ミライ教育Watching第7回「武蔵野東中学校」
(写真)「探究科」プレゼンの様子
答えのない世界・未来にむけて、先進的な教育に取り組んでいる私学を紹介するミライ教育Watching。第7回は「武蔵野東中学校」(東京都小金井市)です。
高校のカリキュラムに「探究」が入り、どの私立中学校でも「探究」を取り入れはじめている現在。武蔵野東中学校では、2007年(15年前)から探究型の学びを課外活動として実施、2017年からは「探究科」という授業を設置、2019年からは「教科横断型授業(通称:コラボ授業)」を行っており、先進的な教育を展開しています。 カリキュラムは、1年次5月から2年次1月までの約2年間、週1時間の正課授業です。1年次には教員が指導する「ゼミ活動」を通して考え方の基礎や技術を学び、1年次12月から1年間は各自がテーマを定めて「個人探究」に取り組みます。そこでは教員はアドバイザーに徹します。 「探究科」の成果として、4年前から、日本で最大の文芸系のコンクールである旺文社全国学芸サイエンスコンクールに応募、応募の初年には3つが上位入賞、以降毎年上位入賞をしています。2022年度も12月に発表があり、4年連続上位入賞となりました。オリジナルの「問い」を持ち、オリジナルの「答え」を出す、それを発信する。武蔵野東中学校ではその流れに、「その探究は、誰かのためになるものなのか」という視点を必ずいれたものになっており、中学生でも世の中に目を向け、世の中に向けた発想をもって「探究」の成果が出ている秘訣といえます。 ▼各年度の入賞作品 全国学芸サイエンスコンクールに4年連続入賞作品(第63回~66回 旺文社主催)
探究と同様、教科横断型授業「コラボ授業」も、教育界の流れを先取りしたものといえます。武蔵野東中学校では、2018年より実施しています。 教科の学びが点だとしたら、コラボ授業を行うことで点と点がつながって線になり、時には面や立体にまで形を変えて新たな発見や感動が生まれます。数学で習った一次方程式が理科では密度の計算に使えたり、英文法と国文法の違いを話し合って日本語訳・英語訳の適切な表現を考えるなど、生徒にとってはどの授業も興味深く驚きと発見の連続といえます。 ▼時差でとらえる日本の位置 数学×社会「コラボ授業」の様子 語学習得には4技能(読む・聞く・話す・書く)が大切といわれています。武蔵野東中学校の英語教育では、週6時間の授業の中で4技能をバランスよく学習しています。 例えば1つの単元において文法学習のあと、スラッシュリーディング、シャドーイング、スピードリーディングといった徹底したReadingを行い、Speaking、Writingと進む過程で生きた英語を習得していきます。また、Writingのきめ細やかな添削によるトレーニングは、武蔵野東中学校の特徴である少人数制ならではのものといえるでしょう。さらに、オンライン英会話の授業でListeningとSpeakingを強化するとともに、常勤のALT(外国語指導助手)が日常の英会話環境をサポート。オリジナルテスト『WIT(Word&Idioms Test 年8回)で、語彙力を強化し、英検に備えています。 成果として、中3生は英検において2017~2021年の平均で準2級(高校中級程度)以上を、65.5%の生徒が取得、2022年12月現在では75%以上の生徒が取得しています。 ▼オンライン英会話の授業の様子 自分の存在の重さを知り、他の人の重さも感じることのできる生徒であってほしい。そんな願いのもと、武蔵野東中学校では、全学年で週に1回「生命科」の時間があります。教員が教える時間ではなく、友達や家族、自分の身近な人とのつながりから始まり、将来のことや世界で起きている事象などのテーマについて、生徒それぞれが考え、ディスカッションを通して向き合います。3年間の主なテーマには「友愛」「SDGs」「生命」「命の尊厳」「国際理解」「平和」などがあります。真剣に考え、悩み、意見交換や発表を通して自分の考えを深めていくことが生徒の心を豊かに育み、これからの長い人生を送る上での基礎となっているといえます。 中学3年生の言葉より―戦争被害者の視点から「平和」を見つめる映像教材を視聴して—「原爆による被害の悲惨さ、沢山の遺品を見て放射能による被害のことを知り、はじめて広島の事実がわかったような気がします。今までは原爆が落ちたことは知っている程度でしたが、映像を見て原爆の恐ろしさを感じることが出来ました。遺品の一つひとつに込められた家族や友達への思い、またその人自身の気持ちを考えると、胸が悲しみでいっぱいになり、今にも泣きたくなります。戦争とは、一体何のためにあり、どうしてこんなにも多くの人が亡くなり悲しみにあわなければいけないか、絶対にあってはならないものだと強く、強く思いました。」 ▼「生命科」の授業の様子
~目指す進路を実現~ 武蔵野東中学校は、他の中高一貫校と違い高校を併設していないので、全員が高校受験に臨みます。そのため、校内指導だけで万全の進路指導システムを学校は準備しています。つまり、通塾することなく受験に臨み、難関校を含む高校に入学を果たしています。教科の進度はやや早めで、中3の1学期または秋までに3年間のカリキュラムを終えて、受験準備に入ります。中3の週3回の放課後の「特別進学学習」で、学校内で受験指導を行います。偏差値65以上の難関校の合格割合は65%となっています。 武蔵野東中学校では、「宿題のでない学校」です。いわれてやる学習ではなく、自分自身が必要な学習を計画し、実行します。そのためのツールが『自主学習プランノート』。生徒は1週間分の家庭学習を自分で計画して実行、そして5教科の『自主学習プランノート』には、自分の計画した家庭学習を行います。どちらも翌日には担当の先生が見てアドバイスするシステムです。これによって、高校受験でも、自分の志望校に向けた学習を自分で計画して実行できるようになるということです。 ▼「自主学習プランノート」の例 高校を併設しない武蔵野東中学校は、中学3年生がリーダーとなって学校生活を運営していきます。中3のリーダーシップ力は著しく伸び、生徒たちは受験生でありながら、学校生活を充実させています。2年前に生徒会活動の改革をして、あらたなビジョンを掲げて自主自律の校風にあう生徒会としました。ビジョンには「新しい発想と創造的精神をもち、計画に基づいて学校生活を活性化させる」「未来そして世界的規模の問題への意識をもち活動する」などが含まれています。委員会の人数制限を撤廃して誰もがやりたい委員会に入れる、前年度を踏襲しない、世界への視野をもつ、そんな気風のもとで、学校生活や行事は、生徒が自主的に運営しています。 また、武蔵野東中学校は開校間もない時期から、心身が著しく成長する中学生時期の体力づくりに取り組んでいます。毎日新聞社主催「中学校体力つくり」コンテストにおいて、2022年度は全国4125校のエントリー中、第4位にあたる『日本学校体育研究連合会賞』を受賞しています。そして小規模ながら、部活動の成績は全国レベルのものが複数あります。特に、陸上部とダンス部は、連続して全国レベルの実績をあげています。 武蔵野東中学校では、生徒一人に対して一台専有のChromebookを学校から貸与しています。全生徒に対してGoogleの個人アカウントを配布、Classroomなどのアプリを授業で使っています。学校と家庭との遠隔授業も、Meetというアプリにより同時双方向通信が可能です。 また、校内には全校Wi-Fi環境が整っています。Chromebookの充電庫がクラス内にあり、生徒各自で管理しています。Chromebookは海外の英会話講師と1対1でのオンライン英会話でも使用しています。全ホームルームクラスに電子黒板を設置し、授業支援ソフトにより学びあいをしやすい環境です。また、小スタジオを設置、生徒会の活動を中心に頻繁に稼働しています。 ▼小スタジオの様子 武蔵野東中学校では、健常児クラスと自閉症児クラス(別入試、別クラス、別カリキュラム)の生徒が、共に学校生活を送っています。健常児は高校受験、自閉症児は社会自立に向けた学習と、それぞれに異なったベクトルはありますが、朝の清掃活動や休み時間など日常の学校生活を共に送り、行事や校外学習でもチームや班で協力し合います。共に生活することが当たり前の環境で3年間を過ごすことにより、自分とは違う個性を受け入れて一緒に歩む姿勢が育まれていきます。他者を尊重し自己を生かす柔軟な心こそ、これからの時代に欠かせないリーダーの資質です。 ▼インクルーシブの環境の様子【ミライ教育①】全国コンクールで上位入賞の「探究科」
【ミライ教育②】知識がつながる教科横断型授業「コラボ授業」
【ミライ教育③】中3生75%が英検準2級以上合格する英語教育
【ミライ教育④】立ち止まって考える「生命科」
【ミライ教育⑤】15歳のチャレンジスピリット
【ミライ教育⑥】学習をプランニングする力「プランノート」
【ミライ教育⑦】自主自律「生徒会活動」と全国レベル「部活動」
【ミライ教育⑧】学びを支える教育テクノロジー
【ミライ教育⑨】共に学び合うインクルーシブの環境