学校特集
東京都市大学等々力中学校・高等学校
ノブレス・オブリージュ(誇り高く、高潔な人間性)とグローバルリーダーの育成」を理想の教育像とし、共学化から7年目を迎えた同校。今春、共学化1期生が卒業し、国公立大31名、早慶上智ICU50名、GMARCH178名という、過去最高の大学合格実績を出しました(卒業生158名中一貫生は101名)。この見事な実績は、同校が6年間積み重ねてきた教育改革が結実したものです。授業を基本としながらさまざまな進路サポート体制があることはもちろんですが、生徒たち自身がTQ(時間管理)力と自学自習力、さらには校訓である「ノブレス・オブリージュ」の精神を身につけた結果といえます。
また2016年の首都圏中学入試で,志願者数がもっとも増えたのもの同校でした。そこで、今注目される"等々力パワー"とでも言うべき同校の教育について、そして来年度2017年に新設されるアクティブラーニング型入試について、教頭で入試広報室長の二瓶克文先生と、同じく教頭で生徒活動部長の落合敏郎先生にお話を伺いました。
入試段階から協働力を問う、画期的な入試!17年には「思考力・協働力試験」を新設!
新設される「思考力・協働力試験」は、2月4日(土)午前に実施されます。中学入試で真正面から「協働力」を問うという点に目を見張りますが、この試験を導入する意図はどこにあるのでしょうか。
「本校の教科観を入試にも反映したいということです」と二瓶先生。「これまで、4科入試でも非連続型のテキストの読み取りや、実験過程を問う問題など、論理的・科学的思考力を求める問題は一定の割合で出題していましたが、大きく見据えなければならない方向は2020年の大学入試改革です。本校はアクティブラーニングとして、昨年から東京大学のCoREF(大学発教育支援コンソーシアム推進機構)のご指導のもと、ジグソー法という双方向型の授業を行っていますが、これを入試に反映したいと思ったのです」
その背景には、次のような力をもった生徒を育てたいという、同校の揺るぎない目標があります。
・ チームをつくり真剣に議論をすることによって、問題の所在や解決への糸口を見つける力。
・相手を理解し、多様なものを認め合う資質を獲得する力。
・チームのために自分を高めなければならないという意識もつ。
このように多様な個性を互いに認め合い、刺激し合い、さらなる高みに向かってみんなで努力していけば、新しい「知」の展開が期待できるわけです。つまり、この入試には「知」の集団のリーダー、または良き形成者になってほしいという願いが込められているのです。
具体的には、3〜4人のグループに分かれて議論を交わす、協働力テストの【検査Ⅰ】と、論文テストの【検査Ⅱ】という、2種類が行われます。
検査Ⅰ】では、「与えられた資料を協働して読み解き、深く考える力」「真剣な議論を通じて、多様なものを認める資質」「一つの意見に対して、肯定否定両面から考察できる批評力」「協力して、最終的な結果を導こうとする意欲と協調性」など、さまざまな観点から複数の先生方がチェックし、受験生個人の解答と合わせて点数化します。
【検査Ⅱ】では、与えられたテーマに真摯に向き合って、具体性を意識しながら素直な心情を600〜800字で記します。 どちらも事前の準備は不要ですが、同校のホームページに模擬問題が掲載されています。9月に掲載された問題は「富士山登山の時に必要なことを考える」というもの。続いて10月、11月と計3回模擬問題が掲載されますので、ぜひチェックしてみてください。
等々力改革は第2ステージへ。「GLプログラム」でグローバルリーダーを育てる。
「以前、合同説明会で本校のブースに初めて来てくださった方々に聞いてみたところ、本校のことはクチコミで知ったというケースが多かったのです。そのせいでしょうか、ありがたいことに、本校のことをよくわかったうえで入学してくださるご家庭が多いですね」と二瓶先生。「そのぶん期待値も高く、保護者会にはなんと98%の方が参加されていますし、年に2回ある参観日もたいへん盛況です」
大学合格実績にも表れている高い教育力とともに、「ノブレス・オブリージュ」の学校として人間力育成に力を注ぐ同校では、保護者の方からの篤い信頼も後押ししているためでしょう、生徒も先生方に全幅の信頼を寄せて意欲的に学校生活を送っています。
同校の教育システムの全貌は、以下の図のとおりです。今春、共学化1期生が卒業したのをひと区切りとし、次の第2ステージに向けて、これまでの教育システムを再構築しました。それが、「高い知性と教養の習得」「英語力・英語運用能力の向上」「異文化理解と学びの姿勢の強化」「進路意識の強化と徹底した進路支援」の4つを柱とした「GL(グローバルリーダーズ)プログラム」です。
このようなシステムを軸に、同校ではじつに独創的で豊かな学びを展開しています。
コースは3つに分かれていて、難関国公立大を目指す「S特選コース」、国公立大や早慶上理を目指す「特選コース」、国公立大やGMARCHを目指す「特進コース」です。「S特選コース」は授業進度が速く内容も掘り下げていくため、コース変更が可能なのは中2進級時の若干名のみですが、「特選コース」と「特進コース」は中3進級時、高2進級時にコースの再編成が行われます。
また、中3・高1では「特選コース」「特進コース」の中に1クラス「特選GL・留学クラス」を設置しています。これは、高1〜2の約1年間、オーストラリアかカナダに留学するためのクラス(帰国後は学年を落とすことなく高2に復学)。中3進級時に両コースから留学を希望する生徒を募り、英語力などを審査して20名以内を選考しますが、高校時代に海外で学ぶ経験ができる魅力的な機会となっています。ちなみに、特選GL・留学クラスは、その留学予定者と英語力の高い生徒(帰国生を含む)で構成する英語アドバンスクラスです。
このようなコース・クラス編成になっていますが、学校行事や学年行事などはコースやクラスに関係なく班を組み、一丸となって取り組むのも同校の特徴です。
TQ力、システムLiP、知識構成型ジグソー法。同校で実践される特徴的な教育の中身とは?
同校の教育を象徴するキーワードはいくつかありますが、なかでも「TQ」「LiP」「ジグソー法」は最たるものでしょう。ここで、その概略をご紹介します。
TQノート
まず「TQ」とは"Time Quest"の略で、「時間を管理」するという意味です。自主性の基礎となるのは、自分で時間の管理をする力であるという考えから、生徒は入学時から同校オリジナルの「TQノート」を持ちます。 【TQノートで学習計画を立てる→実行して結果を記入する→朝テストで理解度を測る】
これをくり返していくと、計画どおりに勉強が進まなかった原因や、自分が取り組むべき課題も客観的に見えてきて、自 学自習の習慣を定着させられるようになるといいます。このノートは、担任だけではなく副担任の先生もチェックしますので、学年全体で生徒一人ひとりの状況を共有しています。
実際、このTQノートの存在は生徒にとって重要なものになっています。やるべきことはすべてTQノートに書き込んでいるため、「あ、忘れた!」ということもめったにないそうです。また、あるとき学校説明会のあとの校内見学で、受験生の保護者の方を案内していた中2の生徒が、こう質問されたそうです。「学校が楽しいとはいっても、勉強も部活もと、本当は大変でしょう?」と。すると、その生徒は「いえ、大丈夫です。TQノートがありますから」と答え、その悠然とした態度に保護者の方も驚かれていたとか。
ちなみに、この習慣が身についたおかげで、社会人になってからも手帳を活用している卒業生が多いそうです。
LiP
「LiP」とは同校独自のプログラムで、 "Literacy"と"Presentation"という2つの言葉を組み合わせた造語。「Li(リテラシー)=正しく読み解く能力」と「P(プレゼンテーション)=人を行動に駆り立たせる説明力」、つまり問題解決力を培うことを目的としています。
あらゆる物事や定義された問題を理論的に思考しながら、その本質がどこにあるのか、チームを組んでコミュニケーションをとりながら解決していく学びです。ワークショップを中心に楽しく学んで、生徒個々の活性化・良き集団づくりはもちろん、難関大学の入試対策(特に国公立2次や推薦入試)にも効果的です。
その実践例を落合先生に伺いました。わかりやすいものとして、ここでは中学入学直後のオリエンテーション合宿で行われる「図形でリテラシー」をご紹介しましょう。
「各班から代表者一人だけを呼び、教員が手に持った紙を見せます。そこには□や△や○で構成された一つの図があるのですが、それを言葉だけで班のみんなに説明し、同じ図形を描かせるというものです」
代表者は図形を見ながら、どう伝えるかを考えます。そして自分の班に戻って、『じゃ、まず○を描いて。その中に□を描いて』と言うと、『大きさは? 位置関係は?』という質問が飛びます。『うーん......上のほう』『じゃ、人間の口をイメージして』などと答えていきますが、ここで代表者は伝達する難しさを実感するわけです。
「そこで、『相手にわかりやすく伝えるには、結論から言おう』と指導します。『まず、大きな○をイメージしてください。その中に形が3つあります。2つは□です。1つは△です。これを、描いてもらいます』と言って、そのあとで位置関係を説明すれば、生徒たちから『人の顔だ!』という声が挙がります。『これが、これからキミたちがやっていくLiPというものだよ』と」
このLiPは、中学の3年間、毎週1時間設定されています。グループで話し合って結論を導き、パワーポイントを作成して説明を行うなど、技術もテーマも徐々にレベルアップしていきます。
このように、物事をリテラシーする力、クリティカルシンキングをする力、そしてそれを発信する力を育んでいくわけです。そして高1の語学研修(修学旅行)では、イギリスの名門パブリックスクールのラグビー校の生徒と一緒にオックスフォード大学に行きますが、同大の教授や学生の前で日本文化のプレゼンを英語で行う、というプログラムにもつながっていきます。
知識構成型ジグソー法
「知識構成型ジグソー法(以下、ジグソー法)」というのは、東京大学のCoREF(大学発教育支援コンソーシアム推進機構)が独自に開発した学習法ですが、同校では昨年から、このジグソー法を授業に導入しています。グループをつくって理解を深め、問題解決能力を育む協働学習です。
「ジグソー法はLiPと関連していますが、その先にあるものです」と、落合先生。ここで、高2の社会で実施された「日本の選挙制度について提言しよう」というテーマの授業をご紹介しましょう。
「クラスをエキスパート班と呼ばれる3つのグループに分けます。Aのグループには大選挙区、小選挙区、比例代表などの仕組み、Bのグループにはイギリス・アメリカ・ドイツの選挙制度について、Cのグループには投票率が低いなどの日本の選挙の課題が書かれた資料をそれぞれ渡します。そして、グループ内で意見交換をしながら、資料から何が読み取れるかを検証していきます。これは、ジグソー法でいう『エキスパート活動』というものになります。次に、ABCのグループを解体して、その資料のエキスパート(専門家)になった生徒が一人ずついる新しいグループを組み直し、ジグソー班をつくります。そのジグソー班では、それぞれがエキスパート活動でわかったことを説明し合います。このとき、元の資料の内容を知っているのは自分だけですから、得られた情報と自分の考えをきちんと伝えなくてはなりません。このようにして、それぞれが得た情報を持ち寄って、一つの案を提言していくのです。テーマとなる問いに、正解はありません。大切なのはあくまでも、そこに至るプロセスと協働することです」
「この6年間で形ができてきましたので、これからはディープラーニング化、つまり中身をさらに充実させていく段階に入っていくと思っています。その手応えは、もうつかんでいますね」(落合先生)
「若い先生方も積極的に研究授業をやっていますし、教員の向学心は非常に高いですね。本校は校長を筆頭に教員同士の協力体制が確立していますので、次のステージへも自信をもって踏み出すことができると確信しています」(二瓶先生)
学習だけではない。人間力形成のために、体育、部活動も大切にするのが等々力流
英語・国語・数学・理科・社会・体育。
芸術系も含めて教科はいずれも重要ですが、同校ではこの6教科をとくに大切にしています。
「校長もつねに言っているのですが、部活は先輩と後輩のつながりの中で集団規律を、そして体育は集団行動を身につけるのに最適です。このような規律はすべて生徒の学習や生活態度にも反映しますので、体育は大切に考えていますし、単位数も減らしません」(二瓶先生)
クラブ加入率も高く、中学で98%、高校になっても88%が精力的に活動しています。「部活で身についた集団規律や連帯感などは、学校生活のすべてに波及しています。部活のあと自習室で勉強するのも、毎日の朝テストで点数が満たらないと補習のために部活ができなくなりますので、自然にみんなで頑張ろうというムードがつくられているように感じます。そのように刺激し合う環境があるため、朝テストで特進コースの生徒がトップをとることも珍しくありません」と、落合先生。「自習室は中1〜高2は20時まで、高3は21時まで利用可能なのですが、とくに今年の中1は利用率が高いですね」
「中学から入学する生徒だけでなく、小学校から来る生徒、帰国生、また高校からの入学生と、生徒たちはさまざまな経路で本校に来ますので,みんなで助け合う気風があります。その背景にある一番は教員力だと自負していますが、校長も毎年夏休みには中1の保護者の方々全員と個別面談をしていますし、若い先生方も本当に一生懸命にやっています。生徒も保護者の方も教員も、みんなが信頼し合えているからこそ、学校として一つにまとまることができているのだと思います」(二瓶先生)
あるとき、来校した方が言ったそうです。「この学校は男子と女子の仲が良く、活発なのに非常に落ち着いていますね。そのチームワーク力が、学校の空気になっているように感じます」と。これは、共学化してからの丸6年間、先生方が一丸となって改革を進め、全力で学校づくりに取り組んできた賜物に他なりません。
ここにご紹介した以外にも、実験重視の理数教育「SST(Super Science Todoroki Program)」、週100回・年間3500回の「英語の音読」、学習支援のための「4Aシステム」、医療・理系探究型のオーストラリア夏季語学研修などの国際理解教育と、同校には独自のプログラムがたくさんあります。 自立した学習者を育成するための指導と、人間力形成のための指導が融合した形で展開される同校の教育は、次世代を担う若者を育てるために必要十分な内容と魅力を備えています。学校説明会はまだまだ続きます。ぜひ足をお運びになり、同校の先進的な学びの内容と,調和のとれた温かい校風にふれてみてください。きっと、心に響くものがあるはずです。
等々力の日常の点景3つ
学び アサーショントレーニング
「アサーショントレーニング(Assertion training)」とは、お互いのアサーティブ権(人権)を尊重したうえで、自分の意見や気持ちをその場にふさわしい表現で相手に伝えることができるようにするトレーニングのこと。 このトレーニングでは、「友達に『どこかに遊びに行こうよ』と誘われたとき、相手を傷つけないように、どう断る?」「友達と待ち合わせをしていて、相手が15分遅れてやってきた。キミなら、まず何て言う?」といったことを先生が生徒に問いかけます。これも、困難な問題をコミュニケーション技術でどう克服するかという問題解決能力を養うための、また相手を思いやる心を育むためのプログラムです。
委員会 SB(スクール・バディ)委員会SB(School Buddy)というのは、悩んでいる友達を自分たちの手で救おうという、生徒同士の支え合いのシステムのことです。同校では生徒たちが自ら立ち上げ、この秋には相談受け付けを開始したそうです。委員会ではBBM(暴力・暴言・無視)防止活動を行い、自分たちで生徒個々、また生徒間の心の浄化を図っていく予定です。現状で何の問題もない環境に安住するのではなく、不測の事態に備えてこのように先に動こうとするのは簡単なことではありません。それを、生徒自らが実現したのも同校らしいところです。先生方も、生徒同士も、先生と生徒も信頼し合えている環境があればこそで、同校の生徒が育まれている意識の高さをうかがい知れるような気がします。
生活指導 あいさつ・返事・後始末自由度が高く自主性を重んじる校風ですが、生活指導はしっかりしています。「まず自分のことがきちんとできないと人に気を配ることができませんから、そこはしっかりと行っています。ただ、生徒たちは素直に体得していきますので、学年が上がるにつれて教員が注意することはほとんどなくなります」(落合先生) 「あいさつ・返事・後始末」というのは、入学直後から徹底される生活指導のキーワードです。ここで、あいさつについてのエピソードを一つ教えてもらいました。 高校では文化祭で飲食店を出すことができるのですが、家庭科室の調理台の台数の関係上、出店できるのは9団体のみ。そこで、企画審査会を開き、各団体のプレゼンを審査して決めるのだそうです。今年は日本政策投資銀行と証券取引所の方に審査委員として来てもらったのだそうですが、ここでも同校の生徒たちの評価は高いものでした。「企画内容そのものというよりも、始まる前には全員で『よろしくお願いします!』、終了時には『ありがとうございました!』と、誰が指示するわけでもないのに、全員が息を合わせて元気にあいさつをするからです」(落合先生)