学校特集
安田学園中学校
昨春2014(平成26)年4月から共学化した安田学園中学・高等学校。創立以来、初めて女子に門戸を開く、その前年2013(平成25)年からは、中高一貫教育の新体制「先進コース」・「総合コース」という新たな教育体制での募集をスタートさせました。そして同年8月には新中学棟も完成。満を持した形で昨春、共学化に踏み切りました。
そして今春2015年入試でも、前年と変わらぬ多くの志願者を集め、共学校としての中高一貫の第2期生133名(男子88名・女子45名)が、この新たな学び舎で、中学校生活の第一歩をスタートさせています。
創立90周年を節目に、次代を担う新たな教育展開を打ち出して、多くの受験生と保護者から注目されている新生・安田学園。「自学創造(自ら考え学び、創造的学力・人間力を身につけ、グローバル社会に貢献する)」をめざす同校の学びの方向性を象徴するのが、導入から3年目を迎えた「先進コース」であり、その教育の軸となる『探究』プログラムです。 今回は、そうした一連の学校改革の経緯と、これまでの『探究』プログラムの具体的な展開、学園のめざす教育の方向性について教頭の稲村隆雄先生、教育企画主任の物部昌太郎先生、広報本部長の金子直久先生の、3名の先生方にお話を伺いました。
2020年の大学入試改革への対応に先駆けて、将来の社会で求められる
「思考力・判断力・応用力」を育てる教育展開へ!
教育企画主任の物部昌太郎先生、教頭の稲村隆雄先生。
この間の学校改革について、「創立90周年を期して、高校の商業科・工業科の募集を停止し、その学年の生徒が卒業した年に、中学を共学化して女子を迎え入れた形になります。つまり計画としては3年くらいかけたことになります」と広報本部長の金子直久先生は言います。学園としては、かなりの大改革ということが言えるでしょう。
「創立90周年に向け、その節目に様々な学校改革に着手しました。その大きな柱が高校からスタートした新コース制の導入であり、その1年後からの一貫部のコース制であり、昨年からの共学化でした。
今春の中学入試、大学入試のシーズン以降、急速に「2020年大学入試改革」の話題が注目され、多くの私学でアクティブラーニングが謳われるようになりましたが、安田学園では、すでにそうした動きに先駆けて、同校版アクティブ・ラーニングといえる「探究」プログラムを「先進コース」に導入~発展させてきたことになります。
「導入した当初は、開智中高の『探究』とどう違うのかとか、開智の『先端』と本校の『先進』のコース名の違いについても、質問が寄せられたこともありました」と、導入当初を振り返る金子先生。
「それ以前に本校では、創立90周年を迎えるにあたり、将来に向けた安田学園の教育のあり方を考える"バリューフィールド"というプロジェクトを13年前に立ち上げました。そこで打ち出された方向性が、現在も『総合コース』で実践されている『ライフスキル』というプログラムに反映されています。この『ライフスキル』では、『グループコミュニケーション力をつけ、グローバル社会で必要な問題発見能力・問題解決能力、積極表現能力という3つの能力を身につける』ことをめざしていましたので、その意味では、これが現在の『先進コース』の『探究』プログラムのベースになっています。本校の『先進コース』の『探究』授業では、これをさらにアクティブ化したプログラムの構築を図ってきました」と教頭の稲村隆雄先生。
グローバルな探究心を育て、本質的な学びを追求しつつ、東大をはじめとした最難関国公立大学への合格もめざす、この「先進コース」では、学びの本質を学び、知の創造をめざす「探究」プログラムを中心に、根拠をもって論理的に考える探究力を育成し、そこから生まれた疑問や仮説を高次に発展・進化させる創造的な学びを体験していきます。
ちょうど現在の中学1年生が直面する2020年からの大学入試改革。そこで求められる「思考力・判断力・応用力」を育てることはもちろん、その先の学問・研究や社会で求められる力を見通して、多くの学校に先駆け、世界標準の「21世紀型教育」に向けて大きく舵を切った安田学園。その学びのスタイルとこの先の成果に、多くの中学受験生と保護者の期待が集まったことが、2年続きで入試を難化させた理由といえるでしょう。
校長の蓮沼清先生は、同校Webサイトのご挨拶のなかで、「本学園の『自学創造』教育は、『生徒が主体となる授業』、『生徒が理由を添えて発言する授業』、『生徒の論理的探究力、問題発見・解決力、表現力を養う授業』によって、自ら考え学ぶ力を醸成していきます。また、予習・授業・復習サイクルの習慣化によって、授業と家庭学習を一体化し、自立した学習法、『わかる』を『できる』まで伸ばす学習法を確立させていきます。さらに、独自の人間力教育を通して克己心を養い、思いやり、倫理感、道徳観を兼ね備えた人間力を育てます。」と述べています。
総合コースの「ライフスキル」授業をさらに発展・進化させた
先進コースの「探究」プログラム
それでは、同校の「先進コース」の教育展開の軸となる「探究」プログラムとはどのようなものなのでしょうか。
「導入にあたっては開智中高の「探究」授業の見学もさせていただきましたが、それを真似するわけではなく、あくまで本校オリジナルの『探究』プログラムを作り上げるために、その組み立てを一から考えました。1年生(中1)から3年生(中3)までは、週1単位、授業のなかに組み込み、そのなかで、問題発見能力やプレゼンテーション能力を高めていくことに取り組んでいます」と、教育企画主任の物部昌太郎先生。
「探究」は週1時間、独立した単位として授業が行われ、夏休みにはテーマと関連した宿泊(中1~中2では2泊3日)プログラムを伴います。
この「探究」授業では、個人やグループで気づいた疑問を、「疑問・課題→仮説の設定→検証(調査・観察・実験)→新しい仮説や疑問→...」といった方法により、根拠をもって論理的に探究することを学びます。
この探究を議論や発表を経て行うことが、自ら考え学ぶ活動そのものであり、コミュニケーション力の育成や、多角的に物事を考える姿勢を育てるきっかけにもなります。答えが明確に定まらない疑問に対しても意欲的に考え、疑問・仮説を高次に発展・深化させる創造的な学びを体験することにより、学びの本質を身につけていくことができるといいます。 この「探究」プログラムの中学への導入は、まだ3年目を迎えたところですが、そのテーマについて、物部先生が順に説明してくれました。
疑問を発見し、探究することを学ぶ
「1年生では、自然をテーマとして探究を行います。これが将来の理系進学への関心につながることもあると考え、なるべく「動くもの」を対象にしています。 入学前から入学直後に使うオリジナルのテキストの「導入編」では、まず「探究の流れ」や「図書館の使い方」や「まとめ方」を学びます。その大きな流れを理解したうえで、今度は上野動物園に行って、実際に観察し、疑問を発見することに入っていきます。ふつう動物園に行くと、子どもたちはカンガルーや象の全体しか見ないことが多いので、それなら「足の形はどうか」とか、そういった視点をまず教えて、そこからどういうふうに疑問を見つければよいのかということを1年間かけて考えさせていきます。
上野動物園には年に数回行きますが、それ以外では、理科の授業とタイアップして、たとえば今年は、ちり緬雑魚のなかに様々な小さい生き物がいるのを観察したり分類したりさせていきます。 さらに夏休みには2泊3日で磯に行って、磯の生物について探究します。生徒ははじめ、見たこともない生物がいっぱいなので、興味本位で、そのなかから「カニ」や「ヤドカリ」に焦点をあてて、それについてどう考えるのか、仮説を立てさせて、それをどうやれば検証できるのかを考えさせ、実際にそこで実験をしてみます。
一連の流れから「思考力を高める」
東京海洋大学の館山研修所に宿泊し、実験棟・実験室を使わせていただき、さらに同大学の准教授の方に付き添っていただき指導を受けたり、大学院生に(4名のグループに1人の)TA(ティーチングアシスタント)になってもらい、自分たちで疑問を発見し、検証して、最後にはそれを発表するという形で、その准教授やTAに向けて発表するという形で探究活動に関わってもらうことができました。中学1年生ならではの突飛な発想が出てきたりもするのですが、そこをうまく大学院生に誘導してもらい、最後は発表にこぎつけます。しかし、そこでもさらに准教授から質問を受けたりしながら、質疑応答を通して、生徒は自分の頭で考えないといけません。そのような形で「思考力を高める」ことを前面に出してやっています。
そして学校に戻ってからは、その発表をポスター形式にまとめ直し、本校の安田祭(文化祭)でポスター発表します。そうした一連の「疑問→課題設定→自分の仮説を考え→どうやれば検証できるか→その流れをまとめる」という流れを、とにかく何度も繰り返します。」(物部先生)
続いて中2では『森林を通し、自然と人間との関わりについて考える』をテーマに、植物の観察や環境を考えることを含めて、グループ探究をさらに深めていきます。
「2年生では、ヒノキの切り株を各グループに渡して、年輪を測ったり、それをグラフして傾向を読み取るとか、...。そのほかには、国立科学博物館の付属の自然教育園という目黒にある施設に一日出かけ、そこの研究員の方から、自然教育園の成り立ちとか、過去の環境の変化のお話を聞いたり、植物の観察などを行います。夏休みは奥多摩に行き、都民の森で、間伐体験や、水生昆虫の採取をしたり、水源林を探して山を歩いたり、山や森林の保全はどうすればよいのかを考えたり、というプログラムを行っています」(物部先生)
そして中3では文系的な『人間・社会について考える』をテーマに、新聞記事の批判的読解によって、情報を正しく受け取る力を育成し、個人探究の手法を学んでいきます。
「1年生、2年生はどちらかというと理科系のプログラムが中心なのですが、3年生になるともう少し高度にしていきます。いま『先進コース』の1期生がやっているのは文系探究に近いもので、最終的には『論文を書く力』を育成したいので、『論文とはどういう文章なのか』ということを学んでいます。また『先進コース』は8月に全員がカナダに語学研修のホームステイに行くため、その事前学習も兼ねて、カナダの大使館を訪問して、そこで質疑応答をさせていただいたりしています」(物部先生)
高校1年生から先はまだ予定ですが、高校になると「探究」授業は週2時間となり、4年生(高1)では、課題を設定したゼミ形式での理科ゼミや社会科学ゼミでの探究に取り組みます。5年生(高2)では、やはり週2時間の授業を中心に「英語でプレゼン」に取り組みます。夏休みには英国ハートフォードカレッジ大学のドミトリー(学生寮)での宿泊研修も予定しているといいます。
「まだ1期生が3年生のため、4年生(高1)から先は今後の予定ですが、そこからはこれまでの3年間で取り組んできた内容も踏まえて、各個人で疑問・課題設定をさせて、検証まで1年間を通して取り組むという「ゼミ形式」で1年間やってみる予定でいます。
いま計画しているのは、理科の生物のゼミとか、社会科学ゼミとか、国語ゼミとか、いくつかそうしたゼミを作って、生徒の希望に合わせたゼミに振り分ける形でやっていこうかと考えています。
将来、グローバル社会で活躍できる力を育てたいので、5年生では、4年生でやった内容を、「英語でプレゼンテーション」ができるように、準備をしていきます。いまの予定では英国のハートフォードカレッジ大学の学生寮(ドミトリー)に宿泊して、現地の大学の学生と教授と一緒に、シェイクスピアを考える一日とか、大英博物館を回る一日とかという機会を設け、4年次に自分が探究した内容を英語でプレゼンするとか、その後に質疑応答するといったプログラムを、いま現地の大学と相談してプランを組み立てているところです」と物部先生。
教師がなるべく答えを教えず、生徒自身の発想を引き出す「探究」授業
「これが、本校の5年間で行う『探究』活動です。今後、2020年には大学入試の改革があり、そういう『探究型』の学びで培われる力を求められることが多くなることは間違いありません。
その『探究』のなかで私たち教員が心がけていることは、なるべく答えを言わないことです。子どもたちが言った意見に対して『それは違うよ』とか『間違いだよ』とは一切言わずに、自分で確認させる、自分たちで発想させる、グループで探究させているなかで、なるべく話し合いをさせる、ということを心がけています。
なかなかそうした力は簡単には身につかないので、それを繰り返していくことで、発言力もあり、人に意見も伝えられ、自分で問題を発見でき、その問題を解決できる、そういう力を育てていきたいと考えています。」と物部先生は言います。
論文の書き方から入っていくという、中3での『個人探究』も、かなり本格的なもののようです。
「たとえば、いま中学『先進コース』の1期生にあたる3年生では、論文の作成用にも、こういうオリジナルのテキストを用意しています。いまは問いは自分たちで作れても、まだ結論まで行き着かなかったり、どう検証すればいいのか迷うこともあります。表記の仕方でも、データの表示方法とか、そういうことを一ひとつ教えているところです。つまり論文の書き方ですね。『論文とはこういう文章ですよ』ということから始まって、これは論文として認められるかとか、こういう表現の仕方はどうかとか、一つひとつ時間をかけてやっていかないと、いきなり子どもたちに書かせると、作文になってしまいます。
それをなるべくしっかりした論文にまとめさせるつもりでやっています。最終的には、グラフや表も、こういうふうに表記するという、ある程度の型は作ってしまい、それに当てはめる形で論文が書けるように指導しているところです」(物部先生)
続いて5年生(高2)から取り組む「英語の論文」についても、同じような流れで指導が行われるのでしょうか。
「英語の場合は、日本語の論文とは書き方がちょっと違ってきます。そこでは論文にまとめるというよりも、自分が取り組んだ内容を英語で伝えられるようにしたいので、自分が書いた論文を英語にするというよりも、日本語で書いた論文の内容を、いかに外国の方にわかりやすく伝えられるかということを主眼に置いています。日本語の論文を英語にする場合には、書く順番も少し違ってきたりしますので、まずは伝えられるかどうかを重要視しています」
中学の3年間は週1時間の「探究」授業が、高校になると、これが週2時間の授業に増えるというのもダイナミックな展開です。
「1~2年生は週1時間の毎回の授業に加えて、夏休みの2泊3日の宿泊研修が加わります。3年生では宿泊研修はありませんが、先ほどのカナダの大使館で日帰りでの野外探究をするということがあります。そして4年生(高1)、5年生(高2)になると、これが週2時間の授業になります」(物部先生)
この流れは「先進コース」のもので、「総合コース」は、先ほど説明のあった「ライフスキル」の時間を使って、同様の力を育てていくといいます。ただ内容的には「先進コース」とは少し違ったものになります。
今春2015年の中学入試では「先進コース」の難易度が非常に高くなりましたが、ここまで人気や入試レベルがこれほど高まってくると、「総合コース」でも、同じ「探究」授業をしてほしいという希望も出てくるかもしれません。
「まず、本校の教育を広く知っていただき、目を向けてもらうために、コース制の導入で特徴を打ち出したことになります。そういう高いレベルをめざすコース制と「探究」授業を導入したことで、受験生と保護者から期待を寄せていただけたように思います。それに共学化が加わり、さらに人気が高まったということでしょうか」(金子先生)
もしかするとこの先、中学入試で「先進コース」には合格できなくて、「総合コース」に合格して入学した受験生や保護者から、「もっと『探究』的な授業を受けたい」という要望も出てきそうです。そのあたりはどう考えられているのでしょうか。
「そこを、あまり差をつけないために「総合コース」では『ライフスキル』授業を行っています。最初にお伝えした、『グループコミュニケーション力をつけ、グローバル社会で必要な問題発見能力、問題解決能力、積極表現能力を育てる』という狙いは「先進コース」にも共通するものです」(金子先生)
「この『ライフスキル』プログラムのなかでは、夏休みの行事、林間学校に行くだけではなく、事前に調べることから入り、最終日にはホテルで発表会を行っています。インストラクターの方に自然について聞いたことや、各自が写真に撮ったりしたことを、模造紙にまとめて発表しています」(稲村先生)
先ほど物部先生が「探究」授業について話してくれた「なるべく答えを教えない」という教員の姿勢や、学び合うスタイルは「ライフスキル」のプログラムのなかでも共通だといいます。それをさらにダイナミックな形にして、要求値も高まるのが「探究」プログラムということなのでしょう。
ホテルでの発表会の様子
「磯の探究などでも、明らかに難しいかなという意見を子どもたちが言ってくることがありますが、それを否定するのではなく、方向性を少し変えてあげて、別の形でわかるように仕向けていくということでしょうか。とくに磯の探究では、夜に准教授や大学院生の方と打ち合わせをして、グループごとに翌日の流れの誘導を考えたりします。ただ、なかには、准教授の方も驚くような面白い発想をしてくる生徒もいます。たとえばヤドカリが殻を選ぶときに、どういう基準で貝を選んでいるのかという疑問に対して、「色で選ぶのではないか?」という仮説を立て、東京海洋大学の実験室にあった小さな透明のビンに違った色をつけて、ヤドカリがどう選ぶのかデータを取る実験をした生徒もいました。そうした実験も、用意できる限りは、その場で実験をさせてあげるようにしています。そこで生徒の思った結果が出なければ、またそこで、なぜそうした結果になったのか、自分の仮説が違っていたのか、それとも検証方法が悪かったのかを考えさせます。そこでまた新たな疑問や仮説が生まれ、次の考えにつながっていくことを期待しています」(物部先生)
そうした「探究」プログラムを、中高の先生方だけではなく、大学の先生や大学院生にも協力していただく体制を整えるのは、きっと大変なことと思われます。
「東京海洋大学をお借りできることになる前には、あれこれ場所や協力してもらえる機関を探しました。東京海洋大学でも、それまでは「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)」以外には、施設を貸した実績がないということでしたが、趣旨を丁寧に説明してご協力を仰いだところ、素晴らしい施設を使わせていただけることになりました。実験室の水道をひねると海水が出てきて、海水をかけ流しにした状態で、海中と同じ水質の状態で観察ができるという恵まれた体験もできました。また、ふだんはその研究施設に泊り込みで研究している大学院生の方々に、空き時間には研究施設を案内していただいたり、大学院生の研究内容を見せていただけたりしたことが、進路指導の一環という意味も含めて、とても良い刺激になったと思います」(物部先生)
「そうした形で、今回の「総合コース」3年生の「ライフスキル」でも、京都・奈良に行って、近畿大学や京都大学にお邪魔して、大学の施設やユニークな研究を見せていただけたグループもありました」(金子先生)
実際の研究や活動の第一線で関わっている方々と触れ合うことで得られる良い刺激が、生徒の探究のモチベーションにもつながっていることは間違いないでしょう。
「ライフスキルの導入の当初は、教員が自分たちだけでやろうとする意識が強かったのですが、むしろ生徒が興味を持つには、そうした外部の施設や学外の方々の力をお借りするほうが効果的だという考えに行き着きました」(金子先生)
たとえば東京海洋大学の大学院生ということは、教職をめざす教育学部の学生ではなく、皆さん海洋関係の研究者をめざす方々ということでしょう。
「昨年お世話になった方々は、水族館に就職したとか...(笑)。サバにマグロの稚魚を生ませるにはそうすればよいかを研究しているとか...、そういう方々ですね」(物部先生)
「4年生(高1)の「ライフスキル」で取り組む、「未来創造(企業からのミッションへの取り組み)」というプログラムも興味深いのですが、これはどのようなものでしょうか。
「『クエストエデュケーション』といって、現在6社くらいが、それぞれミッションを掲げて、「売れるためにはどうすればよいか?」を全国の高校生に問いかけて、それに対して、参加する高校生がグループで考えて、企業にプレゼンして提案するというプログラムがあります。それに今年初めて、2月の全国大会に出場しました」(稲村先生)
「先進コース」のプログラムのインパクトが強いので、「総合コース」のプログラムの特徴や魅力も知りたいところですが...。共通するのは、学びのベースに必ずフィールドワークがあるということのようです。
「ただ宿泊行事というだけではなく、すべてのテーマで、それについて詳しい方々からお話を聞いたり、実際に現場を見せていただいたりして、疑問に思ったことを直接聞ける機会を設けているところが、本校の『ライフスキル』プログラムの特徴だと思います。そのために、事前にそのテーマや地域のことを調べたりして準備をして臨んでいます」(金子先生)
「3年生の『地域研究』でも、大学や歴史の建造物とか、いろいろな分野にわたって、生徒が興味を持ったことを調べていくという形です」(稲村先生)
「それとは別にキャリア教育というものもあり、本校のWebサイトに動画を掲載しているような地元の企業のPRビデオを作ろうというところから始まりました。ある企業で社長さんにインタビューをするとか、それをまとめる生徒や、編集する生徒など、各自が役割をもって進めていきます。ただし、撮影するのも、プロの方に撮り方を教えてもらったり、編集するときにもプロのOBの指導を受けたりして、かなり本格的な作品を作ります。つまり、その道の優れたスキルを持った人のアドバイスを受けるわけですから、それだけに生徒も真剣に取り組んでいますね。そういう人たちと接する機会を多くすることで、社会に出た人とのつながりをつくることで、良い刺激をいただく。それは「探究」でも「ライフスキル」でもキャリア教育でも共通の考え方ですね」(金子先生)
フィールドワークにあたっても、
必ず「疑問→仮説→検証」の流れを意識する
これまで伺ってきたお話からもわかるように、安田学園では、『探究』や『ライフスキル』プログラムに生徒が取り組む背景に、非常に豊富なリソースを用意されています。そうした構成を作っていくのは、決して容易なことではないでしょう。
「やはり年間を通して考えるので、何か新しい仕掛けやフィールドワークの機会を入れることで、それが断片的に体験するだけではなく、その前後の準備やアウトプットも含めて、全体のつながりを考え、整合性を取る必要があることが難しいところではあります。ただ単に2泊3日の宿泊研修に行くだけではなく、必ずその背後には「疑問→仮説→検証」という、本校の「探究」の流れが生まれないといけないというところです。また、協力してくださる大学や関係者の方々に、本校の教育プログラムの趣旨を理解していただくのが大変でもあります。また、生徒の発想が私たちの想定を超えることもあり、当初のプランから見直しの必要が出てくることもあります。ですので、1期生と3期生が取り組んでいることはまったく同じではありません。マイナーチェンジを重ねながら進化させていっているといってよいと思います。そこが、ふつうの教科と違って教科書があるわけではなく、ゼロから組み立てているのが大変なところです。しかし逆に私たちが意図したことが思い切りできて、生徒に体験させたり、身につけさせたいことを全面に出せる授業になっています」(物部先生)
「本校では、そうした新しいことを始めたときに、たとえば今回の『探究』ならば物部先生が中心になるとか、中心になる担当教員を決めて、構想を考えていけたところが大きいのではないかと思います」(金子先生)
「そうした各教育プロジェクトの方向性を他の教員が理解し、共有するためのミーティングは多くなりましたね。キャリア教育やライフスキルも同様です。そうした中心になる先生が進めていきたいことを、他の教員が皆で確認し、共有できたことが大きいと思います」(稲村先生)
「教育企画開発本部という部署を作ったことも大きかったと思います。そこで全体を見渡して、いろいろなことができるようになりました。そこに『探究』もあり『キャリア』も『シラバス』もあったことで、共通の理解が教員の間で取ることができたように思います。そこが中心になって、学園の大テーマである『自学創造』の方向にまとまって進んでいけたのではないかと思います」(金子先生)
目の前の高校生に大学受験をクリアさせるよう面倒を見ながら、一方では新たなスタイルの教育をブレずに導入できたところが、この安田学園の一連の改革が注目される焦点ともいえるでしょう。
「まだ決してすべての課題や問題をクリアできているわけではありません...。大学受験がメインであれば、主要5教科をしっかりやれば良いという話になるかもしれませんが、やはり必要なのはそれだけじゃないよねと...。これからの社会に出て通用する人間を育てていくためには、教科の知識だけではなく、目に見えない、複合的な活動が必要だと考えられたということだと思います」(金子先生)
いずれにしても、日本の教育の大きな変化の節目に、先生方が一体となって新たな教育のあり方を模索し、それを組み立てていけたということと、それに注目し期待する保護者が増えているということが、いま安田学園が注目されている理由でしょう。
「中学における現在のコース制はまだ3年目ですので、その1期生にあたる現在の3年生がどこまで成長するのか、さらには共学になってからの女子がどこまで成長するのか、楽しみであり、また、成果が問われるところだと思います」(金子先生)
これまで中学で3年間『探究』に取り組んできたことへの手ごたえも、決して小さくはないようです。
「始めは積極的に自分の意見を言えなかったりしましたが、慣れてくると、活発に意見を言ったり、ユニークな意見が出てくる雰囲気が出てきました」(物部先生)
「やがて伝統になってくると思います。クラブのなかで『先輩は探究でどういうことをやりましたか?』とか、そういう流れができてくると、また一段と効果や積極性も高まり、レベルアップしてくると思います。まだ3年目ですからね」(金子先生)
「その意味では、この4年間くらいが、いちばん大変な時期かもしれません。新しいプログラムを作って実施しながら、その先のプログラムを組み立てているわけですから...」(稲村先生)
昨年の中学入試でも人気とレベルアップが注目されましたが、今春の入試のレベルアップはまた一段と目立ちました。
「本校の場合は、学校名を変えるわけにはいきませんでしたから、新しいコース制や『探究』プログラムの中身を理解していただくためにどうするかという工夫は心がけました。『先進コース』のガイドブックの『東大を目指す』というキャッチフレーズに疑問を持つ塾の方もいらしたようです(笑)」(金子先生)
しかし、実は以前から安田学園では、早朝の小テストや補習など、私立中高一貫校のなかでも指折りではないかと思われる面倒見の良さで、中高一貫生が東工大や一橋大に現役で受かっている実績もありました。
「そうですね。そういう意味では教員が非常に手をかけていたと思います。その姿勢はいまも変わってはいません。ただ、教員が面倒見を良くすることで、生徒が受身になってしまわないように、スタンスを「自学できる」生徒を育てる方向にシフトしたといえるでしょう」(金子先生)
明治・大正という激変する時代の日本で、金融・生損保・不動産を中心に、一大で安田財閥を築き上げた安田善次郎。その安田善次郎翁が創立した安田学園は、一昨年に創立90周年を迎えました。 やがて創立100周年を迎えようとするその節目に、2020年の大学入試改革はもとより、今後の社会で求められる力を早くから見通して、次代を担う子どもたちを育てる新たな教育のスタイルを導入し、様々な学校改革を進めてきた安田学園。 その先見性と果断な実行力、先生方の熱意に、魅力を感じる中学受験生と保護者はますます増えてきそうです。