学校特集
横浜富士見丘学園中等教育学校
創立93年の歴史をもつ横浜富士見丘学園が、日本初の女子中等教育学校となって10年目。区切りの年に、新たな未来を見つめて、6年間の学びの中で、①使える英語力、②たしかな学力、③ジェネリックスキル(社会人として活躍できる力)が身につくよう、さまざまな改革に取り組んでいます。その1つが"ネイティブ教員の副担任制"です。1年生のクラスはネイティブの教員が副担任として入り、一緒に生活しています。
「私たちは、毎日の生活の中で、身近な人との会話から日本語を覚えました。英語も、耳から覚え口で発する環境があれば、自然と会話ができるようになるはずです」と駒嵜健教頭が話せば、澁谷一郎校長は、「一事が万事、今回の改革は、松田前校長が築いた教育プログラムを"変える"のではなく、"発展させる"ことをコンセプトに取り組んでいます。生徒のためになにをすべきかを考え、環境づくりに力を入れて、全教員で成し遂げていきたい」と、意気込みを語ります。そして「一生に一度の学生時代。生徒には学校生活を楽しんでほしい。その中で、将来を見据えてしっかり勉強できるよう、さまざまなプログラムを考えている」と話すお二人に、横浜富士見丘学園が目指す教育について伺いました。
キャリアカウンセラーのデータ分析をもとに、女子の特性を活かした独自のプログラム
澁谷校長:本校は、90年以上も前に、女性が社会に出て活躍することを願い、誕生した学校です。建学の精神である「奉仕の心」と、校訓である「敬愛・誠実・自主」を大切に、生徒一人ひとりが自分を活かし、主体的に未来を切り拓いて、幸せに未来を生きる資質や能力を育んできました。その志は変わりませんが、時代に応じた教育を行うために、新たな改革にも積極的に取り組んでいます。2020年に大学入試改革が行われ、現在の中学2年生から実施されるため、中学受験をお考えのご家庭はもとより、在校生にメリットを感じてもらえる改革となるよう、細部に渡って心を尽くしています。
その起点となっているのが、キャリアカウンセラー(専任)のデータ分析やキャリアカウンセリング(生徒との面談)による客観的なアドバイスです。全国模試の結果をPCツールで分析し、学年や進路指導部と対策を練って、受験に向かう学年を支援するだけでなく、学校全体としての進路指導の方向性や、やるべきことの優先順位を、短期、中期、長期的視点に立って提言してくれます。「5年生になって、『どうすればいいですか』と聞かれるのが一番困る。4年生までに自学自習の習慣づけと、将来を自分で考える力をしっかりつけてほしい」という、カウンセラーの井上先生の意見を踏まえて今年度より始動したのが、1、2年生の自学自習の習慣づけを目的とした時間(7時間目/週2日)です。
5・6年生による『英語大学受験特別講習(予備校教師による校内講習/有料)』や、9月から開始する『数学フェロー制』も、難関大学進学を目指す生徒たちに必要であろうと判断し、実施に至ったプログラムです。校内で実施する理由は、クラブ活動など、学内での活動と両立してほしいからです。部活動を最後までやり遂げた生徒は受験でも頑張れるので、できるだけ両立できるよう配慮しています。
今春の卒業生を見ていて頼もしく感じたのは、最後まであきらめずに頑張る生徒が増えたということです。それが国公立、難関私大合格者の伸びにつながったと思います。理由はいろいろありますが、1つは井上先生のカウンセリングに説得力があるからです。「英語をここまで伸ばすことができれば、去年の合格ラインに届くよ」というように、具体的なアドバイスをしてくれるため、生徒も頑張ろうという気持ちになるのです。もう1つは、5年生の秋から受験生、という意識が定着したからだと思います。直近の卒業生の受験体験談も、春ではなく秋に行い、担任も教科の先生も、5年生の秋から「今日から受験体制だよ」と一斉に言い始めることで、学年全体が受験を意識するようになりました。
本校にはまじめな生徒が多いので、早くスタートを切れば、それなりの準備ができます。ただ、校風どおり、やさしい生徒が多く、なかなか競争に勝つという強い気持ちを引き出すことができませんでした。それを変えてくれたのが、前校長の松田由紀子先生でした。「女子の意欲を引き出すには『自分のやりたいことかどうか』が重要。やりたいことは頑張るから」という分析が見事に当たりました。女子は集会で全体に向けて話をするよりも、個々のカウンセリングが効きます。自分のやりたいことが見つかって、初めて学習に入るので、進学実績の向上はその流れができた証ととらえています。
本校は、勉強ができる子が一番ではありません。英語ができる子が一番でもありません。一人ひとりの希望や夢を「いいね」と認め合うことができる、自由度の高い風土なので、今後ますます多様な進路が拓けるのではないかと期待しています。
学校行事が多いのも横浜富士見丘の魅力のひとつ(音楽祭)
学校行事が多いのも横浜富士見丘の魅力のひとつ(体育祭)
「全員が英語でコミュニケーション」を目指して、ネイティブ教員の副担任制を導入!
教育改革の3本柱① 使える英語力
次に同校の具体的な取り組みについて教頭の駒嵜先生に伺いました。
駒嵜先生:今、一番にお伝えしたいのは、本校が大きく発展し始めているということです。校長が話したとおり、①使える英語力、 ②たしかな学力、③ジェネリックスキル(社会人として活躍できる力)を教育改革の3本柱に据え、今年度からいろいろな取り組みを行っています。
①使える英語力では、全員が英語でコミュニケーションが取れる、『使える英語力』を身につけるために、本校では体験的にしっかりと英語を学べるプログラムとして、下記を実施しています。
- セブ島マンツーマン英語研修(1〜5年生の希望者/15日間)
- オンライン英会話(1~6年生の希望者)
- ブリティッシュヒルズ英語研修(3年生全員)
- オーストラリア研修(4年生全員/10日間)
- オーストラリア短期留学(4年生の希望者/夏期)
- ヤングアメリカンズ(1〜6年生の希望者/3日間)
- イングリッシュ・サマーキャンプ(1~3年生の希望者/3日間)
セブ島英語マンツーマン研修ではボランティア活動を体験
セブ島英語マンツーマン研修ではアイランドホッピング(右)を体験
生徒の中には、セブ島マンツーマン英語研修に3年連続で参加するような、積極的に海外へ出て、活きた英語力を身につけている生徒もいますが、できれば卒業するまでに、全員が英語でコミュニケーションを取れるようになってほしい。そこを目標とした時になにができるだろうと考えて導入したのが、"ネイティブ教員の副担任制度"でした。
現在は1年生が、朝のホームルームに始まり、昼食、掃除と、生活の中でネイティブの教員とかかわり、言葉を交わしています。最初は恥ずかしくても、誰かが会話を始めれば乗り越えられます。担任に聞くと「2ヵ月が過ぎて、何名かは、相手の言うことがわかるようになってきた。片言でも、自分から返している」と言います。ネイティブに近い発音をマスターできるのは、12、13歳くらいまでと言われていますので、耳から覚えて言葉を発する環境ができたことで、どのような変化が起きるのか、大いに期待しています。できれば2年次も継続したいと考えています。
塾や予備校に頼らずとも難関大学進学を可能にする、きめ細かい学習指導と自学自習の習慣づけ
教育改革の3本柱② たしかな学力
駒嵜先生:中高6年間の男女を比べると、低学年のうちは女子のほうが精神年齢は高いですが、高学年になり、大学受験を意識し始めると、男子が勢いよく伸びてきます。つまり、低学年のうちからコツコツと勉強する習慣をつけることが女子教育の基本姿勢となります。そこで、1、2年生のうちに自学自習を習慣づけることを目的に、週2日、7時間目を設けました。自学自習ですから、教員は指導しません。そのかわりにチューターをつけて支援しています。この習慣が一度身につけば、女子は自ら将来の目標を見つけて、受験勉強にも積極的に取り組むようになります。
また、本校では難関大学進学を見据えたさまざまな学習指導を以前から展開しています。
- 学習記録ノート「あしあと」(中学生)
- 国語力を伸ばす朝学習(1〜3年生/読書・書き写しと要約)
- 基礎力を固める小テスト(中学生/英単語、文法、漢字、計算など)
- 放課後テスト(高校生/英語、古典、漢字、数学など)
進学指導
- 放課後・長期休暇の進学講習(1〜6年生/指名制・希望制あり)
- センター試験対策(6年生)
- 国公立・私大直前講習(6年生)
- 英語大学受験特別講座(6年生・5年生の希望者/週2日/有料)
駒嵜先生:その他のプログラムとして、上級生が下級生の学習サポートを行う『ビッグ・シスター』制度も取り入れています。1年生と4年生、2年生と5年生の希望者がそれぞれペアを組んで、放課後の時間を利用して英語や数学を勉強しています。下級生の学習指導ではありますが、実は教わる側よりも教える側のメリットが大きいと感じています。後輩に教えるので、しっかり勉強しようという気持ちになるようです。ペアを組んでいる下級生のために、独自にプリントをつくる上級生もいます。
新たな取り組みとして、9月から大学、大学院生による『理系のための数学講座』を開始します。受験科目により学ぶ内容が異なるため、フェロー制を採用。大学生と大学院生による学習支援を行います。 また2017年度より、4年次に『グローバル&サイエンスクラス』(国公立難関私立大学進学希望者の選抜クラス)を新設します。力を入れている英語力を活かして、理科系の大学に進路を希望する生徒を育てていきたいと考えています。
今春卒業した生徒の中にはTOEICテストで800点くらい取っている生徒がいますが、一切塾や予備校に通っていません。休日も学校へ来て勉強していたので、自習室のその子の席は、次の学年で誰が座るか、話題になっています(笑) その卒業生もそうでしたが、部活動も最後までやり切る生徒は、受験でも最後まで頑張ります。ですから、部活も勉強もできる環境づくりに力を入れています。月水金は勉強をしっかりやる、火木土は部活動をしっかりやる、というように、2度とない中高生活を楽しみながらも、将来を見据えてしっかり勉強できる環境づくりを目指しています。
社会人として活躍するために必要な力をアクティブラーニングでつけていく
教育改革の3本柱③ ジェネリックスキル
駒嵜先生:ジェネリックスキルは、社会人として活躍できる力です。大学でもジェネリックスキルをつける取り組みを行っていますが、本校ではアクティブラーニングを使って前に踏み出す力(主体性・働きかけ力・実行力)、考え抜く力(課題発見力・計画力・創造性)、チームで働く力(発信力・柔軟性・傾聴性・状況把握力)を育成しています。
1年生は、入学するとすぐにオリエンテーション合宿に出かけます。そこで友だちづくりも兼ねてペアリングし、相手のいいところを取材して、模造紙1枚にまとめて発表します。次に自分史(ポートフォリオ)を作ります。両親や親戚など身近な人を取材し、生まれてからこれまでをまとめます。続いて学校史の制作に取り組みます。本校の歴史を調べて、まとめて、文化祭で発表します。
2年生になると地域研究に取り組みます。二俣川周辺についての探究学習です。たとえば「お年寄りにやさしい街にするためにはどうすべきか」「道路渋滞を緩和させるにはどうすべきか」など、課題を見つけ出し、8つくらい設定します。それに基づいて街の方々にアンケートを行ったり、インタビューをしたりして、素材を収集し、まとめて発表します。その発表は、パワーポイントで行っています。1年生の終わりに、学校生活のまとめをパワーポイントで行うため、キーボードを打つことは経験しています。ですから、2年生でもある程度のことはできます。ソフトを使いこなして、大人顔負けの資料を作る生徒もいます。
3年生で、講話を聴くなど、自分の将来を見据える機会をもった後に、4年生でクエスト・エデュケーション・カップ(実在の企業や人物を題材に「答えのない課題」に取り組み、プレゼンテーションする大会)にチャレンジします。昨年度は総合開会式の司会も務めさせていただきました。そして、クレディセゾンからの「"決済のしくみ"を活用して社会課題を解決する革新的サービスを提案せよ」というミッションに取り組んだグループが全国大会に出場し、優秀賞をいただきました。自分たちの身近な問題として、地球温暖化をテーマに選び、"スマイルアースポイント"という投資システムを考案。クレジットカードを利用すると、エネルギー開発を行うベンチャー企業に同社を通して投資される仕組みは、後日、同社を訪れて、集約の方々の前で発表させていただいた時にも、高い評価をいただきました。クレジットカード×エコという、いかにも本校の生徒らしい、ホスピタリティに満ちた発想で感心しました。
私たちが思い描いているのは、使える英語力×たしかな学力×ジェネリックスキル。3つの力が相乗的に織りなす教育効果。
駒嵜先生:私たちが思い描いているのは、国語、数学、英語というツールを使いこなして、理科的分野、社会的分野の問題点を発見し、解決策を導き出していける生徒像です。『使える英語力』『たしかな学力』『ジェネリックスキル』という3つの力が相乗的に効果を織りなすには、環境そのものを整えるのが一番ということで力を入れてきました。本校の生徒たちは、先輩の取り組みを見ると、それを超えていこうとするので、クエスト・エデュケーション・カップにしても、今年度の4年生はおそらく1、2のグループが、アブストラクト(要約)だけ英語で行うのではないかと期待しています。 そうなると、現在の3年生はアブストラクトだけでなく、すべてを英語でプレゼンするグループが1つくらい出てきそうな気がします。さらに2年生の学年は、多くのグループが英語でプレゼンするようになり、1年生は、ネイティブ副担任制により「英語でコミュニケーションを取るのは当たり前」という状態になっていますから、生徒のほうから「(英語で)やりますよ」と言ってくるのではないかと思っています。
2年生の地域研究で、外国人を相手に英語でインタビューできる日が来るのも、そう遠くないと思います。2020年東京オリンピックでは、外国人の方が東京だけでなく、神奈川にも来ますので、英語ボランティアが必要になるでしょうし、そういう役割がなくても、本校の特色である『やさしさ』から、街で困っている外国人の方を見かければ『どうしたんですか』と、英語で声をかけられるようになればいいなと思います。
2020年は入試改革の年でもあり、京都大学の特色入試(学力型AO入試)が新しい入試スタイルの1つになるとすれば、学びのポートフォリオを書かなければなりませんが、本校ではすでに地域研究やクエストカップに取り組んでおり、そういう入試になったとしても、全員が対応できるはずです。そこが、本校の強みになると思っています。
2017年度入試より『未来力入試』を実施!基礎学力でチャレンジできます。
横浜富士見丘では教育改革の一環として、2017年度入試よりアドミッションポリシーに基づいた新たな入試が導入されます。2月5日(日) 午前に行う『未来力入試』です。
『未来力入試』の受験科目は、基礎学力試験・課題作文・課題作業の3科目。課題作業は、ルーブリックで評価します。受験生の"潜在能力"に着目したこの新入試に興味のある方は同校にお問い合わせください。
~地域に愛される女子校を目指して~
澁谷校長からのメッセージ
本校では地域交流の機会を増やすために、今年から「学校開放」を始めました。毎週土曜日に校内を開放し、地域の方々に気軽に足を運んでいただいています。3月31日に開催したお花見会には約400名の方々が来校されました。受験生をお持ちの方でなくても大歓迎ですので、興味のある方はぜひ一度、本校に足を運んでいただき、キャンパスの雰囲気を感じてください。