学校特集
東京成徳大学深谷中学・高等学校
2013年に開校して今年で4年目。「世界にTOBIDASE」を合言葉に、密度の濃い教育を展開する東京成徳大学深谷中学・高等学校。緑豊かな環境の中で、日々、生徒たちの中に眠る「宝(資質・能力)」を研き上げています。
開校以来、国際教育に力を入れてきた同校では、今年の1月中旬から4月初旬にかけての80日間、第1期生たちによる"学期留学"が実現しました。かつてないほど長く、刺激的な期間を海外で過ごした生徒たち。その成長度は計り知れないものがあるはずです。
「徳を成す人間」の育成という創立90余年の東京成徳学園の「建学の精神」の下、中高一貫校ならではのチャレンジ精神でダイナミックな教育実践校として注目を浴びる同校の様子と、約3ヶ月間におよんだ「ニュージーランド学期留学」について、中学校教頭の富岡達夫先生にお話を伺いました。
英・数・国は標準時間の1.5倍。習熟度別クラスで「完全習得主義」の指導
深谷のチャレンジ ① 教師が目指す理想の教育体制
生徒一人ひとりの資質と個性に合わせた丁寧な教育。東京成徳大学深谷の中高一貫コースは、3つの学習指導ポリシーを基本とした少数精鋭教育を行っています。
第1は、「完全習得主義に立った指導」。学んだ知識が本当に身についているかどうか、生徒一人ひとりの理解度や定着度を測りながら、基礎学力の再確認・再構築をした上で、さらなる学力を上乗せしていきます。
第2は、「多角的学習主義」。「勉強への開眼と学力の伸長」を目的に、海外への修学旅行、スピーチコンテストやプレゼンコンテスト、農業体験など学習意欲を刺激するさまざまなアプローチを行っています。
第3は、「実力重視主義」。定期試験とは別に実力試験を実施し、難関大学合格に結びつく実践的な学力を養成していきます。
こうした学習指導ポリシーを実現するために、中学校・高等学校の6年間を2年間ずつ3期に分け、中学1・2年生時を基礎期、中学3年生・高校1年生時を充実期、高校2・3年生を応用期と位置づけ、その時期の目的に応じた教育活動を実践しています。
基礎教科である国語・数学・英語は標準時数1.5倍の授業量で、長期休業中にも講習を実施しています。理科も標準より多くの授業時数をとり、増加分を実験や発表などの教育活動に充てて充実させています。習熟度別クラスと少人数クラス編成で、英語・数学は週6時間、理科は週4時間。標準を上回る時間数で、一人ひとりの能力に研きをかけています。
実践的な英語力を育てる英語教育とイングリッシュ・キャンプ
深谷のチャレンジ ② グローバルな人材の資質を育てる
東京成徳大学深谷が追求する教育は、国際社会を舞台に「グローバルに活躍できる資質」を育てることです。求められる資質とは、「確かな学力と高い語学力を有し、相手の意見に真摯に耳を傾け、自分の考えや意志をしっかりと述べることができる能力を持ち合わせていること」と、富岡先生は話します。
「本校では、英語は学習ではなく『スキル』(技術)と捉え、『聞く』『伝える』『読む』力を中心とした、実践的な英語力を育てることを重視しています」(富岡先生)
その第一歩が、1・2年生が校内で実施する「イングリッシュ・キャンプ」です。ネイティブスピーカーの外部講師を迎え、スピーキングやリスニングの授業、さらにゲームや音楽、スポーツなどを取り入れ、バラエティに富んだ時間を楽しみながら英語力を身につける3日間です。
中1は通学型で、目標は1人でスピーチができるようになること。短期間ながら、英語で簡単な自己紹介ができるほどになります。中2は宿泊型。朝起きた時から夜寝るまで、まさに英語漬けの時間で、目標は「3人1組でスキット(寸劇)」の実演。オリジナルな台本づくりから始まり、練習を重ねて、最終日には、生徒や先生、保護者の前で成果を披露します。
講師はアメリカ、ジャマイカ、フィリピンと国籍も文化も異なる方たちで、生徒たちの視野を広げる異文化理解にも役立っています。
また、普段の週6時間の英語教育のうち2時間は、ネイティブの講師による会話中心の授業です。講師は授業は勿論学校行事や給食にも参加しているので、生徒たちも必然的に日々の学校生活で英語を使う場面が多くなります。「普段から英語を自然に話す習慣を身につけ、英語を話すことへのハードルを低くすることが、実践的な英語力を高める近道なのです」と富岡先生。
資格試験の受験にも段階的な目標を設定し、中2では英検3級以上、中3までに英検準2級以上、高校からは「国際社会」で通用する英語力の育成のためにTOEICに移行して、高1までにスコア550点以上、高3では650点を目指しています。
中3でマレーシア・シンガポール修学旅行
深谷のチャレンジ ③ 語学研修で研きをかける
イングリッシュ・キャンプや専任のネイティブ講師による英会話授業などで積み重ねた語学力の実践の場と位置づけられているのが、中3の7月に行われるマレーシア・シンガポール修学旅行(4泊5日)です。
マレーシアもシンガポールも英語が公用語。マレーシアでは首都クアラルンプールから郊外の農村に出かけて、稲刈りやバティック染めにチャレンジしたり、ホームビジットも経験します。クアラルンプール市内では地元の学校を訪問して同世代の子どもたちと遊びを通じて文化交流を行います。「本校の生徒は、折り紙やけん玉、羽根つき、マレーシアの生徒たちは吹き矢、チョンカ(ビー玉ゲーム)など互いの伝統的な遊びを教え合いました。生徒たちは言葉で伝えきれないところを身振り手振りのジェスチャーを交えながら上手にコミュニケーションをとっていました」(富岡先生)
シンガポールでは、グループ行動で市内を見学。現地の大学生のサポートを得ながら、観光やショッピング、食事などあらゆる場面で生徒たちは、生きた英会話を実践する場面に遭遇していくのです。
「同年代の子どもたちが母国語ではないのにラクラクと英語を話す姿に、刺激を受けるようです。農村体験などの未知の体験で最初は戸惑うことも多いようですが、ショッピングをしたりフードコートで食事をしたり、通じなかった英語の失敗も含めて楽しい思い出をつくっています。この旅行がコミュニケーションには英語が不可欠であるという認識を深める契機となり、高校以降の英語学習へのさらなるモチベーションになると期待しています」(富岡先生)
80日間のニュージーランド学期留学
深谷のチャレンジ ④ グローバル社会へのファースト・ステップ
さまざまな英語教育の延長線上に位置づけられる中学校の最終プログラムが、中3の3学期に実施されるニュージーランドへの学期留学(希望制)です。
今春の1〜4月に、東京成徳大学深谷中学校として初めての80日間の学期留学が実現しました。行き先はニュージーランド最大の都市であるオークランド。兄弟校である東京成徳大学中学校と同時に行う企画ですが、深谷校からは第1期生の6名が参加しました。希望者の資格制限はありませんが、6人とも英検3級以上はすでに取得しています。
この学期留学の最大の特徴は、現地の第1学期に相当する2月上旬から4月初旬の約2カ月間、現地校(高校1年)に正規の生徒として編入することです。
最初は、2人1組でホームステイしながら現地の政府公認語学学校において、編入準備コース(2週間)を受講します。その後、現地校に分散編入し、現地の生徒と同じテキストを使って、英語による授業を受けるのです。このホームステイは、1家庭に1人が基本!日本人同士で固まらないように、現地校1校につき1人が配属されます(東京成徳大学中学校の生徒2名が加わる)。つまり留学期間中は、自分自身の力で困難に立ち向かい、コミュニケーションをとらざるを得ない環境に置かれるのです。
「2人1組で過ごしていた時は心強かったけれど、現地校に1人で通い始めた最初は、思った以上に英語が通じず、辛かった」「最初のうちは現地の人の話す速い英語をなかなか聴き取ることができず、どうなることかと思いました」と、最初は不安で一杯だった生徒たち。しかし少しずつ生活に慣れるうちに、自分で考えて行動しなければならないことを悟り、「理科の実験の授業でペアを組んだ現地校の友達と仲良くなったり、ラグビーの授業で一緒に戦術を立てたり、だんだん英語が通じるようになってからは、しゃべるのが楽しくなってきました」「得意なサッカーや日本のアニメなど、今まで経験してきたことをすべて活用することで、人間関係を広げることができました」と環境に対する順応力を発揮したそうです。
学期留学を終えた生徒たちが口にする、感謝と将来への希望
深谷のチャレンジ ⑤ 学期留学の効果と影響
生徒たちの学期留学報告会では、現地に着いていきなりスーツケースが壊れるアクシデントに遭遇したこと、家ではやったことがなかった食後の皿洗いなどのお手伝いを経験したこと、慣れない料理を作ったこと、ホームシックになったことなどさまざまな成功・失敗体験が披露されました。そして、最後に「すっごく楽しかった!」と口をそろえた生徒たち。英語力のスキルアップだけでなく、日本以外の国からの留学生とも知り合って交友関係が広がったことも、貴重な財産となりました。
「基本的に、現地の人たちはみんな"Welcome"精神で迎えてくれます。けれど、相手のアプローチを待っているだけではいけないことも実感したようです。黙っていると、相手は1人でいたいのだと解釈して近寄ってこないというのです。でも、自分からアクションを起こせば、どんどん受け入れてくれる。学期留学で学んだ英語を生かして、東京オリンピックでボランティア活動をしてみたいと話す生徒もいました」(富岡先生)
一回りも二回りも成長して帰ってきた生徒たちは、家庭での生活行動にも変化が現れているようです。
「家の手伝いを積極的に行うようになり、家族に『ありがとう』と感謝の気持ちを口にするようになったとご家族からの報告もありました。それまで当たり前だと思っていた家族や友達のありがたみを痛切に感じたのでしょう。保護者の方も大人になった我が子の成長を実感されているようです」(富岡先生)
失敗を恐れるな! 次に成功すればいい
深谷のチャレンジ ⑥ 失敗から学ぶ実学重視の教育
"実学"重視の教育も、東京成徳大学深谷の特徴です。
特に理科の授業は「観察と実験」が合言葉。生徒自らが実験する機会を増やし、知的好奇心や探究心を刺激していきます。実験は失敗することも多いのですが、なぜ失敗したのかと学びを深めていくことが大切だと、先生方は確信しているのです。
そんな深谷らしいオリジナルな実験授業の典型が、中2の「豚足」を使った標本づくりです。豚足を調理室で煮ることから始めて、歯ブラシで足の骨をきれいに洗い出し、バラバラになった骨を漂白してから瞬間接着剤で組み立てていく作業。最初は、「気持ち悪〜い」と言っていた生徒たちも、作業を進めるうちにどんどん興味深く観察するようになっていきます。「まるでラーメン屋さんのような光景が広がる」(富岡先生)実験ですが、生徒たち自身で細かな部位の組み合わせを調べたり、話し合ったり、失敗を繰り返す試行錯誤の末に標本を完成させます。
授業で作られた豚足の骨格標本は、理科室に展示されています。
豊富な学校行事で育てるチャレンジ精神
深谷のチャレンジ ⑦ 伝える・聞く能力を研く
能動的・主体的に学ぶ力を身につける「アクティブ・ラーニング」も、積極的に導入している東京成徳大学深谷中学校。生徒が調べ学習の成果を発表したり、相手の立場や考えを尊重しながら、話し合って進める学習活動は、東京成徳学園の「建学の精神」である「徳を成す人間」の育成と通じるものがあります。
1年を通じて行われる盛りだくさんな学校行事はどれも、中学の段階から本物に触れることを重視しています。国立劇場や国立演芸場で鑑賞する歌舞伎・文楽・落語(全学年)は日本の伝統文化に触れる体験ですし、新潟での宿泊農村生活体験(中2)、宿泊スキー教室(中1・2/2泊3日)も楽しみながら視野を広める機会となっています。
グローバルな人材に求められる資質を育てるためにコミュニケーション能力を強化する場面も積極的につくっています。日常生活において、普段から考え感じていること、チャレンジしていることなどをテーマに行われるスピーチコンテストや、パワーポイントを使って自分の調べたこと考えたことを発表するプレゼンコンテスト、普段の学習を中心に興味のあるテーマを自ら設定し、模造紙を使ったり、紙芝居にしたり、パワーポイントを使ったりして発表する桐蔭祭(文化祭)の学習発表は、その代表的な例です。 「発表する側は、自分が感じたこと、考えたこと、調べたことなどをわかりやすく伝える能力を求められ、聞く側も、相手の話をきちんと聞いて把握する訓練が求められます」(富岡先生)。
長距離ハイキングや体育祭、スキー教室といった行事は、学年の枠をこえて生徒たちの絆を深める機会となっています。また、合唱祭やニュージーランド学期留学は東京成徳大学中学校との合同開催ですので、東京校との交流をとおしても人間関係を広げています。
「普段の授業や部活動の中でも生徒の成長を感じますが、特に学校行事をとおしての成長は著しく、逞しささえ感じます。本校の生徒はとりわけ、創造力と自立心が旺盛になります。なんでも自分でやってみよう、つくっていこうとするチャレンジ精神旺盛な生徒が育っています」(富岡先生)。
「生徒=宝」と捉えて一人ひとりを研く東京成徳大学深谷の教育方針が、確実に実を結んでいる証なのです。