学校特集
東京女子学園中学校高等学校
「地球思考Global Thinking 〜世界とつながる女性〜」を教育の大きな柱に据える東京女子学園。
ふだんの学校生活や授業、学校行事、さらには研修旅行なども含めた、すべてのプログラムが作用し合って、"世界とつながる女性"の育成へとつながっています。
例えば同校ですべての教科で行われているのは、アクティブ・ラーニング型の授業です。生徒たちはイキイキと思考を重ねながら学校生活を過ごしており、世界とつながっている実感を伴うプログラムが成長過程に合わせて構築されています。
同校の「地球思考」による教育内容が一番理解できる、実践例を見ていきましょう。
女性が世界で活躍できるための力を養成する東京女子学園のプログラム
東京女子学園で考えている、「地球思考Global Thinking」とは、どういうものなのでしょう。校長補佐で広報室室長の辰巳順子先生が教えてくれました。
「本校の教育理念は『教養と行動力を兼ね備えた女性の育成』ですが、この『地球思考』は、そこよりももう一歩進んだ考え方です。教養と行動力は当然もっているものとして、"地球思考"により、それらを基本に世界で役に立つことのできる女性、世界を舞台に活躍できる女性の育成を目指しています」
先に触れたように、東京女子学園ではすべての教科でアクティブ・ラーニング型の授業が行われています。講義形式の授業で豊富な知識を得た上で、自分の意見をもち、ディスカッションやプレゼンテーションへと進みます。アクティブ・ラーニングは、生徒の興味喚起を図り、より深い学びへと導くために非常に有効ですが、同校で大切にされている考え方を辰巳先生はこう言います。
「個々の学習意欲を育てるためには、自立が重要です。アクティブ・ラーニングとは、まず個があって、グループがあって、個に立ち返るという、"他者"との関係の前に、"個"があることをきちんと認識することが重要です」
東京女子学園では、まずは自分で考え、理論的な意見をもった上で、グループで他者の考えを知り、多様性を理解することを重視しています。それぞれが自分の中にはなかった視点や考え方を得て、それを取り入れたり、反発することもあるでしょう。他者の考えに触れる前に、何よりも自分がなければ、新たな視点にも気づけませんし、反対感情が湧くこともありません。
他者と学び合いながら、日本語でも英語でも自分の考え方をまとめ、整理して、きちんと他者に伝わるような方法を考えたり、他者の意見をしっかりと聞くことができる能力を重視しています。
その一方で辰巳先生が意識しているのは、前へ前へと出るだけではない、"日本人としてのあり方"です。
「場の雰囲気をきちんと考えられるのが、日本人ならではの魅力であり、特長だと思います。本校の『オーストラリア3カ月間留学』では、最初の1か月間は語学学校のインターナショナルクラスで学びます。そこでは中国や韓国、インド、ベトナム、タイなどアジア諸国の生徒と机を並べます。インターナショナルクラスでは、自分から意見を言わないと認めてもらえません。なかには積極的であろうとするあまりに、まったく空気を読まずに弾丸トークで押し切る生徒もいます。本校の生徒たちは、ひるまずにしっかりと論理的に自分の意見を発表してほしいですし、それだけでなく、引っ込み思案気味になってしまうような他の国の生徒たちへも意見を求められる日本人でいてほしいと思うのです。
思いやりや思慮深さをもつ日本人らしさを生かしていくことで、最終的には世界のなかで日本人としてのアイデンティティを発揮し、世界と渡り合える存在となれるのではないかと信じています」
「地球思考」を涵養する同校のカリキュラムは、教育の理念となる「思考コード」を基盤として、全教科で学習到達度目標を記したルーブリック表が整備されていて、生徒はどうすれば完成に近づくのかが具体的に見える化されており、生徒・保護者・教職員で意識を共有しています。
そのため、生徒はルーブリック表で自分が現在、どのステージにいるのか、もう一つ成長するためには、どんなチャレンジが必要なのかを具体的に把握することができます。
グローバルで広い視野をもって他者への配慮をしつつ、自身の芯をきちんと貫き、主張すべきはしっかりと言い、常に成長できる女性。その姿勢は、国内外で必要とされる能力です。それが東京女子学園が目指す、「地球思考」なのです。以下では、その力を養う同校での具体的な実践例を見ていきましょう。
社会科での実践例
中1の社会科で行われていたのは、「目指せ! ユニバーサルデザイン-東京オリンピックを前に-」という授業です。実社会で使われている会社のマークなどの学習を進めながら、最終的には自分たちでユニバーサルデザインを考えます。
「この授業は2時間続きで行いました。本校の周りには、日本を代表するようなさまざまな企業があります。各社で使われているマークの由来を推測して、iPadで調べました。マークがもつ特性を考え、グループで話し合います。特性を理解したら、東京女子学園オリジナルの『港区カード』を使い、グループで話し合いながらカードを分類しました。分類したカードから港区の情報を読み取り、港区のマークを自分たちで創造しました」(辰巳先生)
授業の最後には、自分たちがなぜこのマークに決めたのか、この創造したもののどこが魅力なのかなどを発表し、レポートにまとめます。授業を受けてどうだったかという振り返りまでを授業の一環として行っています。
この日のレポートは150字ほどでしたが、最終的には高3で2000字にまとめあげる力を育成します。
数学での実践例
数学科の小林先生の授業では、実験を行って授業をすることがあります。
例えば中1では、横はばに大きく違いのある二つの水槽を使って比例を実体験します。 底の部分はつながっており、小さい水槽からゆっくりと水を入れた時、どのように水が溜まっていくかをみんなで話し合いながら予想します。
(ア)小さい水槽のほうが高い状態でたまる
(イ)大きい水槽のほうが高い状態でたまる
(ウ)同じ高さでたまる
「話し合っている様子を見ていると、みんなそれらしい意見を一生懸命に話して、相手を説得しようとするのがとても興味深いですね」(辰巳先生)
ここでは、自分の考えを論理的に伝えること、話し合って相手の意見にも耳を傾けることを学んでいきます。最後に実験をして結果を目の当たりにして、さらに結果を踏まえて話し合い、最後に計算式できちんと数学としての知識を身につけます。
自分自身の頭と体を使って行う数学は、苦手意識も吹き飛ばしてしまうようなエキサイティングな授業になっています。
なお、小林先生の授業の様子は「学園ブログ」でも紹介していますので、ぜひご覧ください。
国語での実践例
中2では、10月に教科書の単元として「お礼の手紙を書こう」というプログラムを行いました。
ただし、東京女子学園での取り組みです。単に教科書の通りに行うのではなく、もう一段階深く学ぶことができる工夫を凝らしています。
「お礼の手紙は、拝啓で始まり、敬具で結ぶといった約束事や、最初は時候のあいさつを述べるなどの文化的な面でも勉強する、実生活に即した授業です。
ただし今の生徒たちは、やりとりの多くがメールやSNSなどを使ったものになっています。その友だちとのやり取りのなかで、傷ついた経験をもつ生徒が少なからずいます。では、SNSを使った交流では、どうしたらいいのかということをディスカッションしていくのです」(辰巳先生)
例えば、ある生徒は「これは私の悪口?と思った」など、自分が傷ついた経験を語ります。みんなでその理由を探りながら、なぜメールは被害妄想に陥りがちなのかといった意見交換を行います。例えば、主語がないから自分のことを言っているものだと思ってしまったり、言葉遣いがそっけないものだったり、読みにくい文章だから、誤解が生じてしまったなど、自身の経験を思い描きながらその理由を導いていきます。
それらが解消されるために、どうしたら良いのかをさらにみんなで話し合います。
・5W1Hを明確にする
・行を開けたり、改行したりして読みやすくする
・伝わりやすさを考えた、簡潔な文章にする
「これらのツールを使用する際にも、不快感を与えないエチケットを考えることは本校で行っている礼法の心ともつながります。他教科横断型の授業を通して、生徒は様々な"気づき"を手に入れていきます。思いやりや、相手の気持ちを考えることを学び、特にグループを作るということはどういうことなのか、このグループを作ることにより傷つく人はいないか、ということまで考えられる"客観性"を身につけることがいちばん大切です」(辰巳先生)
まったく知識をもたずに使用するよりも、授業で学ぶことで、SNSはより快適なツールとなり、人間関係も円滑になります。
知識はどこかでつながるものであり、この取り組みは、中1での「ライフプランニング」という授業で行われる、「自分を知る」・「他者を知る」というテーマを深めた内容になっていて、仲間と自分との関係性を見極めることがポイントになります。
自分たちで意見を出し合いながら、自由な発想を記入する「どこでもシート」に書いたら、「その約束をみんなで守っていこうね」と誓い合う生徒たちなのです。
美術での実践例
高1で行っているのは、「ボックスアート」です。
自分が社会に対して思っていること、抱いている感情をグループで話し合います。
辰巳先生はこの授業に関して、
「ここでも自分が社会に対して何を訴えたいかを考えたあとに、みんなは何を考えているのかを探ります。
例えば、『自然破壊がいやだ』という生徒や、なかには『"勉強! 勉強‼"と言われて、せっかくの青春が灰色だ!』と感じている生徒もいるでしょう。
それぞれのテーマを話し合うと、自分にはない視点に出合うことが多々あります。それをまた自分の主張と結びつけ考えていくことが大切なのです」と言います。
この授業ではまず絵を描き、自分のイメージを具現化することから始めます。その後、先生と話し合って、立体になった時のイメージを膨らませて、アドバイスをもらいながら箱作りへと進みます。 自分の思いを芸術的に表現しながら、他者の考えにも触れられるこの取り組みは、同校で20数年来行われていますが、2018年の美術の教科書での題材として採用されることが決まっています。
都営浅草線・三田線「三田駅」A9出口から徒歩2分という、抜群のアクセスを誇る東京女子学園。今夏、校舎の一部を改装し、温かみのあるウッディな色彩を活かした明るい空間に生まれ変わりました。
さらに「つながれる」空間造りを意識し、談笑できるようなスペースを増設。
新しくできた「OJエリア」は、カフェテリアとして活用されますが、壁や天井、床までもプロジェクターで映像を写せる、アクティブ・ラーニング型の授業の際にぴったりなスペースができました。
図書館・パソコン教室・その周辺の空間の新名称を「PLUM (プラム)」としました。生徒や教職員が愛着や親しみが持てる空間として、また、東京女子学園の教育に対する思いを込めたネーミングです。
情報収集と情報の精査、思考力、コミュニケーション能力を育むための空間として、さらに生徒の憩いの空間であり、コミュニティ空間としても使用されています。
由来:東京女子学園の校章「梅」= Plum
P...PC(パソコンを駆使した情報処理機能)
L...Library(図書館としての機能)
U...Unites (まとめる、まとまる、団結)
M...Mind (考え方、意識、精神、心)
PC×Library=Unites Mind
トイレも改装し、明るく清潔感あふれるスペースとなりました。なお校内のトイレは順次改装していく予定です。
英語部の活動より
「Because I am a girl.」というプロジェクトに英語部の生徒たちが中心となって参加しています。世界の子どもたち、特に女の子を救おうと行われているもので、辰巳先生がこのプロジェクトに関わるようになった経緯を教えてくれました。
「世界中の発展途上国では、支援金や品を送っても、それはほとんどの場合、男の子の教育に使われます。同じ国にいて、支援も来ていながら、女の子は多くの場合、教育を受けられません。
それだけでなく、例えば13歳頃になると結婚させられ、愛や恋も何も知らないまま出産をし、ただただ労働力として使われて一生を終えていく女の子がたくさんいます。
発展途上国の子どもたちは水汲みなどの仕事を課され、特に女の子は教育を受けられないことが多いのです。そんな子どもたちや同年代の女の子の生活の状況を知ったとき、本校の生徒たちは激しい衝撃を受けました。『何とか自分たちにできることをしたい』と2013年ごろから少しずつ活動を始めました」
このプロジェクトを推進しているプランインターナショナルジャパンという組織があることを知った生徒たちは、まず活動をしたい旨を申し入れました。その上で、自分たちに何ができるかを考えた結果、まずはこの事実をみんなに知らせようと文化祭を通じて写真などを使ってプロジェクト内容を展示。さらに子どもたちがやらされている水汲み体験を実施するなどの活動を開始しました。
「去年の文化祭では、自分たちに何ができるのかを考えて英語で発表しました。今年の文化祭ではさらに多くの方にこの現実を知らせたいと思い、開会式の際に全校生徒にプレゼンテーションしました。
私はいつもパワーポイントを使って資料作りをしていますが、生徒たちの発表には思わず驚いてしまいました。
真っ暗な舞台から突然スポットライトを浴びた生徒が切々と子どもたちの窮状を訴えます。
効果的に動画を使ったり、スティーブジョブズさながらの素晴らしいプレゼンテーションを見せてくれました」(辰巳先生)
生徒たちの視点は、「この子たちのために、私たちは一体何ができるのか?」、「世界で困っている人たちのために、自分は果たして何をできるのだろうか」という、今後行われる具体的な活動に向かっています。
3種類の海外研修について
東京女子学園では、アメリカ(シアトル近郊)、フィリピン(セブ島)、オーストラリア(アデレード)という、3種類の位置づけの異なる海外研修を実施しています。
アメリカ・シアトルへの3週間の海外研修は、今年で38年目を迎える伝統あるものです。ホームステイをはじめ、実りある経験となるものですが、2006年からは現地でボランティア活動を行っています。
「現地のYMCAや恵まれない子どもたちの施設、老人ホームなどに行って、折り紙を教えたり、ダンスを踊ったり、日本のお菓子をあげたりという活動を行っています。生徒はアメリカではボランティア活動が特別なことではなく、日常生活の流れの中で行われていることに気づきます」(辰巳先生)
セブ島への研修の際には、貧困層が多い地域でボランティア活動を行っています。
ここでは、海外国際ボランティア団体NGO「誰でもヒーロー」という、勉強をしたくても家庭環境や学費が原因で勉強できない子どもたちを中心に支援している団体と活動しています。
「物を与えるのではなく、教育を与えて貧困から抜け出すシステム作りが進められており、その理念を聞いて生徒たちは非常に感動していました。その時だけお腹が満たされるのではなく、本当のボランティアとは何かを考える大きなきっかけとなりました」
東京女子学園で行われているこれらの豊富な海外研修は、実際に世界と触れ合うことで、環境や貧困など世界の抱える問題と向き合う機会となっています。
それらの問題に目を向けることで、「世界中のみんなが使い捨てられるのではなく、充実した人生を送るためにはどうしたらいいのか、そのために自分たちが役に立ちたい。どうしたら良いのか」ということを考え、次なる行動に移し、「地球思考」という感覚を育んでいます。
さらにそれが身につく秘密は、同校で6年間を通じて行なわれているキャリア教育も重要な役割を果たしています。同校には社会と必要としている思考力、判断力、表現力、社会性、協調性、多様性を、具体的な経験として培っていく環境が整備されているのです。
2017年入試では、これまで国・算の2科目で実施していた「第1回B入試」(2月1日午後)が、社・理を加えた4科目のうちの2科目から選べるようになります。これまでの2科目入試「第2回」(2月2日午後)が、国もしくは算のいずれか得意な1科目で勝負できます。さらに「第1回E」(2月1日午前)の英語入試は、リスニングとスピーキングでの実施という、より実戦的な英語力を求める内容に変わります。
11月13日(日)にはアクティブラーニング体験授業、11月19日(土)には、PISA型入試体験が行われます。ぜひふるってご参加ください。