学校特集
大妻中野中学校・高等学校2015
掲載日:2015年6月1日(月)
継承する伝統を守りながらも、時代に則した教育で、考える力、解決する力、動き続ける行動力を備え、みんなが"幸福"を感じられる社会を作る人材を育成している大妻中野中学校・高等学校。
世界各地から集う帰国生の教育には定評のある同校が、2016年度入試から国内生向けの英語入試を実施することになりました。そのコース名は「グローバルリーダーズクラス」!
建学の精神である「学芸を修めて人類のために」を背景に、早くからグローバル人材の育成に力を注いできた大妻中野が新たに取り組む"学び"について、校長の宮澤雅子先生と国際担当で教務部主幹の水澤孝順先生にお話を伺いました。
時代を先取りする教育として始まった
帰国生入試と国際教育への取り組み
「時代は大きく変化しています。人はこれまでの概念に留まっていることはできません。本校では、時代が求める教育を推し進めていきます」と語るのは校長の宮澤雅子先生です。大妻中野は2008年の完全中高一貫校化や2013年の新校舎完成など、常に時代を見据えながら、教育を進化させてきました。
今年度2015年には、これまでの教育活動が評価され、SGH(スーパーグローバルハイスクール/Super Global High School)アソシエイト校に認定。同校では2002年より帰国生入試を実施しており、現在、全校生徒のおよそ1割である136名(中学/69名・高校/67名)が欧米をはじめ、32の国や地域からの帰国生です。
その帰国生教育の実績とノウハウを活かし、満を持して2016年度より導入されるのが「グローバル入試」(英語・国語・算数)です。それに伴い、自己を振りかえりながらじっくりと学び、併設大学を含む志望校へ進学する「コアコース」と、自らに高いハードルを課し、高い学力を身に付け難関大学を目指す「アドバンストコース」というこれまでの2コースに加え、新たに開設されるのが自分の可能性を世界に広げる「グローバルリーダーズコース(以下GLC)」です。
「教職員が一丸となって、GLCを推進する原動力となったのが、このたびのSGHへの申請でした。育成したい生徒像と教育内容を改めて見直し、その価値観を学校全体で共有する。本校のもつ今までの教育財産を再度整理して、生徒を育てるために必要な新たな力を確認したことにより、教職員全体で同じ方向を向き、全体のレベルアップを図るための大きな力となりました」と宮澤校長は話します。
国際担当の水澤孝順先生は、この「GLC」について、次のように説明します。
「これまでSGHの申請と並行して、このコースの制度設計を随時してきました。というのも、SGHは基本的には高等学校を対象とした教育課程だからです。本校は完全中高一貫校ですので、中学からの学びを前提としたSGHの構想が『GLC』なのです。そのため入試の段階から、差別化を図っていくことになりました」
また水澤先生は「GLC」を経た生徒像について「私たちが現段階で未来を予測しての『必要な人材』は、10年後には予測不可能な社会になっているでしょう。このコース出身の生徒たちは、これまでとは異なる進路を選択し、私たち教師が考えてもみなかった未知の力を身に付けているはずです。GLCで学ぶことにより、最終的にはどのような社会でも、その中でサバイブできるようになってほしい」と語ります。
「現代はインターネットの台頭などにより、世界が大きく進展し、ダイナミックに時代が変換しています。そのため、私たちを取り巻く環境は急速なスピードで発展し、子どもたちにとっての"世界"はより身近になっているのです。今春の説明会で感じたことですが、保護者のグローバル化に対する関心と意識の高さは、私たちの想像以上でした。第一線で活躍されている保護者の方々は『グローバル力』がこれからの社会にどれだけ必要なのか、その現実を実感されています。私たちはこの『GLC』を設置することによって、グローバルな力を備え、その力を世界のどこでも遺憾なく発揮できる女性リーダーを育てたいのです。近年『女性の力』に注目が集まっていますが、女子校である本校だからこそ世界に通用する真の"女性リーダー"の輩出を担っていきます」(宮澤先生)
「グローバルリーダーズコース」の
選抜方法と授業内容は!?
グローバル入試への出願資格は「英語の学習歴のある国内生で、英検4級以上程度の英語力を有するもの」で、GLCは35名編成の1クラスを予定。帰国生との混合クラスで学びを深めていきます。
カリキュラムは、主にインターナショナル小学校の出身者や海外在留経験のある子どもたちを想定したものです。しかし、それ以外の環境下でも英語を勉強している国内生は増加しており、そうした受験生への選択肢となるのが、このグローバル入試です。
入学後はCEFR(セファール〈ヨーロッパ言語共通参照枠〉/Common European Framework of Reference for Languages) により、英語の能力を確認のもと、帰国生向けレベルのαと国内生向けレベルのβに分け、具体的な目標設定を行いながら授業が進められます。
GLCの英語教育での大きな特徴は、ネイティブによるプロジェクト学習を週4時間、日本人の教員がグラマティカルベースによるライティングの授業を週2時間実施予定。ただし、αとβの英語の授業内容は、基本的に同じものとなっています。
大妻中野ならでは!
さらに、これまでの帰国生教育で行われていたものと同様に、GLCの生徒たちは、中学では週1時間、高校は週2時間のフランス語の授業が行われます。
「本校での帰国生に対するフランス語教育は、歴史があり、その成果も感じています。GLCでは、"多言語"・"多文化"という観点から、英語圏とは異なる文化の吸収も目指しています」(水澤先生)
同時に大妻中野では、「ロゴス(論理)」と「パトス(感情)」をしっかりとバランスよく身に付けていく教育を目指しています。
「ロゴスとパトスの片方に偏っては、物事を解決することはできません。この二つの両立を目指すのが本校のSGH及びGLCの教育です。この内のひとつが欠けていたら、現代のさまざまな問題に対応することは出来ないだろうと思っています」(水澤先生)
その智恵を活用するために大切なのが基礎学力。大妻中野では"ことば"の本質的な意味を含めてしっかりと理解し、それを使って世界中のどこに行っても自分で生きていける力を養います。特に母語が異なる同士でも通じ合える英語の修得は必須と言えるでしょう。
「地球には、多くの言語があり、母語があります。それぞれの文化をしっかりと把握するための言語をきちんと身に付けてもらいたいので、本校では表出と共にそれを支える基礎を大切にしています」(宮澤先生)このGLCでの学びは、クラス内だけでなく校内に全体に派生させたいと同校では考えており、機会があるごとに全校での発表などを行います。また、中3以降ではコースの移動が可能になるそうです。
また、今年度からはさらに「アクティブ・ラーニング」の授業を発展させる為、先生たちは現在、必死に研修に取り組んでいます。
宮澤先生は「基礎的な知識があってこそ、始めて本物のアウトプットができると考えています。基本を軽視する教育は頭打ちになるもの。新しいことを行なうためには、大きなエネルギーが必要です。教師陣が生徒たちの未来のために『やろう』と思わなければ、教育は動きません。本校は先に進もうとするエネルギーを持った学校です」と力強く語っていました。
"アーツ"は、人と人を繋ぎ、
コミュニティを創るメディア
カナダ体験学習(中2)の一コマです。
「本校で『PAAL(パール/Program For Active Arts and Languages)』と呼んでいるのが、"アクティブアーツ"をテーマとしたカリキュラムです。既存の教科同士を繋げながら学習を行います。物事の課題を自分から見つけ出し、理解して、解決していくためには、さまざまな人やものを「行動し、繋ぐ」"アーツ"が大切です。人と人が繋がれば、最終的には世界平和に通じます。"アーツ"により、コミュニティをみんなで健全に作っていくことができれば、環境保全や戦争の問題など、地球での問題点がすべて包括され、解決できるのです」と話すのは校長の宮澤先生。
GLCでは、英語の「集中コース」と「イングリッシュキャンプ」を設定しています。現在、カナダで実施している中2の体験学習は20年以上の歴史をもちますが、これをGLC用にレベルアップを図り、中2でブリティッシュコロンビア大学(カナダ)にて実施する予定です。
さらに中3では「アクティブランゲージプログラム」の一環として、ニュージーランドのニュープリマス・ガールズハイスクールとの提携により、2週間の短期留学を行います。1週間は現地での英語学習をし、もう1週間はこのハイスクールの同年齢のクラスに入り、実際の授業を受講します。
オーストラリアへの3カ月間のターム留学をはじめ、1週間の留学プログラム、フランス・リセへの留学など、現在でも、豊富な海外研修プログラムが展開されている大妻中野。校長の宮澤先生は「近い将来、生徒たちは社会貢献をしていかなければなりません。あと20年ほどすると子どもたちは社会の中心になりますが、その時にはリーダーとして、"日本を生き生きとした国へ活性化してほしい"と思っています。」と言います。
日本の伝統文化を紹介!
また高1ではタイ・チェンマイへ赴き、タイが現在抱えている問題を確認し、解決するためにはどうしたらいいのかを考えます。このフィールドワークを通じて、行動力を伴う"本物のグローバル力"を養います。 GLCのスタートは来年度からですが、実はすでに全学年で希望者を募り、教員と生徒がこのプログラムを実際に体験しているそうです。この企画には中2から高2まで120名ほどの応募があり、厳しい審査を通った37名の生徒たちが「フロンティアプロジェクトチーム」として放課後や土曜日、長期休暇などに授業として活動しているそうです。
「本校は部活の加入率が95パーセントを超えています。当然、生徒たちのほとんどが部活との掛け持ちです。メンバーを見ると、模擬国連に挑戦する生徒や生徒会役員、平和研究同好会などに所属し、うち帰国生や留学経験者が過半数を占めています。生徒たちは非常に忙しい中、高い意識をもって活動に臨んでいます。1年間の取り組み後、次年度以降は正規のカリキュラムの中に組み込んでいきたいと思っています」(宮澤先生)
また今回のプログラムを実施するにあたり、大学や企業などの外部リソースとも積極的に連携をとっているそうです。「現在日本は世界の中で、残念ながらすでに経済大国ではなくなっています。それを理解したうえで各機関はグローバル力を持った子どもたちを育てなければなりません。各機関とも、使命感と危機感をもっているため、惜しみない協力と支援をしていただいています。例えば、先ほどのタイ・チェンマイへのフィールドワークのために、チェンマイのことに精通している上智大学総合人間科学部の田中治彦教授によるワークショップで事前学習を行っています。
他にも早稲田大学や東京外語大学との連携プログラムや留学生との英語セッション、国連機関や上場企業と連携して最先端の研究を行ったり、行政と一緒に考えて実際に動いてみたりと、高校レベルでは実現できないような、貴重なプログラムを豊富に用意しています」(宮澤先生)
考えるだけでなく、実際に自分で動いて、その成果や結果をみんなと共有する。それは大妻中野が開校以来、最も大切にしてきたことであり、行動力のある女性育成を目指してきました。さらに今後はグローバル・リーダー育成のため、英語によるプレゼンテーションやプロダクツ発表によるアウトプットにも力を入れて行くそうです。
剣道部
ダンス部
伝統の継承と新しいものに
向かう姿勢が教育には大切
理科実験を頻繁に行います!
グローバル社会に対応した多彩な教育に取り組む大妻中野。一方で宮澤先生は「どんなに時代が変わっても、教育として絶対に変わってはいけない不易な部分がある」と言います。同校が不易で大切にしているもの、それは学院創立者である大妻コタカ先生の女子教育に対する熱い想いです。
「人生の究極の目的は、『自己の幸福の確立』です。人はみな、幸せになるために生きています。その幸せが社会貢献に繋がるような人材に育ってくれたら、我々教員にとってこれ以上の喜びはありません。子供の成長の要は、自分を律することです。自分を律することが正しくできていれば、どんな人とも共存していけるはずです。本校の校訓に『恥を知れ』ということばがあります。このことばはまさに自分を律すること。このことばこそがまさに大妻教育の土台となっているのです」(宮澤先生)
京都・奈良を訪問!
大妻中野がGLCを通じて育てたい生徒像は「自分の意見をはっきりと言えて、表現できる女性」。
宮澤先生は、「現在、企業でいちばん求められるのは、コミュニケーション能力。次が自分に振りかかる問題に逃げずに乗り越えられる力だそうです。この力を付けるためには、さまざまな複合力が必要です。本校に限らず、私学に進学する生徒は、比較的家庭環境にも恵まれています。愛情をいっぱいに受けて育っていますので、人を信じ、優しく素直で、とても良い面をもった子どもたちが多くいます。それはとても素晴らしいことですが、裏を返せば、人生の荒波にもまれていない、打たれ弱い側面もあります。
だからこそ「自律」や「自己統制力」は集団行動を通して磨かれます。例えば本校では、中2で環境学習旅行を行なっていますが、事前に"環境"問題の課題を学んで自分たちはそのために何をやらなければいけないのかを考えます。
中3では平和学習旅行を実施し、核廃絶や戦争についてなど、平和について探求します。
文化祭や体育祭、さらに部活動ではタテの繋がりの中で、社会の縮図を体験できます」と言います。
学校教育はさまざまな角度からの働きかけにより、一人ひとりを伸ばしていく教育活動がどれだけ多様に用意されていて、教員がどれだけきめ細かく寄り添えるのかということが私学の魅力に繋がります。来年度から新しくグローバルリーダーズコースを用意し、子どもたちの未来をより輝くものにする教育を実践し続ける大妻中野中学校・高等学校に、これからも要注目です。