学校特集
浦和ルーテル学院中学校
1953年に埼玉で初のミッションスクールとして、米国ルーテル教会により創立された浦和ルーテル学院。昨年1月、新校舎が竣工し、さいたま市の浦和区から緑区に移転しました。 自然に恵まれた3万㎡の広大な敷地に建つ新校舎は、アメリカ人牧師が建てた旧校舎のテイストを残しながらも、現代的で快適な造りになっています。
教室棟の1・2階は小学校、3階が中学校、4階が高校と、12年一貫教育を行っていますが、近年中高6年一貫教育にも力を入れ、中学校からの募集を大幅に増やしました。 学校内には家族の中にいるような温かく"ゆったりとした"空気が流れていますが、一方で生徒たちの学力伸長度の高さには目を見張るものがあります。
浦和ルーテル学院が少人数制の下で、キリスト教に基づく心の教育、小学校からのグローバル教育やアクティブラーニングを始めて既に60年!きめ細かい先進的な教育の成果の一端として昨年度と今年、2年連続で東大合格者も輩出しました。
「1クラス30名以内の少人数だからこそ、できることかもしれません」と語る校長の福島宏政先生と広報室長の齋藤万作先生に、同校が推進してきた"ギフト教育"、先進的なグローバル教育、来年度から導入される"フィールド・プログラム"についてお話を伺いました。
生徒一人ひとりのギフトを見いだすため、
すべての先生が、すべての生徒をみる。
同校の真髄"ギフト教育"とは神様から賜った才能(ギフト)を見いだし、大きく伸ばす教育。その才能を自分のためだけに用いるのではなく、まわりの人を幸せにするために活かし、自分も幸せになる、それを"ギフト教育"と呼んでいます。
「我々教員は、『君のここが良いところだよ』『ここをもう少し頑張れば、もっと良くなる』と、生徒一人ひとりがギフトを見つける手助けをしているに過ぎません」と校長の福島宏政先生は言います。
それを象徴するのが同校の教育モットー「すべての教師がすべての生徒をみる」です。
「すべての教師がすべての生徒のことを知っていますし、進級する際、担任から担任へ『この生徒はこういうことが好きだ』とか『こんなことが得意だ』ということを個人カルテを作成して引き継いでいきます」。つまり、担任が変わっても、一人ひとりの生徒を継続して育てていく体制が整っているのです。
そのために、職員室は一つしかありません。12年一貫教育を行う同校ならではですが、小学校から高校までの先生が全員揃う職員室で、先生方もお互いにコミュンケーションをとりながら、小中高の垣根を超えて一人ひとりを見守っているのです。
生徒たちの進路も、医学系から芸術系までバラエティーに富んでいますが、その進路をサポートする体制の手厚さにも目を見張ります。毎年、音大を受ける生徒も数名いるそうですが、同校らしいエピソードを齋藤先生が教えてくれました。 「生徒が希望すれば、音楽室に小中高全部の先生が集まって、器楽や歌など、実技試験の予行練習をします。教員たちのなかには、音楽がわからない人間もいますが(笑)、本番さながらの緊張感のなかで演奏させるために、みんなが集まるのです」たった一人のために、学校全体が動くわけです。
そして「大学の自己推薦入試などは面接試験がありますので、一人につき6回くらいは模擬面接を行いますが、毎回試験官を替えます。どのような形の面接でも対応できるように、厳しく対応したり優しく対応したり、さまざまなパターンを織り交ぜて取り組んでいます」これらのエピソードは、ほんの一例。
少人数制だからとはいえ、この温かく細やかに生徒を育てていく"ギフト教育"が、同校の魅力の最たるものかもしれません。
光が降り注ぐチャペル
礼拝は心の平安と勇気を生徒たちにもたらします。
頭も心も腕も豊かに育てるギフト教育
「ギフト教育を進める上で大切なことは、"共感"と"自己研鑽"です。」と福島校長は言います。「隣人愛と共感からでた行いであればこそ、人への奉仕は心のあるものになります。自分が与えられたギフトを、今度は周りの人へのギフトに変えていくわけです。」
「もうひとつ、技能やスキルを磨く自己研鑽も大切ですね。例えば、どんなに素質がある音楽家でも、肝心の演奏技術の向上がおろそかでは聴く人を感動させることは出来ません。頭も心も腕もバランスよく豊かに成長させていくのがギフト教育なのです。」
学齢に応じてやるべきことも異なると言います。「小学校時代は自分の才能は何なのか『模索』する時期です。山の上学校、部活動、校外学習などのクロストレーニングを通して自分の才能を探します。」
「中学校は『発見と挑戦』の時代です。自分の才能に出会い、具体的課題に取り組む中で才能を深化させていく時期です。」
「高校は『確立』の時代ですね。ギフトに基づいて自分の生きる方向を決め、志望進路に応じてコースを選択し、飛躍していく時期です。学院では少人数指導を基本に様々な希望に応じた受験講座を整えています。」
2015年に竣工した新校舎は窓が大きく廊下も広々!
もちろん広大なグラウンドも完備です。
ギフト教育の発展形"フィールド・プログラム"
来年度中1生から導入を開始。
この中学校「発見と挑戦」の時期におけるギフト教育の具体的な内容として、来年度の中学1年生から導入する新しい教育活動を"フィールド・プログラム"と呼んでいます。福島校長は続けます。「中学校には様々な才能、特技、個性に恵まれた生徒がいます。コンピュータが得意で自分でプログラミングする生徒、歴史好きで自分で計画して史跡めぐりの旅に出る生徒、天体観察が好きで宇宙に詳しい生徒など。そんな様々なギフトを得意のフィールドで活せる活動、特技を伸ばせる授業があれば、学ぶ楽しさをより深く体験できると思います。」「中学校の生活はいっそう充実し、魅力あるものになります。まだ自分のギフトを見つけていない生徒にはギフト発見のよい機会になるでしょう。様々な活動に挑戦し、試行錯誤することは高校生になって進路選択するための準備としても有効です。」
具体的には、フィールドA(アーツ:人文系)、フィールドE(イングリッシュ:英語系)フィールドS(サイエンス:自然科学系)の3つのフィールドを設置します。生徒はその中から興味関心のあるフィールドに所属し、プラスαの時間にその分野特有の学習活動をするほか、フィールドごとに異なる校外学習や検定取得に取り組みます。
例えばフィールドAでは、通常の授業の他に歴史探求や外国研究のアクティブ・ラーニングを行い、テーマへの知見を深めます。さらにそのテーマに関連する美術、音楽、文学作品などに触れ、普通の授業ではできない様々な角度からのアプローチを通してより深い理解と発見に到達します。また国内の世界遺産や美術館・博物館などを実地に訪問する研修に参加します。生徒たちは身をもって学ぶ楽しさを経験し、知的な満足感を味わうことができます。こうした体験はその後も、学習に取り組む探求心を育て、精神的な糧となるでしょう。
フィールドEでは英語劇やスピーチ、ディベートなどの活動を行うほか、インターナショナルスクールとの交流やイングリッシュデイ、大使館訪問などに参加して、英語を表現の手段として活用するスキルを高めます。また将来は短期の海外研修も計画しています。
フィールドSは科学的分野への関心に応え、電子機器の組み立て、理科実験、初歩のプログラミングなどの活動に挑戦します。また先端科学施設、天文台、大学の研究室訪問などを通して宇宙、生命、人工知能などの"現在"に迫っていきます。
また、学びの集大成としてフィールドAなら漢検や歴検、フィールドEは英検、フィールドSなら数検、理科検というように各分野に関連の深い検定取得を目指します。一旦選択したものの適性が合っていなかったとか、他分野にも挑戦したいという生徒のため、学年進級のタイミングでのフィールド変更も可能です。学力で生徒を序列化するいわゆるコース制とは根本的に異なり、あくまでも生徒の興味関心や学びの意欲に応える中で、生徒の才能を伸ばしてしていくプログラムであり、その意味でギフト教育の一環なのです。
伝統の英語教育の強みと
キリスト教を土台にした国際交流
スクールバスも運行しています。
ところで前述のフィールドEの説明で、英語科教師でもある齋藤先生は中学終了時までに「英検準2級取得を保証します。」と言い切ります。そこまで言える同校の英語教育の強みは何なのでしょうか。
「小学校では発音や会話表現など、日常のなかで自然に英語に接する下地づくりを行っています。中学からは、あらためてスタートラインに立って、単語や文法などの基礎基本を徹底します。もう一つは授業の中で英語劇を行ったり、全員に英語で原稿を書かせてスピーチをさせたりするアクティブな英語活動をしています。そうした積み重ねでスピーキングやリスニングも含めた4技能が着実に身についていきます。実際に中学卒業時に半数近くの生徒が準2級を取得しています。その結果、大学受験に際してはいわゆるスーパーグローバル大学(東京大学、早稲田大学、慶応大学、上智大学など)に多くの生徒が進学しています。」(齋藤先生)
教育目標の一つに「グローバルな視野を持ち国際的に貢献できる人間を育てる」ことを掲げる同校は、グローバル教育の多彩なプログラムも実施しています。例えば中2〜高2の夏休みに4週間、アメリカ研修が実施されます(希望者)。 その研修は「キリスト教理解」「英語能力の育成」「人間理解」「アメリカの生活・文化の体験」を目標に行われます。最初の2週間はカリフォルニア州にある姉妹校コンコーディア大学に滞在し、英語研修やボランティア活動などを通じて、異文化理解と国際感覚を養います。後半の2週間は、アリゾナ州フェニックスに移動し、同校と同じルーテル系の教会員の家にホームステイをするというプログラムです。
「グローバルスタンダードであるキリスト教文化を基盤にした交流ですので、中身の濃さが違います。ステイ先は何年も交流を続けている同校との絆が深い家庭で、生徒はお客様としてではなく家族として迎えられます。初めは戸惑っている生徒達も、2週間後、ホストファミリーとの別れの時には大粒の涙を浮かべて帰国の途に着きます。これは、生きた人間理解の貴重な体験であり、生徒たちの目を世界に大きく開かせるきっかけになっています。」(福島校長)
また同校には、高校在学中に1年間、アメリカの姉妹校で学べる「高校在学中留学制度」があります。現地校で学んだ単位はすべて同校での単位とみなされ、1年後に仲間と同じ学年に復学することができます。この研修や留学をきっかけに、アメリカの大学に進学する生徒もいて、多くの卒業生が海外で研究職、国際的なビジネス、医療活動、芸術活動に携わるなど多彩な活躍をしているのも同校の特色です。
一方、アメリカの姉妹校からは"日本研修"として中高生達が来校し、同校の保護者宅にホームステイするので、海外研修に参加しない生徒にとっても、英語や異文化体験の機会は豊富にあります。まさにいながらにしての国際交流が可能だということです。
2020年大学入試改革や新しい学習観、
学校の本来の方向と時代の方向が一致する時代がやってきた
早い段階から「四技能」を育成します。
2020年の大学入試改革を一つの発端として、新しい学力観、学習観が生まれていますが、それらはすべて浦和ルーテルにとっては特別真新しいことではありません。福島校長は言います。
「昨今、グローバル化やアクティブラーニングなどが絶えず話題に上がりますが、本校では実践的英語教育や『山の上学校』などのアクティブラーニングを始めてすでに40~50年が経過しています。大学入試改革では英語4技能を総合的に測定するTOEFL型の問題になってくると思いますが、本校の場合前述したようにかなり以前からTOEFL対応、つまり国際交流の場で実践的に生かす指導を行っています。ですから新しい大学入試は本校の生徒たちにとっては有利に働くと思っています。体験や思考力を問う問題についても同様です。日頃からアクティブラーニングや奉仕活動などを通じて体験的な活動を実践する生徒たちにとっては望むところでしょう。そういう意味では、本校の本来の方向と時代の方向が、ようやく合致してきたなと(笑)」
「自ら門をたたき、扉を開く努力ができる人間を育てることが私たちの願いです」と言う福島校長の言葉は、同校を表すシンボルといえるでしょう。
「学習だけではなく、一人ひとりの生徒がもっているギフトをどう伸ばすか。そして人の気持ちがわかる心を育て、自分の能力を使ってどう人のために役立てていくか。そのように生徒たちを導いていくことが大事だと思います。学力伸長度の高さなどは、その帰結の一つにすぎません」と語る福島校長。
「山の上学校」「沖縄平和学習」など、
多彩なアクティブラーニングで"自立"と"協調"を学ぶ
感性豊かなこの時期に人間性を育みます。
同校には、修学旅行はありません。その代わり、中学校では夏と冬の年に2回、福島県に所有する宿泊施設で「山の上学校」というアクティブラーニングを行います。夏は登山や飯ごう炊さん・テント泊、冬にはスキー実習を行います。
「宿泊行事の一番の目的は、集団で生活する中で出てくる問題をどのように解決するか、全員で共有できるコンセンサスをいかに作っていけるかということ。そこを抽出して特化したものが、本校で40年続いている『山の上学校』であり、最高のアクティブラーニングです」と、福島校長は言います。
山の上学校に行くにあたっては、何カ月も前から班づくりをし、綿密に計画を立てていきます。飯ごう炊さん一つ取っても、この材料で何を作るか、誰が火を起こすか、誰がジャガイモの皮をむくかなど、それぞれ役割を決めていきます。ほかにもリーダーや美化係、礼拝係と、全員が何らかの役割を担い、その場面においてはリーダーシップを発揮しなければなりません。
「生徒が作ったご飯を教師も一緒に食べますので、失敗しても食べないといけません(笑)。でも、卒業して何が一番思い出に残ったかいうと、『山の上学校』と答える生徒は非常に多いですね。楽しい部分も含めて、体験に深く入り込みますから、印象に残るのだと思います」(福島校長)
高校になると宿泊学習の集大成として、高2で3泊4日の沖縄に行く"ファイナル・フィールド・トリップ"がありますが、これも修学旅行とは呼びません。沖縄の自然、文化、生活を体験するこの活動の真の目的は「平和学習」です。語り部の方から戦争の話を聞き、まだ残っている病院壕に入って当時の疑似体験もします。
「壕に入って電気を消すと、日中でも真っ暗になります。"ひめゆり部隊"もそうですが、当時は自分たちと同じくらいの年の子が、さまざまな形で戦争に駆り出されていたのです。そのようなことを追体験しますと、生徒たちは本を読むのとは比べものにならないくらい衝撃を受け、強い印象をもつようです」(福島校長)
また、この平和学習は、学校に帰り、後輩たちにこの体験を披露するまで完結しません。
「中学生には礼拝で、また小学生には3〜4人でグループをつくって各クラスを回り、見聞きしてきたこと、感じたことを伝えます。このように、人に伝えるという目的がありますので、高校生たちの学び方も真剣になります」(福島校長)
個別学習プログラムなど、
一人ひとりに合わせて綿密な学習指導が施される
中学生は火曜日から木曜日までが7時限授業。月・金の6時限目以降、現在は奉仕活動などの特別活動を行っていますが、来年度からはフィールドプログラムの活動にあてられる予定です。中学校では基礎学力の定着と、自主的な学習習慣の確立を目指した指導が展開されますが、理解が遅れた生徒には先生方が声をかけ、朝や昼休み、放課後などを利用して個別に補習を実施しています。
そこで気になるのが内進生との"英語"の実力差。中学から入学した生徒はそのギャップをどのように埋めていくのでしょうか。
「まず、入学前の春休み中に徹底した補習を行い、中学校英語にスムースに入っていける下地を作ります。英語学習がスタートした後も放課後のサポート学習や定期試験後の補習を行います。さらに夏休みには4技能の集中講座を行うなど、何段階ものサポートを実施しているので2学期の終わりころには外部生のほうが高得点を取る現象も生じます。内進生がアメリカの姉妹校の生徒と上手にコミュニケーションがとれている様子を見てそのように自分も英語を使えるようになりたいと発奮する生徒が多いですね。」(福島校長)
同校のカリキュラムを見ると高2からは文系と文理系に分かれ、さらに高3からは文理系を文系・理系に分けるという、二段構えになっています。
「進路を具体的に考えはじめる時期には、その生徒の個性や希望を個別に聞き、そしてご家庭の意向も取り入れながら指導しますが、希望や能力、適性を見て徐々に選択の範囲を絞ります。最後に決めるのは本人ですから、その意志を尊重し、我々は最大限の後押しをしていくだけです」(齋藤先生)
高3になると通常の授業は5時限までで、6時限目以降は、それぞれの志望に対応した「受験講座」になります。全員の個別学習プランを作成し、英語でいえば習熟度別に4グループ制をとるなど、ここでも細やかな指導が行われます。政治経済や倫理などを受験科目に選ぶ生徒は少ないのが通例ですが、たとえ一人でもマンツーマンで開講。
高3に限らず、6年間にわたるこうした手厚い指導は、確実に成果を生み出しています。下表は、14年度に卒業した生徒たちの学力伸長度を表したものですが、その伸び方には正直、驚かされます。
中学入学時から高校卒業までの偏差値の伸びと進学先
中1 | 高1 | 高校卒業時 | 合格大学 | |
---|---|---|---|---|
A君 | 60.3 | 81.5 | 82 | 東京大学 |
Bさん | 56.9 | 65.2 | 79 | 早稲田大学 |
C君 | 44.9 | 53.7 | 74 | 上智大学 |
Dさん | 42.7 | 53.9 | 68 | 京都府立大学 |
E君 | 41.0 | 44.6 | 63 | 國學院大学 |
F君 | 35.7 | 37.0 | 58 | 獨協大学 |
G君 | 38.1 | 34.1 | 53 | 玉川大学 |
早くから成果を上げる生徒もいれば、エンジンのかかりが遅い生徒もいますが、それぞれが6年間をかけて、グングン力をつけていっていることがわかります。実際、4割の生徒が偏差値60以上(GMARCHクラス)の大学に進学しているそうです。
同校の生徒たちは、6年間で平均20くらい偏差値を上げ、ほぼ全員が現役で合格しています。
「本校の生徒たちにはオープンな"学び合い"の気風があります。模試の結果が返ってくると、良くても悪くても平気で結果を見せ合い、互いにアドバイスし合います。友達の成績が良いと自分も頑張ろうとしますし、諦めてしまいそうになる生徒がいると周りの仲間が励まし盛り上げるので、いきなりグン!と成績が伸びる生徒がたくさんいますよ」(福島校長)
進学する大学や学部は志望に応じてばらばらになりますが、卒業後もみんなで頻繁に会い、社会に出てからも交流が続くのは、同校が培う"絆"がなせる業と言えそうです。
技術家庭科
理科の実験授業
先生と生徒も、生徒同士も"家族"のように育つ環境がある
生徒と先生の関係が密接な同校ですが、それは生徒間も同じで、先輩・後輩の距離もとても近いといいます。「垣根がなさすぎるかもしれません」と校長は苦笑しますが、兄弟姉妹の間であまり敬語を使わないように、先輩に対しても友達同士のように接しているとか。そのぶん絆も強まるようで、特別な用事がなくても、ふらりと母校を訪ね、後輩の勉強をみてくれる卒業生も多いそうです。
「急激に成績が上がった生徒がいましたので話を聞いたところ『仲の良かった先輩がしょっちゅう教えてくれた』ということもありました」と福島校長。先輩に憧れて同じ大学を目指す生徒もいるそうです。
これは、同じ校舎で6歳から18歳までの生徒が共に過ごすわけですから自然なことなのかもしれません。クラブ活動も中高一緒に、またバレエ部など、クラブによっては小学生も一緒に活動します。
同校では、異なる年齢同士との交流が日常なのです。同校には「登下校グループ」があります。同じ通学ルートを使う生徒同士でグループを作り、万が一、登下校の途中で電車が不通になったら、そのグループの小中高生みんながあらかじめ決めた場所に集まり、復旧するまで一緒に待ちます。電車が動き出したら一番上学年の生徒がリーダーになり、皆を引き連れて登下校するというもの。
「ふだんは各自で登下校するのですが、緊急時対応のためにグループをつくっておくのです」(福島校長)
これは、学校としての安全面に対する配慮の一つですが、このような例をとっても、つねに下級生は上級生を見て育ち、上級生は下級生の面倒を見るという構図ができあがっているのです。"先輩に優しくされてきたから自分も後輩に優しくする"という、優しさの連鎖が校風として根付いているのかもしれません。
サッカー部
バスケットボール部
保護者と先生の関係も緊密。
年に1回だけの通知表は、保護者とのコミュニケーションを深める
同校の生徒が通知表をもらうのは、学年末の1回のみ。その理由を福島校長に尋ねると「保護者の方に、理解を深めていただくため」と言います。
「数字の評価としての「5・4・3・2・1」も記載はしていますが、通知表を生徒に手渡すだけでは保護者の方に内実は伝わらないでしょう。『うちの子、頑張っていたのに、なぜ3なんだろう』と思われる保護者の方もいるかもしれません。そこで1学期末と2学期末には、全学年で保護者の方と教員が個人面談をしています。そのなかで、指導の過程とか、その生徒の課題、よく頑張っているところなどを伝え、保護者の方からは家庭での様子をお聞きします。1対1で実際に顔を合わせ、お互いの会話を通じて、生徒の現状への理解を深めていこうという目的で、このような形式で取り組んでいます」(福島校長)
この言葉から見えてくる教育姿勢は、技術力の高い職人が時間をかけて手織りの織物を作りあげる過程によく似ています。このような、ていねいな指導があるからこそ、生徒たちも自分のやるべきことに安心して取り組めるのではないでしょうか。
一人ひとりの生徒を温かく、ていねいに見守り、力強く背中を押す。少人数制を最大限に生かし、生徒それぞれの意識を喚起させる同校だからこそ、生徒たちは目の前の課題に立ちすくむことなく、自ら進もうとする気構えと勇気をもつ人間に育ち、そして意気揚々と胸を張って巣立っていけるのでしょう。