男子ラグビー 福澤慎太郎選手。学校から世界へインタビュー③
「学校から世界へ」第4回のアスリートは、進学校で学業も頑張る傍ら、ラグビーに打ち込んで、昨年、U17日本代表メンバーとして日韓中ジュニア交流競技会に出場、高3になった今年も強豪校の精鋭が集まる高校日本代表候補メンバーに選出されている本郷高校の福澤慎太郎(ふくざわ・しんたろう)選手です。【取材日:2019年6月28日】(取材・構成:金子裕美 写真:永田雅裕)
未来に向けて
---勉強との両立はできていますか。
福澤さん「中学受験で第一志望に入れなかったので、最初の1年間くらいはリベンジしたいと思い、勉強を頑張っていましたが、ラグビー熱が上がるに連れて勉強はおろそかになっていました。でも、高校に上がってラグビー部の先輩を見ているうちに、大学進学のことをしっかり考えなければまずいと思うようになりました。2つ上のキャプテンは東大に、1つ上のキャプテンは一橋大に現役合格していますが、浪人している先輩もいるので、高2になったあたりから勉強にも力を入れています。得意科目が数学なので理系を選択しようと思いましたが、部活動との両立が難しいので、今は文系クラスに在籍しています。大学でもラグビーをやりたいので、自分は一般入試ではなく、AOなどの推薦入試で勝負しようと思っています。U17日本代表の活動を頑張ろうと思ったのも、活動実績がものをいう推薦入試で大学を決めたい、という思いがベースにあったからです。ラグビーで声をかけてくださる大学もありますが、僕の力が大学で通用するかどうかわからないので、少なくとも今はラグビーだけでなく、自分の学びたい学部、学科のある大学を受けようと思っています」
---高校生のフッカーではトップ3に入る力を持っているのに、堅実ですね。思い描いている将来があるのでしょうか。
福澤さん「父が中小企業ですが商社を経営しています。工場と企業とをつなぐ仕事に少し興味はありますが、まだ真剣に考えたことはないです。大学に進学後もラグビーを続けますが、その先のキャリアは選手として通用したら考えようと思っています。とりあえず今は進学先を決めることと、花園で年を越すこと。その目標を果たすことに集中しようと思っています」
---あっという間の6年間だったと思いますが、ラグビーを始めた頃、今のような自分を想像していましたか。
福澤さん「まったくしていませんでした。日本代表になれるなんて、思ってもみませんでした。自分では、ものすごく成長した6年間だったと思います。ただ、今の自分に満足しているわけではありません。目標も上がっているので、今はもっとうまくなりたいと思っています」
---ラグビーが向いていたのでしょうか。
福澤さん「そうだと思います。体型もそうだし、(相手に)体を当てるのも好きだから、フッカーというポジションを与えてもらったことに感謝しています。指導者にも、仲間にも恵まれたと思います。家族も『本郷でよかったね』と言ってくれます。チーム事情で、今はナンバーエイト(8番/フォワードに的確な指示を送るリーダー的なポジション)をやっていますが、代表や大学では2番(フッカー)でいきます」
---もし、本郷のラグビー部が教え込む指導スタイルだったとしてもやって来られたと思いますか。
福澤さん「自分は純粋なので、まじめに言われた通りにやっていたと思います。でも、本郷では『考える』ということを教わりました。自分で必要な練習を考えたり、頭を使ってプレーしたりすることが当たり前になっています。その力はこれからも役立つと思います」
---数学的思考は、ラグビーに役立ちましたか。
福澤さん「問題を見て、こう解けばいいんじやない、と方針を立てますよね。そこはちょっと似ているかもしれません。ラグビーでもパッと見て、相手はこういう姿勢だからこう動こうかなと考えてプレーしているので。もちろん頭を使わなくても、センスのいいプレーができる、ラグビー偏差値の高い選手もいますが、僕はスクラム1つとっても、ただ押すだけでなく、わざと押されるなど、駆け引きをするラグビーが好きなんですよね。ラインアウトもそうですが、他校よりもだいぶ頭使ってプレーしているという自負はあります。(作戦が)はまったら強いです」
---ケガは少ないほうですか。
福澤さん「中3の時にタックルして脳震盪を起こしたことがありました。1年で3回やりました。1回目,2回目は軽めでしたが、3回目は気絶してしまい『半年以内にまたやったらラグビーはできないよ』と言われました。それからはケガ(脳震盪)を意識して、体の使い方を気をつけています。家でストレッチをしたり、定期的に整骨院に行ったりしてケアもしています。軽いケガはつきものですが、それ以降、大きなケガはないです」
---人として成長したと思うところを教えてください。
福澤さん「何より忍耐力がつきました。小学校時代は塾に行くふりをして逃げるなど、辛抱ができない人間でしたが、楽しく練習するうちに、上手くなりたいという気持ちが強くなり、厳しい練習にも逃げずに取り組む力がつきました。コミュニケーション力も向上したと思います。練習中も勝手に口が動いています(笑)。自分のことだけでなく、チームメイトにも目を配り、チームのために必要なことを考え、実践できるようになったことも大きな成長だと思います」
--もう、いつ代表合宿に呼ばれても大丈夫ですね。
福澤さん「いや、6月の合宿では全然しゃべりませんでした(笑)。代表チームではみんながバーッとしゃべるので、自分が口を開く必要がないんです。だからフォロワーに徹しています。。本郷ではそうはいきません。みんなあまり言わないので、僕が言わなければいけません。ラグビーはスタメンだけが頑張ればいいというスポーツではないので、試合に出ていない1年生や2年生をいかにやる気にさせるか、ということはずっと考えています」
---後輩に声をかける時に気をつけていることは?
福澤さん「テンションが下がるようなことは極力言わないようにしています。褒めながらも、厳しくするところはするという感じです。良い関係を築くために、ラグビー以外でも後輩に話しかけることを心がけています。また、説明するときはわかりやすく話すということも意識していることの1つです。感覚でとらえているものを伝える難しさを痛感しているところです。僕は両親、姉の4人家族。自分が一番下なので、年上の人と話すほうがラクなんですが、上級生になると年下にこちらから話しかけなければいけません。そういうことも含めて、ラグビーを通じて学んでいます。社会に出たときに生きることが多く、そういう意味でも大人数でチームプレーをするラグビーを選んでよかったと思っています」
---最後に、メッセージをお願いします。
福澤さん「本郷中高はめちゃめちゃ楽しいです。今後は高校入試がなくなり、完全中高一貫校になりますが、6年間メンバーが変わらないと、家族のように生活の中に溶け込んで、ノリが自然と合ってきます。いろいろな人がいますからいろいろな友達ができます。また、ラグビー部は初心者大歓迎です。本郷中に入学したらラグビー部に体験入部して、ぜひラグビーを楽しんでください。絶対に合うポジションがあると思います」