学校特集
浦和ルーテル学院中学校
1953年に埼玉で初のミッションスクールとして、米国ルーテル教会ミズーリ派により創立された浦和ルーテル学院。昨年度、新校舎が竣工し、さいたま市の浦和区から緑区に移転しました。 自然に恵まれた3万㎡の広大な敷地に建つ新校舎は卒業生の建築家が設計したもので、アメリカ人の牧師が建てた旧校舎のテイストを残しながらも、現代的で快適な造りになっています。 教室棟の1・2階は小学校、3階が中学校、4階が高校と、12年一貫教育を行う同校は1学年約60名(2クラス)の少人数制。学校内には家族の中にいるような温かく"ゆったりとした"空気が流れていますが、一方で生徒たちの学力伸長度の高さには目を見張るものがあります。 浦和ルーテル学院が独自のグローバル教育やアクティブラーニングを始めて既に50年!その成果の一端として昨年度は東大合格者も輩出しました。 「少人数だからこそ、できることかもしれません」と語る校長の福島宏政先生と広報室長の齋藤万作先生に、キリスト教に基づいた人間教育、そして同校が推進してきたグローバル教育とアクティブラーニングについてお話を伺いました。
すべての先生が、すべての生徒をみる。
これが、浦和ルーテル学院の信条
同校の教育の真髄"ギフト&ミッション"とは"賜物"と"使命"のこと。神様から賜った才能を自分で磨き、世の中に返していくことを意味しています。
「我々教員は、『ここが良いところだよ』『ここをもう少し頑張れば、もっと良くなるよ』と、生徒一人ひとりがギフトを見つける手助けをしているに過ぎません」と校長の福島宏政先生は言います。
それを象徴するのが同校の教育モットー「すべての教師がすべての生徒をみる」です。
「すべての教師がすべての生徒のことを知っていますし、進級する際、担任から担任へ『この生徒はこういうことが好きだ』とか『こんなことが得意だ』ということも引き継いでいきます」。つまり、担任が変わっても、一人ひとりの生徒を継続して指導する体制が整っているのです。
そのためにも、職員室は一つしかありません。12年一貫教育を行う同校ならではですが、小学校から高校までの先生が全員揃う職員室で、先生方もお互いにコミュンケーションをとりながら、小中高の垣根を超えて一人ひとりを見守っているのです。
生徒たちの進路も、医学系から芸術系までバラエティーに富んでいますが、その進路をサポートする体制の手厚さにも目を見張ります。毎年、音大を受ける生徒も数名いるそうですが、同校らしいエピソードを齋藤先生が教えてくれました。
「生徒が希望すれば、音楽室に小中高全部の先生が集まって、楽器や歌など、実技試験の予行練習をします。教員たちのなかには、音楽がわからない人間もいますが(笑)、本番さながらの緊張感のなかで演奏させるために、みんなが集まるのです」たった一人のために、学校全体が動くわけです。
そして「大学の自己推薦入試などは面接試験がありますので、だいたい一人につき6回くらいは模擬面接を行いますが、毎回試験官を替えます。どのような形の面接でも対応できるように、厳しく対応したり優しく対応したり、さまざまなパターンを織り交ぜて取り組んでいます」これらのエピソードは、ほんの一例。
少人数制だからとはいえ、この温かく細やかな指導体制が、同校の魅力の最たるものかもしれません。
光が降り注ぐチャペル
礼拝は心の平安と勇気を生徒たちにもたらします。
先生と生徒だけではなく、
生徒同士も"兄弟姉妹"のように育つ環境がある
生徒と先生の関係が密接な同校ですが、それは生徒間も同じで、先輩・後輩の距離もとても近いといいます。「垣根がなさすぎるかもしれません」と校長は苦笑しますが、兄弟姉妹の間であまり敬語を使わないように、先輩に対しても友達同士のように接しているとか。そのぶん絆も強まるようで、特別な用事がなくても、ふらりと母校を訪ね、後輩の勉強をみてくれる卒業生も多いそうです。
「急激に成績が上がった生徒がいましたので話を聞いたところ『仲の良かった先輩がしょっちゅう教えてくれていた』ということがありました」と福島校長。先輩に憧れて同じ大学を目指す生徒もいるそうです。
これは、同じ校舎で6歳から18歳までの生徒が共に過ごすわけですから自然なことなのかもしれません。クラブ活動も中高一緒に、またバレエ部など、クラブによっては小学生も一緒に活動します。同校では、異年齢との交流が日常なのです。
同校には「登下校グループ」があり、同じ通学ルートを使う生徒同士でグループを決め、万が一、登下校の途中で電車が不通になったら、そのグループの小中高生みんながあらかじめ決められた場所に集まり、復旧するまで待つというもの。
「ふだんはそれぞれで登下校するのですが、緊急時対応のためにグループをつくっておくのです」(福島校長)
これは、学校としての安全面に対する配慮の一つですが、このような例をとっても、つねに下級生は上級生を見て育ち、上級生は下級生の面倒を見るという構図ができあがっているのです。"先輩に優しくされてきたから自分も後輩に優しくする"という、優しさの連鎖が校風として根付いているのかもしれません。
2015年に竣工した新校舎は窓が大きく廊下も広々!
もちろん広大なグラウンドも完備です。
保護者と先生の関係も緊密。
年に1回だけの通知表は、保護者とのコミュニケーションを深める
同校の生徒が通知表をもらうのは、学年末の1回のみ。その理由を福島校長に尋ねると「保護者の方に、理解を深めていただくため」と言います。
「数字の評価としての「5・4・3・2・1」も記載はしていますが、通知表を生徒に手渡すだけでは保護者の方に内実は伝わらないでしょう。『うちの子、頑張っていたのに、なぜ3なんだろう』と思われる保護者の方もいるかもしれません。そこで1学期末と2学期末には、全学年で保護者の方と教員が個人面談をしています。そのなかで、指導の過程とか、その生徒の課題、よく頑張っているところなどを伝え、保護者の方からは家庭での様子をお聞きします。1対1で実際に顔を合わせ、お互いの会話を通じて、生徒の現状への理解を深めていこうという目的で、このような形式で取り組んでいます」(福島校長)
この言葉から見えてくる教育姿勢は、技術力の高い職人が時間をかけて手織りの織物を作りあげる過程によく似ています。このような、ていねいな指導があるからこそ、生徒たちも自分のやるべきことに安心して取り組めるのではないでしょうか。
「山の上学校」「平和学習」など、
豊富な体験学習で"自立"と"協調"を学ぶ
スクールバスも運行しています。
同校には、修学旅行はありません。その代わり、中学校では夏と冬の年に2回、福島県に所有する宿泊施設で「山の上学校」というアクティブラーニングを行います。夏は登山や飯ごう炊飯・テント泊、冬にはスキー実習を行います。
「修学旅行を否定しているわけではありませんが、宿泊行事の一番の目的は、集団のなかで生活し、そこで出てくる問題をどのように解決するかということ。そこを抽出して特化したものが、本校で40年続いている『山の上学校』であり、最高のアクティブラーニングです」と、福島校長は言います。
山の上学校に行くにあたっては、何カ月も前から班づくりをし、綿密に計画を立てていきます。この材料で何を作るか、誰が火を起こすか、誰がジャガイモの皮をむくかなど、それぞれ役割を決めていきます。ほかにもリーダーや美化係、礼拝係と、やるべきことはたくさんあります。
「生徒が作ったご飯を教師も一緒に食べますので、失敗しても食べないといけません(笑)。でも、卒業して何が一番思い出に残ったかいうと、『山の上学校』と答える生徒は非常に多いですね。楽しい部分も含めて、体験に深く入り込みますから、印象に残るのだと思います」(福島校長)
高校での「山の上学校」は、体験学習ではなく勉強合宿になります。ただ、高2になると3泊4日で沖縄に行く「Final field trip」がありますが、これも修学旅行とは呼びません。沖縄の自然、文化、生活を体験するこの旅行の目的は「平和学習」です。語り部の方から戦争の話を聞き、まだ残っている病院壕に入って当時の疑似体験もします。
「壕に入って電気を消すと、日中でも真っ暗になります。"ひめゆり部隊"もそうですが、当時は自分たちと同じくらいの年の子が、さまざまな形で戦争に駆り出されていたのです。そのようなことを追体験しますと、生徒たちは本を読むのとは比べものにならないくらい衝撃を受け、強い印象をもつようです」(福島校長)
また、この平和学習は、学校に帰り、後輩たちにこの体験を披露するまで完結しません。
「中学生には礼拝で、また小学生には3〜4人でグループをつくって各クラスを回り、見聞きしてきたこと、感じたことを伝えます。このように、人に伝える、人に教えるという目的がありますので、高校生たちの学び方も真剣になります」(福島校長)
中3〜高2の夏季アメリカ研修では、
先生方も個別に研修するのが伝統
早い段階から「四技能」を育成します。
教育目標の一つに「グローバルな視野を持ち国際的に貢献できる人間を育てる」ことも掲げる同校は、伝統的に英語教育にも力を入れていますが、グローバル教育の多彩なプログラムも実施しています。例えば中2〜高2の夏休みに4週間、アメリカ研修が実施されます(希望者)。
その研修は「キリスト教理解」「英語能力の育成」「人間理解」「アメリカの生活・文化の体験」を目標に行われます。最初の2週間はカリフォルニア州にある姉妹校コンコーディア大学に滞在し、英語研修やボランティア活動などを通じて、異文化理解と国際感覚を養います。
後半の2週間は、アリゾナ州フェニックスに移動し、同校と同じルーテル系の教会員の家にホームステイをするというプログラム。これは、生徒たちの目を世界に大きく開かせるきっかけの一つになっています。
また同校には、高校在学中に1年間、アメリカの姉妹校で学べる「高校在学中留学制度」があります。現地校で学んだ単位はすべて同校での単位とみなされ、1年後には学年を落とすことなく、仲間と同じ学年に復学することができます。この研修や留学をきっかけに、アメリカの大学に進学する生徒もいるそうです。
そして、アメリカで研修を受けるのは生徒だけではありません。同校では、同時に先生方の研修も行います。
「最初の1週間はカリフォルニア州の姉妹校であるコンコーディア大学のアーバイン校で、寮生活をしながら授業の教授法を教わります。次の1週間は、これも姉妹校のあるアリゾナ州のフェニックスに行き、小学校や中学校で、授業で教わった教授法が、どのように実践の場で使われているかというのを見学させてもらうのです」(齋藤先生)
ちなみに、研修を受けるのは生徒たちを引率する先生や、英語科の教員だけではありません。小中高の先生方全員、また事務の方も年を変えて順番に行くのだそうです。このように、さまざまな場面で先生方が共通理解をもてることも、同校が結束している大きな要因なのかもしれません。
「グローバルスタンダードがどこにあるかといえば、本校であればキリスト教の教えにあるわけですが、"こういう人間を育てよう"という観点では、アメリカでも日本でも違いはありません。発見することもたくさんありますし、我々教員にとっても非常に勉強になります」(福島校長)
同校にもアメリカから先生や生徒を迎える相互交換研修を実施しているので、海外研修に参加しない生徒にとっても、英語や異文化体験の機会は豊富にあります。それは、先生方同士も同様で、齋藤先生が一つのエピソードを披露してくれました。同校の小学校では、朝礼のときに学年順に並ぶのではなく、"1年生、6年生、2年生、5年生"と、デコボコに並びます。これも「上級生が下級生の面倒を見る」という姿勢からくるものですが、アメリカの姉妹校の校長はこれに非常に感銘を受け、持ち帰って取り入れたそうです。
このように国は違っても、互いの良いものを共有しあう体制も、同校の魅力と言えるでしょう。
個別学習プログラムなど、
一人ひとりに合わせて綿密な学習指導が施される
感性豊かなこの時期に人間性を育みます。
中学生は火曜日から木曜日までが7時限授業。月・金の6時限目以降は奉仕活動などの特別活動を行っています。
中学校では基礎学力の定着と、自発的な学習習慣の確立を目指した指導が展開されますが、理解が遅れた生徒には先生方が声をかけ、朝や昼休み、放課後などを利用して個別に補習を実施しています。
そこで気になるのが内進生との"英語"の実力差。中学から入学した生徒はそのギャップをどのように埋めていくのでしょうか。
「小学校では発音や会話表現など、日常のなかで自然に英語に接する下地づくりを行っていますが、文法や文章の読解は中学1年生からスタートします。この部分ではギャップはないと思いますが、テストの成績が自分より悪かった友達が、アメリカの姉妹校から来た生徒と上手にコミュニケーションがとれているなど、そういった場面ではギャップを感じるかもしれません。しかし本校の環境を生かして、その友達のように自分も英語を使えるようになりたいと発奮する生徒が多いですね。必要に応じて補習も実施しますので、中学から入学した生徒たちも、これらの積み重ねで比較的早く追いついていきます」(福島校長)
同校のカリキュラムを見ると高2からは文系と文理系に分かれ、さらに高3からは文理系を文系・理系に分けるという、二段構えになっています。
「進路を具体的に考えはじめる時期には、その生徒の個性や希望を個別に聞き、そしてご家庭の意向も取り入れながら指導しますが、希望や能力、適性を見て徐々に選択の範囲を絞ります。最後に決めるのは本人ですから、その意志を尊重し、我々は最大限の後押しをしていくだけです」(齋藤先生)
高3になると通常の授業は5時限までで、6時限目以降は、それぞれの志望に対応した「受験講座」になります。全員の個別学習プランを作成し、英語でいえば習熟度別に4グループ制をとるなど、ここでも細やかな指導が行われます。政治経済や倫理などを受験科目に選ぶ生徒は少ないのが通例ですが、たとえ一人でもマンツーマンで開講。
高3に限らず、6年間にわたるこうした手厚い指導は、確実に成果を生み出しています。下表は、14年度に卒業した生徒たちの学力伸長度を表したものですが、その伸び方には正直、驚かされます。
中学入学時から卒業までの偏差値の伸び
中1 | 高1 | 大学合格時 | |
---|---|---|---|
A君 | 60.3 | 81.5 | 82 |
B君 | 57.3 | 54.4 | 66 |
Cさん | 42.7 | 53.9 | 68 |
D君 | 41.0 | 44.6 | 63 |
Eさん | 38.1 | 43.9 | 53 |
F君 | 35.7 | 37.0 | 58 |
早くから成果を上げる生徒もいれば、エンジンのかかりが遅い生徒もいますが、それぞれが6年間をかけて、グングン力をつけていっていることがわかります。実際、4割の生徒が偏差値60以上(GMARCHクラス)の大学に進学しているそうです。
同校の生徒たちは、6年間で平均20くらい偏差値を上げるそうですが、医学部を志望する生徒以外は、ほぼ全員が現役で合格しています。
「本校の生徒たちは"勉強ができる・できない"で人を判断しません。友達の成績が良いと、自分も頑張ろうとするところがあります。時には諦めてしまいそうになる生徒もいますが、そんなときこそ周りの仲間が励まし盛り上げるので、いきなりグン!と成績が伸びる生徒がたくさんいますよ」(福島校長)
進学する大学はそれぞれバラバラですが、卒業後もみんなで頻繁に会い、働きはじめてからも交流が続くのは、同校が培う"絆"がなせる業と言えそうです。
技術家庭科
理科の実験授業
5年後の大学入試改革や、新しい学習体制へも
これまでの方針があるから、対応は十二分に可能。
"グローバル人材"と言われて久しく、また2020年の大学入試改革を一つの発端として、新しい学力観、学習観が生まれていますが、それらはすべて浦和ルーテルにとっては真新しいことではありません。福島校長は言います。
「昨今、グローバル化やアクティブラーニングなどが絶えず話題に上がりますが、本校では実践的英語教育や『山の上学校』を始めてすでに40〜50年が経過しています。大学入試改革ではスピーキングやリスニングも含めた4技能を総合的に測定するTOEFLを踏襲する、またはそれに類似した問題になってくると思いますが、本校の場合はかなり以前からTOEFL対応、つまり国際交流の場で実践的に生かす指導を行っています。ですから新しい大学入試は本校の生徒たちにとっては有利に働くと思っています。思考力を問う問題についても同様です。日頃から奉仕活動などを通じて体験的な活動を実践する生徒たちにとっては望むところでしょう。そういう意味では、本校の本来の方向と時代の方向が、ようやく合致してきたなと(笑)」
「自ら門をたたき、扉を開く努力ができる人間を育てることが私たちの願いです」と言う福島校長の言葉は、同校を表すシンボルといえるでしょう。
「学習だけではなく、集団のなかできちんとルールを身につけることから始まり、一人ひとりの生徒がもっている個性をどう伸ばすか。そして人の気持ちがわかるような心を育て、自分の能力を使ってどう人のために役立てていくか。そのように生徒たちを導いていくことが大事だと思います。学力伸長度の高さなどは、その帰結の一つにすぎません」と語る福島校長。
一人ひとりの生徒を温かく、ていねいに見守り、力強く背中を押す。少人数制を最大限に生かし、生徒それぞれの意識を喚起させる同校だからこそ、生徒たちは目の前の課題に立ちすくむことなく、自ら進もうとする気構えと勇気をもつ人間に育ち、そして意気揚々と胸を張って巣立っていけるのでしょう。
サッカー部
バスケットボール部