【海陽中等教育学校その2】多くの生徒は不安よりも期待を胸に入学!
海陽中等教育学校は、これからの日本の未来をけん引していくことができる次代のリーダーを育てることを目的として、トヨタ自動車やJR東海、中部電力など日本を代表する企業が中心となり、英国のイートンスクールを参考に設立された全寮制の学校(ボーディングスクール)です。
今年4月に入学した中学1年の生徒たちがハウス生活を始めて7ヶ月あまりが過ぎました。親元から離れて共同生活を送る彼らの日常は、親元から学校に通い学校が終われば自宅に戻る、いわゆる普通の中学生の日常とは大きく異なり、様々な刺激にあふれています。もちろん最初は親元を離れた生活に最初は戸惑う場面もあったかもしれませんが、みんなハウスでの集団生活を心から楽しみ、それぞれの目標をもって有意義な学校生活を送っています。
今回は実際にハウスにお邪魔して、1年生にハウス生活の様子について話を伺いました。さらに、ハウス生活を見守るハウスマスターやフロアマスターの方から、ハウス生活が生徒の成長にどのような影響を与えるのか、なぜハウス生活がリーダーを育てるために大切なのかについて話を伺いました。
この記事は、2回にわたりご紹介しております。「その1」は以下よりご確認ください。
ハウスとは、全人格的な成長をするための 極めて重要な場所
海陽中等教育学校にとってハウスとは、様々な生活の場面や人間関係などを通して全人格的な成長をするための極めて重要な場所。そのハウスで生徒を見守り、かつ成長を支えているのが生徒にとって父親的存在のハウスマスターです。
19年にわたってハウスマスターとして多くの生徒を育ててこられた金木ハウスマスター統括は、ハウス教育の目的について次のように話します。
「ハウスは社会に出たときにリーダーとして求められる本質的な人間力を伸ばすことを目的としている場です。我々ハウスマスターはそういった視点から生徒の成長を見守り、目指すべき方向を示しています。例えば共同生活の中で他者に配慮することができるかどうか。他者に迷惑をかけない行動ができるかどうか。その中で自分がやりたいことをどう実現していくか。生徒が創意工夫を繰り返しながら考え、自分なりの答えに至る過程を大切にし、見守っています。生徒は一人ひとりがそれぞれの個性をいかしながら共同生活をしています。その中で他の生徒と自分を比較して自分の強い部分に気づいたり、逆に弱い部分に気づいたりすることが多々あります。そのような気づきから自分の行動を見直すことがとても大切です。自分の強みはどのように生かしたらよいのか、弱い部分を克服するためにどうしたらよいのか。そのヒントはハウスにあふれています。自分に持っていない強みを持っている生徒もそうですし、各フロアに配属されているフロアマスターもよいお手本です。海陽の教育に賛同している多くの企業から出向して一緒にハウス生活を送るフロアマスターは、生徒にとって身近で何でも相談できるお兄さん的存在。親とも教員とも違う、フロアマスターという存在は、他の学校にはない海陽ならではの大きなアドバンテージです。」
【写真】多くの生徒を育ててこられた金木ハウスマスター統括
―生徒が目標とするような大学で学び、日本を代表するような企業の最前線で働く方々が一緒に生活するというのは大きな刺激になりますね。生徒にとって目指すべき目標にもなるのではないでしょうか。
「その通りです。生徒たちが目標にしているような大学を卒業したフロアマスターが自習をサポートしたり、ロボットコンテストではプログラミングのスペシャリストのフロアマスターが生徒の試行錯誤を見守り、時にはちょっとしたヒントを与えたりするということが、海陽ではごく当たり前の日常になっています。ここで私たちが大切にしていることは正解を教えるのではなく、あくまでも生徒たちが自分で解決策を考え出すための手助けにとどめること。試行錯誤の袋小路に陥ったときにほんの少し方向性を示すことで、生徒たちの気付きを後押しすることに専念しています。」
生徒自身が気づきを得られるよう大人から問いかけを繰り返す
「フロアマスターは生徒とハウスマスターの橋渡しとなる存在です。共同生活を通して人間関係のすべてを経験できる環境において、人生の一周先輩として生徒の試行錯誤に共感し、寄り添い、成長のきっかけとなる気づきを与えることを大切にしています。」
そう話すのは今回訪れた1年生ハウスの前田フロアマスター。生徒のインタビュー時にも同席してくださいました。JR西日本から出向してきた前田フロアマスターは、鉄道員として時間をしっかり守ることを生徒に伝えたいと言います。
「鉄道は定時運行が当たり前。でもみんなが思う当たり前の裏には、悪天候など様々な要因を想定してそれに備えておくという見えない苦労があります。当たり前を守ることの大変さや覚悟を、私は時間をしっかり守るということを通して伝えています。」
何か一つの目標を定めると、それを実現するために普段の行動がすべて計画的になり、多少のトラブルがあっても目標を達成できるよう前倒しで準備をするようになります。フロアマスターの出向元は多種多様。第一目標とするキーワードは違っていても、それを達成するために普段の行動を無駄なく計画的に行う姿勢は同じです。ともに生活するフロアマスターの日常の行動を見ることそのものが、生徒たちにとっては何よりのお手本なのかもしれません。
ハウス生活では当然人間関係のトラブルは避けることはできません。それについて前田フロアマスターはこのように話します。
「60人もの生徒が共同生活を送っているわけですから、人間関係の摩擦があるのは当たり前です。海陽では摩擦を起こさないようにするのではなく、そこから何を学びどう成長するかということを大切にしています。フロアマスターとしては、摩擦を通して一人ひとりが思い悩む中で、状況を整理して、次に何をしたらよいか自分自身で気づくために問いかけをすることを心がけています。その経験を通して、リーダーとして求められる人を思いやる力や人から信頼される力を得てほしいと願っています。ハウス生活は、いわば社会の縮図を大人の補助輪がついた状態で一周できるような環境。大人に慣れているので生徒は物おじせず話ができるようになります。これも海陽ならではのとても良い点です。」
【写真】鉄道員として、時間をしっかり守ることを生徒に伝えたいと話す前田フロアマスター
親元を離れて暮らすことにより新たな親子関係が生まれる
親元から離れてハウス生活を送ることを通して、生徒たちは保護者の方への感謝の思いがむしろ強まり、新たな親子関係が生まれると金木ハウスマスター統括は話します。
「入学してまだ数週間のGWの帰省のときに、子供の成長を実感したと多くの保護者から声が届きます。何も言われる前に荷物を片づけたり、何かしてもらったときに『ありがとう』という言葉が自然に出てきたりする。ハウスでは当たり前のことなのですが、ご家庭にとっては驚きなのかもしれません。中高という繊細な時期ですが、それぞれの生徒の悩みや不安、ときには反抗も含めて、我々はハウスにおける父親として受け止めます。生徒には、離れて暮らす保護者の方に対して感謝の気持ちが育まれていき、それが新たな親子関係を生み出しています。」
金木ハウスマスター統括はこう結びました。
「勉強は大事ですし、海陽が要求する学力レベルは高いものです。ですが学力は人間力の一部であると考えます。海陽が目指しているのはハウス生活の中で鍛えられる人間力と、心の安心、そして体の健康、生命力です。誤解している人も多いようですが、いわゆる一流大学に合格することのみを目的とする学校ではありません。高い学力を身に着けるのと同時に、その何倍もの総合的な人間力を伸ばしていく、ある意味欲張りな学校です。実際、学年が上がっていくほど、学力だけではなく人間力が重視され、意見の違う人に歩み寄ることができる人がリーダーとして選ばれるようになります。どんな失敗をしてもリカバリーできるハウス生活という環境の中で生徒たちが真剣に試行錯誤ができるよう、我々ハウスマスターも真剣に彼らに寄り添い、見守り、次の一歩を踏み出す方向を示していきます。」
特別給費生だけではない!特待生制度がさらに充実!
未来のリーダーを育てるボーディングスクールとして非常に濃密な教育を行っている海陽中等教育学校。しかしその一方で学費がネックになって受験をためらってしまうという声も聞かれます。学費と寮費を合計した所定納付額は年間249万円。寮費が含まれているとはいえ、誰もが簡単に支出できる金額ではないことは確かです。
しかし、海陽中等教育学校には特別給費生制度や特待生制度が充実しています。しかも特別給費生・特待生は原則6年間継続されるため、上手に利用すれば自宅から通える私立中学と変わらない納付額で海陽中等教育学校の充実した教育環境を享受できます。
12月14日に行われる特別給費生入試は極めてハイレベルな入試になりますが、12月21日の入試Ⅰ、1月6日の入試Ⅱは首都圏模試の偏差値で61~64と、現時点で特別に優秀な成績ではなくても合格の可能性は十分にあります。試験は東京や横浜でも行われます。もし特待生合格したら入学するという気持ちで、お試し受験もかねて海陽の入試にチャレンジする価値は十分にあるのではないでしょうか。
取材・文 前田知則
1972年生まれ。全寮制のミッション系中学・高等学校で学んだ後、1年の留学、文系の短期大学を経て筑波大学第三学群社会工学類卒業、同大学院経営・政策科学研究科修了。中学受験市場をターゲットとする広告代理店での勤務経験を経て、2024年8月よりEMA広告合同会社を設立。広告を通して私立中学の魅力を受験生や保護者に伝えるとともに、自らもライターとして教育現場に赴き取材活動を行っている。