学校特集
桜丘中学・高等学校
2014年度の中学・高校の入学生からiPadの本格活用を始めている桜丘中学・高等学校。
授業はもちろん、学校行事やクラブ活動など学校生活のあらゆる場面でiPadが使われ、「こんなこともできる」と生徒の創意工夫を助けるツールとして定着しています。今年度からすべての学年が手にするようになり、生徒会の役員選挙など全員が使えるからこその活用法が生徒から提案されています。
海外研修(Global Fieldwork Trip:GFT)として今年3月新たに始めたのが、高1全員参加のハワイGFTです。文化交流イベント「ホノルル・フェスティバル」に参加して、ホームステイでは味わえない異文化交流を体験しました。今年度は中2のシンガポールGFTを開始します。
桜丘が力を入れている英語教育と情報教育の取り組みを中心に、次世代教育開発担当参与の品田健先生にお話を伺いました。
日系人から外向き志向の勇気を得た「ハワイGFT」
聞き手がアクションを起こすプレゼンテーションを目指す
桜丘中学・高等学校はフィールドワーク中心のGFTや語学留学など数多くの海外プログラムを用意しています。昨年度新たに加わったのが、高1全員が参加するハワイGFTです。1回目は10クラス330名が参加。ハワイ最大の文化交流イベント「ホノルル・フェスティバル」で日本文化を紹介するブースをクラスごとに出展、現地のみなさんにプレゼンテーションをします。
書道部がパフォーマンスを披露!
単にプレゼンテーション能力や英語力を試すだけでなく、フェスティバルに訪れる幅広い年代、環太平洋の様々な人たちと交流して、グローバル化を肌で体感することもプログラムのねらいの1つです。
ハワイには多くの日系人が暮らしています。海外移住という日本人の"海外進出"が始まったのは130年以上前からで、中でもハワイの日系人の歴史は古く「日本人のグローバル化の先駆けともいえるハワイの日系人との交流が、日本人の内向き志向の殻を破るきっかけになることも期待して研修先にハワイを選んだのです」と品田先生は説明します。
一見、日本人と変わりない日系人の、異文化社会に飛び込むたくましさと適応力を目の当たりにし、生徒からは「内向き志向だと思い込んでいた」「自分もできるんだと思えた」など前向きな感想が出ています。
各クラスが紹介した日本文化は、箸や折り紙、縁日、殺陣などです。例えば「箸」のブースで、右手で箸を使っていると、「箸は必ず右手で持たなければならないのですか?」と質問されました。日本人の発想として左利きなら左手で箸を持つのは当たり前ですが、外国人にとっては当たり前ではないかもしれません。「そうした気づきを大切にしてほしい」と品田先生は言います。殺陣のブースでは立ち回りに参加した子どもが切られ役に何度も"とどめ"を刺してきたのを見て、生徒は文化の違いを感じたようです。
一貫生のクラスはプレゼンテーションで「英語を使おう」という意欲が見られました。ただ、こちらの考えを伝えることで精一杯だったとのこと。
帰国後のプレゼンテーション講座では、「自分たちが調べたこと、考えたことを聞いてもらうだけでなく、相手が何らかのアクションを起こしてくれることを目指そう」と目標を確認しました。事前研修として2〜3回、留学している学生さんたちから、英語の技術的なこと、知識として説明が必要なことをアドバイスしてもらいました。それも役に立ちましたが、現地でやってみて初めてわかることもあると強く感じたそうです。
そこで今年度はハワイ大学の協力で、学生に一般参加者として生徒のプレゼンテーションを聞いてもらい、フェスティバル翌日に一緒に振り返りを行う計画をしています。夏休み前には高2が高1に体験談を伝える機会を設けます。ハワイGFTは最初の3年間は、「フェスティバルに参加して日本文化を紹介する」ことを中心とする現行のスタイルで行います。
今年度から中2のシンガポールGFTがスタート
ノンネイティブの英語から「話す」意欲を学ぶ
外国人力士を生んだハワイならではのプレゼンです。
2016年度は夏休みに中2のシンガポールGFTを実施します。多民族・多宗教国家のシンガポールは多様性を学ぶには打って付けの環境です。日系企業を訪問し、日本の企業が海外で活動するとはどういうことか、様々な国籍や文化を持つ人々が共に働くことについて、シンガポールに赴任している日本人と現地採用のシンガポール人から話を聞く予定です。
英語学習を始めて1年程度の中2が、その時点でどこまでできるかが試されます。中1の英語の授業は週7時間のうち、ネイティブ教員による英会話が5時間、日本人教員による文法の授業が2時間です。これはカタカナ英語が染みつく前にネイティブの英語に慣れさせるためですが、リスニングだけでなく発音にも効果が表れています。文法が難しくなる中2・中3の授業時間は同じですが、英会話と文法の比率が逆転します。桜丘には専任4名、非常勤2名のネイティブ教員がいて、彼らが高1の副担任になるなど日常的に英語を学べる環境が整っています。
ただし、シンガポールで耳にする英語は、中国語やマレー語などを母語とする人たちが話すシンガポール英語(シングリッシュ)です。ネイティブ教員が話すアメリカ英語やイギリス英語に比べ、母語のくせがあり聞き取りにくいでしょうが、それも「英語」です。「英語を話す人の多くはノンネイティブです。ネイティブのような発音でなくてもいいこと、話そうとする姿勢が大切なことを感じてほしい」と品田先生は期待します。中3はオーストラリアでのホームステイを経験すると、異口同音に「もっと話せるように」と言います。中2で海外に行くことで、もっと早くから英語学習のモチベーションが上がることでしょう。
現在の中2から、高1まで毎年、海外研修を経験することになります(表)。今の時代、国内勤務でも外国人が同僚になる、海外企業と交渉することは十分考えられます。国語科教員の品田先生も「隣の席にネイティブ教員がいて、海外姉妹校の先生方とやり取りするとは想像していませんでした」と笑います。生徒が将来どのような進路を選んだとしても、桜丘での海外研修がどこかで役に立つことでしょう。
パレードでは全生徒が一丸となりダンスを披露しました♪
パレードでは全生徒が一丸となりダンスを披露しました♪
授業やクラブ活動、学校行事など
多岐にわたるiPadの活用が外部から評価
2014年度から中学・高校の新入生にiPadの導入を始めている桜丘。学校生活のあらゆる場面で活用していることが評価され、2015年度「第12回 日本e-Learning大賞」の文部科学大臣賞を受賞しました。これについて品田先生は次のように答えます。「今でもiPadの活用に不安を抱いている教員はいますが、受賞は教員の自信になりましたし、不安の解消にも少なからずつながっています」。
中でもクラブ活動の活用が盛んです。使い始めの頃はただ映像を撮ってそれを見ていましたが、最近は「2動画同時再生」や「コマ送り再生」など、アプリの進化でいろいろなことができるようになっています。例えば硬式野球部では、バットのグリップエンドにセンサーを取り付けてスイングすると、スイングの速度や軌道などを解析するアプリを活用しています。中には自分でデータベースソフトのプログラミングを勉強して、走り込みのデータ(走った距離と時間)をiPadで管理している生徒もいるそうです。
2015年度に新設した高校の「CL(Creative Leaders)クラス」では、iPadを活用して新しい授業形態や教授法を積極的に試しています。手応えがあれば他のクラスや学年にも展開します。その1つが英語の音読チェックです。生徒は音読した音声を録音、教員に音声ファイル送信します。教員は1人1人の発音をチェックしてアドバイスのコメントを送り、気になる生徒は学校で指導することもあります。こうしたやり取りは英語以外にも応用でき、数学の演習問題や現代文の記述問題など中学・高校で実施しています。
iPadの導入によって、従来の講義型授業から、ペアワークやグループワークの生徒参加型授業が進み、主体的、協働的に学ぶアクティブラーニングを実現できています。生徒の積極性や学習意欲など学びに役立っている手応えはあります。
桜丘ではiPad導入と学力向上を直結させていませんが、中1の数学の春期講習で「Qubena(キュビナ)」という人工知能型のタブレット教材を使用したところ、講習前後のテストで受講した生徒(8名)の平均点が10点向上しました。
「みんなが同じプリント問題を解く通常の補習では、集中してこれだけ多くの問題数をこなすことはできなかったでしょう。一度習った範囲で、わからないところがそれぞれ違う補習の場合に有効なツールではないか」と品田先生は言います。この結果を受けて、今年度の中学数学の夏期講習に活用する予定です。
タブレットが大活躍!
Qubenaはヒントや解説が出るので、教科指導の必要がないのも特徴です。数学が専門ではない品田先生が立ち会い、60分の講義中に教科的なことを教えたのは1〜2回程度でした。それでも"先生いらず"というわけではありません。「Qubenaマネージャー」で表示される解答時間や正答率などの情報を基に、生徒を励ましたり褒めたりするコーチングが教員の大切な役目になります。
タブレット教材の活用が進めば教員の役割も変わってくるでしょう。「生徒は興味があれば教科書に載っていないこともどんどん調べます。教員が教える範囲を超えて生徒が『こんな意見があるようですが』と言ったとき、教員は『それはどこで知ったの?』『次の授業でみんなに説明してくれる?』と言えるようでなければなりません。生徒の可能性を伸ばすには従来の教授法にこだわらず、『それ、おもしろいね』『ちょっと教えて』と言えるかどうか、教員の切り換えが求められます」(品田先生)
今年度からiPadを全生徒が持つ環境に
「ICT委員」の新設でさらなる積極活用が進む
桜丘は今年度から中高の全生徒がiPadを持つようになります。昨年度からクラスに「ICT委員」を設けて、今年度から本格的に活動を始めました。例えば新入生向けのiPadの使い方や、ルールについて生徒が自分たちで考えたいと申し出るなど前向きな意見が出ています。
クラブ活動をしていると、放課後に委員が集まって話し合うことがなかなかできません。委員長から、教員使用のアプリ「iTunes U」のディスカッション機能を使いたいので、アプリの使用を許可してほしいという申し出がありました。ICT委員会ではこのアプリを使って議論したり、連絡事項を知らせたり、議事録を載せています。「話し合いの場を持ちにくい」という課題を、生徒はICTを使って解決したわけです。
さらに、生徒会の役員選挙をiPadで投票したいという提案もあります。現実社会ではインターネット投票はできないので、実施すれば世の中の先取りになります。昼休みにクラスを回って演説するアナログの選挙活動だけでなく、国政選挙のテレビ演説のように立候補者の演説のムービーを「CYBER CAMPUS」で動画配信したり、開票結果をリアルタイムで表示するのもいいでしょう。桜丘の学校生活により深く、より広くICTが浸透しそうです。
2015年入試から「思考力テスト」を実施
考えることをあきらめない生徒の成長に期待
桜丘では2015年の中学入試から適性検査型の「思考力テスト」を実施しています。その2期生となる今春入学の中1の生徒について、品田先生は「考えることをあきらめない、表現することに積極的」と評します。
思考力テストは初見の問題でも設問中の情報をヒントにあきらめないで記述すれば、考え方の過程を評価します。受験生はこちらが驚くほどよく書いてくれます。「がんばれば評価してもらえる」ことを経験しているからでしょう、こちらの話をよく聞いて、考えようとします。自分の意見を発表することへの抵抗感も低く、一般受験で入学した生徒の刺激になっています。
オリエンテーションで高1と同様の話題を話したところ、結構いい反応が返ってきました。人工知能が3Dプリンターを使ってレンブラントらしさを再現したニュースに触れて、「君たちの存在意義は?」と聞くと、「全くのオリジナルは人工知能にはできないはず」など前向きな発想が出ました。こちらの投げかけに対して、「いろいろな画家の技術を学ぶ必要がある」「真似することも大事ではないか」など、考えている姿勢が伝わってきました。こうした生徒がiPadを手にしたときどのように自己表現できるか、彼らの成長が楽しみです。