学校特集
桐朋女子中学校・高等学校
1941年創立した山水高等女学校が戦後(1947年)に桐朋女子中学校・高等学校として再生し、桐朋学園ならではの本物志向の教育を実践している同校。『こころの健康 からだの健康』を教育目標に掲げ、日々の学習はもとより、クラスやクラブ、委員会などの活動や、文化祭、体育祭などの学校行事を協力して成し遂げることにより、社会でも通用するバランスのとれた人間形成を目指しています。
75年の歴史を紐解くと、中高一貫教育のメリットを活かしたブロック制(2年×3ブロック)をいち早く採用。口頭試問方式の入試(現在は筆記試験・記述型試験も実施)や、通知表の廃止(面談による成績伝達)など、独自性の高い取り組みにも果敢に挑戦しています。
コミュニケーションを大事にする、一貫した姿勢が魅力の桐朋女子。グローバル化が進む今、6ヵ年を通して世界に通じる論理的思考力を育成する『DLP(デュアル・ランゲージ・プログラム)』を導入し、「日本語だけでなく、英語でも自分の考えを発信できる力をつけていきたい」と話す千葉裕子校長に、桐朋女子で学ぶことの「意義」と「おもしろさ」について伺いました。
女子の脳は集団活動に向いている!それを活かした教育メソッドだから効果大
千葉先生は桐朋女子の卒業生ですが、在校時から変わらないのはどのようなところですか。
千葉校長:桐朋学園では人間教育を大事にしています。私自身も、在学時には一人の女性としてというより人間として自分と向き合い、どういう人間でありたいかを考えながら中高6年間を過ごしてきたように思います。
ただ、内面の変化、体の変化が著しい時期に自分と向き合う時間を持つことができたのは、女子校という環境が大きかったように思います。本校では授業をはじめ、クラス、委員会、部活動、あるいは学校行事など、さまざまな場面に教員が関わり、「あなたはなにをしたい?」「どう動く?」といった質問を投げかけています。自分なりの答えを見つけ出し、成功に向けて行動することを繰り返しているうちに、自分の個性や特徴に気づかされるだけでなく、友だちの個性や特徴も感じ取ることができるようになります。
女子の脳は集団活動に向いています。みんなで力を合わせて何かを成し遂げようとする場面では、「あの人も頑張っているから自分も頑張ろう」と思い、個性や能力を発揮します。時代を経ても生徒の一生懸命さや熱意は変わらず、時には意見の食い違いによる衝突もありますが、そういう場面に出くわすからこそ、それぞれの個性や特徴を肌で感じ取り、自分は何をすればその集団の中で貢献できるかがわかってきます。
そういうことを75年前に見抜いていたかどうかはわかりませんが、女子脳を意識的に活用し集団活動で得られる達成感や満足感を次の一歩を踏み出すエネルギーに変え、常にチャレンジしながら成長していく...。それが本校の教育の真髄だと思います。
自分の考えを相手に伝える力を重視。小学校時代に心が動く体験をたくさんしてほしい
桐朋女子の教育で大事にしているものはなんですか。
千葉校長:入試の段階から「言語能力」を意識して取り組んでいます。それは、自分の考えを相手に伝えることが本校で生活するうえで欠かせないものだからです。おとなしくてもいいのです。まずは心の中に「こういうことを伝えたい」という、自分の考えや思いを持つことが重要です。そのためには、嬉しい、楽しい、悔しいなど、心が動く体験を存分にすることです。
A入試 ・・・筆記試験(国語・算数)+口頭試問
論理的思考力&発想力入試・・・記述型試験(言語分野・理数分野)
B入試 ・・・筆記試験(国語・算数・理科・社会)
千葉校長:私たちが口頭試問を行う理由は、どのようなことにどのくらいの興味をもっているかを知りたいからです。大人と話すのは苦手というお子さんのために、4教科の筆記試験(B入試)と2017年度からスタートする『論理的思考力&発想力入試』(口頭試問の記述版)も準備しています。入試の形式は異なりますが、どの形式でも、解答を導き出すまでの思考のブロセスを重要視しています。この力は一朝一夕につくものではありません。ただ、特別な勉強というよりも、小学校の授業や日常生活の中で養っていただけるものだと思っています。たとえば先生の話の中で気になることがあれば、さらに調べてみる、質問してみる、友だち同士でやりとりをしてみる、というように、自ら学びを深める習慣をつけると入試にも対応できる力が身につくはずです。
千葉校長:入学すると、国語科をはじめ、さまざまな教科や総合学習の時間を通して、自分の思いや考えを伝える力をつけていきます。具体的には、作文、感想文、レポートなどを書く機会が日常的にあります。中3と高2は、夏休みの課題として自分を振り返り作文を書きます。今年からBブロック(中3・高1)で取り入れている『言語技術』は、相手に伝わりやすい組み立てを学ぶ授業。6年間通して世界に通じる論理的思考力を育成する『DLP(デュアル・ランゲージ・プログラム)』の一環で、Cブロック(高2・高3)では英語と母国語、両方で自分の思いや考えを伝える力を身につけることを目標にしています。今『アクティブラーニング』と呼ばれている、生徒主体で企画を立てて、考えて、発表するなどの形式の授業は、以前から社会や保健体育、芸術などでも行っています。生徒はこの学び方に慣れていますから、将来的には高2・高3の枠を取り払い、日本語と英語を用いた教科横断型の授業を行いたいと考えています。(2018年度より)
120〜150%の満足度を得られる学校。自らの体験を「ことば」で伝えることで、2020年大学入試改革にも対応できる力が身につく
さまざまな体験の中で、自分の個性や特徴に気づき、立ち位置を考えながら、行動できる力が身につくのは素晴らしいですね。言語能力もしっかり備われば、社会に出てからも困らないと思います。
千葉校長:入学した生徒が、6年後にどのような進路を選んでいるかというと、じつに多種多様です。本校では「あなたは何をやりたいの?」と問われることが多いので、生徒は自ずと大学(あるいは短大や専門学校)から先のことを意識していきます。卒業時に1つに絞りきれなくても、新たな環境の中で、まずはおおまかに「これをやりたい」という選択をしながら、しっかりと自分のやりたいことを見つけていきます。人生を歩んでいく中でやりたいことが変われば新たに挑戦する、気概のある人たちも多く、卒業生の生き方に触れるたびに勇気をもらっています。
2015年度の卒業生は、学年の3分の1、90名あまりがAO入試(自己推薦入試も含む)や推薦入試(指定校や公募)で合格しています。京都大学、一橋大学、九州大学をはじめとする国公立大学や早慶上智などの難関私大にも、AOまたは推薦入試で合格者を輩出しています。
千葉校長:中高6年間で学んだことを活かして、自分が望む進路を実現したい生徒の多くは、可能性を拡げる意味でAO入試などでも道を切り拓いています。面接で学校生活について聞かれれば、「もういいよ」というくらい話せるので、やりきった表情で報告に来ます。それだけ、伝えたい中身が存分に得られて、伝える技術も学んでいるということでしょう。しかも結果につながっているのでたいへん嬉しく思っています。
指定校推薦の枠も、人数でいうと500人を超えます。早慶上智をはじめ、多数の大学からいただけるのは、進学した先輩たちのおかげです。在学中には見せなかった力が、先々に花開くことも多く、卒業生からそういう話を耳にするたびに、基礎学力をつけることも大切ですが、それ以上に「私がやります」と手を挙げることができる、エネルギーが涌いてくる場面を数多く体験させることが、より大切だと思います。
千葉校長に聞きました!桐朋女子の生徒が伸びる理由
◆一人ひとりの生徒と向き合っています
桐朋女子には通知表がありません。「数字で伝えることではないだろう」という趣旨で、私が中2の時にこのような形になりました(成績は『指導要録』という形で保存しています)。教科担当の先生は、受け持ちの生徒一人ひとりの取り組みにおいて感じたことを、文章で担任に提出します。それをもとに、担任は生徒との面談(約20分/年2回)を行います。
生徒には、面談の内容をノートに書き留めて、保護者の方に見せるよう指導しています。学年によっては、評価やコメントを書き込めるノートを作り、あらかじめ生徒に配付して、面談の際にそれを用いることもあります。
面談の方法は各先生に任せています。私が担任の時は、課題を見つけてほしいので、その教科でどのような学習状況であったかを生徒に聞くことがありました。面と向かって話していると、「後期はこうしよう」「来年度はこうしたい」という言葉が生徒の口から出てきます。その時に担任と向き合って話をすることで、生徒は自分を見てもらったという実感をもってくれます。
◆他者に貢献する機会が豊富です
「1人1役」を意識して、生徒会をはじめ、学年やクラスではさまざまな委員を設けて関わりを求めています。中1、中2には教科委員もあるので、2役も3役も引き受けている生徒がいます。 生徒の声を集約し、実現に向けて動くのは中高の生徒会執行部です。中学生徒会では、何度も話し合いを重ねて、スポーツフェスティバルを実現しました。高校生徒会は、全校に呼びかけてフォトグランプリを開催たり、定期的に、テーマを決めて写真を募り、いい作品を選んで発表。同じキャンパス内にある音楽高校とは、生徒会同士のつながりの中で文化祭に招待し合って意見を交換したこともあります。男子校(桐朋)とも討論会や文化祭交流などつながりを持っています。
高3まで続ける生徒が多い委員の1つに文化祭実行委員があります。高2が中心となって、その年の文化祭を運営します。高3は、中学生を指導するなどアドバイザー的な役割で、高2を支えます。文化祭実行委員は、先輩がやっている仕事を準備の段階から間近で見てきているので、高2で委員長になるという目標をもつ生徒も少なくありません。実行委員長以外にも、役割ごとに設けられている複数の小委員会があります。その委員長を、前年度に自分たちの選挙により決めたいという提案があり、数年越しで検討した後に実現しました。信頼を得て委員長になった生徒は、自分の役割に誇りをもって活動しているように見えます。当日、インカムをつけて、状況を見ながら滞りなく進むように指示を出す姿は大人そのもの。文化祭全体を動かす醍醐味を味わうことで、生徒は大きく成長します。
◆本物に触れる教育を大切にしています
日頃の授業はもとより、行事でも、事前の準備、事後のまとめを含めて教員が深くかかわり、質の高さを追求しています。中3の修学旅行(3泊4日)は東北です。岩手を起点に、その地域の人々や風土に触れたり、体験したりします。震災で被災された方のお話を伺う機会も設けています。高2の修学旅行は、奈良に2泊、京都に3泊します。京都は生徒同士で企画して回るため、より印象に残る旅になります。スキー実習(高2選択/4泊5日)も、毎年宿を貸し切れるくらい参加者がいます。初心者から上級者までレベルはさまざまですが、すべての生徒を本校の教員が指導。信頼関係が技術の向上を促し、満足感の高い実習を実現しています。
Bブロック(中3、高1)の行事には、桐朋女子高校音楽科、桐朋学園大学音楽学部による本格的なオーケストラの鑑賞もあります。毎年、芸術方面に進学する生徒が多いのも、音楽・美術ともに本格的な授業を行える環境があるからだと思います。
◆桐朋学園のリソースを活かしてさらなる発展を目指します
小中高、短大、音楽部門が同じキャンパスにあります。この11月に、音楽部門の新しい木造校舎(隈研吾氏の設計)が完成し、その後、現存の建物を壊して音楽ホールを造る予定です。同じキャンパスなので、実質的な交流を増やしていきたいと考えています。
男子部との交流も同様です。授業交換、スタッフ交換、合同授業など、いろいろな交流が考えられますし、テーマによっては男子がいたほうがおもしろいディスカッションができる場合もあります。女子校でありながら、学園のリソースを活かして、共学校のようなこともできれば、さらに豊かな教育を実現できると思います。いずれも大きな課題ですし、実現可能な夢です。
女子の成長において、自分としっかり向き合うなど発達段階にふさわしい生活を送ることはとても大切なことです。受験勉強ばかりの生活ではなく、小学校高学年が体験すべきことを存分にやってきていただきたいと思います。本校に入って、保護者の方が「たくましくなった」と驚くほど、自分を発信できるようになる子は、皆、小学校時代に小学生らしい体験をしている子です。個人差はありますが、入学後生徒は、自分がどう見られているのか不安なあまり、心を閉ざしてしまったり、人によく思われたいと思ったりするところが見られますが、中3あたりから、自分らしさに目を向け、自分らしさを出し始めます。時には、友だちと意見が合わず、ぶつかりあうこともありますが、そのぶつかり合いも必要なこと。高校生になると、集団の中で自分はどうあるべきかに気づき始めて、落ち着いてきます。自分の頑張ってきたことをほめてくれる友だちもいて、自己肯定感をもつこともできます。卒業する頃には、理解し合い、刺激し合える友だちはかけがえのないものに。自分の成長を自覚し、仲間の影響を嬉しく受け止めることができる女性に成長します。ドラマ以上にドラマチックな6年間が待っていますのでぜひ一度、学校に足を運んで本校のエネルギーを実感してください。