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コラム

アメリカンフットボール唐松星悦選手学校から世界へインタビュー④

「学校から世界へ」第7回のアスリートは、東京大学運動会アメリカンフットボール部主将の唐松星悦選手です...

アメフトと人生(44

「学校から世界へ」第7回のアスリートは、ひたむきに努力することを信条に人生を築いてきた、東京大学運動会アメリカンフットボール部主将の唐松星悦(からまつ・しんえ)選手です。浅野中学校入学を機に、運動が苦手で消極的な自分を変えようとアメリカンフットボール部に入部。中高時代は勝つことができませんでしたが、ひたむきな努力は学業で花開き、東京大学に現役合格。運動会アメリカンフットボール部WARRIORSに入部したことから、東大初の日本代表入りというフットボール選手としても大きな勲章を手に入れました。「自分が本当にやりたいことで競争することが大事」と話す唐松さんに、22年間の人生で得たものを聞きました。

【取材日:2020年6月17日】(取材・構成:金子裕美 写真:東京大学WARRIORS)

唐松星悦選手のプロフィール

神奈川県生まれ。身長185cm、体重125kg。ポジションはオフェンスライン(OL)。中学受験を経て浅野中学校に入学し、アメリカンフットボール部に入部。中学時代はタッチフットボール(タックルの代わりにタッチする、アメフトを基にした競技)、高校時代はアメリカンフットボールに取り組んだ。今でこそ立派な体格だが、中学時代はごく普通。接触プレーが怖くて身が入らない時期が続いたが、高1から体重の増量に励み、徐々にアメフトのおもしろさを感じるようになった。部員が少なかったため、高校時代はフォワードとディフェンスの両方で活躍。アメフトに夢中になるにつれて学業にも身が入るようになり、先生の勧めで東京大学が志望校となる。高3の受験勉強でも目標が決まると、そこに向けて努力することをいとわない性格が発揮され、ほとんど塾に通うことなく志望校を突破。大学生になったらサークルに所属して大学生活を謳歌するはずが、運動会アメリカンフットボール部WARRIORSに入部したことから、再びアメフトと向き合う生活が始まった。体を作り直すと、U19日本代表のトライアウトに挑戦。代表入りして、2018年7月にメキシコで行われたU19世界選手権に出場した。そこで強豪校出身の選手と出会ったことをきっかけに、フィジカルの強化に加え技術面の研究に励み、翌年、シニア日本代表のトライアウトに挑戦。Xリーグ(社会人)の選手が中心を占める中で代表入りを果たし、2020年3月に行われたアメリカ遠征に参加した。その後はWARRIORSの主将としてチームを大学日本一へ導くための方策を模索。コロナ禍で思うように練習はできなかったが、大学最後の秋季リーグ戦に全力で挑んでいる。

自分の殻を破り、自信をもって次のステージへ

--現在は文学部ですか。

唐松さん「そうです。2年間、教養学部でいろいろな授業を受ければ興味をもつ学問と出会えるだろうと思っていたのですが、大学でもアメフトにのめり込んだので、勉強にさほど興味が向かなくなってしまいました。その結果、文学部に流れ着いたという感じです。最近になってようやくこういうことを勉強してみたいな、と思うようになりました」

--それはどんな分野ですか。

唐松さん「教育やスポーツに興味があります。例えば、スポーツ選手はお金を稼ぐ力がそれなりにありますが、どこまでお金を稼げば人は幸せを感じるのか。そういうようなことを考えて、『経済学』と『社会学』が結びつくようなところがおもしろそうだなと思っています。だからと言って、具体的に勉強したいことがあるわけではありませんが、今ここに来てやっと、そういう背景があると学問に興味を持てるのだろうなと思えるようになりました。今、大学に入り直したら、違う4年間を過ごすと思います」

--大学卒業後はどうする予定ですか。

唐松さん「大学の公式戦は秋だけなんです。大学最後の大会までフットボールに集中したいと思って、早々に就職活動を済ませました。人材系の会社に就職することが決まっていますが、その会社で何をやるのか。卒業後もアメフトは続けるのか。そういうことは(取材時点では)あまり考えていません。これから考えていきたいと思います」

--アメフトを続けようと思ったらできる環境なのですか。

唐松さん「やりたいと思えば、相談してやると思います。今のところ、続ける可能性は5割くらいです。社会人フットボールをやる目的が明確になればやると思います」

--そのために必要な行動は起こしていますか。

唐松さん「社会人フットボールの文化というか、みなさんがどんなことを考えて取り組んでいるのか、を知りたいので、こういう状況でなければチームに出向いて、チームの方と一緒に練習したり、話したりしていたと思います。話をすることはZoomでできますが、体験はできないので残念です」

--就活では、どのようなところをアピールしましたか。

唐松さん「就活は、将来、社会に何を還元するか、ということを考えて取り組んだほうがいいと思うのですが、僕はその1つ前の段階である、自分はどういう人間なのか、ということを解釈する場にしたいと思って臨みました。そこで、僕の得意なことをアピールするというよりは、自分はこういう経歴でこういうことを考えて来ました、という自己紹介シートを配って、それを見てどう感じたかを、(採用担当の方から)教えてもらいました」

--自分なりの方法で就職先を決めているところはさすがですね。

唐松さん「それは経歴が強そうに見えるおかげです」

コロナ禍に考えること

--アメフトにしても、日本代表のトライアウトにしても、就活にしても、目的をもって行動していますが、それが唐松さんの流儀ですか。

唐松さん「たぶん、一番幸せな人というのは、『何のためにやるのか』というところがハッキリしている人だと思うんです。逆に、一番不幸なのは、昔の僕のように自分に自信が持てない人です。僕はアメフトのおかげで、自分に自信がなかった状態から、自分に自信が持てるようになりました。そして周りの人を巻き込んで、一緒に目標に向かって努力できるようになりましたが、振り返ると、他人のために何ができるかを考えることがもっとも大切で、必要不可欠である気がします。

僕がそういうことを真剣に考え始めたのは、コロナの自粛期間からです。僕はもともと人と比べるタイプではありません。自分のやりたいことにひたむきに努力してきましたが、人と競争するうちに自然と自分と他人を比べていました。(学校にしてもチームにしても)他人との関わりの中では競争に夢中になれるのです。チームの主将になってからは、ライバルチームがどうしているかを考えながやってきました。ところが、自粛期間で(コロナで)何もできなくなり、人のために何もできないもどかしさを感じました。学生アスリートは自分のために体を鍛えることくらいしかできませんから。これまでと同じモチベーションで頑張ることはできないな、と思いました。そこで、自分にとって大切なものは何なのか、ということをしっかり考え直そうと思ったのです。僕の周りにはそういうことを考えられる優秀な友だちが多く、今は(コロナ禍は)自分が本当にやりたいことを考え直す時期、と、とらえて過ごしています」

--悩みながらも、しっかりと自分の学生時代を築いてきた唐松さんから、学生のみなさんにメッセージをお願いします。

唐松さん「僕は学生時代にやりたいことが見つかって、勉強よりもそのことに時間を費やしたいと思っていました。でも、学生なので勉強もおろそかにできません。そこで、なんとか効率的にテストで高得点をとることはできないかと考え、自分に合う勉強法を見つけたおかげで、成績をキープしながらアメフトに力を注ぐことができました。本来は勉強そのものに価値を感じて、興味を深めていくことが大事ですし、僕の方法が正しいと思っているわけではありませんが、競争で勝つことを目指して努力することは悪いことではないと思います。ただ、競争することが目的ではないので、自分が本当にやりたいことで競争したほうが、得られるものは大きいと思います」

<チーム紹介>

東京大学運動会アメリカンフットボール部WARRIORSは、学生日本一を目標としています。現在、選手約100名・スタッフ約35名が所属し、東大の中でも最大規模の学生団体です。部員のほとんどはアメフト初心者ですが、最先端の科学的な指導を取り入れた、合理的・効率的な練習により日本一を狙えるレベルに達します。東大WARRIORSは、最高の環境の中で、真の文武両道を達成できる場所です。

※2020年度秋季リーグ戦の予定や結果は下記をご覧ください。

公式サイト http://www.tokyowarriors.com

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