学校特集
聖徳学園中学・高等学校
21世紀型スキルの習得を目指して、ICTを活用したアクティブラーニングの先進的な教育を行う一方で、中1・2では2名担任制を敷くなど、きめ細やかで温かみのある「心の教育」にも力を入れている聖徳学園。教育方針は「個性の育成」、「創造性の育成」、「国際性の育成」で、これまでもグローバル力を身につけて、世界へ目を向ける教育が先駆的に行われてきました。2年前の国際交流センターの設立により、同校のグローバル教育はさらなる進化を遂げています。現代のグローバル社会の中で生き抜くために、生徒たちはどんな力をつければいいのか、そのためにはどんな教育を行っているのか。グローバル教育センター長の山名和樹先生と入試広報部長の岩崎喜和先生に聖徳学園での取り組みを伺いました。
毎日の生活の中で
多様な文化に触れられる機会を用意!
触れ合いがあるのも聖徳学園の魅力!
グローバル教育の一環として、学年に応じた多彩なプログラムが用意されている聖徳学園。1982年から始まった留学制度は歴史と実績を誇り、他校のお手本にもなっているほどです。そのため、「海外に行きたいから」、「留学がしたくて」といった理由で、聖徳学園を志望する生徒も多数います。
ただし、聖徳学園の海外語学研修旅行はすべて希望制。そこで、「全員が海外へ行くわけではない」という考えのもと、海外体験だけでない、日本にいながらできるグローバル教育を豊富に実践しています。同校で大切にされているグローバル教育について、山名和樹先生は、「毎日の学校生活の中で、世界と関われる機会をもてる環境作りを目指しています」と言います。
例えば昨年は、2人のアメリカ人留学生が来たり、スウェーデン人留学生は3週間の短期ではあったものの、中3生と一緒に授業やクラブ活動などを行い、互いに貴重な経験をすることができました。
アクティブラーニング型の学びも充実しています。
また台湾から中学生が来て交流会を行ったり、ICUの留学生と一緒に「夢」をテーマにディスカッションもしました。
これらの交流機会を通して、フェイスブックやラインなどの"友だち"が多国籍なのが聖徳生の特徴です。
岩崎喜和先生は「今の子どもたちは携帯電話を持っているので、気軽に写真を撮って、それを送り合うことをきっかけに連絡先を交換しているようです。学校を訪ねて来られる方と生徒たち自身が関わりをもてるようになると、世界を身近に感じることができますし、自分自身で世界とつながったという感覚ももてるのではないでしょうか。それが自信となったり、世界へ目を向ける第一歩になります」と時代と共に変わってきた関わり方のきっかけを教えてくれました。
「本校の生徒たちほど、いろいろな国の人とSNSでつながっている中学生は珍しいのではないでしょうか」と、山名先生は笑います。ICTの活用によって、国境は一気に飛び越えることができ、世界とつながることができます。中1でしっかりとICTリテラシー教育に取り組んでいる聖徳学園だからこそできる、国際交流の一つの形といえるでしょう。
LocalからGlobalへ
グローバル人材になるためには日本人であれ
カルチャーショックだらけの「スプリングキャンプ(農家民泊体験)」
「グローバルという視点につなげていくまでの、中1と中2での取り組みも大事にしています」と言うのは岩崎先生です。
聖徳学園では「国際人になるためには、まず日本を知ること」という考えに則り、中1で新潟での農家民泊、中2では関西の研修旅行を実施。日本の文化・歴史の再認識と、日本人としてのアイデンティティをしっかりともたせることを目的としています。海外に行った時に日本人としてどう振る舞うのか、多様な文化にどう接するのかを考えるベースを、行事を通して養っています。
岩崎先生は「人のお宅に泊まらせてもらうということは、違うご家庭にはそこのルールがあるということ。それに気づいてほしいのです。自分が思った通りに物事は進まないという経験をして、遠慮やガマンをすることもあるでしょう」と言います。
一家庭に4〜5人の生徒が宿泊しますが、田植えなどの農作業をしたり、お手伝いの内容は家庭によって様々。例えば山菜摘みに出た生徒たちは、山菜がこんな風に生えていて、こうして夕飯で食べられるという貴重な実体験を積むことができます。
「実際にはみなさんがとても優しく、生徒たちは楽しい思い出ばかりのようです。しかし、この経験により、生徒たちは普段の当たり前の生活に感謝の気持ちをしっかりともつことができるようになっていきます」(岩崎先生) なお、秋には自分たちで植えたお米が送られてきて、生徒たちはそのおいしさに感動するのだそうです。
日本の歴史や伝統・文化に直接触れられる大切な機会です!
中2の「関西研修旅行」は京都・奈良を訪れて、遺産などを目の当たりにし、歴史への理解を深めます。ここでも1日は民宿に泊まり、その土地の方々とコミュニケーションを取ることも目的の一つ。岩崎先生は、「同じ日本の中でも東京と新潟や京都・奈良で、異なる文化や習慣があることなどに気づくでしょう。同時にその土地の方々は生徒たちにいろいろ聞いてくださいます。こうした何気ないコミュニケーションの中で、いかに恥ずかしがらずに交流できるか、発信力を身につけられるかという経験は大きいと思います」と言います。
相手にどのように自分の考えや経験を伝えられるか、聖徳学園ではこうした行事や毎日の学校生活の中で少しずつでもトレーニングを積み、自然と身につけていくことを目指しています。 「流れの中で何となく『やっていた』、『できていた』という感覚があれば、コミュニケーション能力は 自然と身についていくのではないかと考えています」(岩崎先生)
「これをやるぞ!」と張り切って行ってもそれは付け焼き刃になりかねません。だからこそ、こうした行事も含めて日常的にコミュニケーション能力を磨いていくのが、聖徳学園のやり方の一つなのです。
世界が広がるグローバル教育
欧米中心から途上国への視点の変換
聖徳学園には「国際交流ボランティア」という、生徒主体で国際関係のイベントや講演会などを企画・運営するための有志の生徒組織があります。今年は50名ほどが放課後に集まって、各曜日で異なる国について学んだり、各国の団体や学校との交流活動を行っています。
それぞれの国にゆかりを持つ方々により活動が支えられており、例えばニュージーランド人であるネイティブの先生は金曜日に担当し、生徒たちと共に文化の違いや故郷が抱える問題点などを探ったり、山名先生はアメリカの大学と大学院を経て、アメリカでも活動していた経験を生かして、生徒たちと接しています。
ここでの経験は宝になる!
これらの活動が結実した一つとして行われているのが「グローバル講演会」です。例えば昨年では、ベトナムの農村で貧困問題に取り組んでいる日本人女性やルワンダで義肢の提供をしているご夫妻、フィジーの大使、イギリスで活躍している日本人和太鼓奏者などの講演が行われました。その内容は多岐にわたっていて、その方々のご経験に感動したり驚きつつも、ひと言で「グローバル」と言っても、これほどまでに多様な関わり方があるのだということを生徒たちは学ぶ機会となっています。
高2では「国際貢献プロジェクト」という、JICAと中央大学、Adobeと連携した授業を行っており、これは"日本にいながらにしてできる国際貢献"を考え、実行することが目標。今年はインドネシア、ミクロネシア、パナマ、ラオス、ルワンダのうちの一国を各クラスが担当します。元青年海外協力隊の方に来ていただき、各国の話を聞いて問題を発見し、それに対する解決方法をみんなで探っていきます。
導いた方法はJICA職員をはじめとする、大勢の前でプレゼンテーションをし、最終目標の行動への足がかりとします。
研修旅行からの帰国後は、後輩へのプレゼンも行います。
この発表に臨むまで、山名先生と国語科・社会科の先生がタッグを組み、生徒たちは各国の歴史や世界情勢を含めた観点、プレゼンテーションも合わせた表現力などを学びます。
例えば昨年のあるクラスは、チュニジアについて学びました。チュニジアのオリーブの木は、他の地域のものより寿命が長いことがわかった生徒たち。その特性を生かしたオリーブオイル作りの提案や観光資源をPRするVTRを作って発表を行いました。
ここでちょっと意地悪な質問をしてみました。高校生の考えた、この"日本にいながらにしてできる国際貢献"は、現地の状況や希望とマッチしているのでしょうか?
山名先生はこの授業の意義を、はっきりとこう教えてくれました。
「確かにそれは難しいことですが、この授業は必ずしもニーズにマッチしていなくてもいいと僕は考えています。本当に何を求めているのかは、実際に現地に行かないとわからないでしょう。
しかし、ここで自分の頭で考えて、実行までのプロセスを踏んだという経験は、大学に入ったり、大人になった時に、大きなアドバンテージになると思うのです。一度自分で動いたことのある人は、次はより素早く動くことができます。成果物よりも、行動にまで移した、その実行力を評価したいのです」
終了後の生徒たちへのアンケートには、「やって良かった」「出来てうれしい」といった声が多いこの授業。「観光客誘致のために、生徒たちがいつの間にかYouTubeで宣伝していて驚きました(笑)」と、山名先生は生徒たちの自主的な活動を笑顔で教えてくれました。
なお、山名先生は生徒たちにこの授業の前にこう伝えるそうです。
「この授業はみんなへのプレゼントです。なぜなら、みんなが就職する時に問われる力は、この授業をやればやるほど身につきます」と。
この授業は、プレゼンなどを多用したスタイルを取っています。そのため、主体的な行動が必要であり、コミュニケーションやチームワークなどを求められます。必然的に21世紀型スキルが身につく仕掛けが随所に施されているのです。
経験から貢献へ
人間として大きく成長する生徒たち
計り知れません。なお、留学制度は、3か月または1年間を選びます。
中3以降に希望者対象で行われている海外研修旅行は、目的に応じた選択が可能です。
例えば、中3のニュージーランドまたはアメリカでの語学研修は、アクテビティの要素が強く、初めて海外経験を送る生徒でも安心して文化に触れられるようになっています。また今年から始まるセブ島での語学研修は、みっちりと英語漬けで過ごす2週間。その他、イギリス(高1・2年)、チェコ・オーストリア(高2)など、いく通りもの選択肢があるので、自分の興味関心や成長度合いでプログラムを選ぶことができます。
生徒たちは、多様な文化を直に肌で経験し、本物に触れることで得た感動や体験を糧にして、ひと回り大きく成長して帰ってきます。
山名先生に、帰国後の生徒たちにどんな変化が見られるのかを伺いました。
「海外に対して興味関心が湧くだけではなく、滞在はホームステイなので、"自分のことは自分でやる"というクセがつくようです。語学面で言えば、3週間なので話せるようになるかというと正直難しいとは思いますが、リスニング力はだいぶ伸びて帰ってきます」
帰国後の生徒たちは、クラスに入ったときの雰囲気からして異なっているのだとか。
「何事にも積極的だったり、自信を持って物事に臨むのか、"頼り甲斐が出た"という表現が適当かもしれませんね」(山名先生)
先生方はそんな生徒たちを「大人になって帰ってきた」と感じるそうです。
聖徳学園では、海外研修の前にはどんな活動をしているのでしょうか。
例えば、高1と高2の生徒が参加する「ベトナム研修旅行」の事前学習でも、「自分たちに何ができるのか」をベースに考えた授業が行われました。
実はその前年度にベトナム研修旅行へ行った生徒たちが、現地の「在日ベトナム人仏教信者会」の方とご縁があったんだとか。
「生徒はこの方たちがベトナムの孤児の支援をしていると聞き、自分たちがどう役立てるかを考えました。僕からは、『何かをやらなければいけない』くらいしか話していませんでした」(山名先生)
生徒たちが決めたのは、孤児たちへの寄付。教育費に注目し、年間で一人いくら必要なのか、目標金額を設定して、それを貯めるために、現地の日系企業のスーパーで販売を行いました。 「生徒たちは、ベトナム人に受けそうな日本のものは何があるかと考え、そうめんと唐辛子を売って、その売り上げ金を寄付することに決めました」(山名先生)
唐辛子は武蔵野産のものを入手するために、生徒たちは武蔵境にある「地域活性化委員会」でプレゼンを行いました。年間の生産量が決まっている希少なものだったため、山名先生は価格交渉などを行っていましたが、生徒たちの熱意に賛同し、無料で唐辛子を分けてくださったのだとか。
現地では販促のためにベトナムの日本語学校の学生たちと一緒にポスターを作ったり、日本企業のベトナム工場へ行き、現地で売れそうなものの販売提案をしたり、生徒たちは目標金額を集めるために様々なアイディアを試しました。 現地ベトナムの工場でも、生徒たちの思いに共感した大人たちから思わぬサプライズがあり、生徒たちは感動しきりという出来事もあったそうです。
使える力を養っているのが、聖徳学園のICT教育です。
これらの活動を行う目的と原動力とは、なんなのでしょうか。
「"貢献"という考え方が、授業の主軸になっています。生徒たちには貢献マインドを普段の生活に生かしてほしいと思っています。単なる国際交流を目指すなら、英語を学べばいいのかもしれません。しかし、本校のグローバル教育の意味を考えたとき、その先に見据えているのは、見たこともない、行ったこともない国の人たちにも貢献するという気持ちを育てることです。そのことは、身近にいる人たちも大切にできるということにもつながるのではないでしょうか。それがこの授業を行う、一番の哲学だと考えています」と山名先生は話します。
聖徳学園のグローバル教育は、日本人らしい「和」の精神をもって、気負うことなく、軽やかなフットワークで世界に貢献できる人材を育成すること。自分の周りの幸せを願い、自分自身も幸せになる力をもつ人間教育を行っているのです。