中学入試は思考コード<C3>の時代(3)
聖パウロ学園校長/私立学校研究家 本間勇人
本エッセイは、<B2>×<C3>の問題のイメージを共有することと<B2>から<C3>に飛ぶにはどんな気づきが必要なのかを共有していくプロジェクトです。
前回は、開成中学の国語の入試問題から、カテゴライズ(分類)の表を論理的に作る<B2>の思考が、表の空白部を生み出し、その空白部の内容を創造する<C3>の思考を活用する問いをご紹介しました。
ちなみに、<B2>で活用した論理的な「思考スキル」は<比較・対照>です。難関校の特徴は「思考スキル」を使っても、すぐに解答が見つからないことです。多くの場合、既存の知識を想起するとき「思考スキル」で、導き出したり、文章の中に解答を見出したりすることができるのですが、難関校の場合は、創造する方向性を見出せますが、そこから先は推理しなければならない<C3>思考を要する問題も出題されるのです。
さて、開成の問いは、<B2>思考を経由して、最終的に空白部の「内容」を創造する<C3>の問題でしたが、これから「視点を創造する」麻布の問題、「価値を創造する」雙葉の問題、「内容」「視点」「価値」すべてを創造するフェリス女学院の問題をご紹介しましょう。
§3 麻布・雙葉・フェリス女学院の思考コード<C3>問題
~「視点」と「価値」を創る。
麻布 「視点を創造する」<C3>問題
2021年の麻布の社会の入試問題の最終問題は次のような問いでした。
現代は共食が行われにくい社会になっていますが、多くの小学校では給食という共食が行われています。君は、学校給食にかかわる問題点にはどのようなものがあると考ますか。また、給食をどのように改善すれば、より意味のある共食になるのでしょうか。君が考える問題点と改善策を80字以上120字以内で書きなさい。ただし、句読点も一字分とします。(2021年麻布 社会 大問2問16から)
この問題は、まずは「給食としての共食」と「より意味のある共食」を<比較・対照>する<B2>思考の問題です。比較して共通点と相違点をはっきりさせて「内容」をまとめればよいのです。
しかし、与えられた本文中に「家族や家族以外の人といっしょに食べること」という共通点は書かれていますが、両者の相違点については、具体的に書かれていません。したがって、その「内容」は推理しなければなりません。
では、どうやって?これは「より意味のある」という言葉が「視点をまずは創り出しなさい」というヒントを与えるのだと読み替えることができるかどうかです。視点さえ見つかれば、あとは「内容」の推理はそう難しくはありませんが、たいていはこの「視点」を確認しないで、内容を書こうとするので、難しく感じる場合もあるし、思い付きで終わることもしばしばです。
しかし、この「視点」のヒントは間接的に、本文中(麻布の社会の入試問題は、課題文と問いがセットになって出題されます)にあります。たとえば、「『食』という言葉には、『食べるもの』や『食べる行為』という意味があります」という箇所から、<食に関する多角的な視点>と置き換えてみると、給食とより意味のある共食の違いを考える視野が広がります。
またこのような箇所も本文中にはあります。「おいしさの要因が目の前にある料理そのものにあるのか、仲間と楽しく食卓を囲んで料理を食べることにあるのかは人それぞれでしょう」という箇所は、たとえば、物質的視点と精神的な視点と置き換えることができます。
さらに食文化は歴史や地域によって違うことを詳しく説明している箇所がありますが、ここからは歴史的視点と文化や風土の視点なども抽出できます。
給食はカロリー計算など身体の栄養面はきちんとケアされていますから、料理そのものではなく、それ以外の食に関連する視点や精神的な視点、歴史的視点、文化的視点で相違点を書いていけばよいことに気づきます。
麻布の社会の入試問題の課題文は、たとえば、今春の入試のように「共食」というテーマについて受験生が考えるきっかけになる文章でもあります。課題文を読んで、どのような視点を見出すかは、正解は一つではありません。それは受験生自身の視点です。
つまり、その視点は課題文の中にあるのではなく、受験生自身の中にあります。ですから、課題文を読むことにより、自分の中にある視点を引き出すことがポイントです。中学入試における読解とは、一般には、文章に書かれている言葉をつなぎ合わせて考える作業ですが、麻布の社会の課題文は、問いに沿って、自分の視点や発想を引き出していく創造的な作業なのかもしれません。
雙葉 「価値」を創造る<C3>問題
2021年の雙葉の国語の入試問題では、次のような問いが出題されています。
「彼女は明らかにこの作業を勉強とは違う種類のものとして認めていた。敬意さえ払っていたと言ってもいい。」とありますが、キリコさんが「この作業」に敬意を払っていたのはなぜだと思いますか。本文をふまえて、あなたの考えを80字以上100字以内で書きなさい。句読点も一字と数えます。(2021年 雙葉 国語 大問1問7から)
11歳の「私」は、夏ヨーロッパから帰国した父親からお土産として万年筆をもらいました。その当時はまだ作家でなかったわけですが、「私」は万年筆を使うことに何かを感じていました。ただひたすら、名作を書写することに興奮していたのです。
両親はその姿をみて、勉学に励んでいればそれでよいと、中身には干渉しなったのです。しかし、当時のお手伝いさんだったキリコさんは、万年筆で書写している作業にある価値を感じ、「私」の作業を邪魔しないように気遣い、厳かなものを感じていたのでした。
したがって、キリコさんは、両親の子どもの書く作業は勉学と同じという価値観とは違う別の価値観を抱いていたことになります。
この価値観がゆえに、敬意を払ったのですから、その価値観を書けばよいのですが、これは本文中には書いてありません。ですから、問いには「本文をふまえて」推理せよというのです。
ここは自由に創造すればよいのですが、11歳の「私」が読書家で、作家の文章を万年筆で写す作業の姿勢に、文章を創造的に書く仕事に就く未来をキリコさんが直感していたということは容易に推理できます。
この雙葉の問題は、勉学と勉学以上の価値を比較対照する<B2>思考を経由して、最終的に価値観を創り出す<C3>問題です。
フェリス女学院 「視点」・「価値」・「内容」を創造してまとめる<C3>問題
2020年のフェリス女学院の国語の入試問題では、次のような問いが出題されています。
あなたが変えたいと思っている現代の常識を一つ挙げ、その常識を捨てたときにどのような変化が起こると思うか、あなたの考えを200字以内で書きなさい。(2020年 フェリス女学院 国語大問2問6)
この問題は、「常識」をどう捉えるのかをはっきりさせる必要があります。課題文は阿部謹也さんの文章が使われています。現代人の空間や人間関係の常識を古代・中世の世界にもちこむとその時代の理解がゆがむということについて書かれた文章です。
麻布のときと同じように、歴史や文化の視点で、「常識」と「常識を捨てること」を比較・対照できるヒントがあります。また空間も現代は均質空間で、グローバルな現代の世界ではどこでも同じ感覚ですが、古代や中世は聖なる空間というのがあって、空間は均質ではないということも書かれています。「常識」の価値観と「常識を捨てること」で生まれる、あるいは発見する「価値観」が比較・対照できます。
このように「視点」と「価値観」を創造して「常識」を捉え返せば、それに従って、「内容」を、つまり、自分の考えを具体的にまとめればよいわけです。
まとめる作業は<B2>思考です。創造する作業は<C3>思考です。このような200字論述は、<B2>から<C3>にシフトするというより、両方がDNAのようにからみあっていると考えたほうがよいかもしれません。
ちなみに、東京大学の2018年度の外国学校卒業学生特別選考小論文問題(文Ⅲ)、要するに帰国生入試の小論文問題は、次のような問題でした。
<「常識がある」とはどういうことか。>
この問題は、800字から1000字程度で書く小論文問題です。フェリス女学院と字数は違いますが、ものの見方・考え方の本質は同じです。
中学入試問題は、学校の顔です。その学校の教育やカリキュラムが反映しています。同時にそれは進路実現にもつながっています。中学入試問題のエッセンスと大学入試問題のエッセンスが重なるのは、当然といえば当然です。
ですから、中学入試においても<B2>×<C3>という思考をベースにした学びを準備しておくことは、未来を拓くカギになるでしょう。(つづく)