学校特集
田園調布学園中等部・高等部
2016年、田園調布学園中等部・高等部は創立90周年を迎えました。「わがままを捨て自分の目標に向かって懸命に努力するとき、心は楽しさで満たされ無限の力を発揮できる」という建学の精神「捨我精進」の実践は、ひたむきな生徒をいつも勇気づけてきました。同校校長の西村弘子先生は、現代版「捨我精進」として「一歩踏み出しチャレンジしよう」と生徒たちを励まします。
みんなで協力しながら探求心を育む「協同探求型授業」、真の教養を養う「土曜プログラム」、体験型宿泊行事など、同校は直接体験や多くの人たちと交流できる機会を数多く設けています。これらの活動を通して一生を支える「根っこ」を培います。
最近では学外のプログラムへの参加者が増えるなど生徒の主体性、積極性が高まっています。100周年、さらに101年目以降の「学園の第2世紀」に向けた田園調布学園の教育活動を紹介します。
現代版「捨我精進」は「一歩前へ踏み出す勇気」やるべきことに一心になれば可能性が広がる!
創立以来、「目の前の生徒たちに何を提供できるか」ということに真剣に取り組んできた田園調布学園中等部・高等部。同校が掲げる「21世紀型スキル」は、2017年度の新入生を含め、生徒たちが社会で活躍するようになる2030年に、自分の力で己の道を切り拓いていくための生きる術です。思考力・表現力という2つの能力と、主体性・社会性の2つの態度を融合させた未来へつなぐスキルを、同校のあらゆる教育活動を通して培います。
建学の精神「捨我精進」は、初代校長の川村理助先生が自身の生活体験の中で、どんなに困難な状況にあっても、今やるべきことに一心に取り組めば可能性は無限に広がるという境地に達し、その心境を託したことばです。
「我(が)」とは甘えや勝手気ままだけなく、「私にはとてもそんなことはできない」という後ろ向きの気持ちも当てはまると、校長の西村弘子先生は言います。「本校の生徒はまじめで一途な反面、自己表現には引いてしまうところがあります。生徒たちには自分で自分の可能性を狭めてしまわないでほしいのです。捨我精進は『やってみよう』と一歩踏み出す勇気、ブレイクスルーに発展解釈できます。勝手気ままでも控えすぎでもなく、意思表示する一方で相手の意見にも耳を傾けられる、協調性や社会性を兼ね備えた人格の育成を目指します」。
ブレイクスルーは、在校生の保護者向けの広報誌『Breakthrough』の名称でもあります。「難関や障害を突破する」といった意味になぞらえて、「よりよくなりたい」という本能的な願いと、「自分の殻を破り様々なことにチャレンジしてほしい」という同校の願いが込められています。『Breakthrough』は、今現在の学校の取り組みとそのねらいを在校生の保護者に伝えるコミュニケーションツールとして、保護者と学校が「生徒(娘)よかれ」の思いを共有し連携することにも一役買っています。
広報誌ではJAXAの教育プログラム「種子島スペーススクール2016」に参加した、まさにブレイクスルーした生徒も紹介しています。今春の卒業生から高大連携のプログラムなどの学外交流に積極的に参加するようになり、後輩たちもそれに続く好循環が生まれています。通常、よほど親しい友達か憧れの上級生でなければ、学外交流のことをお子さんから話すことはないでしょう。「広報誌を通して自分の可能性を広げている在校生を知ることで、親御さんも『やってみたら』と応援していただければと思います」(西村先生)。
土曜プログラムは、約170の講座から選べる「マイプログラム」と発達段階に沿った「コアプログラム」の2本立てに進化
田園調布学園がリベラルアーツとして2002年から実施している「土曜プログラム」は、2014年度より文部科学省の土曜授業推進事業に認定されている、同校自慢のプログラムです。各自が興味・関心のあることを深掘りする「マイプログラム」(年8回)に加えて、2014年度に開始したのが、発達段階にふさわしい学年ごとのテーマに取り組む「コアプログラム」(年7回)です。
中1のコアプログラムは、知識を広げ知的好奇心をかき立てます。例えばユニセフハウスを見学して開発途上国の子どもたちの現状を知ります。世界の多様さや自分たちが恵まれていることに気づくとともに、恵まれている立場の自分たちができることを考えます。
今年度のなでしこ祭では、高1のコアプログラム「イノベーション・コンテスト」の成果を発表しました。「コンビニエンスストアの新企画」「"伝える"をビジネスに」のいずれかについて新たなビジネスモデルを提案し、プレゼンテーションしました。コアプログラムはテーマの学びの集大成となる発表まで行うため、「ここまでできた」という達成感があるでしょう。
自由選択の「マイプログラム」は、「語学・伝統文化・メディア」「総合文化・フィールドワーク」「スポーツ・健康」「科学・技術・環境」「学びの講座・受験講座」の5分野約170の講座を用意しています。土曜日にこれだけの講座数を設けられるのは、15年間の積み重ねがあればこそ。様々なジャンルについて、専門家と交流できる機会を多く提供できるのが同校の特色です。
大学受験が目前の高3向けに予備校講師による受験講座もありますが、単なるハウツーものにならないような内容を求めています。大学受験後の学びがおもしろそうだと生徒が思えるような、知を拓く講座もあります。小論文は書く前にテーマについてディスカッションするなどひと味違った取り組みを行っています。
「土曜プログラムは将来のための"種まき"です。経験した中で印象に残るものがあれば、生徒自身が水をやり、芽が出るように育ててくれるでしょう」と西村先生は言います。例えば土曜プログラムで伝統芸能を体験した生徒が、社会人になって「もっと学んでみよう」と思ったとき、劇場に足を運ぶハードルは未経験者に比べればずいぶん低いでしょう。また、土曜プログラムで身についた教養はコミュニケーション能力として発揮され、「いろいろな話題に対応できる、または話題を提供できる『会話が弾む楽しい人』になれるのではないでしょうか」と西村先生は期待します。
みんなで協力して学び合う「協同探求型授業」を展開!オンライン英会話や「English Room」などでスピーキングの時間を確保
田園調布学園が取り組むアクティブラーニングとは、主体性や協同性を持って問題を発見・解決する「協同探求型授業」です。これは、協同して物事に取り組み成果を示すことに長けた女子の特長を生かして伸ばす学習法です。同校が65分授業であることもアクティブラーニングを後押しします。インプット(知識・情報獲得)からシンキング(疑問・思考)へ、そしてアウトプット(表現)から再びインプットへ、というサイクルを回して効果的なアウトプットができるように、経験によるインプットも意識しています。
同校のアクティブラーニングを、英語科を例にみてみましょう。英語科では「読む・書く・話す・聴く」の4技能をバランスよく伸ばします。中学の特徴的な取り組みに、中2のスピーチコンテストと中3のプレゼンテーションコンテストがあります。「プレゼンテーションのテーマは自由です。夏休みにカナダのホームステイプログラムに参加した生徒は、『私のプレゼンテーションを聞いたら、みなさんカナダが好きになるでしょう!』とカナダの魅力をアピール。また、ヘイトスピーチの現状と根絶を丁寧に訴えたプレゼンテーションから、生徒が視野を広げて社会に目を向けていることがうかがえました」(英語科の中尾英信先生)。プレゼンテーションはスライドや実物を見せながら行いますが、聞き手を引きつける発表ができるように、ネイティブ教員がアイコンタクトや話す姿勢などについても指導します。
4技能の中で弱いと言われるスピーキングについては特に力を入れています。学期末に行うネイティブ教員とのインタビューテスト以外にも、中3から高2は今年度から外部のスピーキングテストを導入しました。さらに高2は、CALL教室で週1回30分のスピーキング練習も行っています。"パソコン版の英検面接"のようなもので、例えば、表示された4つのイラストについてストーリーテリングし、一般的な話題に対して自分の意見を述べ、それをネイティブ教員がチェックします。
スピーキングの時間を確保しようと、今年度から放課後に外国人講師によるオンラインの英会話レッスンも始めました。TOEFLなどの英語能力試験の対策講座やホームステイ準備、フリートークなど目的に合わせたコースを選べること、マンツーマンでレッスンを受けられるとあって、半期1回25分×10コマのプログラムに、任意ながら前期で約200名、後期でも150名近くが選択しています。
2014年秋にはネイティブ教員が常駐する「English Room」を開設して普段の生活の中でも英語を使う機会を増やしています。ハロウィーンやクリスマスなど季節にちなんだイベント、中1のウェルカム・パーティを開催するほか、英検の面接試験対策の練習も行っています。English Roomは英語に親しめて実用性も兼ね備えた空間となっています。4名のネイティブ教員は学校行事にもほとんど参加しています。彼らが文化祭で展示ブースを見学すると生徒もがんばって英語で説明しています。
また、ネイティブ教員と校長が一緒に英語で礼法を教えるイマージョン授業も行っています。上座、下座、床の間の意味や作法の重要性をネイティブ教員と一緒に考えた授業は、生徒の心に残ったことでしょう。
2017年度から3カ月間のニュージーランド留学がスタート!異文化に触れる海外経験は将来の財産になる
田園調布学園の英語を活かすプログラムが、中3に希望制で実施している2週間の海外ホームステイ(カナダまたはオーストラリア、各30名程度)と、3泊4日のイングリッシュキャンプです。例年の参加者は合計で120名程度ですが、今年度は約160名、学年の約8割が参加。それだけ生徒の英語熱が高まっているということでしょう。
中3の海外ホームステイは1970年代から行っています。ホームステイを経験すると、英語をもっと使えるようになりたい、留学したいという意欲が高まります。そんな生徒を支援しようと、2017年度から、高1・高2を対象に3カ月間のニュージーランド留学(希望制、5名選抜)を始めます。説明会には中3・高1合わせて70名近くが参加しました。
ニュージーランド留学の1番のねらいは異文化を体験することにあると、教頭の清水豊先生は言います。「英語力は日本にいながらでも身につけられます。あえて海外へ行くのは、異なる価値観に触れていろいろなことに気づき、考えてもらいたいからです。本校がいろいろな場面で体験する機会を数多く設けているのもそのためです」。
同校はグローバル教育を推進する組織を設けて、生徒が学外のコンテストへの参加を推奨しています。今夏、高2の生徒が「AIU高校生国際交流プログラム」に参加し、高校生外交官としてプリンストン大学の学生とセッションしました。官民協働海外留学支援制度「トビタテ!留学」に参加した生徒の中には、フィリピンのセブ島でボランティア活動をしたり、ハリウッドで映画を学ぼうと映画製作や起業家コースを受講して語学以外のことも満喫してきました。ニュージーランド留学でもそうした経験ができるように、現地の高校の授業を受けながら、海外の同世代の仲間と交流する機会を増やす計画です。
直接体験だからこそ新鮮な驚きがある理想は教員の出番が少ない「生徒主体の学校」
ここまで説明してきたとおり、田園調布学園は体験からの学びを大切にしている学校です。中1の志賀高原の体験学習(3泊4日)の感想文を読んだ西村先生は、多感なこの時期に直接体験することの大切さを改めて感じたと言います。「豊かな自然に囲まれて過ごす中で、『空気が冷たかった』『星がきれいだった』など、見たこと、体験したことのひとつひとつに感激していることが伝わってきます。寝食を共にして絆が深まったのでしょう、それまであまり話したことがなかったクラスメイトと協力して作ったカレーライスがおいしかったと楽しそうに綴られていました。"感激指数"の高さは、一昔前の生徒より高いように思います」。現代はインターネットやテレビなどを介して手っ取り早く間接体験できてしまうため、つい見たつもり、やったつもりになります。だからこそ感激もひとしおなのかもしれません。
「100周年に向けたこれからの10年は、教員の出番が少なくなることが望ましいと考えています」と西村先生は言います。「いつまでも手取り足取り教えていては、生徒は成長できません。教員は先回りしすぎず、生徒の潜在能力を信じて待ってやること。これは教員にとっての"ブレイクスルー"かもしれません。生徒一人ひとりの可能性は無限大です。」田園調布学園のチャレンジはまだまだ続きます。