学校特集
和洋九段女子中学校高等学校
昨年8月に待望の新校舎が完成した和洋九段女子中学・高等学校。先端のICT環境を導入した「フューチャールーム」や、おしゃれなカフェテリア、「スタディステーション」の増設など、学ぶ環境はもちろんのこと、学校生活が楽しくなる環境が一層整いました。
同校の教育改革はこれからが本番です。どんな場所でも輝ける「必要とされる人材」の育成を目指して、「個の力」を鍛えようと新たなプログラムを構想しているところです。創立118年の伝統と歴史を築いてきた和洋九段は、校訓「先を見て齊える(将来を見つめていまできることに一生懸命に取り組む)」をどのように実践しようとしているのでしょうか。同校が見つめる未来について、中学校教頭の中込真先生にお話を伺いました。
英語の授業が中1は週7時間、中2・中3は週8時間に
「英会話サロン」の利用者増加は生徒の英語欲の現れ
「英語ができる」ではなく「英語を使って何ができるか」を考え、英語力の強化に力を入れてきた和洋九段。ネイティブスピーカーによる少人数制の英会話の授業や、日本語禁止の「英会話サロン」、オーストラリア・シドニーの姉妹校での海外研修&ホームステイなど、同校には英語力を磨くさまざまな機会があります。
重点項目の1つ、「国際化教育の推進」を図るべく、今年度から英語の授業が大幅に増えました。中学は各学年週5時間から、中1が1時間、中2・3は週2時間増えたことで、週1時間の英会話を加えると、中1が週7時間、中2・中3は週8時間にもなります。授業時間の増加に伴い、教科書は文法を体系的にとらえつつも実践的なコミュニケーション能力を養えるテキスト『Birdland』 を採用し、量だけでなく質のレベルアップも図ります。
授業数が増えた結果、「教員が、生徒一人ひとりに対応しやすくなっています」と答えるのは、中学校教頭の中込真先生です。生徒と接する時間が増えたことで、この条件ではどうだろう、別の条件ならば・・・というように、いろいろなトライができるようになり、生徒の特性がよく見えるようになりました。
英語を学ぶ環境を理由に入学する生徒がいるなど、元来、英語学習に前向きな生徒が多い同校ですが、授業数の増加は生徒の英語欲をかき立てているようです。授業で習った表現を早速使ってみようと、放課後、英会話サロンに通う生徒が増えているとか。授業数の増加だけでなく、学校の中に実践できる場があることが、英語を学ぶ好循環を生んでいます。
また、関西学院大学との交流も始まりました。交流のメリットについて、中込先生は次のように説明します。「関学を通じて、2020年の大学入試改革に向けた情報収集や意見交換はもちろんのこと、『スーパーグローバル大学』である関学が実施するグローバル教育の情報をいち早く得られるのは大変貴重です。これを本校のグローバル教育のプログラムづくりに活かしたいと考えています」
新校舎の「フューチャールーム」は
高機能AVルームと双方向性を備えた"実験室"
昨年8月に完成した新校舎の施設の中でも、地方の学校からも見学に来るほど注目を集めているのが、先端のICT環境を整えた「フューチャールーム」です。中込先生によれば、フューチャールームには2つの側面があるのだそうです。1つは、「高機能AVルーム」としての活用です。正面と横に設置した6面の大型スクリーンに、それぞれ異なる内容のコンテンツを表示したり、すべてのスクリーンをつなげて年表のような連続した内容を映したりすることもできます。
もう1つは、タブレットPCを使用した「双方向授業」です。タブレットPCは生徒が1人1台使用できるように45台備えており、生徒の意見を集めるなど生徒のリアクションを確認しながら参加型の授業を行うことができます。例えば日本史の授業では、様々なスーパーやコンビニのレシートを渡し、班ごとにどんな人物がこれを使ったか、推論を発表させ、討議します。この結果から「考古学ってなんだろう」という歴史を考える際の基本を学んでいます。
フューチャールームは将来の授業の形を探る"実験室"として、教員も生徒も、楽しんで利用しているようです。「これからの授業の形として、みんなの意見を1つに収束させるだけでなく、『今日のこのクラスの結論は○○だね』というように、いろいろな意見が出たことを各自が受け取るスタイルがあってもよいのではないかと思います。例えば、正解を出すことよりも考えるプロセスに着目するなどユニークな授業ができないか、フューチャールームを使って授業の可能性を追求していきたい」と、中込先生は展望しています。
将来は1人に1台、タブレットPCを配布する計画です。授業で使用する場合はタブレットPCとペーパーとの併用などより良い使い方が検討されていますが、連絡事項の伝達や毎日の記録などはタブレットPCに一本化します。"行きすぎた個人管理"にならないように、速やかに問題解決するための手段として役立てる方針です。「タブレットPCの導入で、担任教員と生徒のやり取りが今まで以上に緊密になります。生徒の様子がリアルタイムで把握できるようになるので、問題点が発見しやすくなったり、問題を予測して対策を早めに打てるようになるのではないかと期待しています」(中込先生)
タブレットPCの活用は、中1から高3までの6年間の成績をデータ収集することも視野に入れています。蓄積したデータから、生徒の長所を見つけたり、ある程度の将来予測やターニングポイントをつかむことができれば、効果的な指導に役立てることができるでしょう。オリジナルの"ビックデータ"として、いろいろなことに活用できそうです。クラブ活動におもいっきり打ち込めるのも中高一貫校の魅力♪
ダンス部
空手道部
カフェテリアは生徒とお母さんから大好評!
自習室は席数倍増で個別指導がさらに手厚く
豊富。生徒たちの健康をサポートします。
生徒に大好評なのが、新校舎のカフェテリアです。オープンしてみると、おしゃれなメニューよりもボリュームのあるメニューが人気なのは、育ち盛りな証拠でしょう。その点は、家庭科の教員が栄養バランスのよい成長期のためのランチを吟味してくれているので安心です。麺類は何でもできるとあって、夏は冷やし中華だけでなくそうめんも並ぶなど多彩で、季節感のあるメニューを生徒は楽しみにしています。また、管理栄養士を目指して食物の授業を選択している高3が、「スペシャルランチ」として自作メニューを提案することもあります。共働き家庭が増えたことから設置を決めたカフェテリアは、お母さん方からも「大変助かっています」と支持されており、既になくてはならない存在になっています。
新校舎にもパーテーションで仕切られた個別の自習ブース「スタディステーション」ができたことで、席数はこれまでの約2倍の213席に増えました。定期考査前は利用したくてもできないことがありましたが、それもほぼ解消されました。
スタディステーションに隣接する学習カウンセリングルームに待機する教員の数も、席数の増加に伴い増やしました。英・数・国をそれぞれ1名以上含む10名の教員が、生徒の質問に対応します。教員総出で生徒を支えているのは、「その日の疑問はその日のうちに解決して帰ってもらいたい」という教員の強い思いからです。以前は、授業が終わってから質問に来る生徒が多く、全員に対応しきれないことがありました。スタディステーションは夜8時まで利用可能ですから、ほとんどがその日の疑問をその日のうちに解決できるようになりました。このように、生徒にとことんつき合う"学内家庭教師"のような手厚さは、同校の特長の1つと言えます。
高い教員専任率を活かして
1人の生徒を複数教員で見守る新システムも導入
(写真は千代田区アダプトシステムでの草花の植付け)
「学校の教育は授業など集団教育が中心になりますが、これからは『個の力』の教育にも力を入れて、生徒一人ひとりのレベルアップを図ります」と語る中込先生。学習カウンセリングルームの個別指導やICT教育、個別データの蓄積は、個の教育の充実につながる取り組みです。
「個の教育」の充実に当たり、来年度から導入を検討しているのが、1人の生徒を複数の教員で担当するコンシェルジュ的なシステムです。担任1人だけでなく、複数の教員が生徒にかかわってコミュニケーションの質と量を充実させます。いろいろな角度から生徒を見てあげることで長所を発見し、生徒が誰かに話せる体制をつくることで生徒の悩みにいち早く気づけるようにします。7人の生徒に対して1人の専任教員という専任率の高さを活かした取り組みと言えます。
近い将来は、英語力を駆使した「語学力向上プログラム」の導入も計画しています。英語の授業だけでなく、ほかの教科の授業でも英語を使って日常的に英語を使う機会をもっと増やそうという試みです。「いきなり英語だけというのはハードルが高いので、例えば、同じ授業内容を、一方は日本語で、もう一方は英語で行うなど、日本語と英語のハイブリッドで行うことを考えています。ただし闇雲に何でも英語で授業を行うのではなく、英語で行うことにどんな意味があるのか、目的を明確にして取り組みたいと考えています」(中込先生)
また、2014年度の進学実績について、中込先生は次のように分析します。「2014年度の卒業生は、将来の職業をはっきり見据えて進学先を選択した生徒が多く、生徒個人の満足度は高かったのではないかと思います。今後の進路指導は、偏差値で単純に受験する大学を選ぶのではなく、将来どうしたいのかという生徒の希望をどれだけ叶えられるかということがより重要になっていくでしょう。大学卒業後のことまで見据えた進路指導ができるように、これまで以上に個々の生徒と密に話し合う必要があると思います」
教育改革のキーワードは「ハイブリッド」と「バランス」
個の力を養う「オーダーメイドな教育」を目指す
先生との個人面談や自習にも使用。
和洋九段の教育改革はこれからが本番です。同校が目指すのは、どんな場所でも自分の役割を見つけて輝ける「必要とされる人材」の育成です。その土台づくりとして中込先生は次の3つを挙げます。
「第一は、『自己の確立』です。自分の価値や存在意義を知ることで揺るぎない自分を獲得します。それは、豊かな心を持ち合わせることにもつながるでしょう。第二は、社会に主体的に参加できるように、ICTや英語を駆使して『十分なコミュニケーション能力』を備えることです。そして第三は、変化が激しい社会の中で、突然、予想外の状況に置かれても生き抜ける『柔軟な対応力』を身につけることです。自分が置かれた環境をより良いものに変えていこうとする変革の精神を持った、積極性のある人材を育てたいと考えています」
改革の基本方針として、中込先生は「ハイブリッド型」のプログラムを挙げます。例えば、集団の活動と個人の活動をどのようにバランスを取り、適切なタイミングで実施するかということです。「本校は、これまではどちらかというと学校行事やクラブ活動など集団の楽しさに個人が流されがちな部分がありました。本校がもう一段階レベルアップするためには、個人の実力を上げる必要があると考えました。個人のレベルアップが全体を引き上げ、それがまた個人のレベルアップにつながるように、個人と集団のバランスを取りながら相乗効果で成長できるようにしたいですね」と、中込先生は言います。
「バランス感覚」は同校が目指す教育改革の勘所となりそうです。「本校の生徒は、全員が世界のフィールドで活躍しようという生徒ばかりではありません。本校の生徒にとってグローバル教育はどこまで必要か、バランスの見極めが肝心です。Aさんはここまで、Bさんはもう少し上というように、各自に合ったオーダーメイド的な教育を目指す考えです」(中込先生)
その際、実施するプログラムは何のために行っているのか、目的や位置づけをもう少し明確にします。生徒にとっても自分の目標がはっきりしてくるでしょう。「みんながやっているから」と何となく取り組むのではなく、自分は何ができるか、どんなことで集団に貢献できるか、個人の目標に落とし込むことで主体的な活動につながります。
学校行事は単発で見ればうまくいっているものの、他の行事との関連性やバランスの点で改善の余地があり、行事もゼロベースで見直しているそうです。どんな創意工夫のプログラムを用意するのか、和洋九段の学校改革に注目です。