学校特集
開智日本橋学園中学校
21世紀型の教育を掲げ、2015年4月に共学化して新たなスタートを切った開智日本橋学園中学校。昨年の首都圏中学入試で多くの志願者・入学者を集めた同校が、2年目の今年、さらに注目を集めています。それが日本語で国際バカロレア(IB)を学べる「デュアルランゲージクラス(DLC)」の新設です。昨年9月、東京都23区の私立中学校で初めてIBのMYP(中等教育プログラム)候補校となり、グローバルスタンダードの教育環境が整いました。生徒が自ら考え、仲間とディスカッションし、疑問や課題を解決していくアクティブラーニング型の学びを通して、探究力、創造力、発信力、コミュニケーション力、人間力を養います。
多様な入試形式と多様なコース編成によりバラエティーに富んだ子どもたちが入学。お互いのいいところを吸収し、学び合う1期生に、同校の副校長・宗像諭先生は、"化学反応"の片鱗を見いだしています。
DLC新設で2016年入試も前年を上回る人気!
教育理念が深く理解され、開智日本橋のファンを増やす結果に!
開智日本橋学園中学校の今年の入試は、130名の募集に対し、受験者はのべ2000名に迫る人気ぶりでした。「1年目との一番の違いは、本校を第1希望にしてくれた受験生が多かったこと」と宗像先生は振り返ります。
人気を集めた大きな理由が、日本語でIBを学ぶクラス「DLC」の新設です。2015年9月にIBのMYP候補校に認定され(IBワールドスクールに認定申請中)、IBの教育が本格始動しました。まず、主に英語で学習する「グローバル・リーディングクラス(GLC)」で半年間、IBの学びを実施。そこで一定の手応えを得たことから2016年入試ではDLCを立ち上げました。
日本の学習は、「何を知りたいのか」といった「WHAT」の学習が中心です。それに対しIBは、「なぜそうなるのか」「どうすればいいのか」という「WHY」と「HOW」の学びを大切にしています。例えば「関ヶ原の戦い」なら、「1600年」という年号は「何」の学習ですが、IBでは「なぜ」合戦が起こったのかを考えます。つまり学びのアプローチが違うのです。
「授業では『世界の課題をどのようにして解決するか』について深く考えています」と宗像先生は言います。解決の方法を考えるには「知識」が必要です。その知識を基に方法を「思考」し、それを「行動」に移す。大きくこの3つを授業に落とし込んで実践します。したがってIBでは知識の習得よりも取り組む過程が重視されます。
IBへの関心が高まる中、宗像先生は「本校はIB教育におけるフロントランナーとして正しく理解していただけるよう、IBの取り組みを積極的に発信していきたい」と意気込みを語ります。
IBは、IBの教育理念を理解して意欲的に学ぶ志を持つ子どもに広く門戸を開く教育です。ただ、結果として学力レベルが高い子どもが集まる傾向があります。DLCの新設にあたり、必要とされる学力レベルの質問がとても多かったと言います。来年の入試ではDLCを「リーディングクラス(LC)」や「アドバンストクラス(AC)」とは別のアプローチで選抜することも検討しているそうです。
また第1希望の受験生が増えたのは、新生・開智日本橋の教育方針「生徒が主体的・能動的に学習する学びの創造」や、「得意を伸ばす」「志を高く学ぶ」「人のために学び行動する」といった教育目標などが保護者に理解され、支持されてきたことも挙げられます。
2020年度の大学入試改革がどうなるのか、私立中高一貫校はこれからどうなるのか、何を基準に学校を選べばいいのか......そんな不安を抱く保護者は数多くいます。そうした保護者の疑問に、同学園の理事長・青木徹先生と宗像先生が明確に答えてくれています。教育セミナーさながらの学校説明会に複数回参加するご家庭も多く、同校の「教育理念」「教育方針」「教育目標」に共感したファンを着実に増やした結果、たくさんの受験者を集めたのでしょう。
受験生が自分の得意を生かせる入試システム
多様な入試がチャンスを広げ、多様な子どもが集まる
入試結果から、宗像先生は「考え方や取り組み方の多様性を感じます」と言います。それは、受験生が自分の力を発揮できる入試形式を選んだからでしょう。試験は4日間計7回、それぞれ異なるタイプの入試問題を用意。学校が求める学力に受験生が合わせるのではなく、生徒一人ひとりが持つ個性や得意領域を学校が見つけ、それを伸ばしていく同校の姿勢が表れています。例えば、4科入試で受験した生徒は知識力があり理科・社会に強く、適性検査型入試で受験した生徒は国語や英語が強いといった傾向がみられます。
「4科入試組の中には、本校より偏差値がかなり高い学校に合格した生徒もいます。そうした生徒は基礎学力が高く一目置かれ、周りの生徒も学ぶ姿勢や学び方を真似ています。グループワークは知識が豊富な生徒だけだと知識の出し合いになりがちですが、そこへ知識を組み合わせる思考力を持っている生徒が加わると、深掘りの協働型学習ができます。中1ながら"化学反応"の片鱗を感じます」と宗像先生。授業に活気があるというのもうなずけます。
「生徒達は、話を聞くときも元気すぎるところがあります。ただ、教員が話すことを自分の言葉に置き換えて理解しようとしています。授業では教員の話したこと、板書したことをそのまま写すのではなく、自分なりに咀嚼して自分の言葉に置き換えてノートを取っている姿が見られ、利発な印象を受けます」(宗像先生)
小学校の授業や中学受験の学習で受け身だった生徒は、「なぜその答えになるのか」「別解を考えてみよう」等と言われると、「正解を出したのに、なぜそんなことをするの?」と思考が止まってしまいます。最適解を求めるにはいろいろなアプローチ法があることに気づく生徒もいますが、「なぜ」を掘り下げる感覚がなかなかつかめない生徒もいるといいます。ただ、そこに何が何でも固執するわけではありません。中学では考え方を広げるよう働きかけますが、最優先は個々の生徒の得意なことを認めて伸ばすこと。その軸はぶれていません。
自然の中で疑問を見つける「磯のフィールドワーク」
「疑問→仮説→検証」の探究サイクルを自ら回す
開智日本橋学園の教育でよく出てくるキーワードが「探究」です。探究力は普段の授業はもちろんのこと、グループワークやフィールドワークなどを通して養います。
中1で取り組むフィールドワークが「磯のフィールドワーク」です。磯の生物というとカニやハゼくらいしか知らない生徒たちは、磯に生息する生き物の多さにまず驚きます。驚き=発見から、カニはなぜ隠れるのか、海水がなくなったらどうなるのかといった疑問を書き留めます。その疑問を検証するため、2日目は再び磯に出て生き物に刺激を与えたり解剖したりして実験を行います。実験方法や結果、考察などをグループでまとめて、3日目に発表します。
中2は「森のフィールドワーク」を行います。中1は現地での活動を通して疑問を見つけて、みんなで仮説を立てますが、中2はステップアップして、現地に行く前に疑問を持ち、仮説を立てます。
グループワークによる協働型授業の1つに、音楽と美術の融合授業があります。クラスごとに与えられたテーマ音楽について、1グループ6人で取り組みます。例えばGLCでは、映画『サウンド・オブ・ミュージック』を自分たちなりに解釈し、その世界観や作品中の場面を絵画や立体図形にして美術的アプローチで表現したり、曲を解説するポスターセッションをしたりします。音楽のアプローチとしては自分たちで曲をアレンジ。GLCの生徒はもちろん英語で歌います。このような学び合いの中で、探究力、創造力、思考力、コミュニケーション力を高めます。
開智日本橋ならではの音楽と美術の融合授業
進学実績のあるグループ校の開智中学・高等学校の
教育ノウハウや成功体験を活用
探究型授業やフィールドワークといった開智日本橋学園の学びには、開智学園が系列の姉妹校で積み重ねてきた教育ノウハウを取り入れています。同校では開智中学・高等学校で長年指導を重ねた教員が教えています。「アプローチ法は経験豊かな人、成功体験がある人に学ぶのが早い」と宗像先生は言います。
開智中学・高等学校には基礎学力向上と最難関大学合格の実績があります。東大をはじめ難関国立大学に多くの卒業生を輩出した教員が本校で教えているということは、生徒や保護者にとって心強いでしょう。また東大などに合格した生徒が、どの時点でどこまで理解できていて、どのようなモチベーションを持っていたのかということは、経験者だからこそわかることです。
保護者からよく聞かれるのが「大学受験は大丈夫ですか」ということです。思考型の学力が求められるようになっているとはいえ、まだまだ知識量が重視される大学受験に、アクティブラーニングの学びで対応できるのかという疑問です。これについて、宗像先生は次のように答えます。「基礎学力の養成は中1からしっかり取り組みます。探究型だけでなく習得型と反復型の学びで知識の獲得と定着を図ります。この3つをバランスよく取り入れることで考える材料の知識が増えて、アクティブラーニングも"雑談"で終わらず、より能動的で主体的なものになるはずです」
そうして学力の土台を作った上で、高2から、海外の大学への進学を目指す国際クラスと、国立理系、国立文系、医学部系、私大文・理系の各コースに分かれて大学受験に向けた本格的な学習に取り組みます。
キャリア教育は「実社会とのつながり」を意識
「自分は何ができるか」を考えられるリーダーに
宗像先生が今後力を入れたい取り組みとして挙げたのが、実社会とのつながりを意識させるキャリア教育です。日本や世界の第一線の企業を訪れると「将来こんなことをやってみたい」という思いを呼び起こしますが、これに加えて、自分ならどうするかを考え、行動に結びつけられるようなキャリア教育をイメージしています。
その1つが、日本橋という立地を生かした「にほんばし学」です。例えばマーケット論では、中1で地元の企業から伝統文化や日本の経済について理解を深め、中2以降は商品開発にも挑戦する計画をたてています。
江戸の中心地として栄えた日本橋にはたくさんの老舗があります。中には高価格でありながら、品薄で入荷待ちの商品もあります。消費者がそこまでして「欲しい」と思うのはなぜかということに気がつくと、実社会とのつながりが見えてくると思われます。また、「あえて経営に苦戦している会社を訪問するのも勉強になる」と宗像先生は言います。現実にある課題にきちんと向き合うことで、疑問を発見する力や問題解決能力が養われることでしょう。
地域のことがわかれば日本のことも見えてきて、自分が社会にどんな貢献ができるかを考えるようになります。すると、哲学的になりますが「本当の幸福とはどういうことか」ということに行き着きます。
本当の幸福とは何かについてディスカッション形式で深めていくのが、道徳の授業の中で取り組んでいる「哲学対話」です。初めての哲学対話の問いは「ひとりでいるのと友達といるの、どっちがいい?」でした。「自分が好きなように行動できる」などの「ひとりでいる派」に対し、「友達といる派」からは「気の合う友達なら楽しい時間を過ごせる」などの意見が出て盛り上がりました。普段の生活の中では通り過ぎてしまうような問いを考えたことで、改めて発見することもあったようです。
「幸せの形を考えることで、最終的に人は自分1人で幸せになるのではない、社会全体が幸せにならなければ自分も幸せを享受できないということに気づいてほしいのです。そして、社会性を身につけた社会貢献できる人材を育てたいと思っています」と宗像先生。そのためには自分の持ち味を発揮することです。「平和で豊かな国際社会の実現に貢献するリーダー」として、自分の得意分野ではリーダーとなり、それ以外のところでは周りを支えて社会に貢献する。そうして社会全体が幸福になることが、自分を幸せにすることでもあると宗像先生は言います。
宗像先生が中1の保護者全員に面談したところ、「9割以上の保護者から『学校が楽しい』と感謝の言葉をいただきました。『中学生という自分』を楽しんでいるようです。クラス全体、学校全体が幸福だから、個人が満足感、達成感を得ているのではないでしょうか」
「6年あるから夢じゃない!」を合い言葉にスタートした開智日本橋学園。どんな夢を描き、実現していくのか、生徒たちのこれからの成長が楽しみでなりません。