学校特集
森村学園中等部
1910(明治43)年の創立以来、小規模の家族的で温かな校風で、多くの卒業生や保護者に慕われてきた森村学園。創立された港区高輪の前校地から、現在の横浜市緑区長津田町のキャンパスに移転してきたのが1978(昭和53)年。都心の校地から、自然の緑に囲まれた新たな学び舎で再スタートを切った新生・森村学園は、現在では神奈川県央エリアで大きな期待が寄せられる共学の進学校として、さらなる進化・発展が注目されています。 大学への進学実績も、今春には東大2名の現役合格をはじめ、国公立大学や早稲田・慶應義塾大学への合格・進学実績を目立って伸ばし、中学受験生の家庭や塾関係者からの評価をさらに高めています。 自然に囲まれたキャンパスに一歩足を踏み入れると感じられるゆったりとした雰囲気と、穏やかな在校生の表情、先生と生徒、生徒同士が笑顔で会話を交わす和やかな様子が、森村学園の校風を物語っています。 そして将来の社会で求められるグローバルなコミュニケーション能力の下地をつくるプログラムとして導入され、今年で4年目を迎えた「言語技術」の成果や手ごたえも、多くの教育関係者から注目されています。今回はそうした現在の教育展開を、入試広報部長の小澤宗夫先生に伺ってみました。
100年以上前にグローバル人材の育成をめざした、
創立者・森村市左衛門の理想
幕末・明治の激動の時代に、貿易を振興し、国を豊かにしなければいけないという使命感から、独力で日本初の民間日米貿易を開始した実業家・森村市左衛門。現在の「TOTO」「ノリタケカンパニーリミテド」「日本ガイシ」「日本特殊陶業」「森村商事」など、森村グループの創業者でもある森村市左衛門は、「人を育てること」の重要性を悟り、慶應義塾大学、早稲田大学、日本女子大学などの教育機関や、北里研究所(医療機関)などに惜しみなく私財を投じました。そして晩年、私邸の一部を開放して幼稚園・小学校を開設したのが森村学園の始まりです。
その創立者・森村市左衛門の人生訓「正直・親切・勤勉」は、創立から105周年を迎えた現在も、森村学園の校訓として連綿と受け継がれています。
創立当初は女子校としてスタートした現在の中等部・高等部は、やがて共学となり、1978(昭和53)年に港区高輪から、横浜市緑区長津田町の現校地に移転しました。その後、1997(平成9)年には中等部・高等部を一体化。2010(平成23)年には新校舎が完成し、中等部は5クラス制の小規模な共学校として、私立学校のなかでも独特の、優しく穏やかな校風で多くのファンに慕われる存在となっています。
その一方では、進学校として大学への合格・進学実績も着々と伸ばし、今春2015年の大学入試では、東京大学2名現役合格、国公立大学医学部3名合格をはじめ、国公立大学への合格者数を29名に伸ばしています。また早稲田大学、慶應義塾大学へは47名が合格、現役進学者数も20名となり、過去最高の実績をあげています。
「独立自営」の精神と豊かな教養を兼ね備え、社会の役に立つ人間を育てること。それが創立者・森村市左衛門のめざした教育です。そこで森村学園では、創立者の理念を大切にした「学力・人格形成・グローバル・環境・絆・自立」という6つのキーワードを日々の教育の柱としています。
日米貿易の先駆者として幕末から明治・大正期の日本経済を支えてきた実業家である創立者・森村市左衛門が願った「真に社会に役立つ人を育てる」理想をめざし、「正直・勤勉・正直」という創立者の言葉を校訓に掲げ、人格形成を第一の目標とした教育を実践しています。
グローバルなコミュニケーション能力の下地をつくる「言語技術」の授業
それでは、森村学園の教育の柱を現わした上の図を構成する6つのキーワードのひとつ「グローバル(グローバル時代を生き抜く基盤)」に注目してみましょう。
現代の教育の大きな課題でもある「グローバル時代をたくましく生き抜く力」を養うためのプログラムとして、森村学園では「スキル習得プログラム(言語技術教育)」と「異文化体験プログラム(さまざまな海外研修)」を用意しています。この両者の関係は、いわば「良質な道具の獲得」と「道具を使いこなすための実習」ともいえるものです。これらのプログラムを通して、「『個』としての自己の自覚」、「世界で通用するコミュニケーションスキルの習得」、「異文化・多文化との積極的な交流」をめざします。
中でも「言語技術」は森村学園がグローバルなコミュニケーション能力の下地をつくるために導入したプログラムです。 たとえば欧米をはじめとする諸外国の母語教育の授業では、「読む」「書く」「聞く」「話す」という4技能をバランスよく伸ばすための「ランゲージアーツ(Language Arts)」といわれる指導が行われています。具体的には「物語の再現・要約・創作」、「意見文・小論文」、「テクストや絵画の分析」、「さまざまな説明のスキル」、「対話の技術」などを体系的に学習します。
「言語技術」とは、この「ランゲージアーツ」に相当するカリキュラムであり、現代の子どもたちが、これからのグローバル社会を生き抜くために不可欠なコミュニケーション力を身につけるために導入されたプログラムなのです。
森村学園では、つくば言語技術教育研究所(三森ゆりか所長)が、日本の小・中・高校生向けに展開した、欧米の「ランゲージアーツ」に相当するプログラムを採用して、授業を展開しています。
現在は高校1年生以下の各学年の授業で「言語技術」が行われています。
中1から中3までは、週1回「言語技術」の授業が行われています。さらに、「高校1年生の場合、正規の授業は(中学3年間で)もう終わっているのですが、続けて学びたいという生徒の声を受けて週に1回、土曜日の放課後に講習という形で授業を開設することにしました。現在、一学年197名のうちの60名の生徒が継続して学んでいます。」(小澤先生)
導入から4年目を迎えた現在の高1は、中1から始めて4年目ということになります。
「たとえば「財布をなくした」と訴えてきた生徒に「言語技術を使って言ってごらん」と言うと、まるでスイッチが入ったかのように、そこで学んだスキルを生かした表現をしてくれます。「私は財布を失くしました。形状はこうです。縦長で、色はこうで、こういう模様があります...、とパラグラフ形式で論理的に話を組み立てることができる、そうしたスイッチを生徒は持ち始めています。これは毎時間この形式で作文を書いている成果であり、書くスピードも格段と早くなりました」(小澤先生)
三森ゆりか先生は、ご自身が海外で学び、体験したことが、独自の「言語技術」プログラムを組み立てるきっかけになったといいます。いまでこそIBプログラムにもある『ランゲージアーツ』という授業が注目されていますが、その当時はまだそこまで注目されていませんでした。
「そこは三森先生の先見の明だと思います。それを私たちが活用させていただいています。もちろん、そのプログラムの中身がすばらしいから取り入れたのですが、創立者の森村市左衛門の言葉を紐解いていくと、『日本人はたくさんの知識を持ちながらも、それをうまく活用できていない』ということを、いまから100年以上前に述べていたのです。、森村市左衛門の言葉を借りると「大常識の欠如」と言っています。そういう創立者の言葉と合致していることを確認したうえで、これからのグローバル時代に求められるプログラムとして、私たちは『言語技術』を導入したわけです」と、小澤先生はその導入の経緯を説明してくれました。
確かな言葉のスキルを育てる
「問答ゲーム」「空間配列」「絵やテクストの分析」「再話」
それでは、「言語技術」とは、いったいどのようなプログラムなのでしょうか。
「本校の学校説明会で使っているパワーポイントでは、企業や自治体、サッカー協会などが職員や選手の研修に導入している例などをまず紹介します。
本校では、中1から中3まで、週1時間の授業で、3年間で約60本の作文を書いています。課題の提示から始まって、その分析、整理を経て授業の最後は全部作文です。基本はパラグラフを身につけること。トピックセンテンスがあってサポーティングセンテンスがあって、コンクルーディングセンテンスがあると...。言語活動における基本の型がこのパラグラフであり、これを自分に操って話すこと、書くことに習熟させます。いわば『成果が可視化できるもの』ですと説明をしています」と小澤先生。
的確に言葉を使うスキルと「可視化できる」成果と
評価基準がある「言語技術」が、生徒の積極性を育てる
従来の一般的な国語の授業とは、どういうところが大きな違いなのでしょうか?
「この『言語技術』と、一般は「読み」に重点が置かれる『国語』の授業の違いとは、成果が目に見えて現れてくるところだと思います。国語の勉強の仕方は、教員でもなかなか伝えにくいところもあるかもしれませんが、『言語技術』や『ランゲージアーツ』には、作文の書き方にせよ、対象の分析の仕方にせよ、メモの取り方にせよ、必ずそこにはスキルがあり、成果を可視化できる段階があり、それを評価もしていけるということだと思います。
一方的な講義形式と違い生徒の発言により授業が深まる対話型のスタイルで授業が展開され、今話題の『アクティブラーニング』そのものと言ってもよいと思います。」と、小澤先生は感じています。
こうした「言語技術」の授業を体験することで、きっと書くことへの抵抗感や苦痛も少なくなくなるように思えます。
「そういう効果は確実にあると思います。文系の生徒だけではなく、むしろ理系の生徒が書く技術を身につけられると、活躍の舞台が広がっていくように思います。あとはこれを英語に載せ変えて世界に発信できるようになると、さらに卒業してからの研究成果や活躍の舞台が変わってくるのかなと期待しています」と小澤先生。
おそらく子どものタイプによっては、こういう言葉の学び方をしたほうが馴染みやすい生徒も多いのではないでしょうか。
「小さな子どもでも、ゲーム仕様にすると、楽しんで『言語技術』的な表現に取り組んでくれたりします。『今晩は何が食べたいの?』というと、『私はカレーが食べたいです。理由は~』ときちんと説明してくれたりします」と、小澤先生ご自身の体験も話してくださいました。
激動の時代に海外貿易に乗り出した創立者・森村市左衛門翁の想いを
受け継ぎ、森村学園はさらなる進化へ!
この先、森村学園では「言語技術」プログラムのさらなる広がりや、他教科のリンクも計画されているのでしょうか。
「本校はちょうど導入から3年を経て、この先、他のいろいろな教科と「言語技術」の有機的なつながりを図っていくかを考えていく段階に入ったと思っています。英語科の教員は、これと似たようなことを、各自の授業内ではいろいろな場面で実践しております。しかし、この「言語技術」と英語の授業をしっかりとリンクさせて、個人レベルではなく英語科として、「言語技術」の下支えのうえに、こうして授業を組み立ているという、そのレベルまで持っていくことが本校の今後の課題です。そうならないと、次のステージに進んだことになりませんので、他教科とのリンクをいま研究しているところです」と小澤先生は、この先の展開を見据えています。
そうなっていくと、世界標準の教育ともいえる「ランゲージアーツ」プログラムの本質に近づいてくるということがいえるのかもしれません。
「そうですね。本校の『言語技術』は、現段階では『ランゲージアーツ』をコンパクトにまとめたものです。本来は授業も2時間続きでないと、早足の授業になってしまうという面はあると思います。これが各教科と有機的に関わりをもつことができれば、それは必然的に『アクティブラーニング』の形に近づいていくのではないかと思います。
実は今年から『21世紀型教育』の研究する委員会を立ち上げています。「言語技術」がひとつの軸であることは間違いありません」と小澤先生。やはり同校でも、「アクティブラーニング」をはじめとした「21世紀型教育」の導入を、すでにしっかりと見据えて検討が進められているようです。
この10数年、進学校として大学合格実績も順調に伸ばしてきていますが、もともと森村学園には、創立のときから受け継がれる、1学年約190名という小規模な、教員と生徒との親密なつながり、家庭的な雰囲気を大切にした、リベラルアーツ的な考え方があったように感じられます。
「学校に流れる空気とか文化だと思いますが、創立時には本当に小さく家庭的な学校で、知識の詰め込み型や一方的通行的な授業ではなかったように思います。
最近のエピソードとしては、今年は東大にも2人の生徒が合格したのですが、その一人は私が高1まで担任をした女子の生徒でした。あるとき『いま中学生は「言語技術」という、こんな授業をしているんだよ』と、授業展開の一つ『再話』の話をしたところ、後になってその生徒が『先生、私それと同じことを毎日の授業と自宅学習でやっていました』と教えてくれました。毎回の授業のキーワードをメモしたノートを見返して、毎日、自宅でそれらの授業を再現していたといいます。できる生徒は教わらなくても、そうした学習の仕方をしているのだなと驚かされると同時に、「再話」というプログラムの効果を再認識できました。
この生徒も、詰め込み型の学習をしてきたタイプではなかったですね」と小澤先生。
やはり、創立者・森村市左衛門翁のめざした「グローバル人材の育成」への想いは、現代まで脈々と受け継がれているようです。
「森村学園では、生徒の夢の実現に向けて、進路指導と進学指導を分けて考えています。その第一歩として、中等部1年生が取り組むのは、『創立者・森村市左衛門の研究』です。そして中等部2年生では『職業調べ学習』。中等部3年生では『日本と海外の文化比較・自由課題研究』に取り組んでいきます。これが進路指導です。
次に、その夢の実現のためには、どういう大学の学部・学科で学べばよいのか。その大学に進むための実力をつけるのが進学指導です。それは毎日の授業が軸であることは間違いありません。
いってみれば、進路指導で夢の方向性を探って、進学指導で、しっかりと学ぶ学問を決めて、そこにたどり着くための実力をつけさせる。そのふたつが両輪となって、私たちは生徒たちの夢の途中経過である大学進学を迎えてもらいたいと考えています」と小澤先生。
そうして生徒の「夢の実現」を熱心な先生方が熱くサポートしてくれる森村学園の現在の進化と、近い将来の飛躍がますます楽しみになってきました。