学校特集
東京女子学園中学校高等学校2018
掲載日:2018年8月20日(月)
都営三田線・浅草線「三田駅」のA9出口から徒歩2分、JR山手線・京浜東北線「田町駅」三田口より徒歩5分と通学至便な都会型私学である東京女子学園。創立より115年の歴史を持つ伝統校です。
「教養と行動力を兼ね備えた女性(ひと)の育成」を建学の精神とする同校では、独自の「地球思考コード」を掲げた教育実践を行っています。地球規模の広い視野を持ち、より善く生きる力を身につけることで、自分自身の人生を肯定的に捉え、予測不能な21世紀の社会をしなやかに生き抜く女性を育てています。社会科教諭で中3の担任を務める小宮佑介先生に、同校での具体的な取り組みを伺いました。
"東女"の21世紀型教育とは
東京女子学園で実践されている「地球思考(グローバルシンキング)」。これは、自分たちがいる現在とこれからの未来を見渡すことで、予測不可能な21世紀で求められる能力を磨いて、広い視野と見識を持ち、より善く生きる力を身につける独自のプログラムです。下記が有機的に結び付くことで、生徒たちを目指す学びへと導いています。
マナーを身につけ、豊かな心を養う時間です。
「描く(キャリア学習)」=生徒一人ひとりに対して具体的にアプローチし、自分の生き方をデザインするキャリアプログラムを実施。自分自身と向き合い、どのように生きていきたいかという考察を重ねることで、自分の可能性に挑戦できる力を育みます。
「学ぶ(教科学習)」=現状の社会に存在する課題を知り、その上で新しい社会を創造し、そこで活躍できる力を養います。生徒一人ひとりが自分で21世紀の社会や環境を形成できることを目標に、学園全体で取り組んでいます。
自己肯定感を高めるツールにもなっています。
「経験する(体験学習)」=校外学習や海外留学など、国内外の体験を通じて多様な価値観に触れ、感性を磨きます。その体験を自分自身の言葉で語り、どんな状況でも前向きに物事に臨み、飛躍できるしなやかさを持った女性を育成します。
「つなげる(ICTの活用)」=一人1台のiPadを持ち、情報をどのように集め、どう活用するのかを自らに問いかけて、実践できる力を養成。
自分の考えをまとめ、思考を共有し可視化することで深め、主体的かつ対話的な学びを展開しています。
これらの教育を体系的に表現した「地球思考コード」は、生徒たちがいま身につけるべき学びを構造化した新しい学力の基準。東京女子学園では、知識を得る段階を"蕾"とし、生き抜く力である実践智が"実"を付けることを目指すプロセスを表しています。これは学園でのすべての教育活動で活用されており、学習到達状況を評価する「ルーブリック自己評価表」を用いて、生徒自身が自分の特性を見つめ、多様なものの見方を獲得できるよう学びと連携させています。
SDGsを軸とした授業を開始
写真はオーストラリアの「3カ月留学」
これらの力を養うため、特別活動の一環として行われているのが「地球思考プログラム」です。「SDGs(エスディージーズ)」を軸として、世界が抱える課題を解決するための方策を探る取り組みです。
「SDGs」とは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、国連が2015年に採択したものです。「貧困をなくそう」、「飢餓をゼロに」、「気候変動に具体的な対策を」、「産業と技術革新の基盤をつくろう」など17項目の目標と、それらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されており、2030年に向け世界中で広がりを見せています。
これまでも「地球思考」の学びを通じて、「地球市民」の一員として経済や文化、政治、環境問題などを地球規模で考えることに取り組んできた東京女子学園。SDGsの授業を担当する小宮佑介先生は、
「SDGsを素材にしたいという話は以前より出ていましたが、この取り組みが世間ではユートピア的に語られる部分があることは否めなく、学校として『これが正解』と言ってしまっていいのかという議論を徹底して行いました。しかし、国連が全会一致で採択したことを鑑みて、これを指標に教育活動を行うことに決め、今年度から本格的に導入しました。本校としては、SDGsはあくまで考え方として1つのツールであるということを生徒たちに伝えています。例えば『貧困をなくそう』、『ジェンダー平等に実現しよう』という項目そのものの解決を目指すというより、目標を達成するために日々何をすればいいのかを問い続けられる姿勢を培っていきたいと考えています」と話します。
この授業は中学全学年で年間計20回ほど、土曜日の4時間目に取り組んでいます。まずは「SDGsとは何か」ということから学習を開始。中学生にとっては難解な内容もあり、自分が日々暮らす日常とは異なる、遠い世界の出来事だと感じる生徒はいなかったのでしょうか。
「普段の授業でも言えることですが、生徒がいかに物事を自分事として取り組めるかは教員の大きな懸念事項です。本校では問題提起を頻繁に行い、どんなテーマでもすべてつながりや関わりがあることを伝え、考えさせることを念頭に置き授業を進めました。
例えばある1日の新聞のニュースにSDGsに関連する内容にはシールを貼る授業を行いました。生徒たちは自分の身の回りにも、SDGsに関する出来事がこんなにあふれているということに気がつくのです。そのため我々が思っていたより早く、生徒たちの理解が進みました」(小宮先生)
世界や課題が身近にあると感じることが創造力をかき立てる第一歩となります。生徒一人ひとりが自らの問題でもあると意識することから、課題解決は始まるのでしょう。
将来に向けて培う力とは
東京女子学園ではこのプログラムを通して、生徒一人ひとりが女性として自分自身の価値観や将来を考えることにもつなげています。同校では普段の授業の中からプレゼンやレポートなどの機会を豊富に設けていますが、この取り組みの中であわせて重きを置いているのが、探究を行う力とプレゼンテーション力、自分の言葉で文章が書けるスキルの養成です。
前期は中1~中3の縦割りグループで活動することで意図的に異学年での交流を図っています。
「日常的に取り組み慣れていることもあり、我々から見ても本校の中3はプレゼンが上手だと思います。中2はそれを見て大きな刺激を受けています。その一方、中1でも表現に長けている生徒がいます。そういう子に対して、上級生はプライドが傷つくことでしょう。そうした経験も大事だと思っており、向上心を持ってもっと上手になろうと思ってくれるといいですね。
有志の生徒たちが活躍し開催されました。
ただし留意しなければならないのは、全員がC3に到達すればいいのかというとそれはまた違うということ。例えば授業ではA1の領域でも重要なものも多々ありますし、生徒それぞれの特性を見極め、適材適所で活躍できる力を培うことが大切です。
とはいうものの、プレゼンが得意な生徒でも知識がなければ、のびしろに限界が生じてしまいます。日頃の授業でこうした力もしっかりと付けられるよう伸ばしていきます」と小宮先生は話します。
グループでSDGsの中からテーマを話して決め、みんなで調べたり議論し合い、新聞記事を作りました。水道の写真を撮って水の供給について考えたり、お菓子の箱に記載された成分を見て地球温暖化に関係があるかを調べたり、世界のなかでの女の子が置かれている状況を考察するなど、生徒たちは身近なところからも取り組んでいます。この内容は9月22日・23日に行われる梅香祭(文化祭)で発表します。
英語教育も充実しています。
「プレゼンは得手不得手があります。私たちが見ているのはプレゼン能力だけではありません。今回の目標としては、自分自身でしっかりと探究したものをプレゼンすることを求めています。その力はこれまで大学のゼミや卒業論文などで行うことでしたが、なるべく早い段階でこうしたスキルを身につけられれば将来必ず役に立ちます。ましてや大学入試が変わっていくなかで、これらの力を発揮するチャンスが広がります」(小宮先生)
なお、英語での発表を行うグループもあり、先生方は生徒たちの自主性が涵養されていることを実感しています。このような生徒たちが出てくることで、互いに影響し合って切磋琢磨する環境が出来上がっているのです。
こうした取り組みを経て、後期では個人でテーマを決めて探究を行います。
「後期で扱うテーマは生徒たちに任せています。前期の内容から派生させてもいいですし、日常生活の中で見つけたもの、気になることを探究することで、次第に視野を広げていけたらと考えています。
探究に必要なのは、発見した課題を知識として取り込み、自分の言葉で昇華できるかということです。そのためにはモチベーションを継続させることが大切ですが、探究的な学びを楽しみながら行える生徒も育ってきています。探究の醍醐味を知り、それぞれが活動を楽しめるようになると、勉強へも自主的に取り組めるようになるでしょう。アカデミックな学びに到達するまでのプロセスを我々がどう導けるかが肝要だと思っています」と小宮先生。
楽しみながら学べる工夫が凝らされています。
SDGsの取り組み始めたことでもう一つ、生徒たちの目を開かせる気づきがありました。項目と項目の関連性を提示することにより、そのつながりを立体的に納得できたのだそうです。学びを体系化できるようになると理解が深まります。より学びへの興味が湧くとさらに関心は広がり、世界観がぐっと大きく展開します。
通常の授業でも、先生が話していた内容に関心を持ったら、それをかなり深く掘り下げて自分自身で探究できる生徒が出てきているそうです。
このプログラムは、様々な教科の先生方によって行われており、多様な視点から学ぶことができることも大きな魅力です。
「一つの出来事でも理系・文系の先生で捉え方がまったく異なるので刺激になります。大学入試や就職活動などの先を見据えて、生かせる力も育みたいですね。社会科の授業の中で意識しているのは、社会科の中にとどまらないことです。例えば地理では、理化学的なアプローチを求められることもあるため、理科教員と連携して授業を行うこともあります」(小宮先生)
事象のつながりや関連性を見つけ、俯瞰すること、掘り下げられる深い視点を持てるのが、東京女子学園での学びです。この力を養うことはこれからの世界を生き抜く子どもたちを支える原動力の一つとなるでしょう。
楽しみながら学ぶSDGs
耳を傾け、議論していきます。
今年5月には朝日新聞社の方を招待してワークショップを実施し、SDGsの世界観を体験できるカードゲームを行いました。生徒は楽しみながら積極的に取り組み、SDGsが示す世界の共通課題について学習しました。
ルールはいたってシンプルで、それぞれに「お金」や「時間」を貯めるといったミッションが与えられます。各グループは目標の達成のために取引や事業を行い、クリアして報酬を得ることを繰り返します。
「まずはみんなが自分の利益を優先させるので、必ず最初に経済が伸びていきます。一度止めて、『本当にそれでいいの?』と問題提起をすると急に自然環境を気にし始めるところなどは、まさに人類が辿ってきた歴史を見ているようです」(小宮先生)
この各ミッションはお金が大事な人、悠々自適な時間を大切にする人など、さまざまな価値観を持った人がゲームの中でもいるという考え方です。
「ゲームをクリアできたら、それはSDGsが成し遂げられた世界ということになります。このゲームの肝は、他のグループと協力しなければ、目標が達成できないようになっていることです。遂行するためにどうしたらいいのかを一人ひとりが考えなくてはならないことがよくわかります。自分の利益を増やすことばかり考えずに、他と協力すること、自然環境を大切にすることを踏まえなければなりません。
しかし、現実社会ではそう簡単なことではないという壁が生徒たちを阻みます。環境を守ってばかりでは、途上国の経済発展に支障をきたすこともあるでしょう。それぞれが地球全体のバランスを見極めながら事を進めなくてはならず、直面している課題がいかに難しいかを知ることができます。こうした活動はまさしく協働する力が重要です」と小宮先生は話します。
終了後には振り返りを行い、ゲームを進める上でどうすればよかったかを具体的に記入します。
「最初は自分のグループのゴールしか見えていませんでした」
「他の班ともっと時間を交換してもらわないとクリアできないことがわかりました」
「ゲームのカードに載っている、地球の課題をたくさん知ることができました」
「ゲームでできたように、地球の問題も解決すればいいのにと思いました」
などという意見が出されました。
校内でも国際交流できる環境があります。
SDGsは単独活動でやっていても物事は進みません。みんなで取り組むことが必要です。実はSDGsの17項目めは『パートナーシップで目標を達成しよう』なのです。
その上で「生徒たちには言い続けていますが、最終的には実践するかしないか、行動力がいちばん大切だと思います。いくらC3の能力があっても行動に移さなければ意味がありません。実践するところまで踏み込めるような社会人になってほしいという願いがあります。自分のスキルを最大限に生かし、今のうちから実践していくことを意識してほしいと考えています」と小宮先生は話します。
自分自身の人生を主体性を持って選択し、生きていくこと。結局それが人生を楽しみながら歩む術です。自分が選び取った道なら困難にも立ち向かえるはずです。この姿勢の有無は、学校生活やその後の将来にもすべてつながってくるのではないでしょうか。
「思考して行動できる姿勢を養うためには、最初は導いていくことも必要だと思っています。こうしたゲームなどを通じて実践し、具体的に興味を持つことで『地球思考』につなげています」(小宮先生)
東京女子学園ではこのように1つの学びからでも、自分自身と世界は繋がっていること、広い視野と深い思考力、行動力を持てば自分も世界を変えることができるという教育が実践されています。自分の可能性を自ら大きく広げる機会がここにあるのです。
まずは生徒たちがプレゼンテーションを行う文化祭へ足を運び、生き生きと過ごす彼女たちの様子を見てみませんか。