学校特集
大妻中野中学校・高等学校2016
掲載日:2016年7月1日(金)
2016年度に「グローバル入試」を新設し、英語力のある国内生から大きな注目を集めた大妻中野。高い英語力を持つ生徒たちは入学後、「グローバルリーダーズコース」へ入り、帰国生とともに充実した環境下でアクティブな授業に取り組んでいます。そうした動きは他のコースの生徒たちに刺激を与え、学校全体が活気に満ちる結果となりました。これに手応えを感じた同校は、2017年度には「グローバル入試」の2回目を2月3日に実施することを表明。さらに4日には新たに「新思考入試」を行うことが発表されました。
大きな改革を続々と実行していく同校の教育には、どんな思いと狙いが込められているのでしょうか?
大妻中野で行われている教育について最先端をいく教育実践と合わせて校長の宮澤雅子先生をはじめとした先生方に伺いました。
改革し続ける理由は、
生徒たちの将来を一番に考えるから
大妻中野の教育の大きな特徴は、生徒一人ひとりの長いようで短い6年間という時間、大きく成長するこの期間を非常に大切にしていることです。「いま」、「そこにいる」生徒にとって必要なものは、スピード感を持ってどんどん取り入れ、試行錯誤を重ねながら運営していくという姿勢を貫いています。先に触れた入試改革だけでなく、2013年の新校舎完成の際には、全教室に電子黒板を入れてアクティブな授業を積極的に展開したり、今年は中1から高1までの全生徒にタブレット端末を導入してオンライン英会話やe-ラーニング型の学習を取り入れるなど、めまぐるしいほどの進化を遂げています。同校の教育について、宮澤先生はこのように話します。
「本校の改革は、これからを生きていく子どもたちにとって必要な学びを一から洗い直して考えた結果によるものです。例えばタブレットの導入には相当な決断が必要でしたが、どう考えても今後子どもたちに必須のものです。それだったら一刻も早く、と取り入れました。保護者の方々も『子どもたちに必要なことを学校でやってくれている』と理解を示してくださる、ありがたいことです」
大妻中野では生徒一人ひとりが持つ可能性の伸び時を見逃さず、さらなる成長を促すために、多様なコンテンツを用意して、知的好奇心を刺激し続け、確かな学力を培っているのです。
地球規模で考える。
「行動力」と「探究心」の育成が、未来を牽引する"力"になる
タイ・チェンマイ短期留学
大妻中野は、2015年度にはSGHアソシエイト校に認定され、様々なアプローチからのグローバル教育に学校全体で取り組んでいます。
同校で大切にされていることのひとつが「Active Arts」。これらは大きく「行動し、つなげること」といった意味合いがあります。大妻中野が考えるグローバルとは、健全で小さなコミュニティ一が重なり合い、最終的に「世界の平和を築いていく」というもの。そのためには、多様性を納得・理解すること、コミュニケーション能力を発揮したり、行動力を伴った問題解決能力をつけることが不可欠です。
この同校の「行動してつなげる力」は、SGHプログラムなどを通じた地に足のついた実践です。例えば、中2以上の生徒たちが参加する「タイ・チェンマイ短期留学」では、現地の高校生と課題解決協同作業として、課題発見のためのフィールドワークと問題解決のためのグループワークに取り組みました。チェンマイでは上智大学の先生と一緒に現地を回ります。成長を続けるアジアの国々の様子とアジアにおける日本の位置付けを肌で実感します。事前学習として、タイ語やタイの文化を教えてくださるのは、東京外語大学の先生です。
また東京芸術大学では、本格的な映画を撮るような技術を教えていただくために、大学へ足を運び、中野を本拠地とするテレコム・アニメより直接アニメ制作のレッスンを受けました。生徒たちは、これら様々な視点や方法を得て、現地の方々と「Active Arts」の取り組みをするのです。
グローバルイシュースタディ
誇りを持っています!
このSGHプログラムの一つとして行われているのが「グローバルイシュースタディ」です。この講座は博報堂のイシューデザイナーを中心に開講されており、生徒たちは地域・社会・世界が抱える問題点について議論を重ねていきます。
「これらの講義や実技指導を行ってくださっているのは、世界の第一線で活躍されている方々です。中高生がこうした取り組みをしているということに興味を持ち、本校へ出向いて教えてくださっています。こうした方々ほど、世界の中で日本の置かれている状況への認識と危機感を持っているので、未来の人材を育てなければという気持ちが強く、皆さん快くご協力くださっています。第一線で活躍なさっている方たちと一緒に学ぶことで我々も成果をハッキリと実感し、それを校内の先生方と共有できました。日本が置かれた最先端の情報を直接知ることができたというのが、この授業の一番の収穫です」と宮澤先生は言います。さらに、「将来クリエイティブな仕事に就くためには、自分自身で考えて行動し、10年後、20年後、そして30年後、彼女たちには『あなたでなければできない仕事』で、自信と誇りをもって堂々と活躍してほしいと思うのです」(宮澤先生)
様々なつながりのなかで、自分自身や他者理解を深め、社会を知り、「明確な意思を持って、自らの手で未来を切り拓いていける女性に育ってほしい」ということが、大妻中野の先生方が一番願っていることなのです。
より高い英語力と多様な価値観を育成する
「グローバルリーダーズクラス」を創設
この経験をきっかけとして、卒業後海外で活躍する妻中生も!
大妻中野はもともと、帰国生の受け入れに非常に積極的です。生徒の10人に1人が様々な国や地域からの帰国生で、その多様性を認め合う教育が行われています。
その文化の下、「世界を見据える確かな目と、自ら世界を切り拓く行動力、交渉力を養う」ことを目標に設立されたのが今年からスタートした「グローバルリーダーズコース(以下GLC)」です。これは国際バカロレア(IB)が示す「Theory of Knowledge(グローバルスタンダードの知識)」を基幹とするカリキュラムで構築されたコースです。
「グローバル入試」で入学した、海外生活経験のない国内生が帰国生と同じホームルームクラスで学んでいます。中1は35名で、グローバル入試の合格者12名と英語圏からの現地校などに通っていた帰国生になります。先にもある通り、来年度にはこの「グローバル入試」の第2回の新設が決定しています。それだけこのコースで行う教育活動に手応えを感じているということですが、クラスの開設から丸3か月が経ち、生徒たちの様子はどうなのでしょう。外国語科で入試広報部の中川徹夫先生は、「国内生のレベルの高さに驚きました。なかには、英検2級程度の実力を持つ生徒もいます。しかし、やはり表現力などは帰国生のほうがまさっているので、いずれは追いつき追い越せるようになるといいですね」と言います。
グローバルリーダーズコース(GLC)
流暢な発音に、日本にいることを忘れてしまいそうになります。
このコースの最も大きな狙いは、様々な環境下で育った生徒たちが集うことがもたらす影響。互いの特性や個性、違いを認め合い、それをベースにそれぞれが豊かに発想し、自由に思考することで、多様性に気づき人間的な幅を広げて、刻々と移り変わる世界でグローバルリーダーになりうる人材を育てることです。
「このGLCクラスは、日本人とネイティブの教員の二人担任制を敷いています。日本人の教員は社会科担当ですが、オールイングリッシュに対応できる力を持っているので、『グローバルイシュースタディ』も行えます。ホームルームなどの連絡も英語で行われていて、帰国生の英語力は引き上げられ、国内生の実力も向上できます」(宮澤先生)
英語と数学は習熟度別に2クラスに分けられており、無理・無駄のない学習で進められます。帰国生や英語学習歴が長い生徒の多いαの授業を見学すると、数学は準拠教科書を使用していますが、全て英語で書かれており、日本語と英語、それぞれの表現を学びます。英語では先生からの課題に、それぞれがタブレットに書き込んだり、みんなの前で発表していったりと自分自身の言葉で表現していきます。議論は延々と続きそうなほどの熱を帯びています。
中川先生は「GLCの生徒たちは、アメリカの学校と同じような形態で授業が進められています。先生に聞かれる前に答え始めてしまうような活発な生徒も多いですね。教材の内容も高度です。内容を把握するために、これまでの知識の蓄積もないとできません。英語版での読書量がとても豊富な生徒もいます」と教えてくれました。
英語力も知識もどちらも必要な、まさに英語で学ぶ授業なのです。
「これからもっとボキャブラリーやコンテンツが増えて、知識が定着していけば、今度は生徒自身が行う英語を使ったプレゼンが楽しみです」と中川先生は目を輝かせます。
なお、週2時間は検定教科書を使った日本の大学入試や英語圏留学への道程の重要な通過点であるTOEFL iBTに対応した学習も合わせて行っています。
「4技能の力を伸ばすことはもちろんですが、SGU入学のための基盤となる教養もきちんと身につけていきます」(中川先生)
なお、クラスやコースの移動は生徒たちの状況に応じて相談しながら行います。例えば他コースには、帰国生でも日本人学校に通っていたため、このGLC入学を受験時に検討しなかった生徒もいます。しかし彼女たちも入学後の努力によって、希望のコースを目指すことができます。同校では生徒一人ひとりの状況を見極めながら細やかに対応しているので安心でしょう。
なお、これらの活動について、一定の生徒しか恩恵が受けられないのでは?と質問をぶつけました。宮澤先生は「本校はすべての生徒に可能性を、ということを第一に考えます。ですからこの改革を全校一斉に行ったのです。入り口までは全員で一緒に。そこから先、熱心にやるかどうかは子どもたち次第です。できるだけみんなが平等に同じ教育を受けられるようにしたいと思っています」と語ってくれました。
参加せざるを得ない」状況を作り出す
タブレットを利用した授業で能動性アップ
使い方をマスター!先生方の研修会も熱く行われています。
今年から中1から高1までの全員がタブレットを購入しています。通常の授業で積極的に使われているだけでなく、e-ラーニングとオンライン英会話システムも始まりました。
「これらがいっぺんに導入されたので、教員も大変です。教育実習生も目を白黒させています」と愉快そうに笑う宮澤先生。それでもやはり大妻中野の先生方は「生徒に必要なものだから」と一枚岩での協力体制が取られています。このタブレットの導入による宮澤先生の肝入りは、オンライン英会話です。
「英語の4技能はこれからの大学入試でも重視されます。3技能は生徒が自分でも勉強できますが、スピーキングだけはキチンとしたチェックが大切であり、一朝一夕に上達するものではありません。フィリピンの講師のみなさんは本当に親切で、高いホスピタリティをお持ちです。たとえ生徒がどんなに話せなくても、あの手この手で言葉を引き出そうとしてくださるので、ありがたいです」(宮澤先生)
中川先生も「講師のみなさん、とても発音が綺麗で聴いているととてもわかりやすいです」と太鼓判を捺します。
オンライン英会話
GLCの生徒たちは「グローバルイシュースタディ」も行います。
それぞれの学年やクラスに合わせた専用の教材を使って、1回25分で実施されています。「今年度はトータルで18回程度の実施の予定です。来年は20回以上を目指しています。 行事などの関係で今年はその回数しかできないのが残念ですが、やらないよりはるかに生徒たちの力になっています。1対1で25分間英語を話し続けるなんて、なかなかない機会ですから」(宮澤先生)
話すしかない状況を作ると、生徒たちも勇気を振り絞らざるを得ません。やはり見学したこの授業も、最初は「苦手だから困るなぁ」と言っていた生徒も、だんだんとしっかりとしたコミュニケーションやジャスチャーを取りながら、いつの間にか引き込まれていくような形で集中した時間を過ごしていました。
「オンライン英会話では、ぜひ、生徒たちの表情にご注目ください。自分一人で話せたことや通じたことが、ものすごくうれしいんです」と、まるで我がことのように、明るい笑顔で宮澤先生が教えてくれました。
このタブレット学習のおかげで、同校では「なぜ?」と原理を考える授業が増えたそうです。「アクティブラーニング型の授業が増えました。まず先生が問題提起をし、生徒たちが自分たちで学び合う時間を設けて、最後に振り返りを行ってクラスのみんなで力をつけていきます。昨年から委員会を作って研究しながらすすめています。こういった学習にもっと早くシフトしていきたいですね」(宮澤先生)
授業を見ていて何よりも印象的だったのが、いずれの授業も生徒たちが疑問や自分自身の考えを持ち、表現していたこと。大妻中野の生徒たちの「もっと伸びたい!」という明るい向上心や希望を思わず感じたのです。
自ら発想し、構築できる力を問う「新思考力入試」。
そして、大妻中野のこれから
学力だけでなく、芸術活動にも力を入れているのが妻中!
これまで見てきたように、GLCの開設やタブレット端末の導入など、立て続けに大改革を行ってきた大妻中野。最初にある通り、来年から始まる「新思考力テスト」では、どんな生徒を求めているのでしょうか。
「これまではコアコースとアドバンストコースの2コース制をとっていましたが、どうしても集まる生徒のタイプが似通う傾向がありました。この『新思考力入試』を行うことにより、異なるタイプの生徒が入学し、さらに学校の活性化が可能になると考えています。私たちが大切にしているのが、グローバルに対応出来る視点と思考力です。この2つは車の両輪のようなもので社会にとっては不可欠です。そういった力を持つ生徒の入学を求めたいですね」と教頭の諸橋隆男先生は言います。
これまでのような知識蓄積型ではない、表現力と思考力を問う入試では、何を考え、どう表現したかという答案の独創性が合否を分けることになりそうです。
出来る活気に満ちた授業で、理科離れはほとんどありません!
出題は、国語・社会・理科3科目の要素が集まった合科型。計算力や解答プロセスから思考力やデータ解析力を問う算数型。そして考えを言葉で伝える小論文型。
現在、学校HPには「新思考力入試」のサンプル問題が掲載されていますが、諸橋先生がこれを作った時のエピソードを教えてくれました。
「社会、理科、国語の教員が集まって問題を作りました。他教科の意見を聞きながら、『へぇ〜!』と感心することばかり。問題作成は大変でしたが、教科を超えたセッションの実りは非常に大きいです。教員同士で『こういう、我々が楽しみながら学問と向き合う雰囲気を、生徒にも同じように味わってもらいたいね』と話していました」と言います。
先生方自身が学際的になり、クリエイティブな作業を行った意義のある1か月だったそうです。
学び合いも大切なコミュニケーションとして、重視されています。
今年から、宮澤先生は先生方に、「授業の最初で必ずその日の授業の学びの意味と到達目標を提示してほしい」と伝えたそうです。宮澤先生は「生徒たちにとって、『今この学びは何のためにやっているんだろう?』と、意味を見出せないならば、まっすぐに突き進むことはできません。例えば授業と部活の違いは、部活はやることがシンプルで、目標値が見えているので、多少の辛さがあっても耐えられます。しかし、授業で到達点の見えない部分があることはとても辛いですね」と言います。
そのため、先述の到達目標の提示と合わせて、大妻中野が現在取り組んでいるのが、「評価の見える化」としての"ルーブリック"の作成です。先生方は生徒たちの学習履歴を把握しながら日々を送っていますが、タブレットの導入により、その評価システムはとてもやりやすくなるだろうと考えられています。
宮澤先生は目指す方向を示してくれました。
「生徒たちが、本当に自分で楽しみ、ワクワクしながら、意欲を持ちながら勉強するということができたら、それは我々教師にとっていちばんの喜びです。そのためにどうしたらいいかと、あの手この手を考えますが、これまでのように例えばできるまで罰則的に追いかけるような追試制度などではなく、もっと根本的に発想を転換して、どうやったら生徒たちが自分から取り組みたくなるのかを考えることが重要です。人間はみんな、"評価されたい"、 "認められたい"という気持ちがあります。もしかしたら、評価されるのは嫌なことなのかもしれません。しかし、評価されるのは嫌だけれど、評価があることで、自分の立ち位置を理解することができます。たとえ悔しい思いをしたとしても、その悔しさをバネにして競争心に火がつき、ポジティブな気持ちとして育つなら、それは次へ向かう原動力が生まれるのです」
高3は6年間の集大成である詩吟舞踊で観客を魅了します。
諸橋先生も「大切なのは一人ひとりの自尊感情をきちんと育てた上で、自発的に自らの立ち位置を確認できる仕組みを作ることです。その評価システムにより、一人ひとりが先生に見守られているのだということがわかるようにしていきたいのです。それは大妻中野の次の学びに結びつくでしょう」と言います。
今後、「グローバルイシュースタディ」をもっと深めていきたいという宮澤先生。そのことにより、世界情勢や日本の状況、自分の立ち位置などを鑑みながら、「自分の頭で考えられる子に育てたい」と言います。こうした経験は、どんな環境でも自分を鼓舞することができる、チャレンジ精神に満ちた人材を育てます。
大妻中野の「新思考力入試」・「グローバル入試」、そして従来通りの選抜、と様々な形態が選べるのも同校の新たな魅力となるでしょう。ぜひ挑戦してみたいという受験生、ぜひ一度学校へ足を運んでみてはいかがでしょうか。