派)の教えに基づいた仏教精神を礎とし、『敬虔(けいけん)』『勤労(きんろう)』『高雅(こうが)』を三大目標としています。2022年度より副学院長に就任した井上卓也先生は20年以上同校の教壇に立ち続け、生徒たちの成長を長らく見守ってきました。中学部を牽引する立場となった井上先生に、これからの国府台女子の姿を伺いました。
中高連携を強化し、より将来の夢に近づく
新副学院長である井上卓也先生は、国府台女子学院の生徒たちを「素直で真面目」と言い表します。その上で、理想とする未来の生徒像を「穏やかで知的な女性」と話します。
朗らかで明るく、好きなことに打ち込む生徒、コツコツと頑張る生徒が多いことが特長です。彼女たちは伸びやかな学校生活の中で、他人を思いやりながらその長所をますます伸長しています。
もともと、同校は面倒見がよく、学力をしっかり伸ばす学校として定評があります。
「中学部では、一部の教科で先取り学習をしながら基礎を固め、学習習慣をつけます」と井上先生。
そして、高等部には普通科の文系(国公立/私立)、理系(国公立/私立)、美術・デザインコースが設置され、将来の夢に着実に近づけるカリキュラムを敷いています。
普通科は高2時から4コースに分かれ、自分の志望校に向けて、基礎、応用、実践と丁寧に学力を身につけていきます。
美術・デザインコース生は、創造する喜びを大切にしながら、感性を磨き、高いクリエイティビティを養っていきます。普通科のカリキュラムに加え、蓄積されたノウハウによる実技指導を受け、美大受験を突破する実力を培います。
生徒たちは、このような多彩なコースがあるからこそ、高等部進学時点である程度希望の進路を考えておくことになります。そのためにはしっかりと自分を分析し、目標を定めることが重要です。
そこで中学部の時点から、HRの時間に大学の学部・学科調査などの調べ学習を行ったり、「15歳の仕事塾」として、中3を対象にワークショップや複数の社会人講師による講演などを開催したりしています。
さらに「生活記録ノート」でのやりとりや面談を頻繁に行い、 進路面でも生活面でもフォローしながら、高等部での進路選択、大学受験、社会人としての未来のこともHRなどで話し合いを重ねます。
同校では近年、学習面、キャリア教育面を含めて中高連携の強化を図っています。真面目に努力を重ねた生徒がきちんと報われるようにと、先生方が一丸となって見つめているのです。
「先生と生徒の距離が近いですね、という言葉もしばしばいただきます」と井上先生。生徒たちは陰日向なく後押しされながら、自分の将来を見据えつつ明るく健やかな生活を送っています。
創立100周年に向け、守り続けるもの、変わるもの
3年後に創立100周年を迎える国府台女子学院は、学問を修め社会で活躍できる女性の育成を理想として設立されました。大正デモクラシーが起こったものの、一般的には女子教育とは良妻賢母を育成するものと思われていた時代。その中で「智慧」と「慈悲」を備えた、自立した女性を育成することを目指しました。
三大目標として「敬虔」・「勤労」・「高雅」を設けています。これは「敬虔」=常に我が身を振り返る素直な心を誓う、「勤労」=実践を通じて、生きる智慧を身につける、「高雅」=心身を整え、気高い品性を身につけることを意味しています。
昨今、女子校の共学化が進む中、同校では女子教育を貫くことを表明、「今まで続けてきたことはしっかりと保ち、改善すべき点は改善していきます」と井上先生は語ります。
例えば、ICT化の潮流やコロナ禍での学びに備え、BYODによる1人1台のiPad利用、「Classi」や「ロイロノート」の活用、全教室へのWi-Fi配備と電子黒板の導入、デジタル教科書の導入検討など柔軟に対応。「情報リテラシー」の授業を通して、情報の取り扱い方も学んでいます。
「英語の授業では、読み上げの宿題を自宅でしてもらい、そのデータを提出する、理科ではグループで調べものをして情報を共有するなど活用しています。板書の時間削減、映像資料を用いるなど、授業の幅が広がりました」(井上先生)
一方で同校が最もこだわってきたのが、対面による授業です。2020年の冬に新型コロナウイルスが蔓延し始め、その年の春は全国的に休校を余儀なくされました。しかし、試行錯誤を繰り返しながらも、可能な限り学校生活や行事を平常時と同様に行ってきました。
「学習面ではもちろん、精神面でも人の和や協働、集団生活での学びは、生徒たちの成長に欠かせないものです」と井上先生。
2022年の冬には、従来1コマ50分であった授業を30分に短縮。午前中に授業を終え、午後は「ロイロノート」で配信し、自宅学習をするという形式を取りました。
「長年、『学校に来ることが大切です』と生徒たちに伝え続けてきました。オンライン授業を否定するわけではありませんが、やはり私たちの教育は、顔を見合わせてこそだと思います」と決然と語ります。
この方針には保護者の中にも賛否があったと言いますが、学校に行くために起床し、身支度をきちんと整えて登校すれば、教室に友人たちと先生がいる。コロナ禍で不安が募る中、それがどれだけ生徒たちの心の支えになったか、想像に難くはありません。
長年、希望者対象に行ってきた夏休みのアメリカ語学研修も、中止になってしまいました。しかしそこで終わりとならないように、22年度は国内での語学研修を実施し、来年度は海外語学研修の再開も視野に入れています。その他、学院祭(文化祭)・体育祭などの学校行事も工夫しながら徐々に再開。合唱コンクールも行いました。生徒たちの学びへのモチベーション維持と心の発達のため、同校は尽力し続けています。
100周年記念事業は、生徒と手を取り合って
同校では100周年を記念して、新制服への改定と記念ロゴマークを制定しました。
新制服は、2023年度から中1と高1を中心に着用していきます。中高の新制服は、国府台女子のスクールカラーであるダークグリーンをベースに、スカートもスラックスも選択可能で組み合わせは多彩、品格を感じさせるデザインが印象的です。撥水加工が施されているので、すべて家庭用洗濯機で丸洗い可能。夏は涼しく冬はより軽く暖かく、清潔で快適に過ごせる高い機能性をもたせた制服です。
「生徒たちの代表として、昨年度の中高生徒会役員の意見を聞き、袖の飾りボタンを取る、濡れても匂いが気にならない素材などを取り入れました」(井上先生)
100周年記念ロゴマークは、在校生・卒業生からデザインを募りました。多数の応募の中から、高校3年生の作品が選ばれ、学院祭の中で全校生徒に向けて発表しました。
女子だけで過ごす学校生活の意義とは
自分は共学校が合っているか、女子校が合っているか、お悩みの受験生もいらっしゃるでしょう。長い年月、女子教育に携わってきた井上先生は、女子校の利点を「すべて自分たちでやることにある」と説きます。
例えば共学校では、体育祭や文化祭などの学校行事で、男子がリーダー的役割や力仕事を担い、女子はサポート的な役割をするという性別による役割分担が行われがちです。男子に対して、女子が無意識に遠慮する場面も見られます。また、異性の目を意識しすぎて、素を出せなかったり、好きなものに思い切り打ち込めなかったりという声も聞かれます。
しかし、女子校では特に性別を気にする必要がありません。学校行事は、女子だけで企画立案、運営、撤収まですべて担当します。生徒一人ひとりが自主性をもち、行事を完成させ、盛り上げるのは自分たちの頑張り次第だという気概を育てます。そしてその気概は、勉学にも趣味にも、生活のあらゆる面に発揮されていきます。これこそ先述の三大目標、実践を通じて生きる智慧を身につける「勤労」といえるのではないでしょうか。
「その子が自分らしい姿のまま、本当に自分のやりたいことを追求できる、それが女子校です」と井上先生は語ります。この環境で6年間を過ごすことによって、同校の生徒たちは各々の強みや美点を自らの望む方向へ、すくすくと伸ばしていくのです。
また井上先生は「女子校は生徒間の関係性が気がかり」という保護者の懸念にも触れます。「生徒同士のトラブルは皆無とは言えませんが、まだ芽が小さいうちに、保護者の方と相談しながら、回避・解決に導きます」と話します。
本人が担任に悩みを伝えたり、保護者の方からの相談などから見つかったりということもありますが、「困っている子がいる」と他の生徒がそっと教えてくれることもあると言います。悩んでいる子、様子がおかしい子に気づき、なんとかしてあげたいと思う心をもっているのです。
仏教を通して、他者に共感できる心を培う
なぜ生徒が積極的に周りの人を助けようとするのか。その理由は同校が宗門校であるということに由来しているのかもしれません。
週に1時間行われている仏教の授業では、自分の内面を見つめる「内省」の時間を毎回取っています。授業の冒頭の5〜10分間で1週間を振り返り、「あの時自分はどう行動すべきだったか」「なぜ失言してしまったのか」「どうすればよかったのか」――。
これは三大目標のひとつ、「敬虔」につながる行動です。生徒たちはこの時間を通して、自分の本当の思いを見つめます。そして、いま自分がやるべきことは、友人を元気づけるにはどうしたらよいか、他者に共感し寄り添うにはどう振る舞うべきかなど、心の在り様を学んでいきます。
こういった心を育てる仏教教育を経て、同級生や先輩、後輩、同じ学校で過ごす人々との出会いを「ご縁」と捉え、他者を大切にし、自然と助け合う気持ちを養います。その結果、周囲に目を配り困っている人を見過ごさず手を貸す、「慈悲」と「高雅」を体現できる女性へと成長を重ねるのです。
さらに仏教の授業では、仏教を学ぶだけでなく、他宗教を知ることにより異文化理解を深めています。宗教によって変わる「愛」の定義を多角的に考えたり、死についても考えて互いの意見を交わしたりと、アクティブラーニングを取り入れた授業も行われています。
礼節と知性を兼ね備え、着実に未来へと歩む
井上先生の語る国府台女子学院の雰囲気は、一度訪れればすぐに理解できるはずです。温かく清潔感のある校舎、自然と目を合わせてあいさつをしてくれる生徒と、清々しい空気が伝わってきます。
特に校舎においては、同校の知の宝庫である図書館は必見です。入り口すぐに構えており、10教室分の広さを誇ります。生徒が出入りしやすいように考えられた明るく開放的な空間で、まさに学校の象徴となっています。
先生方の面倒見の良さは、生活面でもしっかり発揮されます。生徒たちはあいさつや身だしなみなど、当たり前のことを当たり前にできる矜持を身につけています。
ある卒業生が就職試験を受けた際、採用後に「筆記試験のあと、あなたが消しゴムのカスを丁寧に集めて片付けていたことが印象的でした」と声をかけられたそうです。極度の緊張が解けた試験後にも礼節を忘れず自然に行う、とても同校の生徒らしいエピソードです。
「私たちは生徒たちに様々なことを指導します。ときには口うるさく感じることもあるでしょう。しかしそれは、あなた方の努力を、我々はきちんと見ているということでもあります。私たちの力を、あなたの未来を叶える力として活用してください」
これが井上先生から受験生へのメッセージです。この学び舎の中で、夢を見据え、思い描く自分になるための道標を見つけてください。