学校特集
実践女子学園中学校高等学校
渋谷駅から徒歩10分、表参道駅から徒歩12分という好立地にありながら、閑静で安全な環境が保たれている文教地区に、緑豊かな2万5千平方メートルもの広大なキャンパスが広がっている。
明治32年、女子教育の先覚者下田歌子によって創立され、その高い志と理念が現在も脈々と息づいている。伝統校としての女子教育にさらに磨きをかける一方、急速なスピードで変わり続ける社会に対応すべく、いち早く国際学級GSC(グローバルスタディーズクラス)を創設するなど意欲的に革新を続けている実践女子学園中学校高等学校。模擬国連での最優秀賞受賞や大学合格実績の伸長など生徒が目覚しい活躍を見せている同校の教育について広報部長の松下 寿久先生に伺った。
"模擬国連最優秀賞受賞"に象徴される教育成果
「人間力」を生む4本柱体制
1世紀を越える伝統の女子教育を精査し、新たな時代における新たな女子教育の形に現代化したものが現在の教育体制だ。「キャリア教育」「グローバル教育」「感性表現教育」、そしてこれらに、単に受験学力だけでなく真の実践的学力(活用型学力)育成をめざす「学力改革」の取り組みを加えた4本柱体制だ。4つの要素が相まって知力と学力の相乗効果、すなわち「人間力」を生む構造になっている。そしてこの体制が近年大きな教育成果を挙げているという。
模擬国連で最優秀賞を受賞!
「全日本高校模擬国連大会において、本校は2011年~2013年の3年連続で優秀賞を受賞、さらに2014年には最優秀賞を受賞し、2012年~2015年、ニューヨークの国連本部で行われる世界大会に4年連続日本代表として出場しました。模擬国連とは、全国から集まった各チーム(2名)が実在する世界の国々の大使となって、与えられた課題について英語で議論を戦わせ決議案を提出する、まさに本物の国連さながらの会議です。高い英語力はもちろんのこと、情報活用力や分析力、課題解決力、交渉力、コミュニケーション力といった、いわば実践的学力が問われます。本校の生徒がこうした実績を残せたのも、まさに4本柱の教育によって養われたこれらの力を、総合的な人間力として発揮できた結果だといえます」数々の強豪校のなかで最優秀に選ばれた同校、4年連続で優秀賞以上を受賞している学校は他には無い。そして、驚くべきことに2014年に最優秀賞を受賞した生徒は一般学級の生徒だという。国際学級のGSC(グローバルスタディーズクラス)だけでなく学校全体で高い意識のもと、グローバル教育が展開されていることがよくわかる。グローバル社会に貢献できる人間力の育成という実践女子学園の根幹をなす教育理念を、生徒自身が体現している顕著な成果といえるだろう。
この他にも、2015年度のクエストカップ全国大会で企業賞を受賞、過去にも企業賞をはじめ2010年度にはグランプリも受賞している。クエストカップとは、大手企業数社から出されたミッションに応え、新たな商品開発やサービスの提案をプレゼンテーションする課題探求学習「クエストエデュケーションプログラム」で、実践女子学園では2004年度から情報の授業に導入し、キャリア教育の一環として成果を上げている。
また、2015年11月に行われた高校生中国語発表大会において、暗唱部門で最優秀賞、弁論部門で優秀賞を受賞した。さらに、高校ソフトテニス部が全日本私立高等学校選抜大会ならびに関東大会に出場するなど、近年の生徒たちの活躍には目を見張るものがある。
様々な成果を生み出す感性表現教育
なぜ生徒主体の動きがこれほどまでに活発なのか。「いずれも『4本柱』体制の教育成果だと考えています。生徒たちが何事にも積極的に取り組むようになり、学校全体が活性化するという変化が数年前から顕著になっています。4本柱がバランスよく噛み合い始め、生徒たちの学びへの意欲や関心が一層高まったと言えます。4本柱の中でも特に、感性表現教育は、一般的には情操面の教育として二次的な扱いになりがちですが、本校では、日々の授業やクラブ活動、行事といったあらゆる教育活動を、すべて感性表現教育という観点で捉え、"見る力"、"聞く力"、"感じる力"を養い、それを"表現する力"へとつなげていく、いわば人間力育成の柱の一つにしています。例えば、部活動の成果を校内で発表する場を設けたり、美術や家庭科の生徒作品を校内の随所に展示したり、また、移動教室での体験を全員に俳句で表現させ国語の授業で句会を開いたり、先のクエストカップも、当該学年は高1ですがプレゼンを中3の生徒にも見せたり、高2のダンス発表会を高1にも見せるなど、数多くの発表と鑑賞の場を設けています。他の生徒の発表を見たり聞いたりすることで豊かな感性を育み、自らの表現活動に活かしていく。このように、生徒同士が切磋琢磨し互いに教育しあう環境こそが、本校ならではの伝統であり、学校本来の教育的土壌と言うべきものではないでしょうか」
"25年後の世界と私"を見据えるキャリア教育プログラム
生徒の25年後の生き方に責任を持つ
4本柱の一つであるキャリア教育。その推進にあたって心がけていることを伺うと「大学進学が中高教育の最終目標ではないという考え方がまず大前提です。その上で、生徒の25年後の生き方に責任を持つという姿勢で教育にあたっているということです」25年後という先の未来を見据えていることについては「女性は結婚、出産、育児などにより一旦仕事を離れるケースが多いのですが、子育てが一段落して社会復帰を考える時期が40歳前後です。それはキャリアプランを作る15歳の高1生から見ると25年後にあたります。そのときに自分自身が社会とどう関わり、どのような形で貢献できるのか、また、どのような価値観で家庭を営んでいたいかなどをよく考え、『25年後の世界と私』というキャリアプランを作るのです。変化の激しい社会の未来を予測することは不可能ですが、未来をしっかりと見据え、自らの将来を設計し、その実現に向けて堅実に歩む生き方に価値を置いています。そのために、25年後もしっかりと社会貢献できる人間力と社会的スキルの土台を造り、汎用性を養うこと、それが中高6年間の教育の大きな役割だと考えます」
生徒の興味や特性に沿った進路指導を行っている学校は多いが、驚かされたのはそのプログラムの緻密さだ。中1から6年間、目を見張るほどの豊富なプログラムが組まれている。その具体的な内容について伺うと「まず中1では自分史の作成や創立者下田歌子の研究に取り組みます。明治・大正・昭和にわたって女子教育に身を投じた下田歌子の生き方を知り、自分の生き方と重ね合わせて将来を考えるのです。中2で身近な人の職業調べやなりたい職業調べ、トラベルライターなどに取り組み、中3では職場体験やスペシャリストに学ぶプログラムなどを通じて課題解決力、人間関係力など社会に必要な力を養います。そして、高1で学部学科研究やクエストエデュケーションに取り組み、『25年後の世界と私』というキャリアプランをまとめ上げます。高2以降はその実現に向けての具体的な進路指導、つまり、進学ガイダンスや面接ガイダンス、小論文指導、卒業生の合格体験談などを行い、当面の目標である大学受験に備えます。高1の段階で"25年後の私"を見据えていますから、そのためにはどういう学部・学科に進んだらいいのかが明確になった上での大学選択になるわけです」
25年後を見据える教育が大学合格実績にも表れている
近年、同校の大学合格実績が飛躍的な伸びを見せているが、そのことについても伺うと「教員集団が一丸となって取り組んだことや、早朝、放課後、長期休業中などの講座の充実も、実績を上げた大きな要因であることは確かです。しかし何より重要なことは、生徒たちが25年後という未来をしっかりと見据え、自己実現のために具体的な目標を掲げて努力した結果だということです。その生徒たちの背中を強力に押しているのは、間違いなく本校の教育なのです。総合的な人間力を育成する『4本柱』の教育は、結果的に受験学力も大きく伸ばしているのです。また、近年は理系分野への進路希望者や海外大学進学希望者が増加傾向にありますが、これも、生徒たちがきちんと将来設計をして選択した結果で、本校のキャリア教育の成果だと捉えています」「2020年大学入試改革」を前に、時代の変化を見通したグローバル教育とキャリア教育が、すでに現行の大学入試でもこれだけの高い成果を生み出しているということだろう。
同校では中高完全一貫校の6年間教育でしか実現できない綿密に練られたプログラムを基に、生徒の成長に合わせたキャリア教育を行うことで、それぞれの希望に沿った進路指導を実践している。単に大学へ進学することを中等教育の目標とするのではなく、生徒それぞれの25年後の生き方に責任を持つという同校の姿勢は、今後の変わりゆく未来において非常に頼もしい私学の在り方といえるだろう。
学校全体がグローバル教育の舞台に!生徒が躍動する国際学級!
創立者の理念が息づくグローバルスタディーズクラス
以前から定評のあった同校の英語教育に加え、2008年に国際学級グローバルスタディーズクラス(GSC)を設置したことにより、時代のニーズに応える国際教育の核になる多様化が実現している。あらためて国際学級の設置に至った経緯を伺うと「設置以前は、せっかく高い英語力を持つ帰国生を受け入れても、英語を初めて学ぶ生徒と同じプログラムで行っていました。生徒たちの多様な学習歴や海外経験に、きめ細かく対応できていなかったということです。そうした生徒たちにきちんと向き合うことが私立中等教育機関としての責務と考え、国際学級の設置に至った訳です。洗練された語学力、グローバルな意識と教養、日本人女性としての品格を軸に、世界を舞台に社会貢献できる真の国際人育成をめざしており、卒業後は海外大学進学も可能にする独自の教育プログラムになっています。校歌に『にほへ やしまの 外までも』という一節がありますが、生徒たちの活躍が海外にまで広がってほしいと詠ったものです。ここからも伝わるように、本校は創立当初からグローバル教育を志向しており、GSCは創立者下田歌子の理念を現代化したものと言えるのです」
特徴的なGSCのカリキュラム
GSCのカリキュラムも特徴的だ。「GSCは各学年に1クラスずつ設置されていますが、英語の授業では、この1クラスをさらにレベル別に3分割して展開します。入学時の英語力は、英検でいうと上位は準1級くらいから下位の4級程度まで差があるからです。また、国・算もレベル別2分割、理・社も2分割の少人数制で行います。さらに、音楽と美術は、ネイティブ教員によって英語で行われます。朝礼、終礼と呼んでいる日々のホームルームも英語で行われます」そのほか、第2外国語として中国語が必修、高1で全員が3か月間のオーストラリア留学、主要科目のサポート体制やカウンセリング体制など、数多くのプログラムが用意されていて、国際学級としての教育体制は他の私学と比べても非常にレベルが高く手厚い。
首都圏屈指の国際学級
実践女子学園は帰国生の割合が非常に多く、幼少期の海外在住経験のある生徒を含めると全体の約4分の1を占めるという。なぜこれほど多くの帰国生の支持を得ているのだろうか。「充実した英語教育はもちろんのこと、本校は、品格ある日本人女性の育成、すなわち日本人としてのアイデンティティの確立に主眼を置いている点が大きいと思います。国際社会に出たときに、日本人として誇りを持ち、日本文化や日本人の心をきちんと発信できる人間に育ってほしいと思っています。」英語だけでなく、日本語・文化・歴史の教育を重視している。これが海外帰国生からの支持を得ている一端なのではないだろうか。先駆的なグローバル教育と最も伝統的な日本文化や情操教育をここまで充実したレベルで両立させている学校は私学のなかでも数少ない。 模擬国連の生徒に象徴されるように、自己教育力やコミュニケーション力といった、生きる上で不可欠の力が大きく育成されており、英語教育にとどまらない成果を挙げていることに感嘆させられる。現在、盛んに叫ばれているアクティブラーニングは以前から当たり前のように実践されており、極めてハイレベルな授業が展開されている。英語教育やグローバル教育に興味のある方は、首都圏屈指の国際学級である同校のGSCの授業を一度ご覧になってみてはいかがだろうか。
4本柱の計り知れない相乗効果と新たな取り組み
真の「人間力」を育成
「4本柱のひとつである『学力改革』とは、単に受験学力だけを指すのではなく、学んだことをいかに活用できる力を養うかを指します。コミュニケーション力や課題解決力、将来設計力といった判断力を育成することが『学力改革』の土台となります。これら4本柱が相乗効果を生み、真の『人間力』の育成につながると捉えています。本校の生徒たちは、学校行事や部活などに真剣に打ち込んでいて本当に学校生活を満喫しています。みんなで協力して何かを達成することで得られる"感動"を一人でも多く、一つでも多く体験して欲しいと思っています。勉強だけやって有名大学に入れば良いということは一切考えていません。本校が行うあらゆる教育活動、また、長い伝統に裏打ちされた豊かな教育文化のすべてが、生徒一人ひとりを大切に育む豊かな土壌になっているのです」
国際社会で活躍できる生徒を育てる新たな取り組み
カリフォルニア大学バークレー校にて(2016年3月)
近年はまた、新たな取り組みとして、中学校1,2年生を対象とした『イングリッシュセミナー』、中3対象の『理科ゼミ』、中3から高2までを対象とした『オンライン英会話』、高2対象の『勉強合宿』など、実に様々なプログラムが導入されている。中でも、高1対象の『サイエンス探求プロジェクト』は、理科と英語のコラボレーションによって大きな成果を上げている。「これは1年間を通じて、サイエンスにおける'課題探求プログラム'、英語での'プレゼンテーションプログラム'、'オンライン英会話プログラム'、'海外研修プログラム'という4つのプログラムから構成されており、集大成としてアメリカのスタンフォード大学およびカリフォルニア大学バークレー校を訪れ、1年間の研究成果を英語でプレゼンテーションするというものです」この取り組みによって、生徒たちの中に、主体性や課題解決力、チャレンジ精神やコミュニケーション力といった力が育っており、多様化する国際社会で活躍できるグローバル人材育成のためのさらに大きな相乗効果を生んでいるという。
生徒の自発的な動きが学校を変える
学校生活を送っていく中で、様々な形で自分を表現し、自分を見つめ直し、将来を考えながら、意識を向上させていく生徒の姿には目を見張るものがあり、生徒一人一人が非常に素晴らしい時間を過ごしていると自負しています。ぜひ受験生や保護者の方々には学校説明会や文化祭に来ていただいて、今の実践女子学園の雰囲気を感じていただけたらと思います」
最後に「実はこういった生徒の意識の向上は、教員の意識の変化にもつながっているのです。その結果、大きな歯車がゴトンと音をたてて動き出すように、学校全体が大きく変革しつつあることを実感しています」と嬉しそうにおっしゃっていた。生徒一人ひとりの自発的な動きが学園全体をも巻き込んで、とてつもない相乗効果を生み出している。創立当初に掲げた理念や精神が100年を越えたこの現在でも、生徒によって受け継がれ日々実践されている。これこそが本当の意味での「私学の魂」といえるだろう。
女子教育の先覚者下田歌子が残したものとは?
下田歌子を題材にした書籍「凛として」
創立者下田歌子は、岐阜県の岩村藩士の家に生まれ、19歳で宮中に出仕、女官として明治天皇、皇后両陛下に仕え、その後、華族女学校の学監や学習院女学部長を務めるなど、上流階級の女子教育を担っていました。やがて皇女教育を拝命するにあたり、宮内省の命を受けて2年間の欧米女子教育視察を行いましたが、これは、その後の彼女の生き方を大きく変える契機となりました。下田歌子は、欧米女性たちの社会的地位の高さや自立した生き方を目のあたりにし、近代国家建設のためには上流階級のみならず一般庶民の女子教育こそ必要不可欠と痛感、帰国後、全国に女子教育の普及を呼びかけるとともに、自らも私財を投げ打って明治32年に実践女子学園を創立したのです。
本学園は、「品格 高雅 自立 自営」を建学の精神に掲げています。下田歌子がめざしたものは"女性の社会的自立"であり、それは同時に、実学を身につけた女性たちが社会貢献するという、国家の新たな仕組みづくりに他なりませんでした。校名の「実践」には、「学問を役立て、世界の平和と人類の福祉のために実践躬行する」という壮大な理想が込められており、118年経った今も、その理念は揺るぎない伝統として本校の骨格を成しているのです。
大学・短大を含めた本学園全体の建学の精神である「品格 高雅 自立 自営」には、本学園がめざす教育理念が集約されています。創立者が提唱した"女性の社会的自立"という考え方は、価値観が多様化し女性の社会参加のあり方も多種多様な現代においても、少しも色あせるものではなく、むしろ輝きを増しています。たとえ豊かであっても華美に流れず、「堅実」「質素」という生き方をもって周囲によく調和すること、また、女性としての教養を身につけ、「思いやるこころ」「感謝するこころ」をもって言動に中庸を得た「高雅」さを醸成すること。これが、本校が教育目標とする「品格ある女性」像です。また、次代を担う子を養育する母親の資質として、しっかりとした教養、家庭経営も含めた自営の力も必須と考えます。
教育目標 「堅実にして質素、しかも品格ある女性の育成」実践女子学園の教育目標が示すのは、中学校・高等学校を通しての一貫教育による、堅実にして質素 、しかも品格ある女性の育成であり、これがため、生徒は良識を養い、実践を尚び、責任を重んずることを日常の心がけとします。何でも自由という現代社会だからこそ、学校教育において然るべき指針をしっかりと示すことが、真の意味で生徒の可能性を開き、個性を育むと考えます。