グローバル教育のこれから【広尾学園】Vol.2
文・鈴木裕之
株式会社スタディエクステンション、 GLICC...
広尾学園中学校高等学校は、東京都港区にある共学の進学校です。最新設備を備えた校舎で、生徒の個性を尊重し、グローバルな視野を育む教育を提供しています。今回はインターナショナルコースについて、教頭の植松久恵先生にお話をうかがいました。
海外大学合格を支えるAP授業の充実
▼教頭の植松久恵先生
海外大学への合格を生み出す授業、特にAPのことや、進学のための奨学金サポートについてのお話も伺えますか。
植松先生:AP(Advanced Placement)に関しては、以前より少しまた増えて、現在は13科目をオファーしています。教えている科目は13科目ですけれども、生徒たちが受験をした科目はもっとあります。例えば、AP Psychologyなどはコースとして教えていませんが、その試験を受験する生徒がいたりします。多分オファーしているコース数の倍ぐらいの教科数を受験していまして、そういった科目については、生徒たちは独学で進めています。イギリスの大学を受けるのであればAPのスコアを持っていないと出願の条件を満たしませんので、そういった意味で大切です。アメリカの大学についてはAPが合否を決めるという風には言われませんけれども、ただ入学してから単位になりますので、それは大きなメリットかと思っています。
奨学金との兼ね合いについてですが、APの成績によって奨学金を出すと公言している大学はありませんが、ただマイナスには絶対働かないと思っています。やはり学力が高いということを証明するには何かの点数を出すということが効果的ですので、入学したらクラスを引っ張る存在かもしれない、もしくはそのクラスに十分ついていけるということをお伝えするのにAPは最適な方法であるのは確かです。ただ、アメリカの生徒たちもAPを持っていますし、その中での大学受験の競い合いになりますので、どれくらいユニークな発想を持っているのか、どれくらい自分がやりたいことにコミットして動いていく人物なのか、そういうことをエッセイで表現できるかが大切かなと思っています。財団の奨学金に関しては、生徒たちがエッセイを持ってきましたら、やり取りをしています。日本人の教員が入りながら、一人ずつ担当者を決めて、聞きたかったらこの先生に聞けば私たちはいつでもスタンバイしているという状態を作っています。
生徒を支えるメンター制度の充実
生徒さんのメンターのような存在が1人必ずいらっしゃるという状況なのですね。
植松先生:はい。日本人が1人、英語の教員が1人、少なくともいます。それをどういう風に利用するかは生徒によって違いますけれど、私たちは、体制としてそういうものを作って、頼りたかったら頼るように言っています。日本の財団の奨学金は、日本語のエッセイがありますのでそれを日本人教員がサポートします。アメリカの大学などで独自の奨学金を出してくれるところに関しては、エッセイに力を入れるというのはもちろんですが、大学出願の時に奨学金を出してくれそうなところというのが今までの蓄積データから見えますので、そこに出願をしていく。最後に全部出揃った時に、行きたいところで見合った奨学金を出してくださっていたらそれで入学をしますし、十分ではないと思ったらその他の大学の情報も含めて、その行きたい大学にお伝えをして、もう少し奨学金の額を上げていただくことができないかという交渉をすることもあります。
コロナ明けと円安の影響を受けない海外志向
最近の傾向として、特にコロナ明けは割と海外志向が強まっているのでしょうか。それとも円安との関係で費用面から海外を敬遠する方も多いのでしょうか。
植松先生:実はどちらにもあまり影響されていないですね。実際のところ、進学するとなったら円安などの現実を考えないといけませんし、コロナ禍ではどれだけオンラインになるのかというところは現実として考えなくてはいけなかったのですけど、それは合格が出て進学をするという段階で考えればよいかと思っています。多分生徒たちの方では「海外大学に行きたい、こういう環境でこれを学びたい」という気持ちがあれば、コロナ禍であったとしても円安であったとしても、挑戦するという勢いは何も変わっていないのかもしれません。ずっと目指してきていたものを外的要因から諦めるということは多分彼らの中ではできないと思います。むしろ円安だからこそより一層奨学金を目指そうという生徒が増えました。そして大きな奨学金を出してくださる財団が増え始めているのは、生徒たちにとってもありがたいことだと思います。
「プロフェッショナル」な教員と生徒の信頼関係
最後に、広尾学園のインターナショナルコースの教育の特徴をキーワードで表現するとしたらどんな言葉になりますか。
植松先生:授業の雰囲気はそれぞれ特徴があって、一言で表すのはなかなか難しいのですが、教員を一言で表すとしたら、それは「プロフェッショナル」であるという風に思います。APを教えられるというのは相当深い知識を必要とします。常に知識をアップデートし続けているという意味でも、また、生徒に最高の成果をもたらそうという意識の面でも「プロフェッショナル」だと思います。それがよくわかるのはAPの結果が出る日です。APの結果が出る日というのは職員室がいつもより静かで、先生たちの緊張感が伝わってきます。私は、あえて結果についてのコメントを直接聞かないようにしています。良ければ言ってくれるし、悪ければしばらく分析してから伝えてくれる先生たちなので。だから、その静けさというのは、それだけ1人1人の心配をしていて、その科目で出る平均値が例年に比べてどうなのか、予想通りだったのかそうではないのか。そうではないなら何が原因なのかという分析をしている証なのです。
APを担当されているネイティブの先生も信頼されているからこそ期待に応えたいというのもあるのでしょうね。植松先生が「あえて直接聞かないようにしている」というのも信頼が伝わってきます。お互いの信頼関係が今の「プロフェッショナル」という言葉でよく分かりました。
植松先生:私の方では全員の結果が見えているので、APの結果そのものよりもそれを先生がどう捉えているのかを知りたいのですね。結果が良かった時には、職員室から私が出た瞬間に、同時に出てきて「あの結果を見てくれたか」みたいな笑顔で合図されたりすることがよくあります。教員というのはやはりそういう大学合格の結果ですとかAPテストの結果ですとか、随分と長い時間をかけて育てたものの結果が気になるものです。もちろん結果がすべてではないのですが、それが示しているものを振り返って、長年やってきたものが正しかったのかそうではなかったのか、修正点はどこなのかというのを常に確認する必要があるのだと思います。