学校特集
相模女子大学中学部・高等部
相模女子大学の前身は明治33(1900)年に東京都文京区に創設された日本女学校。昭和21(1946)年に現在の神奈川県相模原市に移転し、幼稚部~大学院までを擁する総合学園として幅広い教育を行っています。
相模女子大学中学部・高等部では創立者・西澤之助氏の言葉「高潔善美」を建学の精神に掲げ、学力だけでなく人間力や女性ならではのたおやかさを併せ持つ女性を育成し、世に送り出しています。相模女子大で取り組んでいる人間味あふれる豊かな教育について、中学部の研究・教務部長の堤真美先生に話を伺いました。
自然があふれる広大な校地で
学力だけでなく豊かな心を育てる
相模女子大学中学部・高等部は、小田急線・相模大野駅から徒歩10分と便利な場所にありながら、自然環境に恵まれた抜群の教育環境を誇っています。校地に一歩足を踏み入れると、その広さと緑豊かな環境に誰もが心を奪われるでしょう。東京ドーム4つぶんの広大な校地には共学の幼稚部と小学部、そして女子教育を行う中学部、高等部、大学、短期大学部、大学院が居を構えています。
見ているだけで癒される
校門から中学部校舎まで森林浴さながらにきれいな空気を胸一杯に吸い込みながら歩いていくと、芝生の校庭が目に心地よく、さらに小学部の脇を通り過ぎるとなんと山羊小屋が! 小学生たちが通りすがりに校庭の草を摘んで持って行くと、山羊が嬉しそうに寄って来てエサを食べていました。こんな豊かでほほえましい環境の下で、生徒たちは日々を過ごしているのです。
同校の教育について、堤先生は次のように話します。「創立者の言葉からとった建学の精神"高潔善美"には、高い志を持って信念を貫く強さと、女性としてのたおやかさや美しいものを愛する心を併せ持つ、という教育理念がこめられています。女子教育が浸透した今は、①確かな学力 ②女性としての品格、感受性 ③社会に貢献できる力 の3つを教育の柱に据えています」。
命と向き合う「マーガレットタイム」で
自分の存在の確かさを感じ、自己肯定感が高まる
受精卵の大きさを実感する
堤先生は同校の生徒を「かなり素直で、言われたことをまっすぐ受け止めて行動に移せる生徒が多い」と評します。とはいえ、これからの時代は与えられた課題を素直にこなすだけでなく主体的な学びが求められます。でも中学生の女子は素直に自分を表現できなかったり、失敗を恐れて新しいことを始める時二の足を踏んだりしがちです。そこで、「自己肯定感を高めれば、生きることにも学びにも積極的になれるはず」という思いから生まれたのが、マーガレットタイムと呼ばれる総合学習の時間です。
前年度からの試行を経て、2015年度から本格始動したマーガレットタイムは、月曜の6時間目と土曜の3時間目に組み込まれています。合唱コンクールなどの行事の前は練習や準備に使いますが、それ以外の時間は、主に命と向き合う時間にあてています。
中1では「かけがえのない自分の命」と向き合うために、誕生学協会から講師を招き、女性の体の構造、受精や着床、胎児がおなかの中でどのように成長していくのかなど、命の誕生についてつぶさに学びます。「ハート型の紙片が配られ、生徒たちはその紙を光に透かしてみます。すると講師の先生が"紙に開いている0.1mmの小さな穴が、命のスタートである受精卵の大きさです"と教えてくれます。さらに胎児に小さな手ができたとき、呼吸を始めたころの大きさ、指しゃぶりしておっぱいを飲む練習をしている様子なども画像で見せてくれ、生徒たちは生命の神秘を実感します」(堤先生)。12歳、13歳の命がここにあることは当たり前ではない、あなたたちがここにいるのは奇跡のようなことなのだ――という強いメッセージを生徒はしっかりと受け止めます。
戦争と命について考える
中2のテーマは「自然の命と人間の命」。1学期の林間学校で農家に宿泊する農業体験を通して作物を作る苦労を体験し、その後の食料自給率やフードマイレージの学びにつなげていきます。
2学期は家畜・豚に目を向けます。豚の成長、妊娠や出産について調べ、人の都合で豚を育て、その命をいただいていることを理解するのがねらいです。
さらに地球上で、他の生き物の命を操作できるのは人間だけだということ、だからこそ地球に対して、私たちは責任があるのだということの一端を考えてもらいたいのです。
また、2年生では、社会科で歴史を学習し、3学期には近代史、そして戦争について学びます。
赤ちゃんをゲストティーチャーに迎える
そして3年生のマーガレットタイムの前半は「歴史の中の命」がテーマです。
6月の修学旅行は沖縄に行き、戦争の話を聞いたり防空壕やひめゆりの塔を訪れて戦争と命を身をもって学びます。2学期は命を育む可能性をもつ女性として、助産師を招いて話を聞き、妊婦ジャケットを着て妊婦体験を行うほか、各クラスで4組のママと赤ちゃんをゲストティーチャーに迎えて赤ちゃんを抱っこしたりあやしたりする時間を設けます。赤ちゃんが重くて大変なこと、なかなか泣き止まない赤ちゃんをママが抱っこするとピタリと泣き止むことなど、母子の絆を目の当たりにし、母の偉大さを実感することができるのです。
「授業の後に感想を聞くと、"母はこんなふうに大事に育ててくれたんだ""小さいころのことを思い出した""ずっと私のことを考えてくれているんだな"など、家族への感謝を口にする生徒も多いですね」と堤先生は笑顔で話します。
こうして自分がここにいることの価値を実感した生徒たちは、「もっと頑張ろう」という思いを強め、勉強にも友だち関係にも行事や部活動にも、前向きに取り組む姿勢を育んでいくのです。
生活ノートで学習面、生活面を
手厚くフォローし自律につなげる
生徒全員に配付している「生活ノート」は、市販の手帳に生徒手帳の要素を織り込んだオリジナルのノートです。4年前に先生が1学期分を手作りして印刷して配付し始めましたが、好評だったため2014年度から現在の形になりました。
見開きで1週間の生活を記録するもので、平日の欄は授業の持ち物、テストの範囲、宿題などを書き出し、帰宅後の予定や家庭学習も記録します。やるべきことを書き出し、放課後は1時間刻みで書きこめるようになっているので、どの時間帯に何をこなすか計画を立て、計画通りに実行できたかどうかを振り返って記録します。
「最初は計画倒れが多くても、慣れてくると部活や習い事などとのバランスをとりながらうまく自分なりのサイクルが作れるようになります」と堤先生。それまで自覚していなかった生活リズムの乱れも、手帳に書いて「見える化」することで意識が高まります。実際に養護教諭も「このノートを使うようになってから"夜更かしして体がだるい"と言って保健室を訪れる生徒が減りました」と、生活ノートの効果を実感しているそうです。
学校生活はより一層楽しくなる!
1日を振り返って気づいたことを書きこむメモ欄には「今日はむしゃくしゃした」「部活でいやなことがあった」など、そのときの気持ちを書く生徒もいます。先生と保護者が週1回はノートに目を通すので、先生や保護者が生徒の心の揺らぎに気づいたり、コミュニケーションのきっかけとしても活用されています。
毎日、家庭学習に取り組んだ時間を書きこみ、1週間ぶんを合算して、手帳の後ろにある学習時間記入欄を1時間1マスずつ色を塗る楽しい仕掛けも。生徒たちは楽しみながら自分をコントロールし、達成感を得られる仕組みができているのです。また、手帳の右上に「○○まであと30日!」などカウントダウンを記入する欄もあり、全国大会を目指す強豪のバスケ部の生徒たちは「全国一まであと50日!」といった書き込みや、朝練のシュート達成率などを書きこんで励みにしているそうです。生活ノートは一人ひとりのオリジナル手帳として活用され、生徒が充実した学校生活を送るためのツールとして役に立っています。
海外研修や留学体験、全員参加のNZ修学旅行で
国際感覚が磨かれ、使える英語が身につく
同校は英語教育、国際教育にも力を入れています。英語のカリキュラムについて、英語科の山村千代先生に話を伺いました。
「英語では"読む、書く、聞く、話す"の4技能を磨く授業を行っています。特にこれからは話せる英語、使える英語が求められるので、単語や文法の暗記に留まらず、実際に話す機会をたくさん設けています。
たとえば中1の授業では、"eat banana"というカードを見せて、この言葉を使った文を言ってもらいます。
I eat banana.
Do you eat banana?
Please eat banana.
Don't eat banana.
など、いろいろな文章が考えられますね。生徒が自分で考えて発話する場をたくさん作ることで、自然と英文が出てくるような下地を作ります」。と山村先生は話します。
リッシュ・キャンプ。3日間はあっという間!
もちろん、英単語や定型文など基礎の蓄積も大事にしています。毎朝、全校一斉に取り組むのが英単語テスト。1週間に20個の英単語がテスト範囲で、この中から10個が出題されます。同じ単語を毎日繰り返し学習することで自然と知識が定着していく仕組みで、1年間に1000語もの語彙が身につきます。
「定型文をたくさん知っていると話し始めやすくなりますし、フレーズが蓄積されていると会話で使ってみたくなるので、文をフレーズで覚えるよう指導しています」(山村先生)。
そして覚えた英単語やフレーズを実際に話して使ってみる"度胸試し"の場も数多く用意されています。
まず、中1の3月には国内で英語漬けの生活をする2泊3日のイングリッシュキャンプを実施。学校からバスで現地に行く車中も英語で会話します。現地ではトレジャーハントやゲーム、英語劇など楽しく遊びながら英語に親しむプログラムに取り組みます。1年間学習してきた成果を試し、英語を話す楽しさを体験することで、生徒たちはそれまで以上に英語に親しみ、臆せず英語を話せるようになるのです。
学年が上がると希望者向けに夏休みの海外語学研修が実施されます。オーストラリア・パースの姉妹校「プレンドビル・カトリック・カレッジ」では、生徒の家にホームステイしながら現地の学校生活を体験することができ、中2以上の希望者が2週間または4週間の研修に参加できます。高校生の希望者はカナダ西部でもっとも歴史のある「マニトバ大学」で23日間の研修に参加します。諸外国から参加する高校生のための集中英語プログラムを受講し、スピーキングやプレゼンテーションも行って論理的思考力や表現力も磨くことができます。
そして高2の6月には全員で4泊6日のニュージーランド修学旅行へ。ファームステイをして現地の生活を体験したり、現地高校を訪問して同世代の生徒と交流して異文化を体感します。
昨年からは、オーストラリアの姉妹校やイギリス・カナダの交流校との双方向交流も始まりました。在校生の家庭で留学生のホームステイを受け入れ、授業を始めとする体験プログラムを行います。自分たちの学校生活の中に留学生を受け入れることで、学校にいながらにして国際交流できる機会を作っているのです。
必修の茶道、行事やクラブなど
さまざまな活動で一人ひとりが輝ける
を受け、伝統文化に親しむ
同校では中1と高1で茶道が必修科目になっていて、裏千家の先生が指導にあたります。中1は伝統文化として茶道を学ぶ座学も多くとり入れられ、挨拶や所作の意味など、茶道の歴史や文化を学びます。高1は実技中心で、毎回和室でお茶のたて方、いただき方を学びます。1クラス35人~40人全員分のお茶のセットが用意されており、クラス単位での授業が可能なのです。茶道の時間は自分を磨き、自分の内面を見つめ、人としての幅を広げて女性らしい品格を身につける一助にもなっています。
「一緒に生まれ育つ」という意味をもつ「相生」という言葉を冠した「相生祭」は、毎年11月に学園をあげて盛大に行われる文化祭です。クラブ活動の発表や招待試合なども行わるほか、吹奏楽部による駅までのパレードもあり、どのクラブも全力を注いでこの日を迎えます。
コンクールや相生祭(文化祭)で活躍している吹奏楽部
書道部は相生祭でパフォーマンスを披露
部活動は12の運動部、10の文化部が活動しています。バスケットボール部やバトントワーリ ング部は全国大会の常連で、小学校でミニバスケットボールで活躍していた生徒がバスケ部を志望して入学するケースもあります。一方、ソフトテニス部はほとんどが未経験から始めているにも関わらず市大会で優勝したこともあるそうです。どのクラブも生徒のやる気や能力に合わせてそれぞれのぺースで努力し、充実した活動を行って結果につなげていることが分かります。
分けて競技を行い、大いに盛り上がる
日曜日に練習試合や大会に参加することも多いため、疲れを取る目的もあって月曜日はすべての部活動が休みになります。こうしたきめ細かい配慮も同校の特徴と言えるでしょう。
1月に行われる「主張コンクール」は自由なテーマで、今考えていること、聞いてほしいことを一人ずつ文章にまとめてスピーチします。クラスの代表者は全校生徒の前でスピーチして、優秀者は表彰されます。
全生徒がその場で2枚ずつ書き初めを行う「書き初め」でも優秀作品が選出されます。
「読書感想文コンクールのほか、合唱コンクールでも指揮者賞、伴奏賞、体育祭での100m走1位賞など、いろいろな場面で生徒を表彰し、努力を称えます。表現力に長けている子、運動が得意な子、書道やピアノが上手な子...すべての生徒がどこかでスポットを浴びられるように、いろいろな行事や活動を用意して生徒が輝ける場、スポットを浴びられる場面をたくさん作っています」と堤先生は話します。生徒たちは自分の個性や能力を生かしてさまざまな場で活躍し、それをお互いに認め合うことでますます自信をもって充実した学校生活を送ることができるのです。
広々とした豊かな環境の中で、自己肯定感をしっかりと育んだ生徒たちは、1日1日のとりくみが自分の未来を作っていくと信じて学校生活を送っています。のびやかな環境と生徒のいきいきした学校生活に興味がある受験生は、相生祭や学校説明会などの機会にぜひ一度、学校へ足を運んでみてください。