国士舘中学校 夢なき者に成功なし 精神的柔軟さと確固たる土台(2)
「持続可能な22世紀社会への変革 One Earth Project」身近な社会課題が大きな社会課題に結びついているという当事 者意識をもって学ぶ教育環境をデザインしている私立学校を紹介します。今回は、国士舘中学校です。
One Earth Project のミッション
1972 年にローマクラブが「成長の限界」を発表し、目の前の利益だけをただ求めて自然を開発し格差社会を拡大 していくと 2030 年には地球は危機的状況になると警鐘を鳴らしました。同年、人間環境会議が、スウェーデンのストッ クホルムで、世界 114ヵ国が参加して開催されました。人間環境の保全と向上をテーマに、世界の人民を鼓舞し指導 する共通の展望と共通の原則として「人間環境宣言」が採択され、そのときのスローガンが“Only One Earth”でした。
ここから環境を守る国際会議がいくつも開かれ、今日の SDGs に至っていますが、2030 年までにそれが掲げてい るグローバルゴールズは達成されそうにありません。
しかし、この地球上の自然と社会と精神の分断が招いた危機的な地球という最大の社会課題を解決すべく諦めるこ となく教育出動をしている私立学校があります。この最大の社会課題も、遠くの原因だけから生まれているのではなく、 身近な私たちの生活の中からも生まれているのです。身近な社会課題が大きな社会課題に結びついているという当事 者意識をもって学ぶ教育環境をデザインしている私立学校を多くの先生方と共に探し、シェアしようというのが“One Earth Project”のミッションです。
注目の国士舘中学校
2024年度の国士舘中学校の入試は、総出願数500名を超え、前年対比約390%。中学受験業界に大きなインパクトを与えました。5月に国際フォーラムで開催された私立中学合同相談会でも、同校のブースに100組を超える受験生・保護者が参加しました。人気は2025年度入試も続きそうです。その人気には、多くのメディアで報じられている「加熱する中学受験」という文脈とは異なる大切な理由があります。その理由を知るために新中1の生徒と先生方のかかわり方について注目していきたいと思います。
国士舘中学校は、令和7年度入試より「プレゼン型入試」を導入!
プレゼン型入試とは、小学生のポテンシャル(潜在能力)や活動姿勢を評価し、自己肯定感を抱かせて中学に入学させてくれる自己アピール型の入試です。
中学時代と高校時代の自習室の使い方の違いに成長の秘密がある
国士舘の学びは、あらゆる学びの機会がひとつになっていて、個別最適化が図られています。この体制を「オールインワンサポートシステム」と呼んで、きめ細かく、生徒一人一人の学習姿勢、モチベーション、知識の習得度、思考のエンジンの出力など多角的に分析して、一つ一つの側面を伸ばしていくシステムが充実しています。
ですから、塾に通わなくても、登校から下校するまで、学校を中心としたサポートが行われています。自習室「K-Improve」では、チューターがいつでも学習相談や問題の考え方のアドバイスをしてくれます。そして、そのチューターが作成した「毎日の朝学習での国語・数学・英語の小テストやワーク」の採点を教師がして、約40分間の「放課後学習」ではそれらの振り返りを行っています。チューターと教師の連携によって、生徒一人一人を多面的な視点で見て、強み弱みを分析し、生徒と共有していくのです。
このように、自学自習の習慣をサポートすることによって、生徒たちは自立/自律した学習をしていくことができるように成長していきます。
河野先生はこう語ります。「しかし、個別ブースを提供するのは、高校になってからです、中学時代にK-Improveのブースで学んだとしても、まだ自分が何をやるのか、どういう手順で学んでいくのか客観的に自分を見つめる習慣はついていません。ですから、チューターが中学生のクラスにやって来て、そこでアドバイスをしてくれます。」
いわば個別指導が徹底しているということでしょう。この中学時代と高校時代の自習する姿勢のスイッチの切り替えは、学力が伸びる様子を象徴的に映し出しています。
ノートは心の目が開く準備
人間的成長は、広い視野高い視点深い眼差しが一歩一歩多角的に身についていく道程でもあります。
書写や剣道、柔道は、目の前のことに集中していますから、非常に繊細に自分に対峙しているモノやコトの動きを感知します。いわゆる「虫の目」が必要です。しかし、目の前のモノやコトは、刻一刻と変わります。流れを見切る「魚の目」も必要です。また、目の前に迫ってくるモノやコトは、自分と同一ではありません。思い込みを捨てるために、逆さまのような別の角度から物事を眺める「コウモリの目」も必要です。
そして、そのような多角的に見る目全体を見つめる大局観をつかむ「鳥の目」も大切です。しかし、最終的には、ものの本質を見抜く「心の目」が養われるところまでいくことが必要です。
そんな多角的な「目」を養うにはどうしたらよいのでしょう。それは、もちろん「道」の教育、オールインワンサポートシステムで養われるのですが、神山先生は、どこまで生徒といっしょに歩んでいけばよいのか、もうこれでよいということはないのですと語ります。
もっともっと教師は生徒とかかわり、だからこそ手放した時、大きく飛躍するのです。そのためのもう一つの学びの道具が「学習と生活の記録ノート」なのですと。生徒は毎日、学習状況や生活について、このノートに記録して提出します。先生はその日のうちにコメントを記入して返却します。ここには、相互に気づくいわばインターリフレクションが働いています。
国士舘の大切にしている三綱領「読書・体験・反省」のうちの「反省」とは、独り黙々と自己を見つめているだけではないのです。吉田松陰という師がそれぞれの弟子の面倒をみたように、先生方も生徒一人ひとりを振り返り、その振り返っている教師自身も振り返るのです。教師も迷います。そんなとき、教師同士振り返りをし、先輩や同僚からアドバイスをもらうのでしょう。そうすることによって、痒い所に手が届く指導が展開されていくのです。
この生徒と教師、教師と教師のやりとりを通じて、生徒の心の変化を捉えながら、人間的成長をサポートしていく教育環境を、国士舘はデザインしているのです。
「守破離」という成長 10年一貫教育という教師の眼差し
「道」の教育で、生徒が成長していく過程を「守破離」と表現することがあります。神山先生も、「守破離」という表現で、国士舘の生徒の成長を語ります。神山先生は「型が入る<守>という段階は、中学時代ずっと続きます。3年で<破>になるとは私たちは思っていません。<破>になることを急ぐのではなく、待つのです。結果をすぐに求めたがる社会であるがゆえに、逆に<守>を大事にしているのです。
3年間生徒は、いろいろな体験をし、そのたびに教師からフィードバックやアドバイスをもらいます。でもそのことの重要性についてすぐにピンとくるわけではないのです。自分の中からはっと気づく。あのときの先生の話はそういうことだったのかと自ら気づいたとき、ようやく<破>の状態になるわけです。
そして、その気づきをさらに新たな多くの経験に直面しながら自分の方法で実行できるようになったとき、それがようやく<離>という状態になります。でもそれは、中高6年間でも到達しないかもしれません。ただ、<守>という時間をたっぷりとります。そして待つのです。いつの日か必ず<離>という状況を迎えることになります」と確信をもって語ります。
たしかに国士舘中学校は、6か年一貫教育です。しかし、生きざまのクライマックスは6年間で訪れるものではないというのはリアリティがあります。国士舘を卒業して、大学に進み、大学を卒業してからようやくクライマックスを迎える準備ができるというぐらい生きるという鍛錬の道は深いのです。
国士舘の先生方は、生きることに対し、すぐに解答を出す必要はないという確信を持っています。物理的な時間では6か年一貫教育ですが、生徒の生き様を支えるという点では、10年間一貫教育を行っているという覚悟を持っているのです。ですから、先生方は今目の前の生徒の姿を丁寧に見守り、サポートしながら、同時に一人ひとりの10年後以上の未来に想いを馳せています。この柔らかい静かな気魄に、保護者が我が子を安心して学ばせたい学校だと共感するのです。
神山先生は、「子供たちには、精神的に柔軟であって欲しいのと同時に精神的な確固たる土台を身につけてほしい。それは変化する水のような柔軟さであり、流れの中にあってもきちんと立っていられるというようなイメージなのです」と遠くを見つめながら、将来活躍しているカッコよく美しく生きている生徒の姿を思い描いていました。