学校特集
武蔵野大学中学校・高等学校2025
掲載日:2025年1月14日(火)
2019年に中学を共学化。その1期生が、間もなく卒業を迎えます。そして、2024年は創立100周年という節目の年でした。これも巡り合わせなのかもしれません。武蔵野大学は100年の伝統のもと、基礎学力の定着はもちろんのこと、グローバル社会でますます重要になるのは「人間力」であるとし、異文化間コミュニケーション能力と日本人としてのアイデンティの確立を目指す教育を展開しています。さらに、次代を見据えて「探究学習のさらなる充実」と「自ら進んで自学習に取り組む仕組み作り」を喫緊の課題としていますが、中学共学化からようやく一巡する今、その変わらぬ教育哲学と、これからの教育の在り方について、2024年春に校長に着任した原田豊先生に伺いました。
※上の写真は、大盛況だった「樹華祭」(文化祭)の後夜祭の様子
「変化に対応する力」を育成するとともに、「不動の価値観」を築く
数年前のこと。同校を訪れるのが2回目だったため、入り口を間違えて生徒の昇降口に入ってしまったことがあります。見覚えのない風景に戸惑いウロウロしていると、廊下の遠くにいた、部活に向かおうとしていたジャージ姿の男子生徒が小走りでこちらにやってきました。「どうされましたか?」と。その時の温かい気持ちが、同校への強い印象として心に残っています。
原田校長:「私も同じ経験をしました。着任早々、校内が広いので視聴覚室に行こうとして迷ってしまったことがあります。通りがかった生徒が『校長先生、どうしましたか?』と尋ねてきて、丁寧に教えてくれようとしたのですが、傍にいた生徒が『案内してあげればいいじゃん』と言って連れていってくれました(笑)」
説明会の際のアンケートでも、「他校に比べて、生徒さんがすごく挨拶してくれる」「生徒さんがとても良い雰囲気」という声が多いそうです。
「人間力を身につける」。それは自分の中に不動の価値観を築き、プリンシプルを持った人間になること。同校では「宗教」の授業も週に1時間ありますが、仏教的人生観を学ぶとともに、科学技術と生命倫理に関する「生と死」の問題についても考えます。また、1日の始まりには「朝拝」で黙念し、自分自身を見つめ他者を思う心を育んでいます。このように、日々の学校生活の中で「心の教育」が実践されていますが、生徒たちは学びを単なる知識に留めず、知識に照らして自己を見つめ、少しでも行動に移していこうという姿勢を持っているのです。
説明会では生徒有志が校内を案内しますが、時間がかかりすぎても保護者の方に申し訳ないからと、先生が「20〜30分ぐらいで戻ってきてね」と念を押すほど熱心に案内するのだとか。でも逆に「これだけ、自分の学校のことを語れるのはすごい」と、保護者の方からは好評だと言います。なぜ、生徒たちはそこまで歓待するのか。生徒たちから返ってくる言葉は、「自分が受験生の時にそうしてもらったから」です。
原田校長:「本校には、オープンマインドな生徒が多いように思います。加えて、宗教の時間はもちろんですが、日常の学校生活の中のちょっとしたひとコマひとコマが、自分の思いや考えをアウトプットする訓練の場になっているのかもしれませんね」
「熱量」と「チャレンジ」で、学校の空気が変わってきた
同校の教育の目的は、以下の3つを涵養することです。
①Mind(多様な在り方を受け入れ、他者と協働する力)
②Skills(課題を解決するための論理的思考力)
③Leadership(自分で動き、世界に貢献する力)
そのため、「なんでも見てみよう、試してみよう」という生徒の好奇心を刺激する種をあちこちに散りばめ、「安心して失敗し、失敗から学ぶ」環境を整えています。学校は、危険なことでない限り、失敗を経験するのに最適な場だからです。「熱量」と「チャレンジ」を合言葉にしているのも、その表れでしょう。
ちなみに、コロナ禍によって集団活動が制限されたことをきっかけに、同校では2022年以来、生徒たちの熱量を引き出し、積極的に外へ放出させる生徒主体の活動を拡充してきました。
行事や諸活動など、さまざまな場で先生方がその道筋を一度示したあとは、生徒たちは自分たちの持ち味を出し始めました。今では、先生方は表舞台からフェイドアウトし、ほとんど見守るだけになったそうです。
原田校長:「私は初めて見たのですが、グラウンドで行われた樹華祭(文化祭)の後夜祭には全校生徒約2000名が集結し、その熱気に驚きました。自分たちの力であそこまで盛り上げるというのは、一つの能力だと思います。また、説明会に登壇する生徒たちの話も実に見事で、スライドを使って紹介する際にはユニークなBGMをかけるなど創意工夫をこらし、こちらも大盛況でした。そういう目に見えない生徒たちの実績が積み重なり循環して、学校の熱気を作り出しているように思います。これも、共学化以降の変化の一つかもしれません」
余談ですが、生徒の発案で、樹華祭のオープニングでは校長もバナナの着ぐるみを着てステージに上がったのだとか。
原田校長:「私はよく『挨拶・返事・後始末』ということを言っているのですが、進行役の生徒から『後始末バナナです』と紹介されて登場しました(笑)」
「熱量」とは、主体性がないと持てないものです。そして、「ユーモア」も同様です。
原田校長:「いくら『熱量を持って』と口で言っても伝わりませんが、本校は、そもそも熱量を持った生徒を放さない雰囲気を持っているように思います。先程、実績が積み重なってきていると申し上げたのは、集団としての熱量が大きく、みんなで楽しもう、盛り上げようという空気が醸成されていることを実感しているからです」
このような行事以外にも、これまでは探究活動の成果は各学年ともクラス内で発表していましたが、2022年より全校生徒の前で発表するプレゼン大会「Mu-1グランプリ」に昇格させるなど、生徒たちの活躍の場は確実に広がっています。
原田校長:「昨年の『Mu-1グランプリ』の優秀賞の受賞者は中1だったそうですが、今年のオープンスクールでも披露してもらったところ、探究の観点も堂々とした発表態度も素晴らしいものでした。説明会やオープンスクールで先輩の姿を見たのかもしれませんが、本校が、熱量の素地を持った受験生が『入学したい』と思える学校であることが嬉しかったですね。これも共学化からの6年間で作り上げてきた、数字では表せない実績だと思います」
今後の取り組み①「自学習習慣」を強化し、メタ認知能力の向上を目指す
■学びの目的は「アカデミックマインド」と「アカデミックスキル」を獲得すること
中学では、全員が「Global & Science」をテーマに学びます。
「Global」とは「変化の激しい時代の中で世界に貢献できる人」の育成を目指すもの。そのため、中学3年間は主にワークショップスタイルの授業を取り入れて、学びの土台となるアカデミックマインドの形成と強化を図っていきます。
一方、「Science」とは「論理的・科学的思考力を養い、社会課題を解決しようとする人」の育成を目指すもの。多様な授業の中で身の回りの課題を明確にし、トライアル&エラーを繰り返しながら、解決するためのアカデミックスキルを培っていきます。
そして、「PBL(Project Based Learning)」と「言語活動」を学習の要に据えて、「What?」や「How?」だけでなく、「Why?」を大切にした学びを深めていきます。
自分と向き合って自分を客観的に知り、それを周囲に発信しながら、行動に繋げていく。そういったことが、探究的な学びの中に組み込まれているのです。
■すべての学びの基盤となるのは、オリジナルの授業「言語活動」
共学化と同時に、中学ではすべての学びの基盤となるオリジナルの授業『言語活動』をスタートさせました。
これは、教科の枠を超えた授業を展開しながら、思考やアイデアを可視化する「ブレインストーミング」や「マインドマップ」、情報を整理する「ノートテイキング」、複数のアイデアを比較対照する「Tチャート」、「プレゼンテーション」など、多様な思考表現を学ぶ授業です。アカデミックスキルを身につけ、他者と協働しながら「課題発見」から「課題解決」へと向かう姿勢を育てることを目的としています。
授業はグループワークやワークショップスタイルで行われ、中1は「自己理解」、中2は「他者理解」、中3では「社会接続」をテーマに徐々に視野を広げていきますが、例えば中3ではオープンスクールを生徒が企画・立案するなど、各思考表現を使いこなす実践の場は多岐にわたります。
そして昨年、ようやくこの授業の教育内容を凝縮したテキストが完成しました。まさに、先生方の熱量と気概に満ちたオリジナルのテキストです。
原田校長:「これは、どのページを見ても私自身が勉強したいと思うくらい高いレベルで仕上がっていると思います。当初、『言語活動』の授業は特定の教員が担当していましたが、現在は担任が授業を行っています。これも、『教員間で何事も人ごとにせず、共有していく』本校の姿勢の表れだと思っています」
■「自ら進んで自学習に取り組む」仕掛け作りとは?
さまざまな先進的な教育を実践する同校ですが、世相の変化や大学入試の形態も多様になってきた今だからこそ、基礎・基本をしっかりと固めることが改めて重要になると校長は言います。そのためには、自学習の習慣を身につけることが肝要だと。
原田校長:「現在も『imamirai手帳』というスケジュール帳を使って勉強の計画を立てるなど、自分で時間管理をする取り組みは行っているので、生徒たちにも素地はできていると思います。ただ、何よりも大切で、かつ難しいのは『継続すること』ですから、そのためのシムテム作りをしようと」
●「アダプティブラーニング」の仕組み作り
生徒と先生が1対1で面談を行い、学習課題をカルテ化して、それぞれの課題に最適化したアプリ教材で学習する「アダプティブラーニング」を実施する。
●デジタルとアナログを組み合わせて「調べ、考える力」の向上を図っていく
同時に、調べ学習ではネットなどデジタルデータを参考にするだけでなく、実際にインタビューやアンケートなどを行い生の情報を得て分析するなど、デジタルとアナログの両方を的確に使い分けていく。
原田校長:「つまり、メタ認知能力の向上を図りたいのです。そのためには『振り返り』が重要になります。普段の授業でも必ず振り返りを行っていますが、先の『imamirai手帳』も同じで、計画は立てたもののうまくできなかったことを自分で振り返る。そういったこと以外に、私はメタ認知能力を向上させる方法を知りません」
どんなに嬉しかったことも、どんなに悔しかったことも、時が経てば人の記憶は曖昧になるものです。でも、手帳を書き続ければ、「自分はこんなに幼かったんだ」「この時から、こんなふうに思っていたんだ」と知ることができると同時に、「少しは成長できたかな」と振り返ることもできます。そして、その記録が大学受験の際のポートフォリオにも活きてくることは言うまでもありません。
身近な社会問題として、SNSに関する課題が山積みですが、そこを脱する一番の要も「自己制御力」だと校長は語ります。「メタ認知能力が高くなければ、どうしても引きずられる部分が出てきますから」と。
原田校長:「振り返りとともに、本校にはメタ認知能力を鍛える機会がもう一つあります。それは宗教です。毎朝の朝拝で創立者の高楠先生の『五戒』(日々、感謝の気持ち持つことを推奨する聖語)を口にするのですが、毎日のことですから自然と覚えます。そうすると、その言葉がだんだんと心に沁み込み、行動の尺度になっていくのではないでしょうか。それが、メタ認知能力を高めるということであり、先に申し上げた価値観の育成・プリンシプルの確立に繋がっていくのだと思います」
今後の取り組み② 総合型選抜に向けて、「探究学習」をさらに充実させる
今、大学入試では総合型選抜が増加傾向にあります。私立大学でいえば、学校推薦型選抜と合わせると、定員のほぼ半数を占めるまでになっています。
原田校長:「総合型選抜は、本校が共学化以降進めてきた探究学習によって身につけた力を発揮できる入試形態とも言えます。昨秋の総合型選抜では、一例として2名がICU(国際基督教大学)に、1名が慶應義塾大学に、1名が上智大学に合格しました。また、学校推薦型選抜では医学部医学科に2名が合格しました(いずれも指定校推薦は除く)。このように徐々に実績が出ていますので、探究学習をさらに充実させるなど、学校教育の中に総合型選抜にふさわしいプログラムを組み入れ、強化していこうと考えています」
総合型選抜に向けたプログラムの構想として、具体的には以下があります。
●「探究学習」をさらに充実させる
高校は「ハイグレード」「PBLインターナショナル」「本科」の3コース制をとる。コースごとに「日常の事象への疑問をテーマとする」「商品開発に取り組む」「哲学や芸術活動など多岐にわたる講座を通して、自分の関心領域や得意分野を発見する」などをテーマに探究活動「MAP(Musashino Arts Project)」に取り組んでいる。「ハイグレード」では「アカデミックマインド」、「PBLインターナショナル」では「アントレプレナーシップ」、「本科」では「LAM(Liberal Arts Musashino) & My Vision」を展開。どのコースも専門企業とタイアップし、普段の授業では体験できない講座を実施。
ちなみに、2024年度の総合型選抜や学校推薦型選抜で難関大学に合格した生徒たちは、同校での6年間の探究的な学びの成果を如何なく発揮したと言えます。
原田校長:「ただし、いくら総合型選抜や学校推薦型選抜といっても、基礎・基本が大切なことは言うまでもありません。定員の約半分が総合型選抜や学校推薦型選抜で入学し、その学生たちがいくら特化した力を持っていたとしても、基礎・基本が薄ければ大学も困ってしまいます。それ以上に、生徒本人のその後の人生にとってデメリットになりかねません」
「基礎・基本をきちんと身につけ、探究学習で非認知能力を高めることは、総合型選抜でさらに成果を出していくことに繋がるでしょうし、共学化1期生を見ていると、一般選抜にも対応できる力も十分についていますので、今後に期待しています」と校長は言います。
原田校長:「今、子どもの出生数は15年くらい前の約半分になっています。2000年くらいに100万人を切ると話題になりましたが、そこから減り続けて、2024年は約70万人。今の小学校3年生が中学受験をする時、中学受験者数はかなり減る見通しです。私学の間では『2027年問題』と言われていますが、その時にどういう学校でいられるか、いるべきかを考えさせられます。まずは、何より基礎・基本を身につけさせること。それは、生徒に基本的な学習習慣がつくということですから、極論を言うと、放っておいてもそれぞれの動機の強さや熱量に応じて、どんどん自分で進んでいくことができます。もちろん、今もできている生徒はいますが、マクロで見て、今後はもっと力を入れていこうと。そうすれば、相乗的に効果は上がっていくと思います」
大学受験に限らず、基礎・基本というのは、その時に興味がなくても後々自分の視界を広げるためのヒントになり得るものです。校長の言う「基礎・基本」とは、その後の人生でさまざまな知見を得たとき、それを受容するための器と言えるかもしれません。大きな器を作っておきさえすれば、自分の力でその器を満たしていくことができるから。
原田校長:「何事もそうですが、最初の一回転、二回転はすごく力が必要になります。ところが、慣性の法則のように、一回周り出すと、あとはもう自動的に動いていくものです。しかも一回転するごとに、徐々に勢いがついていく。共学化から6年が経ち、本校は今、ちょうど回転し始めたところだと思います」
チャレンジに怯むことのない、オープンマインドで明るい生徒たちが集う武蔵野大学。
100年の伝統のもと、変わらず「不動の一点」を見つめる眼差しを丁寧に育てながら、未来への対応力を身につけさせる教育を実践する同校は今、次の100年に向けてその一歩を踏み出したところです。
■100周年事業「文武両道の活動拠点」が誕生!
●MUseion(エムユーセイオン)
2025年春に完成予定の、図書館機能や自習室を備えた「MUseion」とは、古代ギリシャの学術施設「ムセイオン」に因んで名づけられたもの。「知性の木」というコンセプトで設計され、各フロア中央には幹となる大きな部屋を配置し、それを囲むように枝葉として回廊のような空間を設けます。フロアごとに学びの目的が異なり、1階は蔵書の一部がある談話室、2階はプロジェクターを完備し、探究学習などで使用するラーニングコモンズ、3階はメイン書架と読書スペース、最上階の4階が自習スペースと、上の階に行くごとに静かになる構造となっています。これまで以上に自習スペースが拡充し、新しく気持ちの良い環境のなかで「自学習」にもいっそう力が入りそうです。
●スポーツパーク
2024年9月、校舎と第一体育館の間に完成した新たな運動施設。人口芝が張られた950㎡のスペースは、バスケットボールのコートが2面とれる広さ。体育の授業や部活動のほか、休み時間の遊び場としても活用されています。地下には自転車400台を収容する駐輪場も。これで雨の日も安心です。特に男子は、体を動かすことができる場所が増えて喜んでいるとか。