学校特集
晃華学園中学校高等学校
例年、センター試験を終えたタイミングで開催される「おしるこ会」。 今年はあいにく雪に見舞われたが、多くの高3生が学校に足を運び、仲間や先生と顔を合わせて、大学入試に向けて気持ちを高め合った。高3生の背中を押したのは、晃華学園が『家庭の精神における教育』を理念の一つとし、生徒も教員も飾ることなく学校生活を送り、絆を深めてきたからに違いない。
英語教育に定評があり、学年の4割以上が国公立や早慶上智、医学系の大学に進学する、トップクラスの女子校だが、カトリックがもつ普遍性をよりどころに、学校教育のあるべき姿を考え、一人ひとりの生徒が自分らしく生きるために不可欠な『価値観』を育むことを大切にしている。
そのため、教科・行事・LHRを相互に関連づけて、さまざまな体験をスパイラル的に重ねていくことで、普遍的な価値観をより深く育む『カトリック総合学習プログラム』を実施。進路指導も『ライフガイダンス』と名づけて、大学や職業選びではなく、自分らしい生き方を模索することに重点を置いている。
「自然豊かなキャンパス、木のぬくもりが感じられる、居心地のいい校舎で、生徒同士はもちろん、教員や卒業生とも、ファミリーのような絆を育む6年間は、子どもたちにとってかけがえのないものになるはず」と、口を揃える広報部長の砂口優子先生と教頭の安東峰雄先生に、具体的な取り組みについて伺った。
晃華学園はカトリック女子修道会「汚れなきマリア修道会」を設立母体とするミッション・スクールです。マリア会系(マリアニスト)の学校として、世界のマリア会学校に共通の指針に基づいた教育を行っているため、教育の根底にはカトリックの教えがあります。
マリアニストスクールに共通の5つの教育理念
- カトリック精神を根幹とした教育
- 質の高い全人教育
- 家庭の精神における教育
- 変化に適応できる教育
- 正義・平和・連携のための教育
なんのために学ぶのか。
それは自分にとって幸せを追求するため、より多くの人々に尽くすため
紹介してくれた教頭の安東峰雄先生
安東先生:「教育界が変化している時代。10年先の予測がつきません。子どもたちが就職する頃には、何分の一かの仕事がなくなるようなことも、よく耳にします。そういう先が見えない時代でも翻弄されずに生きていくには、自分にとっての幸せを求め続けることができる『価値観』を育むことが大切です。
そのために、晃華学園では生徒がのびのびと生活し、興味のあることに没頭できる環境を整えています。そして生徒自身が自分の可能性や能力を最大限に伸ばせるよう、教員や卒業生が愛情をもって見守っています。
さらに、6カ年に渡り、カトリックの価値観に基づいて総合的に学習する『総合学習プログラム』を実施し、校内はもちろん、校外にもつながりを求めて、総合的な学習の中で、生徒一人ひとりが自身の『価値観』を育む教育を行っています」
マリアニストスクールの教育理念を実現するために、6カ年に渡り、カトリックの価値観に基づいて総合的に学習する「カトリック総合学習プログラム」を策定しています。
5つのテーマ
- 奉仕と福祉・・ボランティア体験、アデル献金
- 正義と平和・・ハンナのかばん講演会、JICA講演会
- 生命・・・・・プラン・ジャパンによるジェンダー教育、ユニセフ講演会
- 女性の使命・・『La vie heureuse(ラ・ヴィ・ウールーズ)』、女性のライフスタイルを考える
- 自然と環境・・ホタルの幼虫飼育、エコプロダクツへの参加
本物の英語力を身につけます。
安東先生:「中1はユニセフ、中2はホロコースト、中3はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、高1はジェンダー、高2はJICAをテーマに、現場で働いている方の講演会を行っていますが、高1のプラン・ジャパンと高2のJICAは、本校の卒業生が講演をしてくれます。本校で学び、そういうところに就職して、在校生にフィードバックしてくれる。そういうつながりが生まれていることに、喜びを感じています」
砂口先生:「2012年にユネスコスクールに加盟しました。ボランティア活動の一つとして、調布市ホタル園からホタルの幼虫をお預かりし、飼育に取り組むことで、地域とのつながりも生まれています。昨年の『オルセー in晃華学園』には、のべ3700名の方にご来場いただきました。美術部員と有志の生徒がお客様への解説を行ったり、オーケストラと聖歌隊がフランスの絵画に合わせて、フランスの曲を演奏したり。本校のリソースを活かした活動が調布市民放送局で放映され、地域の方々と幅広い交流をもてたことは、本校の財産になりました」
安東先生:「地域とつながることは、価値観の違う人たちとつながること。将来、どこでどのように暮らそうとも役に立つ体験なので、晃華学園では、あらゆる学習の基礎として価値観教育を行うことをミッションとしています」
季節感あふれる企画
(ハロウィーンパーティ、中1LHR)
年間行事が豊富なのも晃華学園ならでは!
(文化祭、高3喫茶店)
同校を訪れたら知の宝庫『図書情報センター』へ。
五感を揺さぶる、晃華学園の学びを実感できる!
「Yonda?君」と広報部長の砂口優子先生
砂口先生:「図書情報センターの展示を見ていただくと、五感を揺さぶる、晃華学園の学びを実感していただけます。司書の広瀬千香子先生が教員と連携して、タイムリーな展示を行っているからです」
広瀬先生:「授業や行事に合わせて展示コーナーを作り、生徒にアナウンスしています。数学科の下田先生に相談し、1年がかりで準備してもらい、初めて数学の展示を行いました。それが『美しい幾何学 立体図形』です。下田先生が自ら計算し、展開図を作成して、『プラトンとアルキメデスの立体』という本に載っている多面体をいくつも作ってくださいました。中には何十時間もかけて作ったものもあります。ポイントは美しさ。教室で生徒に見せて、『図書情報センターで展示しているよ』と話すと、たくさんの生徒が足を運んでくれました。ここだと手に取って見ることができるので、感動もひとしお。生徒の口コミで反響が広がり、他学年の生徒も見に来ています」
図書情報センターの展示
「美しい幾何学 立体図形」
砂口先生:「4つの立方体が組み合わさったもの、見方によって変わるものなど、本当に目を奪われるものばかりで、私も影響を受けました。下田先生にはとても及びませんが、子どもの頃を思い出し、『できた! ユニット折り紙入門』を見て作った私の作品も展示されています」
かわいらしい表紙が生徒にも大人気!
砂口先生:「理科の展示コーナーには、地学の教員が、天文同好会の生徒と撮影した、スーパームーンの写真が展示されています。写真はお土産として持ち帰れます。もっとも大きな、丸い月を見られるのはいつなのか。旧暦で計算すると、同じ1刻でも夏と冬とで長さが違うこと。古文の十六夜、立ち待ち月、有明の月などともつながって、興味が広がります。
合わせて紹介されているのは、理科の田中幸先生の著書です。『オシャレな本を作るのが夢だったという』という田中先生は、物理の本とは思えない、かわいらしい装丁の本を、シリーズで出版しています。『泡のざわめき』(太郎次郎社エディタス)では、サイフォンでコーヒーを淹れる時の泡、シャンパンの泡、ケーキを作る時に立てる泡など、日常の中にある泡を取り上げて説明をしているので、女の子でも楽しみながら読むことができます」
図書情報センターには"学び"に対する"仕掛け"が随所に施されています。
図書情報センターには"学び"に対する"仕掛け"が随所に施されています。
学習を深める、広げる。それが図書の役割。
低学年には栄養価の高い本を薦めて教養の下地をつくる。
砂口先生:「本校の図書情報センターには、43,000冊の蔵書 (そのうち洋書は3,600冊) があります。国語科でも、中1、中2の現代文の授業で、最初の10分間を読書に当てていますが、広瀬先生のさまざまな仕掛けにより、生徒の読書への興味、関心が深まるので、とても助かっています」
広瀬先生:「流行の本を読むのもいいのですが、授業では、栄養価の高い本を読んでほしいと思っています。ですから、名作に入る前の入門として読んでほしい本には『若葉マーク』を、名作には『名作』という印を、本校では扱っていない教科書に載っている作品が含まれる本には『選定』という印をつけて、手に取りやすくしています」
背表紙に貼られた様々なシール
生徒の本選びをサポート
広瀬先生:「英語の本もたくさんあります。中3、高1になると、1冊読んでレポートを書くという課題が出るので、オックスフォードのリーディング・ツリーなどは、生徒が興味を示した時に、初級本から読むことを薦めています。高校生や大人も同様です。絵本なので、読めなくても、絵を見て想像することができますし、ステップを踏んでいけば、自信をつけながら読むことができるので、夢中になると、朝借りて、次の休み時間に返しに来るような生徒もいます。ここへ来ると、英語本だけでなく、他の本も借りていきますので、きっかけを作ることが大事だと思います。伝記もあります。海外の偉人なので、日本とは異なるラインナップも楽しみの一つです」
広瀬先生:「年に1、2回ですが、私が読んでほしい本をたくさんワゴンに乗せて、10分間読書におじゃますることもあります。そこでは、世にあまり出ていない文豪の短編集などを紹介します。読みやすいですし、1冊の中で3人の文豪と出会えます。『こういう本を読むと栄養が行き渡るよ』『学年が上がると本を読む時間が少なくなるから、今を大事にしようね』と話しかけると、生徒は素直なので、紹介した本がワーッと借りられるという流れができます。文豪の短編集は1から100まであるのですが、1から順に読み始めて、『卒業するまでに全部読む』と頑張っている子もいます。そういう子が出てくると『私も読んでみよう』と続く子が出てきます。
本を読む子はあまり群れません。一人の世界を大事にしている子が多く、どちらかというとひかえめな傾向にありますが、中1から高3までが、クラス単位で読書量を競う読書週間では、そういう子たちがポイントゲッターとして活躍します。本校には、さまざまな場面で力を発揮した『学年の華』たちが校長室に招かれて、お茶とケーキをいただく機会がありますが、本の貸し出し数がもっとも多い『ベストリーダー』の生徒も招かれて、自信をつけています」
広瀬先生:「新しい本選びのポイントは、いつも『授業』です。今、学習していることを深める、あるいは広げることが図書の役割なので、常に先生方と連携をとり、必要な本を揃えるようにしています。例えば家庭科では、グループで保育に関するテーマを研究し、プレゼンを行います。例年のことなので、保育関連の新しい図書が出るとチェックし、保育マークをつけて、書棚に置いています。グループ学習の時期が近づくと、コーナーを設置し、関連本を展示して、意欲を促します。講演やワークショップなどの行事や、クラブ活動から広げていくこともあります」
放課後の教室
「音楽部」がパートごとセッション中
教員同士の連携が授業をおもしろくするカギ。
アクティブ・ラーニング×感性で生徒の興味関心を引き出す
「繊維」について考察しました。
砂口先生:「教員の間で、そういう連携が取れているところが、本校のいいところだと思います。教科を横断して授業を行うことも、当たり前のように行われています。最近では、理科と社会の教員が、ティームティーチングで授業を行いました。その日の本題は、ESD『持続可能な開発のための教育』というテーマで論文を書くため、テーマをどう扱えばいいかを生徒に考えさせることでした。原発再稼働を巡り、2人の教員が、自分の考えを話します。社会の教員が経済効果の観点から意見を述べると、理科の教員が、「いや、それだけでは困るんですよ。人体への被害はどう考えるのですか」というように、わざと対立する意見をぶつけて生徒を刺激します。その上で、どの意見に賛成か、反対かを問う授業はおもしろかったです」
賛成派・反対派に分かれて議論を展開!
安東先生:「宗教と家庭科も、『命を育む』という観点でつながります。ただ、家庭科では『食育』ですが、宗教では『食卓』です。カトリック学校で行うミサは、『食卓』を囲むということ。メニューについては家庭科に任せますが、宗教では、食を通して社会性を育むことを意識しています。『食卓』を大事にできる女性を育てるために、保護者の方にも『食卓の世話こそ、言葉では伝えられない愛』とお話して、ともに考えてもらっています。
中3の授業では、フランクルの『夜と霧』という本を読みながら、生きる意味について考えました。中2の行事に『ハンナのかばん講演会』があるので、ホロコーストの話をしなくても読めてしまいます」
「ほうとう作り」に挑戦!
砂口先生:「安東先生の授業はおもしろく、地理では、紅茶とお茶菓子が並びました」
安東先生:「紅茶の飲み比べによりプランテーション農業を学ぶ、まさにアクティブ・ラーニングです。ダージリン、アッサムなど、『フレーバーティではない紅茶を数種類、用意するから、飲み比べてみよう』と予告すると、生徒が『先生 お茶菓子を用意します』と言ってくれて、手作りしてくれました。紅茶を飲み比べると、1つ1つ味が違うことに気づきます。『ここの紅茶はミルクを混ぜたほうが香りがいいな』などと、生徒が興味をもったところで、『モーリシャスの紅茶はバニラのにおいがする。それはなぜ?』『イギリス人が飲んでいるお茶が、こんなところで作られている。それはなぜ?』などと質問を投げかけて、世界の国々の特色や気候、歴史などを学びます」
安東先生:「授業でも、行事でも、オンリーワンにこだわっています。能楽のワークショップも、本物に触れることが大切という思いから、私の幼なじみである亀井雄二先生(宝生流・晃華学園課外謡曲仕舞講師)に相談し、晃華学園でしか体験できない、質の高いプログラムを実現しています。国立能楽堂のお道具を使い、4つの囃子(笛・小鼓・大鼓・太鼓)や、仕舞いの所作を学ぶだけでなく、舞台の上で襦袢の状態から着付けをして面をつけるところまで、いわゆる楽屋で行われていることを見ることができます。能楽は、ユネスコ無形文化遺産に登録されている日本が誇る伝統芸能ですので、生徒は1日かけて本物に触れることにより、多くのことを感じ取ってくれていると思います」
オンリーワンにこだわる晃華学園ではさまざまな「本物」を体験することができます。
オンリーワンにこだわる晃華学園ではさまざまな「本物」を体験することができます。
進路指導を『ライフガイダンス』と呼ぶのも、
価値観教育を重視しているから。
生徒が進みたい道をとことん応援!
安東先生:「ヨーロッパにはキリスト教の文化が根づいているため、価値観を伝えることから始めますが、日本のキャリア教育は職業や学部・学科適性に偏りすぎている気がします。それではいけない、という思いを込めて、本校では進路指導を『ライフガイダンス』と呼んでいます。
UNHCRの講演会や、プラン・ジャパンの講演会など、心が揺さぶられる体験をスパイラル的に重ねていくことで/p、自分らしい生き方を考え、選択するための価値観を持ってほしいのです。フランス語で『幸せな人生』と名付けられた、卒業生のメッセージ集『La vie heureuse(ラ・ヴィ・ウールーズ)』を作成し、人生を考える機会を設けているのも、そのためです。もちろん『大学見学会』や、保護者対象の『大学入試を知る会』など、進学に関するサポートは万全ですが、その土台にカトリック学校の価値観教育があることに、意味や価値を感じてくだされば嬉しいかぎりです」
体育館では「バレーボール部」が実戦形式で練習中でした!!
体育館では「バレーボール部」が実戦形式で練習中でした!!